silvir 47




「げ!!」



叫んだときは遅かった。
学校の屋上から、オレの身体は地上へダーイブ!!

脳裏に焼きついたのは一点の曇りのない青い空。

どこだって飛べるさ。

I can fly!


なーんちって。


商店街のがらがらをやって、テッシュペーパーしか貰ったことないんですが、ほんとにテッシュペーパー以外の玉が入ってるんですか?


天を見上げていた。
一体何時から空を見上げているのか覚えていないが。

見てはいるが認識はしていない。
眺めているだけ。

「…一杯飛んでる…」

目の端でちらちら飛ぶ多くのへんてこな形をしたものを眺めながら呟いた。
眠気眼を瞬きして見直してみるが、空をぶんぶんと飛ぶ虫のようなものが消えることはない。
…あれって、飛行機じゃないよなぁ?
…ましてや、飛行船でもないよなぁ?
あんないろんな形をした飛行機や飛行船など見たことも聞いたこともない。
あういう変な形をしたバルーンだったらたまに遊園地とかで売ってるのを見たことある気もするけど。

様々な形をした空を浮くもの。

たぶんあれらは飛行機と分類してもいいのだろう。…たぶん。
まさかアレがそのまま宇宙まで飛び出してしまうような宇宙船なわけがない。
…あ、もしかして未確認飛行物体って名称をつけてやったほうがいいのかねぇ?

UFO!!

…あってたまるか。

そろそろ頭が目覚めはじめたらしい。
自然起床で無ければ寝起きが凶悪に悪いといわれている少年だったが、流石にこの空飛ぶ未確認物体の多さは半端じゃないと思った。
なんだよあれは、このやろー。
一回くらいはUFOに浚われて改造されて見たいと思ってたんだよなぁ。

アノお空に飛んでる未確認飛行物体のどれか一船ぐらい、俺のことを謎のビームみたいな光の柱で回収してくれないかなぁ?
って、そんなことしたら家に帰ってこれないジャン。
今日のご飯はすき焼きだっておっかさんが言ってたんだよ。

災害で野菜が高くて大変なこの時期に、野菜を入れてお肉を入れてすき焼きだ。
しかも、肉だ!
肉肉肉肉!!育ち盛りの高校生は肉が大好きなんだよ、コノヤロー!

うわーい!!
そうだ、今日は早く家に帰らなくちゃ。
そんな空を見上げれば五回に一回ぐらいの確立で未確認飛行物体なんかは見れるんだから、なにも一辺に何十機も見られる今連れ去ってもらわなくてもいいよな!!

ってことで、家に帰ろう!
俺は頭跳ね起きのように腹筋と足の反動を使って飛び起きた。
途端に足の踏み場が揺らいで身体が前のめりになった。

あれ?
なんでここ、斜めってんの?

吃驚して足元を見下ろすと、…瓦ですか、これは?
目線をあげると…高い建物が、ない。

えっと、新宿の高層ビルはどこ?
俺ん学校新宿だから、めっちゃ周りは死にそこないの婆ァの乱杭歯みたいなのがにゅきにょきと生えてるはずなんですが?
…っていうか、なに?

かなりと遠くの方で変なとがった高層建物が一個見えるけど…変な形ー。
…あんなの、聞いたことも見たことも舐めたこともありません。

「ヤバイ…」

流石の俺もうろたえます。
ゴミだと思って拾った黒い塊がゴキブリだったときと同じくらいに。
紐だと思って拾ったのがミミズだったときと同じくらいに。


「ここはァァぁーーーー!!どこだァァァァーーーーーー!!」


叫んだ瞬間、足元の瓦がずるっと滑った。
いや、瓦ってはめ込み式だから、この場合は足が引っかかってこけたといえばいいのかも知れん。
まぁ、落ちたのですよ。

「ぎゃぁあああー!!」

ちょっと待てぇ!!
なんか変なとこに迷い込んだ主人公って、もうちょっと扱いがマシだろう!!
例えば美少女に助けられるとかさぁ!!

まっ逆さまに下に落ちる!

「ぎゅひ!!」

カエルがひき潰されたような情けない声を出して俺は背中から打ち付けられた。
地面まで落ちるのかと思っていたら、ほんの二メートルぐらいで止まった。

痛い。
普通に痛いです。

「くぅうう〜〜」

背中の痛みにしばらく悶絶無言で堪え、まぁまぁ痛みが治まってから目を開けた。
どうやら、オレが落ちたのは屋根から、二階部分の突き出た屋根部分だったらしい。
すぐ横には……

「…『万事屋銀ちゃん』…?」

と、書かれたでかい看板。

「つーか『銀ちゃん』って…。もうちょっと信頼性を重視して本名アピールしたほうがいいんじゃないだろうか…」

銀ちゃんって言われるとなに?

あんたドリフの一員?
お笑いのヒトですか?
ちょっとそこでたこ焼き勝ってきてよ、銀ちゃん。

それは銀タコだっつーの。

「人んちの屋根の上でなにしてるアル?」

突然掛かった声に、俺は我に帰って声の主を探した。
看板の掛かった手すりの向こうに、紙袋の荷物を抱えた少女がスコンブを加えながら俺を見ていた。

っていうか、その紙袋のでかさが半端じゃない。
米俵ぐらいの大きさのもの軽がると持っている…すげ。
少女の髪型はピンクっぽい髪を二つ頭にお団子にしている。
着ている服も、どことなく中国っぽい…ってことは…。

「…中華風美少女?」
「違うあるよ。私は中国系美少女」
「…や、どっちでも同じだから!」

思わず突っ込む俺。

「五月蝿いある。坊や。そんなところで遊んでないでさっさとお家に帰るがよろしいアルヨ」

興味をなくしたのか、少女はくるりと扉の向こうに消えてしまった。

…いやいや…普通、屋根の上で遊ばないから!
せいぜい遊ぶのは小学一年生ぐらいだから!!いやいや、小学生でも遊ばないから!!

「…とりあえず、ここから避難するか…」

俺は屋根の側から手すりを乗り越え、廊下側に着地した。
とりあえず、今んとこ分かるのはここは変なとこに来ちまったってことだ。
ここは俺の生きている世界じゃないだろう。

…よく分からないので、こういうときは周りに居る人に道…もとい、ここの場所について聞きましょう。

「…すいませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」

ドンドンと中国系美少女が入って言ったドアを叩く。

「はい?どちらさまでしょうか…?」

と控えめな声と共にドアが開いた。
顔を覗かせたのはメガネをかけたのび太くんみたいな冴えない男だった。

「初めまして、こんにちはー。俺はと申します」

強引無理やり自己紹介。
そうしないと、連載最初だっていうのにいつまでたっても名前出てこなそうだ。


□■□


「だからー…なんつか、寝言は死んでから言え?」

いや、死んだか寝言は言えないから。
目の前に出されたお茶は雑巾で絞ったんかい!と思うほどにお茶の味がしなかった。
薄い。出ガラしなんじゃないッスか?客人に対してすごい失礼っすね。



目の前で煙草吸われると、思わず後ろからとび蹴り食らわして地面と接吻させてやりたくなるけど、追い越して煙草吸ってる人の顔見たら堅気じゃない人だったからとび蹴りしなくて良かったと思ったよ。でも最近条例で歩き煙草禁止されてるんだよ。



はぁー…やっぱり駄目かぁー…。
しかたないけどねー。

いちお、オレは異世界の人間なんですけど、なんか気が付いたらこの家の屋根にいました。だからきっとこれが何かの縁だからしばらくここにおいてください。って言ったのに。

大体おかしいんだって。
こいつらの顔、実は知ってるんだもん。

あれでしょ?
最近週間少年ジャンプでちょっと人気が出てきたらしくて調子こいちゃってるギャグ漫画でしょ?ちょっと我ながら混乱していたらしく、その漫画の世界だって主人公の姿を見るまで気が付けなかったけど。俺ってほら、主人公の名前を辛うじて覚えて、他のキャラはみんな顔だけで判別してるから。

名前とかほっとんど分かんないしィー。
友達が楽しいぜっていいながら一巻貸してくれて、いちお読んだんだけどいまいち笑えなかったやつでしょ?巻を増すごとにいい味出してきているけど…えーと、今オレ何巻まで読んだんだっけ?

