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嬉し恥ずかしの過去の遺物たち。テニスの王子様の未完の中篇?と短編。。不親切設計なので、ひたすらスクロールで四露死苦!

1.太陽少年本編/青学オール 2.太陽少年/番外 3.不動の王/不動峰オール


01 太陽少年 本編




はっきり言って、新入生は始業式には関係ない。
しかし、その少年は、なにを思ったのか、在校生の始業式の日に青春学園中等部の門をくぐった。

「…おお〜。受験のときも思ったけど、やっぱでかいよなぁ〜この学校」

時刻は八時二十五分。
始業式は九時から始まるため、ほとんどの生徒はまだ姿が見えない。ふらりと少年は校内の散策を始めた。意識的なのか無意識なのか、教師や生徒と比較的出会いやすい体育館を避け、人気の少ないほうへと向かってゆく。

「やっぱいいよな〜。青学!広い!」

校舎の中に入ると薄暗くもの寂しい感じがした。

「静かな学校もよし!」

階段をゆっくりした足取りで上がりきると屋上へと続く鉄の扉があった。そっとドアノブをまわしてみる。

「…開かないし」

少年は、踊り場の端にあった消火器に目を留めた。にやりと笑うと消火器を持ち上げる。その下には鍵があった。

「あったり〜☆」

鍵は少々古びていたが鍵穴に差し込んでまわすとカチッと軽い音を立て扉は開いた。広がる青い空。青学の全容を一面に見ることが出来る。少年は金網の前に座り込んだ。

「あ。そろそろ上級生来てんじゃん」

屋上からだと微妙に死角になりやすいが、何人かの制服に身を包んだ生徒が見える。少年本人も青学の学ランに身を包んでいる。新入生らしく、多少は大きめのつくりだ。しばらく校舎からしたを観察していたがやがて飽きたのか、そのまま後ろに寝転がる。

「青春学園…。長かった受験とはおさらば!俺は俺の道をいくぜ〜!!」

少年は、青空に向かって叫んだ。




■□■



(どうしてあんなに校長の話はながいのでしょう…)

テニス部新部長に任命された大和雄大は、幾分疲れたようにしながら屋上への階段を上っていた。
本来なら一般の生徒は始業式が終わったら帰宅していいことになっているが、テニス部は今日も午後から部活があるため、大和は家に一度帰らず屋上で時間をつぶすことにしたのだ。

(だいたい。あんなだらだらと同じ文句を並べるなんてナンセンスですね)

生徒会長として前の席に座らされているため、居眠りすることも許されずなかなかの苦行となる。

(…まぁ、精神は鍛えられますが)

「あれ?」

大和は、屋上の扉が半開きになっているのを見て眉間に皴を寄せた。ここの屋上の鍵は数年前から行くへ不明になり、たまたま大和が見つけ、そのまま自分だけのものとして扱っていたのだ。
もちろん、職員室にはマスターキーが存在する。しかし、ここの屋上は生徒の立ち入り禁止となっていて、滅多なことでは教師も来ない大和だけの秘密の場所だったのだ。

「誰かに見つかってしまったようですね…」

目の端でどかされた消火器を見ながら大和は屋上に足を踏み入れた。薄暗かった校内とは違い、屋上の日差しは思ったより強かった。屋上への招かれざる客はすぐに見つかった。大の字に寝転がる少年がいたからだ。

「キミ?」

呼びかけながら近づいても反応がない。近寄ってみると、その少年は健やかな寝息を立てて熟睡していた。

「見たことない顔ですね…」

大和はすばやく襟元の確認をした。通常、襟元にクラスのバッチをつけることになっている。…それを実行している生徒はすくないが…。

「ありませんね…。仕方ありません。起こしますか…」

ゆっさゆっさと少年を揺り起こす。

「う…ぁん…?」
「起きてください。風引きますよ?」
「だれ…?」

ぱちりと少年の目が開いた。起きたら突然いた男のも動揺した様子がない。

「ボクですか?ボクは大和といいます。キミは?」
「俺?俺は
君ですか。キミはどうしてここにいるのでしょうか?」

微笑して大和は に問いかける。

「えっと…鍵を見っけたから、ちょうどいいかな〜って思ってここに…」
「よく鍵を見つけましたね。」
「っていうか、鍵を隠す場所が当たり前すぎんだよ。あんなとこ、誰だって見つけられるし」
「…そこに隠したのはボクなんですけどね、 君?」
「げ、マジ?」