あー…たぶん四巻。
なんか作者のおまけページがムカついた。調子くれてんじゃねーぞ、空知!みたいな〜。まぁ、今はそんなことどうでもいいけど。

いや、嘘。
こんないたいけな少年を引っ張り込むような本を書くんじゃねーよ、空知!
下の名前は忘れたけど!空知なんとかやろー!編集に抗議の手紙出してやろーか!!

向かい合ったソファの正面には、この事務所兼自宅の主である銀色つか、むしろ若いのに白髪ですかこのやろー。
っていう感じの苦労性は感じられない、昔オレが縁日でゲットしてエサをやるのを忘れてて飢え死にしたメダカのような目をしていた。

アホの坂田銀時。
これが彼の名前だ。

輝いてないなぁ…。オレなんかこんなに百万ボルトの輝きをもつ視力を持っているのに!!それは目からビーム。

「たぶん、すぐにおれの世界に強制的に帰れると思うんですよ、(作者の都合で)。だから、ほんのちょっとここにおいてもらえません?」

とりあえず、オレは食い下がり、しばらくここにおいてもらえるように話をつけようとした。

「嫌だ」
「…即答ッスか…」

なのに銀時は速攻で断わった。

もうちょっと考えようよ。
そんな風だとキレやすい人間だったらグサッと刺されるよ?最近の若い子って怖いから。なにするか分からないから。にこにこ笑っているように見える俺でも、勢い余ってブスっと殺っちゃうよ?ぁあん?

「つか、ここって万事屋じゃん。どんなことでも引き受けるのが鉄則じゃないッスか」

そう思いません?
そうじゃなかったら誰もこんなとこ頼みにこねーぞ。てめぇら万事屋なんだからトイレの掃除をやれと言われたらやれ、豚箱で踊れといわれたら踊れ。そんくらい頑張らなきゃなァ、世の中ってのは渡っていけねーんだよッ!!

「あー?ここってそんなとこだっけー?」

鼻くそをほじって指先から弾き飛ばしながら銀時は言った。

はっきり言ってムカつく。

バリムカツク。
死語使うぞこんにゃろー。

そういや、前電車に乗ってた時にさー、前に座ってた中年のおばさんが鼻くそほじってたんだよ。
いや、鼻くそほじること自体は別にいいよ?歓迎はしないけど、人間の生理現象だから仕方ないじゃん?けどね、俺が許せなかったのはその指なんだよ!人差し指とかでほじってんのはいいよ、なんか普通な感じで笑えるか。
「あ〜…」みたいな感じでギャグっぽく見守ってあげられるじゃん!?でもね、そのおばはん、あろうことか小指でほじってたんだよ!小指!なんか一気に現実味を帯びてこない?

どう!?

「えっと、君。… くん?警察とかに行った方がいいんじゃない?もしかしらた天人が迷子になった君を探しているかもしれないし…」

と、横から言ってきたのはめがねののび太くん…じゃなくて、新八とかいう人。ごめん、オレ主人公以外のキャラの名前って覚えないタイプだから…。
なんか、人生虐められ続けてきた感じがある。切れると自爆するタイプだ。暴走しすぎて人ひき殺してから自分も海に車ごと突っ込むタイプね。うん、そんな感じ。仕方ない…と俺は口を開いた。

「…坂田銀時が、実は桂のズラさんとマブダチだって真選組に垂れ込みますけど。あと、実は銀さんは若く見えるけど三十代「いや、オレ三十代じゃないから。二十代だから」…」

スパーン!と、何時の間にスリッパを持った新八が銀時の頭を叩いた。

いい音がした。きっとあのスリッパで日々ゴキブリを叩き殺しているに違いない。
ああ…きっと銀時さんの髪の毛に哀れなゴキブリの身体の残骸が付いたに違いない。わー…汚ったね!
新八は突っ込みだけは上手い。しかも武器はスリッパ。…心のメモ帳に書いておこう。(めもめも)

「突っ込むとこはそこじゃないでしょーー!分かってるんですか、あんたはァァ!」
「痛ってぇなぁ…新八。つか、あんたも花の男の年齢を嘘言っちゃだめだろーが」

嫌そうに顔を顰めながら、銀時が言った。

「…誰が花?」
「オレオレ」

俺が言うと、銀時はオレオレと自分を指差した。

馬鹿だ。
こいつは馬鹿だ。
お前が花なら俺は宇宙の華だ。

「……あんたこそ、寝言は寝ていったほうがいいですよ。あんたを表すんだったら、ばってらです」

ばってら。
俺が嫌いなすし。
ついでに神楽の馬鹿力女には悪いが、酢コンブも嫌いだ。あのすっぱい匂いがたまらん、たまらんっ!

「私すし酢昆布すし食べたいなー」

とぼけた意見だな、それは。

「そんなら白い飯に酢をぶっ掛けてそこに刻んだ酢コンブを振りかけろ。きっと美味しいぞ」
「いや、そんなのないからね、神楽ちゃん!」

俺のアドバイスに新八が神楽に正しい知識を与えようと奮闘していた。
ここにいる人間ってみんな常識ってもんに欠けてるからなー…。

「別にヅラのことを垂れ込まれてもオレは痛くも痒くもねーけどなぁ…」

と、銀時が言う。

今度は耳糞をほじりながらだ。
ちなみに今度は耳糞を飛ばさなかった。
指先を服にこすり付けている。

どうやら銀時は耳糞は粘質系らしい。
俺も粘質系。
パサパサではない。

「まぁ、銀さんはそうかもしれませんけど…いらぬ容疑をまたかけられちゃったら商売上がったりなんですよ。僕のお給料全然くれないじゃないですか…」

新八が「明日こそ家にお給料いれないと姉上に袋叩きにされる!」と青ざめながら言っていた。

そういやあのうちの家庭事情は複雑だったよな。
つか、最初の連載のときに新八が一番最初にクローズアップされてたから、新八が主人公なのかと一瞬俺は騙されたんだったけなー。
今ではあれもいい思い出だ。

「ところで、話は戻りますけど、寝る場所さえくれればいいです。飯とか金とかはなんとかするんで」
「あー…それだったら別に。床とかでいいなら」

なんかもー相手するのめんどい。
とんな雰囲気を垂れ流し始めた銀時はあっさりとそうのたまった。
この男がこういう適当な人間でよかった。

俺としても多少は知ってる顔の主人公レベルの人間の近くにいたい。
そこらへんの町人レベルの脇役の家にやっかいになったら自爆テロとかに間違えて巻き込まれて死にそうだ。
主人公近辺だったら、仲間の一員になれば死ぬことはそうそうないだろう。
むしろ楽しそうだ。

「マジッすか。ありがとーございます。拙者のことは って呼んでください。そっちの方が慣れているんで」
「あっそ。んじゃさっそく 。下に言ってこれ渡してこい」
「ちょ、ちょっと!これ以上居候増やしてどうすんですかあんたは!」

五月蝿いなーのび太くん。
いいじゃんかこの家の主がオッケー出したんだから。
銀時から白い封筒を渡された。

「じゃ、行って来ます」

下といえば…ああなんだっけ。
なんかすごいオカマさんみたいな顔したごつい女だ。
昔は可愛いかったけど、人生の荒波にもまれてしまったのか若し頃の面影がまったくない人。
ドアから出て、一階に下っていく。
なんの封筒なんだろうと、そこでようやく太陽の光に照らしてみる。

「…『今月分無理』…?」

薄っすらと透けて見えたのはそんな文字。

…うわ。
銀時家賃を踏み倒す気だよ。
いつものことなんだろーけど…こんなもん面向かって手渡したら俺がボコられるんじゃない?
なので、俺は入り口のところの戸に封筒をはさんだ。
こうしておけばいいだろう。

「よし、じゃあ行くか」

今日の分の稼ぎをどうにかしなきゃいかん。
まぁ、いざとなったら最終手段に出るが、いまはまでそんな必要ないだろう。


□■□


ー!」

うふふふと満面の笑顔で土煙を上げながら走り寄ってきたのは中華風の(自称)美少女の神楽。
それだけだったら俺だって笑顔で迎え入れてやろう。
けど、その後ろからキバを向いて欠けてくるでっかい犬…人並みに大層な定春なんつー名前のある犬。
むしろ貞春にしろよ。
そしてらリングの貞子と貞つながりだぞ。

猛然と走り寄ってきた神楽を俺はふわりと闘牛士よろしく避けた。

ズガガガーン!!

なんか擬音語にするとかなり痛そうな音を出して神楽は電柱に激突した。
恐ろしいのは、無事ですまなかったのは神楽ではなく電柱っていうところだ。

…なんで、電柱が曲がるんだ?
普通は神楽の頭がカチ割れるだろう。
どんな石頭してるんだ、あの戦闘民族は!
お前等スーパーサイヤ人かっつーの。

「…さて、放っていこう」

定春が流石に気を失ったらしい神楽の頭を加えてブンブン振り回しているが、…まぁ、大丈夫だろう。


毎日って三食食べてるジャン。あれって結構無駄だと思わない?なんか二食で十分なんじゃないかなーって思うんだけど…いや、別にお金がないからそういうこと言ってるわけじゃないんだけど。


「早いもんだなー。 がここに来て何日だったけ?」
「…まだ三日」

手に持った荷物を置きながら、俺は銀時に答えた。
家の中にいたのは銀時だけだった。
神楽はさっき見捨ててきたし、新八はバイトにでも行ったのだろう。

「あれ?まだそんなけだったけ?」

びっくりしたように銀時は言った。

「なに?俺がなじんでるって言いたいのかよ?」

当の昔(一日目の夜)には俺の使い慣れない敬語は止めた。
こいつらに敬語は不要だ。
尊敬できる人間には喜んで敬語で崇めたてまつってやろう。
けれど、別に同等(またはそれ以下)の人間に無理して敬語を使ってやりたくはない。

よく思ってたんだけど、外国だと兄弟でも名前呼び合ってるよなー。
あれ、最初はびっくりしたんだけど。

俺も兄貴が一人いるんだけど、普通に名前で呼ばずに「兄貴ー」って呼んでた。

「ああ…っていうか、 は収入どうやって得てんの?」

俺はお世話になって次の日…から、ちゅんと収入を得ていた。
なので今持って帰ってきたものは俺の自腹で買ってきた食料品だ。

野菜とか肉とか小麦粉とか。

「まぁ、ぼちぼちと…日払い」
「へぇー」
「銀時も仕事来てんの?三日もいて、俺誰も依頼人が来たことみたことないんだけど」
「いつもこんなもんだぜー?」

…こんな閑古鳥が鳴くようなものだったら、毎月金欠で家賃払えないのも頷ける。
はぁー…と、俺はため息を付いた。

「銀時、ちょいと立って」
「なに?」
「いいから」

促して、ソファから銀時を立たせる。

「はい。万歳」
「万歳ー?」

胡散臭そうな顔をしながら、素直に銀時は万歳と両手を挙げた。
俺は銀時に抱きつくように腕を回した。

「な…、 ?」

少し慌てたような銀時。

「…なんだよ、別に俺はやましい思いで抱きついてるわけじゃねーっつの」
「あ、それならいいんだけど…」

人をホモ疑惑にかけるな。

俺ァノーマルだーっつーの。
ぎゅっと抱きついてみると、銀時の身体は細いが、意外と肉が締まっている。
筋肉質なんだけど、着やせするタイプ?

でも…やっぱちょっと痩せすぎ。

「分かった。目標はあと三キロ増えることだな」

徐に身体を銀時から離した。
その時、ちょっと銀時の顔を見ると、ムカつくことに俺よりも少し身長が高いようだ…。
俺の兄貴ぐらいかも。

…いいんだ、いいんだ。
俺もそのうち大きくなるから。今だって新八よりはちょっと大きいんだ。

「…三キロって何だよ、 ?」
「銀時の体重だよ。あんた、もうちょっと太ったほうがスタミナが増える」

貧乏生活が長いのかなんなのか知らねーけど、しっかり食べたほうがいいぞ。
若いんだから。

「あー…っと、銀時って糖尿病なんだっけ?」

確か、そんなことを連載第一回目の時に叫んで天人に喧嘩売ってたような…。
糖尿病って尿が白くるんだっけ?

「…まぁ、ちょっぴし、その気があるらしくって医者からは甘いもんは週一ってとめられてる」
「分かった。じゃ、嫌いなものはなんかある?」
「なに? なんか作ってくれんの?」

何か俺が作る気だと気が付いたのだろう、銀時は「出来んの?」とあんまり期待していない目で言ったので俺は苦笑しながら頷いた。

「ま、俺みたいな不審人物を泊めてくれてんだからその御礼みたいなもんだけど」

自慢じゃないが、料理を作るのは超得意だ。
将来の夢は板前またはシェフになることだと言ってやってもいい。
和食・洋食・なんでもござれ!!

「だから、台所借りるけど…オッケー?」
「オッケー。くれぐれも火事とか、爆発とか起こさないようにしてくれよ」

…ば、爆発って…。
そんな昔のギャグ漫画じゃないんだから…。
火事なら分かるが、爆発させるようなことはそうそうないだろう。
分かった。と俺は頷いて台所へ行った。

食材の他に泡だて器とボウルも一緒に買って来ておいて正解だった。
この家ってなに食って生きてるのか分からないぐらいものがない。

「さて…作りますかな」

いい年した青少年がウキウキしながら食べ物作っているって変かもしれないけど、俺はこれが大好きであーる。


□■□


「すっげー…」

感嘆の声を上げる銀時に満足し、「そうだろうそうだろう」と俺は鼻高々だ。

褒められて嬉しくない人間なんていないじゃん?
ま、それが自分が自信のあることだったのだから、なおさら褒められて嬉しい。
好きなものこそ上手なれとかいう言葉があるしねー。

「それは豆腐おからドロップクッキー。小麦粉と豆腐のおから、ベーキングパウダー、つなぎに牛乳と卵を少々。糖分は大体大匙三ぐらい。甘味料は自然の甘みを追求するべく蜂蜜と砂糖を半分ずつ」

所謂健康食品に近い。
砂糖が入ってるって言ったて、少しだし、全然問題ない。

「カロリー低いし、食べても大丈夫。甘さ控えめだから。砂糖=糖尿病ってわけじゃないし。遺伝や生活習慣の方が原因なんじゃないの?」

一口大のドロップクッキーは型とか無くてオーブンですぐ作れるからお手軽だ。スプーンで適量すくって並べていけばそれが形。量も沢山作れるし、缶に入れておけば少しは保存が利く。ま、早めに食べるに越したことはないけどね。小山に持ったドロップクッキーは片手で口に放りこめるし、携帯してもいけるし。

「今日はこれだけど、糖分控えめのお菓子とかならまた今度作るよ」

自分の仕事に満足して、一個口に含む。ちょっと甘さ控えめだけど…甘すぎないからしつこくなくて美味しいんじゃない?さすが未来の天才料理人。お菓子だって天才的だぜ。

「あ…ま、銀時が気に入ってくれたらだけど」

銀時から反応がなかったので慌てて言い足した。

あれ?
あんま気に入ってもらえなかった?
ちょっと不安になったが、そうでもなかったらしい。

「マジでか!」

久々に光ってる感じの目だった。
星が飛んでいる。

ああ…銀時って別に死んでるんじゃなかったんだ…。
死んだ魚の目だから、半分死んでるのかと思ってた。
初めて見たかもしれない。

生きてる銀時の目って…。(やつは生きている屍みたいなもんだもんな、目が)

「…あ、ああ」

ちょとこっちが迫力に押された。
コイツ…こんなに甘いもの飢えてたんだなー…戦時中の子供かよ!と突っ込んでやりたい感じだ。

拾ってよかったなー。しかも、美味しぜ、これ」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ…」

にっこり笑顔(!)で、銀時に言われて、嬉しくなった。やっぱり、職人っていうのはこの言葉に支えられてるんだと思うなぁ…。美味しいって言葉。
俺も思わずにっこり返すと、銀時はちょっとびっくりした顔になった。

「ワーオッッッ!!美味しそうあるーーー!!」

匂いに引かれたのか、ドアを破って入ってきたのは神楽。ドア壊れたよ。ドロップクッキーにすぐに手を伸ばそうとする。

バシッ!