しまったという感じの表情を作る

「キミは、何年生ですか?ボクはキミの顔を見たことがないんですが?」
「俺よりも、大和…先輩?は何年生な…んですか?」

使えなれていないのか、 の敬語はかなりぎこちない。

「ボクは三年です」
「へ〜。最上級生なんだ〜」

大和はほぼ確信に近いものを感じていた。すなわち彼は今日いるはずのない新入生である、と。

君は、新一年生ですね?」
「え?なんでわかったんだ!?俺、そんなにちっこい?」

大和は今日、新生徒会長として舞台に挨拶に上った。また、青学のテニス部長となれば、青学においての知名度はダントツである。それこそ、知らないものはもぐりだ。

「いえ。ちょっとカマかけてみました。まあ、確かに在学生にしては小さいですけど」
「うわ!大和…せんぱい、実は性格悪いんじゃ…ないですか?」

不自然に の言葉は途切れ途切れになる。しかし一生懸命に敬語を使おうとする を大和は非常に好意的に感じた。

「… 君。キミには敬語が不自然ですので、普通にしゃべっていいですよ。…聞いてるこっちが疲れますし」
「え!?…すいません。俺、敬語って慣れてなくて…」
「小学校なんて、ほとんど敬語を使いませんからね」
「はぁ。やっぱ、急に敬語を使おうとした俺が駄目なんだな…。つか、先輩はずっと俺の対しても敬語だけど、なんで?癖?」

(もう、タメ語ですか…。気の切り替えが早いですね)

「癖ですね」
「ふ〜ん。普段から敬語なんてよく疲れないッスね?」
「慣れですよ」

敬語を使う必要がなくなったからか、 の口はすらすらと言葉をつむぐ。
変声期を終えてない、幾分高い声。

「あ〜でも、先輩みたいなおもしろいひとが青学にいたんだから、やっぱここ入ってよかったな〜」


は寝起きの大きなのびをして「う〜ん」と唸った。
とたん、ぐ〜…という音がどこからともなく聞こえる。

君のお腹の音ですか?」
「…えへvお腹へっちゃたんだも〜ん」
「まぁ、確かに今はお昼時ですが、 君はいったいいつからここにいたんです?」

そんな をあきれて大和は見た。

「嘘!もう昼?げ、母さんと出かける約束あるの忘れてた!!ヤバ!先輩!今何時!?」
「は?十二時四十二分ですが…」
「ぐは!約束まであと十八分!ごめん大和先輩!俺帰る。またね!」

は稲妻のように駆けていった。
後姿を見送りながら、残された大和は実は持っていたお弁当を見てため息をついた。

「…お腹、すきましたね」

腹の虫の音が、屋上に小さく響いた。



■□■



今日はついに青学の入学式だ!!
嬉しくって昨日は全く眠れなかったぜ!

「どわわぁぁぁ〜!!!」

いかん!!やばい!!なんだって、この大事な入学式の日に俺は遅刻しようとしているのだ!?こういう日は、悪いことが重なるっていうのが世の定石だ。俺は急い制服に身を包むと、食パン(焼いてない。やわらかいまま)をくわえる。

「いってきます!」

俺を青春が呼んでいる!!