俺はその手をハエを落とすような速さで叩いた。

「なにするの!」

キッと神楽が俺を睨むが怖くもなんともないね。
なんたって、そのクッキーの所有権は俺にあるから。

「俺の芸術作品を食べるのだったら、まず最初に手を洗え!」
「なになに!もしかしてこれって が作ったアルか!?」

吃驚!という感じで俺とドロップクッキーを見比べる神楽。
銀時がドロップクッキーの危機を感じたのか、こっそりとドロップクッキーを手近にあったお茶の缶にありったけ詰め込んでいた。神楽の腹に掛かったら、一瞬で可愛いドロップクッキーが消えてなくなるわな。正しい判断だと思うぞ、銀時。俺が読んでいた限りでも、神楽の腹の中はブラック・ホールなみになんでも入るからな。
万事屋の食費って、ほとんど神楽が食べてると思うぜ。

「そうだ」
「ウッッヒャーーー!!人間、見かけによらないね!」
「…それって褒めてんの?」
「褒めてる褒めてる!」

なんか褒められてる気がいまいちしないんだが…ま、いいか。

「はい、ありがと。じゃ、手を洗ってこい。そうしなきゃ神楽にはやらん」
「えー…ブーブー」

ブーブーって口に出していうなよ!
ブーブー言いながらも、神楽はわしゃわしゃと手を洗った。

「いっただきまーーーす!!」

言うやいなや、ガッと神楽はドロップクッキーが盛られた皿ごと掴むと、ザっーッッと口の中に流し込んだ。
おい、クッキーは流しこむものじゃないぞ?

「流し込むなよッ!!」

言うが遅し。
バリバリと神楽の強靭な歯で俺の傑作が一瞬で神楽の胃袋宇宙に吸い込まれていく…。

ガーンガーンと悲しみが俺を襲う。
ああ…ごめんよ、俺の愛しい子供たち!
神楽の魔口からすくってやれなくて…!!

「むしゃ… !ムシャ、これ美味しいヨ!けど、難を言うならもうちょっと甘いほうが私は好みアル」
「つかそれ、お前のために作ったんじゃないし…銀時のために作ったんだし…」

なんか俺いじけたい。
銀時のために作ったってのは確かだけど、一瞬にして跡形もなくドロップクッキーが消えちゃうのってどうよ?
なんか俺の制作時間のやく一時間半を返してくれよ…。

「ふふふふ…」

我ながらちょいと不気味な笑い声を発しながら俺は復活した。
この程度で俺がへこたれるものか!!!

「いいだろう、神楽!次回はお前好みの味付けにして、リベンジしてやるぜ!!」

そして俺の素晴らしさを分からせてやろう!!
文句をつけようもないものをてめぇーのために作ってやろうじゃぁないか!

お前がもったいなくて、一つずつしか食べられないような激ウマな菓子を!!


「… …オレの分も忘れんなよー」

机の下で隠し持った茶缶に入ったドロップクッキーを食べながら銀時が言った。


□■□


「た、頼む…これを…真選組に……!!」
「え。え。ええぇーーーッッ!?」

なんかこういうシュチュエーションを漫画で読んだ気がする。
うッ。と呻いて気を失った飛脚の男の首を支えながら、俺は慌てるしかなかった。

「どうしろっていうんだよ…これ」

気を失う寸前に渡されたのは白い布で包まれた…たぶん、刀だろ思う。
ご丁寧にぐるぐるとチェーンで白い布の上から巻かれている。
なんかすごい厳重な感じ。

ことの起こりは一分前。ふと道端で俺の靴の紐がほどけているのを見て、結びなおそうと思ってしゃがみこんだ時だった。

「アブねぇええええええーーーー!!」

お前の顔の方がアブネェよ!
と、突っ込んでやりたい形相をした男が自転車で突っ込んできて、ハンドルを切り損ねて吹っ飛んだ。
そんで、近くのシャッターが閉まっている店にぶつかった。

…いや、俺のせいじゃないよ?
俺はたんに道で靴紐を結ぼうとしてただけだし。

で、仕方ないから

「大丈夫ですかー?」

と。心優しい俺が助け起こしてあげたんだが…。

「…ホント、どうしろっての?」

無責任にも気を失った男は、俺が蹴ろうがつねろうが殴ろうが一向に目を覚ましてくれる気配がない。
救急車が来て、病院に連れて行かれてしまった。

…ほんと、これを俺にどうしろと?


大学でプリントを取りに前に行くとき、いつも友達にまかせっきりで自分から動かない人間っているよね。そういう人っていつか友達無くすと思うんだけど。つーか、せめて礼を言え。友達やめるぞ、コラァ !


背中にある荷物が嫌だ。

なんか廃刀令ってのが出てんでしょ、この漫画?
あれ?違うの?分かんないけど、たぶんそうだよね。銃刀法違反みたいな感じで俺ってば捕まっちゃたらどうしよう…。

まぁ、そしてら最終手段を使って逃げるが。そこらへんの人間にこの荷物を押し付けて逃げよう。
いつもとの世界に返れるか分からないのに豚箱に入れられちゃったら最悪だ。豚箱に入って「よう、カツどんの差し入れだ。食え」とか言われて尋問とかされちゃうんだ…。カツどんは食べたいけど、そういうのは自分で作ることにしよう。だからやっぱり豚箱には入りたくない。

「真選組ってどこなんだろーか?」

俺ぁあ、知らねーよ、んなとこ。
人にもの頼むんだったらそういうことちゃんといっていけよ。アフターケアっていうのも大切だけど、その前のケアも大事なんだよこんちくしょー。銀魂の世界に来てまだ四日目だから、地理は全然詳しくないんだっつーの。買い物は大江戸マーケットですましてるし。近場しか知らねって。

「そうだ!制服野郎を探せばいいんじゃねーの!?」

そうだ!京都へ行こう!…じゃなくて。確かヤツらはカッコいい制服を着ていたはずだ。どんな形だかは忘れたけど…なんか、黒い服。

そうやって探してみると…

「神様ありがとう!速攻で発見できました!!」

歩いていました。
二人組みが。

一人は瞳孔が開いちゃってる人と、もう一人は柔和な感じなんだか絶対あの人普通じゃないよっていう感じの二人組み。
えっとー…名前忘れたけど、たぶん銀魂でも主要キャラに含まれてた。
あれだよ…なんでしたっけ?

「オイ、いつまで見てんだよ、さっさと行くぞ、総悟」
「えー。もうちょっといいじゃねーですか、土方さん」

そうそう。
総悟と土方。

俺のオススメは瞳孔開いちゃってるほうね。
なんかあの人哀れだよね。

総悟…いや、上の名字忘れたけど、実は総悟に遊ばれてるよな、土方って。いや、でもあんなところは俺としては好きだけどね。普段瞳孔開いちゃってイッちゃってる人だから、かーなーりー近寄りがたいんだけど、ちょっと間抜けなところがいいよ。
この漫画に出ている人の中で、一番まともなんじゃない?