■□■



歩いて三十分。走って十二分のところに青学はある。当然のことだが、遅刻寸前のこの時間に青学の生徒の姿はない。

「時間よ、止まれ〜!!」

冗談じゃない。
初日から遅刻なん格好が悪すぎる。短い信号での信号無視(よい子はしてはいけません)をして、俺は全力で走った。青学の校門のすぐ横の桜の木が見える。全力でその横を通り抜ける。

「お前!ちょっと待ちなよ!」

と、校門のところに立っていたジャージをきた中年女性に呼び止められた。

「へ?なんスか?急いでんだけど俺!」

今の俺を誰も止めるな!足はその場でリズムを刻んだままだ。

「あんた新入生だね?入学そうそう遅刻かい?もう新入生は体育館に移動したよ。ほれ、これつけて早く行きな!」

なんだかやたらと威勢のよい中年女性は何かを俺に投げた。

「なんだこれ?」
「早く行かんかい!」
「はいぃ!じゃ、さよなら〜」

走りながら渡されたものを見ると、造花に桃色のリボンのついた新入生のための装飾品だった。俺はそれをポケットに突っ込んだ。

「これ、つけなきゃなんないのかな〜?付けたかないね、こんな少女趣味なもん。おっと、体育館発見。いざ突入すべし!」

しかし、どうやって中に入るべきか。俺は目立ちたくない。だからといって、どこかで時間をつぶして入学式に出ないなんてことはせっかく苦労して入った、記念すべき入学式なのに勿体無い。

「…正面から入るか?いや、ここはやはり横から入るか?」

時間がおしい。こんなこと考えてるうちに入学式が終わっちまったらどうすんだよ、俺!

「俺は男だ!ここは男らしく…正面からだ!」

下手に横から入るよりも、正面から入ったほうが注目を浴びないですむかもしれない。俺は、そっと、音を立てないように正面の扉を開けた。



■□■



おお!すげぇ!!
むちゃくちゃでかいよ、この体育館!
さすがマンモス校。新入生約1440名プラス保護者約1440名(想定)が楽々入っちまうなんて、すげー。後ろの席にいた保護者の一人が俺のほうを振り返って、露骨に顔をしかめる。

むか!
どーせ俺は遅刻したよ!
壇上では、誰かが式辞を述べていた。まだ始まったばかりのようだ。俺は、子供の一世一代の中学入学式のために着飾った保護者の脇を靴音を立てないように通り抜ける。
…ちょっと待て、俺って、一体何組なんだ?俺まだクラス分けの紙見てねぇよ!?誰かに聞くしかないのか?遅刻したのがばればれじゃん。
先生たち、舞台のすぐ横に固まってるし、あそこまでわざわざ行ったら思いっきり周りのやつらに見られるじゃん!俺は、ぐるぐると思考の渦に巻き込まれた。


「俺は…俺は…そんなのは嫌だ!!」


思いっきり声に出していってしまった。

「げ…!!」

慌てて口を押さえるものの、ちょうどお偉いさんが式辞を述べ終わるという絶妙のタイミングで声だったので
必要以上に俺の声が響き渡った。ああ、この感極まると口から言葉が飛び出すこの性質をどうにかしてくれ!いっせいに何百人もの目が集中するという、なかなか体験できない経験を俺はした。さながら、ほんの少し、アイドルの気持ちが分かった瞬間だった。

痛い。
視線が痛いよ、お母さん!

(なんだよ、あいつ)
(もしかして、遅刻?)
(入学式に遅刻って…バカ?)

ひそひそとした雑音が体育館を満たした。保護者側からも同じような声が聞こえる。

(まぁ、親は一体なにしているのかしら…?)
(制服も着崩してるし、嫌ね)


かっち〜ん☆
俺、怒ってもいいですか?