いーなー。
マトモな土方とお近づきになりたいなー。無気力でヒーローな銀も、怪力先頭種族のピンクもいいけど、変哲のない眼鏡はいやだ。一番いいのはやっぱりまともな人。まともな人とお知り合いになりたい。

「土方ァァァァーーーッッ!!」

とりあえず、こっちに意識を向けてもらおうと大声で呼んでみた。
ぶんぶんと笑顔で手も振ってみた。すると、土方は変な顔して俺を見たが、隣の総悟は関係ないのに俺に手を振った。…ちぇ。土方に振ってもらいたかったんだけどなー。

総悟でもいいか…。
あの人も面白いし。

俺は彼らに駆け寄った。

「どもー。今日はー。今から真選組みに帰るの?」
「ああ、そうだ」

あれ?なんでこんなに普通に返事すてんの、土方は?見知らぬ人間から名前呼ばれて話しかけられたらもっと不審げな反応するモンじゃないの?
…まぁいっか。このほうが変な詮索されないで楽だし。

「俺は ね。あのさー、俺、ちょっと真選組みに用事があるんだけど、一緒に行ってもオッケー?」
「別に構わねーよ」

と、言われたので、さりげなく名前を名乗りつつ、俺は二人の後を付いていった。なんかあんまり会話もなく、ほどなくして真選組に到着した。

「ここだ。土方、今帰ったァ!」

土方が言いながら立派な門構えの中に入って行った。

「同じく、沖田。帰りやしたぁ〜」

そうか…沖田という名字だったのか…。
総悟も土方と似たようなことを言いながら中に入った。

えっとー…この場合、俺はどうするべき?
やっぱ、同じように名を名乗りながら入ったほうがオッケー?

…郷に入っては郷に従えだよ、な!

「頼もう! なーりィ!!」


気分は道場やぶり。
叫んで入っていったら、中でちょっと待っててくれたらしい二人が目を丸くして俺を見ていた。


しまった!!
外したらしい!!

「…あー… ?で、お前、真選組みになんの用があんだ?」

こほんと咳払いをして、土方が話を逸らしてくれた。
…土方って瞳孔開いてイッチャった目をしているわりには、いい人だな、やっぱり。いや…むしろ突っ込んでくれたほうがなんか笑い事で終わるかもしれないんだけどなぁ…。さりげに気まずい感じなんですが。

「あ、はい。あのー…これ、届けモンです」

俺は背中に背負っていたものを差し出した。
思いっきり不審気に土方がそれを受け取らずにじろじろと見た。

「誰に?」

総悟もぐるぐる鎖で巻かれた刀を興味深かそうに覗き込んだ。触りたくってちょっとうずうずしているらしい。
目が輝いている。

「誰…?」

総悟の問いに、俺は首をかしげた。あー…と、あの飛脚の人は「誰に」って行ってたっけ?なんか、真選組に!と言ってたのは聞いてたんだけど…。覚えてない。つーか聞いてない、言ってない。

「知らない」

だからふるふると俺は首を横に振る。

「はぁ?」
「なんだよそれー?」

二人は呆れたような顔して俺を見た。そんな…そんな目で見られたってなぁ、知らねーもんは知らねーんだよ!!お前らも、突然見知らぬ人間にものを押し付けられてみろ!
俺も気持ちもわかるか!

「だって、事故った飛脚の男に頼まれたんだもん」

俺は語尾に『だもん』なんてつけるキャラじゃないけど、この際ぶりっ子でもしてやる。口を窄めて、ついでにほっぺたも膨らましてやる。
ほら、こうすりゃ見た目的にぶりっ子だ。

ぶりっ子ってムカつくけど。たまに、素でぶりっ子のヤツと話してるとすごい疲れたことがある。ぶりっ子っていうか、天然?悪意のないのがなおさらムカつく。
まぁ、それは今関係ないけど。

「事故?」

土方が聞き返した。

「そうなんだよ、実はね、カクカクシカジカ……分かった?」
「「いや、分かんないから!」」

いちいち初めから話すのが面倒だったから、「カクガクシカジカ」で通じるかなーと思って言ってみたんだけど、やっぱり通じなかった。漫画なんだからこんくらいはさらっと通じさせて流してくれよ。
仕方ないからこんどはちゃんと話してやった。

「…と、まぁ、その気絶しちゃった飛脚に頼まれたんよ」

説明終わり。
土方と総悟は話を聞き終わってから「ハァァァ?…」と言った。思いっきり胡散臭い顔してる。胡散臭い顔ってなんか匂いかいだらくさそうだよな。干物の匂いとかしてそう。

「まぁ、いちおー…話は分かった。とりあえず、近藤局長にソレ渡しときゃいんじゃねーか?」
「わー。土方さん、たまにゃあいいこと言いますねー」
「…総悟。テメェはオレをなんだと思ってんだ」
「いえ、なんとも思っちゃいませんぜ」
「…」

すっぱりと言い切った総悟の言葉に、喜ぶべきなのか、怒るべきなのか、悲しむべきなのか…すっごく微妙な表情をして土方は顔を歪めた。
総悟の言い方はかなり微妙だ。
なに?オレに興味ないの?っていうかオレってどうでもいいの?いなくてもいてもどうでもいい存在なわけ?うっわー。なんか寂しいな、オイオイ。俺は微妙な引きつり笑いをしながら本題に戻った。

「じゃあ、それでお願いします。で、近藤ってどこにいんの?」

えーと、おぼろげな俺の記憶にあるここの局長って言う人は…たしか、ストーカーの人のことだよな。銀時の超ずっこい手を使われて川辺で負けた人。
…そういや、銀時ってあの時たった一人だけ悪役被って八方を丸く治めたんだっけ?


「オレはここだァァァ!!」


大声が聞こえて、そちらを向くと…ずたぼろになって杖を突きながら歩いてくる顔が変形している男が居た。

「……誰?」

俺は呆気に取られて呟いた。
土方は額に手を当てて、心底からのため息をついた。

「わー。どうしたんスか。局長ー。またお妙さんにボコられたんですかい?」
「ふっ。お妙さんはシャイな人だからな…これは愛情の裏返しなんだよ!」

腰に手を当てて、わははと高笑いする局長さん。

近藤さん…あーはいはい。
こういう人だったね。確かけつ毛ごとお妙さんに愛されたいと思っちゃった可哀想なストーカーさんだよ。仮想現実の女の子に惚れないだけマシ?まぁ、そんなの人の自由だけどさ、ストーカーはまずいよね。うん。犯罪だよ犯罪。めちゃめちゃ精神的圧迫を受けるよな、ストーカー被害ってさぁ。

「…この人ってストーカー犯罪者に片足どころか両足突っ込んでない?」
「土方さん、オラァ身内から犯罪者は出るのはいやですぜ」
「…オレだっていやだ」
「やばいよ。真選組の信用問題がた落ちだよ」
「どうにかしろ。総悟か 。どっちでもいいからアノ人をどうにかしろ」
「俺関係者じゃないもん」

お手上げポーズを取る俺。

「オレも関係者じゃないもん」

お手上げポーズを取る総悟。

「オメーは関係者だろうがァァァ!!」

うわぁおい。
ナイスな突っ込みで。
土方は総悟の襟元を締上げて怒鳴った。

…いや、そんなことはいい。
今はこれを渡さなければ。
なんか気味悪いからさっさと渡したい、この白い布で包まれた刀。

「あのぉ。これ届けモンです」
「あぁ?なんだ?」

とりあえずその顔の変形しちゃってる人に包みを渡す。

「こ。これはァァアァ!!」

なんだこれ?という顔をしてから次の瞬間、近藤の顔は驚愕に染まる。
が、そんなことよりも。

「キタネぇ!」

叫んだ拍子に近藤の唾か顔に飛んできたことの方が問題だった。
慌てて顔を拭う。近藤の菌がついたよ。やべぇ、この世界ってミューズあるかな?石鹸ミューズで洗いたい。いや、消毒薬でもいい。この際なんだっていい。