「おい、お前、新入生か?遅刻か?」

よくわからんが、教師(しかも、体育教師?)みたいなのが近づいてきたが、俺は無言で無視した。
そのまま、舞台への階段を駆け上がった。

「おい、こらっ!」

マイクを奪い取ると、俺は息を胸いっぱい吸った。

「いいか!俺の名前は だ!俺が遅刻したことに文句あるやつは正々堂々俺に面と向かって言いにきやがれ!バカとか親がどーのとか、初対面の人間をけなすってのは一体どういう了見だ!?てめーら、まとめて潰すぞ、コラァ!!」

親指を前に突き出して逆さにする。
意味は…【Go to heii】〈地獄へ行け〉

「よ!いいぞ 〜!!」
「もっといってやれ〜!!」
「やっと来たのか !!」

なにが起こったのか、いまいち理解の範疇を超えてしまったようで、体育館は水を打ったように静まった。
そこへ、いち早く復活したやつらの野次が上がった。

「お前ら!青学受けてたのか!?」

声のほうに目を向ければ、同じ小学校出身のやつらの顔がちらほら見えた。手を振ってくれてるヤツまでいる。俺もそれに手を振って答えた。

〜!いい加減にしとけよ?中学でも先生たち潰す気か?」
「はぁ?なに言ってん…」

俺がそれに答えようとしたら、後ろから体を持ち上げられた。

「いい加減にしろ。お前!!」
「うわ!なにすんだよ、熊蔵!」

さきほどの体育教師(仮)だった。熊のように毛むくじゃらでごついから、命名『熊蔵』。

「誰が熊蔵だ!舞台から降りんか!!」

壇上から引きずりおろされる。

「放せ〜!熊蔵の毛がうつる〜!」
「移るかボケ!!」

俺はそのまま、体育館の外へと連行された。

「嫌だ〜!!俺は入学式に出るんだ〜!!放せ熊蔵〜!!」



■□■



なんとも居心地の悪い雰囲気が体育館を満たした。

「…こほん。…あ〜、あ〜。入学式を続けます。続いて、PTA会長の…」

機転を利かせた司会(副校長?)が、厳かに式を進行していく。

「放せよ!熊蔵!」

俺は横から熊蔵とともに体育館を出た。なんだって、せっかく苦労して入った体育館を追い出されなきゃなんないんだよ!?俺がなにしたって言うんだ〜!!

「まず、お前はその服装と髪型をどうにかしろ」
「へ?」

俺の格好?改めて自分の格好を見てみる。学ランのボタンが上から三つほど開いている。なかのYシャツは、上から二つ開いている。別に普通じゃん?

「…?なにが?」
「ボタンを全部占めろってんだ!髪もん寝癖がつき放題だし、どうにかしろ!」
「ええ〜。面倒くさい」
「…全部ちゃんとしたら取り合えず入学式には出させてやる」

そ、それはありがたい!話わかるじゃん、熊蔵!!

「マジで!?わかった!」

俺は熊蔵に笑いかけると体育館の脇にあった水道の水で手を濡らし、髪につけた。これで、髪の毛を手櫛で髪を撫で付ければ、もともと癖のない黒髪は簡単に収まった。手早くボタンを嵌め、熊蔵に向き直る。

「これでイイッ?」
「おお。でも、入学式の後、職員室に来い!わかったな?」
「は〜い」

再び、横から体育館内に戻る。

「お騒がせして、すいませんでした!!」

騒がしちゃったし、謝っといたほうがいいだろ。俺もすっきりするし。入ると同時に俺は大声でいい、お辞儀をした。

「コラ、黙れ」
「いて!」

熊蔵の鉄拳が俺の頭に直撃した。
俺はなぜか教師の陣の席に座らされた。まあ、入学式に出られるんだから文句は言わない。俺は、特別席(壇上がよく見える)に座って、思う存分入学式を堪能した。…但し、座ってから五分しか記憶がない。なぜなら残りのすべての時間を俺は爆睡していたからだ。

この年の入学式は、『伝説』となった。
…らしい?