「…何なスか。ソレ」
「ふふ。チミィ、よく持ってきてくれたなぁ!」

興味を引かれて聞いてやったのにあっさりと無視された。
そして、チミィとか言われた。キミって言えよ。なにいきなり幼児言葉になってんだよおっさん。俺が幼児に見えんのかよコンニャロー。バンバンと俺の背中を機嫌よく叩きながら、豪快に笑うと、大事そうに白い布に包まれた刀を抱えた。

いや、だからそれってなんなのさ。

「局長ーゥゥゥ!!土方さーぁああん!!」

そこへ血相を変えた真選組みの一員が翔けて来た。

「どうしたッ、山崎ィ!!」

途端に近藤、土方、総悟の表情に緊張が走る。
真剣顔だ!マジ顔だ!シリアス顔だ!マトモな顔だ!!山崎といわれたそいつは、なぜか腰に刀の変わりにバトミントンのラケットを掴んでいた。

「ヤツがぁ、ヤツがぁ…ッッッ!!」

と、青冷めている。

「どうしたってんだ、山崎ィ!はっきり言いやがれ!!」

土方が言う。

「いやいや、こういうときは『ヒィ・ヒィ・フゥー』ですぜ!!」
「そりゃあ、ラマーズ呼吸法だろうがぁぁぁぁ!!」

すかさず土方が総悟のトンチンカンな発言に青筋を立ててどなる。
マラーズ呼吸法ってのはアレね、妊婦が子供生むとき時とかの痛みを和らげるための呼吸法のことだ。

「よしよし、しっかりしろ山崎。いってぇ何があったんだ?」

ただ一人、流石は局長の貫禄?で、近藤が山崎の肩に手を置く。

「…ま、ま。まま」
「「「「ま?」」」」

全員で先を促す。


「賄いの女がこねぇんんですよぉぉぉーーーー!!」
「だからどうしたァァァァ!……って、アレ?」

山崎の言葉にオレは力の限り突っ込んだのに、周りのヤツラは誰も突っ込まなかった。
あれ?
なんで?ここって突っ込みどころでしょ?

吃驚して彼らを見ると、彼らも一様に青い顔して顔をしていた。

「…本当か?嘘じゃないな?嘘だったら切る」
「マジに決まってますよ!なんか…初孫が出来るとかいって、娘の嫁入り先に行っちまったらしです」
「代えのヘリパー賄いさんは?代わりが来るはずだろうが?」
「それが…あのばぁさん、ヘルパー委員会のほうに連絡するの忘れてて、こっちに回せる人間がいないらしいうんですよ!!」
「あの耄碌ババァがぁぁぁ!!」
「オレらの夕食どうなんですかい!オレは一食でも抜いたら餓死しますぜェ!!」

三者が話している内容がよく分からないので話に入っていけない…。
えーと、聞いた話だけを纏めてみると、料理を作ってくれる賄さんがこないで、今日の晩御飯にありつけないとそういうこと?なんだよ。そんなの誰かが作ればイイジャン。

「外に食べに行くか、誰かが作ればいいんじゃないの?」

そういうと、2×4の目がギンと俺を睨んだ。
心なしか血走っているように見える。…殺気篭もってるよ。

ァ?オレらみたいな集団が、全員で飯食いに行ったらいくらかかると思ってんだ、アァ?なめてんのかァ?」
「いや、舐めてません。舐めたくもありません」
「それにィ、オレたちのところなんか、ダァレも料理なんか作れる男がいるよーに見えるんかい? ?」
「自慢じゃねーが、皆作れねぇんだよ」

……。
そんなに寂しげに遠くを見ながら言われても…。
四人ともこの世の終わりのように萎びている。

あーあ。
俺は額に手を当てて空を仰いだ。
ちょっとだけ薄紅色がかかってきた空だ。

面倒くせぇなぁ…でも、

「…じゃあ、オレが作ってやるよ」

はい。
結局そうなるみたいだ。


□■□


銀魂の世界に来て五日目。
真撰組の昨日の夕飯と今日の朝ごはんはオレが作りました。

「たこ焼きが食べたい…」

始まりは一言。
とにかく俺は無性にたこ焼きが食べたかった。外はぱりぱり中はしっとりで、香ばしい鰹節とソースの匂い。思い浮かべるだけで、口の中にじわっとたこやきの味が思い出されて唾液が溜まる。

超食いたい。
腹いっぱい食いたい。

そうとなれば行動だ!!


ソース顔と醤油顔の違いがいまだ良く分かりません。大体、そんな調味料で顔の種別を分けられたらたまんねーよ。マヨネーズ顔とかもつくれよ。


「えぇー…と言うわけで、今日はたこ焼き大会を開きマース」
「「「「「「やったー!!」」」」」」

ここは真選組屯所内の庭。
無性にたこ焼きが食べたくなった俺は、いっそのことソレを飯にしてやれ!と、夕飯はたこ焼きにした。

今の時間は大体五時半。
まぁ、夕食にはいつもより早くて、夕焼けに空が染まり始めたぐらいだ。この変てこは銀魂の幕末時代のいいところは、電機とかがバリバリあることだよなぁ…と、一人でうんうん頷きながら、オレはたこ焼きを造る準備に取り掛かる。庭には祭りかなにかと勘違いをしているようで、なぜか特設スタジオまで作られている。
…ほんとーにここの人たちお祭り好きだよなぁ。
真選組の面々は思い思いに酒を持ち込んで地面に引いたブルーシートの上に座っている。

「と言うわけで、たこ焼きパーティーの準備でーす」
「「「「「「わーい!!」」」」」」」

うんうん。まるで幼稚園児の良い子の返事だね。みんなの嬉しそうな声、俺も料理人の腕がなるよ…。と思いつつ、俺は小麦粉をぬるま湯に混ぜようとして「あれ?」と手を止めた。

「なんでお前らがいるんだよ、銀、中華、眼鏡、姐さん」

どう見たってお前ら部外者だろう!?な、万時屋三人衆プラス新八のねーちゃんがいた。

「水虫臭いアルヨ、 !私を呼ばないなんて…」
「それをいうなら水臭いだっつーの。水虫臭いってなんだよ、新手の香水の匂いかよ」
「そうともいうネ」
「言わねーよ」

神楽ちゃんは阿呆の子だねー。これが味があるってもいうけどさ。俺はかわいそうな子を見る目で神楽を見て、ついで彼女の保護者っぽい銀時に目を向けた。こいつも常識ってもんを知らないっていうか、どっかに置き忘れちゃってる人間だが、日本語に不自由している神楽よりは話が通じる。
大体、なんで宇宙人…いや、天人とかいうやつらは普通に日本語使えるんだよ。どこかに翻訳機内臓してるとか?っていうか、日本語ってそんなに簡単なの?あ、ほんやくこんにゃくとか?

「こっちはしっかり新撰組の食費で作ってるんですよ。無一文の部外者は出てってください」
「酷いなぁ… チンはー。オレんちに居候してるくせにー」
「チンってつけられるとなんかむかつくんで止めてくれませんか金タマさん」
「あ、今、すごい悪意を感じた」

そのつもりで言ったからな。その間にも神楽はブルーシートのいいところを場所取りに向っていった。

…んー。
じつはムサイ男しかいない男の花園(キモ)の中に神楽とお妙が来たの華があっていい感じ?

「そうだ。不法侵入罪で叩ききるぞ」

と、俺の横に登場したのは土方さん。
すんごいやる気満々で腕まくりをしている。あ、いや、やる気満々って言うのはたこ焼き作る気満々ってことね。銀時の野郎に喧嘩を売る気ってわけじゃない。

…この人が目つき悪いのいつものことだし。たぶん。

「ほら。これ。オレらだって手ぶらでメシにありつこーなんて考えてねーよ。ちゃんと手土産も持ってきた」

銀時はずいっとでかい袋を突き出した。
一瞬身構えた俺だが、突き出されたのが普通の半透明ビニール袋だったので、受け取って中を覗いてみる。
どてんと赤身と白身が見える。

「…タコ足?」
「ああ、ちょっと前に受けた依頼でよー、大味っぽいタコ星人」

…ちょっと待て?
それ読んだ覚えあるぞ俺、頭の上に電波感じるアンテナもってるぶっさいく皇子のペットもどきの凶暴エイリアンタコのことか?
食えるの?なんか体内に毒ありそうなタコだったじゃねーか。薬中暴走特急みたいな感じでさ。いかにもどっかに注射打ってうへうへと涎たらした頭の脳みそとろけちゃってるタコ。

「…これって食えるの?」
「おう。タコの刺身にして食ったぜ。これは冷凍しといた分」

食 っ た の か 。

しかも生でかよ。あんなエイリアン食べて腹壊さねーのか…?まぁ、神楽はなんでも食えるし、胃が丈夫そうだからいいけど…。期限切れの牛乳飲んでも腹壊さない感じだよな。
それにしても、あのタコ星人の残り、冷凍してたのかよ…。受け取ってしまったし、銀時も食べたのだから大丈夫だろう。…オレの分は、普通に市販されてたタコを食べよう。その他大勢にはこのタコ星人の身でいいか…。味なんて分からんだろうし。
食べて狂牛病…いや、狂蛸病(そんな病気あるのか知らんが)にかかっても、奴らは元から脳みそスカスカだしな!!

「お妙さん!いらっしゃってたんですかーー!!」

うきうきと銀時を押しのけて近藤局長がお妙の前に立った。
満面の笑顔で、心なしか耳の後ろが赤いのが近藤の純情を表しているようである。女の純情よりも男の純情のほうが清いと思う今日この頃。

くん、なにか私に手伝えることないかしら?」

しかし、お妙は眉ひとつ動かさないで近藤をシカトして、にこやかに俺に話しかけてきた。いきなり話を振られて俺ははっとする。

「いえ。その…お妙さんはそこで局長の相手…」

グシャ

「…なにか?」

グシャって言った!今、お妙の腕が一瞬消えたと思ったら、近藤が倒れたよ!つぶれたよ!土とキスしてるよ!!いや、これはむしろ埋まってる…?
ごくりと俺は唾を伸びこむ。

お妙…俺は思ったよ。あんた、道端でスリしてすれば絶対に食っていけるよ…!!!
そんなけ高速で動く腕さえあれば!!

「…いえ。あの、じゃあ、このタコを一口サイズに切ってください」
「ええ、分かったわ。 くん」

にっこり。と何事も無くお妙さんは笑って包丁を掴んだ。
お妙は焼くとか煮るとか出来ないけど、きっと切ることは上手だと思うんだよね。っていうか、刀とか持たしたら最強なんじゃないですか?生身でも実は最強な人なんじゃないの?いやぁ…最近の女って怖いねー強いねー。お妙さんは着物の腕をまくって、まな板の上にどでかいタコ足を出した。
そして、スッと包丁を頭の上まで上げて、振り下ろす。

ダンダンダンダンダンダンダンダン…っ!!

…なんか、人体を叩き切ってるようなすんごい音がするんですが。ちらっと横目で伺うと、まな板ごと切れてます。この人、手加減ってもの知らねーよ…。

「おう。 。オレはなにすりゃいい?」
「早い復活ですねー。不死身っすね。でも近藤局チョーは、今のお妙さんの半径一メートルに入ると誤って包丁が飛んでくるかもしれないので、出来るだけ遠くにいたほうがいいですよ」

うっかり殺されちゃうかもしれないから。

。オレは?」
「土方さんは…そのたまごをボールに割って混ぜておいてください。殻はちゃんと取ってください」

卵ぐらい割れるだろう。きっと。たぶん。もしかしたら。

「オリャあ何をすりゃぁいいっスかね?」
「…あんたが実は一番心配なんでそこらへんで退さんとミントンでもしててください」
「ひでぇっス。オレだってやるときゃぁやりますぜ?」

ほんとかよ。

「…じゃあ、コレ砕いてください」

オレはビニールに入れた桜海老と棍棒を総悟に渡した。ビニールの上を押さえて、ごんごんと乾燥桜海老を粉末状にしてベース生地に混ぜ込むためである。

「了解しやしたー」

総悟はやることが見つかってちょっと嬉しそうであった。ブルーシートの上に座って沖田はなにやらポケットから取り出した。なんだろうと思ってみていると、それでビニールの上に大きく人の名前を書いた。

死ね、土方』…と。

そして、にっこり笑いながらその名前を書いた上を棍棒で猛烈な勢いで連打した。

…むっちゃ怨念篭ってるよ。マジで総悟と土方の関係ってなんですか?あんたら仲間でしょーが。

「ずるーい!私もなんかやりたいヨー! 、私に仕事与えるヨロシ!」
「…お願いだから神楽はそこらへんで大人しく座っててくれ」

神楽に何かをやらしたら、絶対うまくいかない。

「ちぇー!」

神楽はふくれてどっかへ行った。
何かしでかすんじゃないかと不安で神楽の後姿を目で追ってみたが、どうやら山崎退を遊びのターゲットに絞ったらしい。


□■□


ーまだかー」
「…うざい。銀時」

銀時はブルーシートの上で俺に足側を向けた寝そべった格好で持参した漫画雑誌を笑いながら読みつつ、たこ焼の催促をしやがった。
なにあれ、すっかり自宅気分だよ。
はぁ?俺はあんたの家政婦ですか。

「家政婦は見た!」みたいな感じにあんたの生活をデバガメしなきゃだめなの?

大体あれって最悪ジャン。
なに、あれは仕事の家政婦何だから、そんなデバガメしちゃ駄目でしょーが。あの家政婦はきっと男女間の不倫でヤッてる場面とかドアの隙間から見てそうだ…。って、それじゃあただの覗きじゃねーかよ。あのおばさん欲求不満?あの家政婦って、どうなのよ、結婚してる設定なの?詳しいこと知らないけど。知りたくないけど。

…話が横にそれた。
戻すけど、銀!!ちょっとは、作るの手伝えって言うの。

「うざいよ。銀時で主人公だからってなに?手伝えよ、手伝わないなら」
「…えー。オレタコもってきたじゃーん」

だからいいじゃん。と言う銀時。あんなタコごときで、なんにも働かない気かこの野郎。俺の目の先でジャンプなんか読みやがって。俺はジャンプ買ってねーんだよ。コミックス派なんだよ。ジャンプが気になるじゃねーかよ。俺は近くにあったたこ焼道具を掴んで呟いた。

「…消えろ」
「え?」

シュン―…

何かが銀時の耳元をかすった。

グサッ

「……」

銀時の読んでいたジャンプを貫通しているそれ。分厚いはずのジャンプをものの見事に反対側まで貫いている。千枚通し(錐の一種で、とがったヤツね。たこ焼ひっくり返すアレ)である。

「おおー!やるじゃねーか !」
「…やるじゃぁないですかい、 のあんちゃん!」
「うふふ。いっそのこと頭貫通だったら良かったのに」
「わー。私もやってみたいアルー」

やあやぁ、ありがとう、ありがとう!!
俺の技に褒めてくれるみんなに両手を挙げて答える。

「… !!オレに刺さったらどうするつもりだったんだよッ!!」

銀時が怒鳴るが、知るかそんなの。

「惜しかったなー。もうちょい右だったら銀の左耳にピアスの穴開けてやれたのになぁ…」
「んなもんでピアスの穴が開くかぁぁ!!穴がでかすぎでゆるゆるだぁぁぁ!!」
「じゃ、今度安全ピンで空けてやるよ」
「いや、ピアスの穴はどうでもいいからっ!!オレが死ぬとこだったんだって!」
「はいはい。もういいよ。話進まないから」

銀時を軽くシカトして、俺は材料を混ぜるために大なべを持ってくる。
いちいち小さなボウルで作るの面倒だから、タネだけは最初から大きなもので作っておく。小麦粉、鰹だし、総悟から粉末桜海老、土方からは割った卵をよく混ぜる。

「…これで準備は整った…」

俺は静かに呟いた。そして、下準備を終わったことに満足げに額の汗を拭いた。汗かいてないけど。気分的に。

さぁ、そこの皆さん!!

え、たこ焼きっておかずなの?むしろおやつなんじゃないの?
いいえ、そこのあなた!!それは違います。



た こ 焼 き は 主 食 で す 。



「そうだろう、野郎どもぉぉぉお!!!」
「うおぉおおおおおおーーー!!」


お玉をマイク代わりにして俺は叫ぶ。

喜ぶ強面の真選組みの面々。
みんな嬉しそうにタコ踊りをしている。山崎なんかはイカ踊りだ。そんなに喜んでもらえると、俺も嬉しいよ!!

「と言うわけで、焼きマース!!」

屋台用の鉄板にネタを流す。みんなの嬉しそうに、俺が借りてきた屋台用のたこ焼き器の前に詰めてきた。

「タコ入れマース!!」

両手に掴んだタコが華麗に空中を舞い、各たこやきに落ちていく。同様にして他の具、ねぎ、紅生姜、天かす、桜えびを上から散らす。

「ひっくり返しマース!!」

俺は千枚通しを両手に持って構えた。きらんと俺の目の奥が光る。

「秘儀・タコ返しっ!!」

スチャ!スチャチャチャチャチャ!!
両手で手首を返してたこ焼をくり抜き返していく。

「おおぉおぉぉぉおおーーー!!」

歓声が上がる。どこかのアイドルの登場したシーンのような盛り上がりだ。焼けたたこ焼を紙皿に移し、ソースと鰹節をかける。

「はい。と言うわけで、作り方の見本は見せました。あとは自分たちで頑張ってくれたまえ」
「え?」
「家庭用たこ焼器を百円ショップで10セット購入してきたので、それで各自タコ焼き器を囲んで勝手に作ってくれ」
「ええっ!なんでだよぅ?」
「だってそうじゃん。なんでオレがずっと作りっぱなしをしなきゃならないんだよ。そんなの面倒じゃんか」

なに。俺は皆さんの家政婦みたいなことしなきゃならないんですかー?お給仕さんですかー?そんなんしたくありませーん。大体、こういうのは自分で手軽に簡単に作るのが美味しいんだっつーの。材料さえあれば誰でも作れるものなんだから自分たちで作って食え。

俺は残りのたこ焼を用意しておいた竹串にぶすぶすと刺していく。

あれだよ、やきとりのつくねみたいな感じに。
やきとりってさぁ、変な名前だよなぁ…やきとりって言われたら、竹串にささった屋台で売ってるやきとりを思い浮かべるけど、焼いた鳥でもやきとりだもんな。焼いた鳥のすべてがやきとりだと思うわけで、やきとりと聞いてやきとりを条件反射をするのってやきとりが世の中に広まっている証だよなぁ…。
…って、俺が言ってること分かるかな?
なんだか途中から分かりにくくなってしまったのですが。分からなかったらそれでいいや。

「あ、残りのは食ってもいいよ」

と、俺は自分の分だけ確保してブルーシートの上に座った。
ブルーシートはお花見のときとかにとっても利用されるけれど、それ以外のときはなんとなく上野山の上に住んでいるホームレスさんを思い出すね。
これって偏見かな。
でも、公園で段ボールとブルーシートで作った小屋に住んでいるホームレスさんはある意味凄いと思うよ、うん。なんか昔外国行ったときに聞いたんだけど、公園に住んでる人ホームレスさんってちゃんと洗濯とかしていて干したりしていて凄いねって言ってた。誰がって、通訳の人がね。聞いただけだから良く分からないけどさ。
でも本当だよね。すごいよね彼ら。いろんな意味で強く弱く生きてるよね。弱く強くって弱いのかよ強いのかよどっちなんだよ!?ってそういう突っ込みはなしね。俺が知るかよ。あはは。

「さぁ、作ってくれよ、 !」
「わぁ、嬉しいわ。早く作ってちょーだい、 くん」

銀時、お妙。

「よしゃ。今日はお妙さんがいるからこっちの酒を開けるか…ほら、 早く焼け」
「酒ですか、局チョー。オリャぁ酒があればたこ焼はミディアムでいいですぜ」
。オレは外がぱりぱりしたたこ焼がいいな」

近藤、総悟、土方。

「ねーねー、たこ焼の中に酢昆布入れたらどうアルか?」
「そんなに好きなら一生酢昆布を食べていろ。いや、むしろお前が酢に漬かれ」

神楽、新八。

「…………」

俺はそんなレギュラー格のキャラたちをたこ焼を無心で食べながら見渡した。
俺が座っている前に、長テーブルとたこ焼器がセットされている。

…これは…もしかしなくても、俺にたこ焼を作れと?

どうするべきか…彼らはレギュラー格だ。
ここで俺がひとまずたこ焼を作ってやったほうが、意味の分からない被害は少ないのだろうか?たぶんそうかなぁと思いながらやれやれと俺はたこ焼を作るのだった。ここらへんで媚を両方に売っておけば、俺の身は安全かなって考えてみたり。でもなぁ…こいつらに俺という存在の媚は通用するのか?いざと言うときはそんなもん星の彼方に蹴っ飛ばされそうだなぁ…。


□■□


酒が入ってみんな暴走しだしています。
助けてください。
ヘルプ・ミー。

、どうあるか。私の嫁になるとよろしアルヨ」
「神楽…それを言うなら夫だっつーの」
「どっちでもオッケーよ。夜の生活も任せて!」
「この子おかしいよ、ちょっと、どんなテレビ見せてんのっ!?」

お前は十代前半だろうが。
夜の生活やっちゃったら、俺、未成年暴行罪で捕まるよ。
頼むからもうちょっと出るとこでて引っ込んだところは引っ込んだナイスバディなお嬢さんになってから誘ってくれ。

「大丈夫だ、安心しろ。俺のほうが上手い」
「…いや、だから…はい?」

真顔で俺の顔の輪郭にツゥーと指を滑らす、近藤。
ぞっとした。
マジで。

俺、男には興味ないんです。
掘るのも掘られるのも嫌です。
っていうか、あんたのターゲットはお妙でしょーが。
酔った勢いだかなんだか知りませんけど、俺にモーションかけないでください。

その近藤をぶっ飛ばして、横からもたれ掛って来たのはお妙。

「いいわねー、 くん。お姉さんに一生お料理作ってくれないかしら?今なら出来損ないの弟が出来るけど?」
「ちょっと姉上!なにさり気にプロポーズもどきしてんですかぁぁぁ!?」
「お妙だけだったら貰ってやってもいいかも…」

お妙って結婚できる歳だったよな…?
胸無いけど。これから先育つのかな、あれ…。

「そこもぉぉ!!なに言ってるの、姉上アンド くん!」

だって俺は男だし?
お妙は暴力と料理が出来ないことをのぞけば結構綺麗だしねぇ…肝据わってるし。
極道の妻には余裕でなれるほどの器だと思うわけよ。
カッコいいね。
あれだね、ごくせんっぽいね。

「っていうか、土方さん、たこ焼がマヨネーズに埋もれてます…」
「マヨネーズはかけるほど美味いんだ」

ああ、土方といえばマヨネーズだよね。
知ってる?

普通のマヨネーズの蓋は赤なんだよ。
そんで、ハーフだと蓋は白なんだよ。
味の違いは…あんまり無いかな?

俺的にはたこ焼にはからしマヨネーズがおススメだよ。


終われ。


銀魂は、原作の雰囲気を大切にしようとどうにもこうにも収まりが悪くなる。まだこの連載続くの?…終わってもいいかな。