■□■



「じゃあ行ってくるね、姉さん」
「いってらっしゃい。残念だわ。私も周助の晴れ姿を見に行きたかったのに、今日の講義、どうしても抜けられないのよ」
「いいよ、姉さん。今日は母さんが来てくれるし」
「そう?卒業式には絶対行くわね」
「卒業なんてまだまだ先だよ。気が早すぎるよ」



■□■



母さんと青学の門をくぐると、何百人とも知れない新入生がいた。
ほとんどの新入生は親と一緒に登校したみたいだ。

「お〜い、不二ぃ〜!!」

衝撃とともに、英二が後ろから抱き付いてきた。

「あら、菊丸君。おはよう」
「おばさんおはようございま〜す!」
「英二、重いよ?」
「にゃ、ごめん」

ぱっと英二は背中から離れた。

「あっちでクラス分けの張り紙が出てたにゃ。不二一緒に行かない?」
「いいよ。もう教室のほうに行ってもいいのかな?じゃあ母さん、またね」
「ええ」

母さんは入学式のある体育館のほうに向かっていった。僕と英二は、張り紙の場所まで一緒に向かった。

「うわ、すごい人だんにゃ〜。名前見つけられた?」
「ほんとにすごい人だね。さすが青学だ」

張り紙の前には新入生が目を皿のようにして自分の名前を探していた。1400名以上いる中から自分の名前を探し出すなんてかなりの時間と努力がいるよね。

「むぅぅ〜。…あ!みっけた!!」

…英二みたいにほんの一分ですぐに見つけちゃうヤツもいるけどね。これは特別。

「早いね。僕はどこかな?」
「不二はねぇ…」

僕もとりあえず一組から順に男子の名前に目を通してゆく。なかなか見当たらない。目がちかちかしてくるよ。

「あった!!不二は7組だにゃ!俺は6組だからクラス、離れちゃったにゃ〜…」
「ほんと?あ、ほんとだ」

英二の言うとおり僕の名前は7組にあった。英二は僕と一緒じゃなかったのが結構ショックだったらしくていじけている。

「なに?英二ってばそんなに僕と一緒のクラスがよかったの?」
「だって、俺の知ってるやつ六組に誰もいないんだもん」
「まあ、英二の性格だったらすぐに友達できるだろうし、大丈夫だよ?」
「でも〜やっぱり不安にゃ〜」
「隣のクラスだし近いよ。ここにはもう用事ないし、教室のほうに行こうよ」

英二のおかげで僕たちはすぐにその場を離れることが出来た。
まだまだ自分の名前が見つからない人、大変だね。今日はちょっと英二が役に立った日だよ。校舎の入り口には、上級生が新入生に歓迎の造花をひとりひとりの胸元につけていた。

「おめでとう」

にっこり笑いながらつけてくれる先輩たちには悪いが、この花、ちょっと趣味悪いね。



■□■



教室には、すでに何人かのクラスメートたちがいた。
けど、まだまだ打ち解けられてないみたいで、教室内はある種の緊張感が漂っている。僕には関係ないけどね。やがて、教室内の机も埋まった。担任が入ってきて、点呼を取った。
その後、簡単な入学式の説明があって、体育館への移動が始まった。

「廊下に名前順に並べ〜」

担任に従って廊下にでると、英二も6組から出てきた。…知らない人物の背中におぶさって。

「…なにしてんのさ?英二?」
「あ、不二〜!見てみて!俺ちゃんと友達で来たよ〜v」

ちょっと困ったように、しかし笑顔で英二をおぶっている彼は、結構面白い髪型をしていた。道ですれ違ったら十人中九人は確実に振り向くね。さすがの僕にも、そんな卵+たまねぎの三日月ぎりの髪型なんて出来ないよ。ふふふ。

「英二。いいかげんこなき爺はなめなよ?彼困ってるよ?」
「いや。大丈夫だよ」

にこにこと彼は笑っている。英二の過激なスキンシップにすでに慣れてるみたいだ。

「俺は大石秀一郎。よろしくな」

大石は右手を差し出してきた。
握手だね?もちろん。

「僕は不二周介。ごめんね。英二が迷惑かけて」
「別に迷惑かけてないにゃ〜!!」

うるさいよ、エージ?(笑顔)



■□■



入学式。
こういうものだってわかってるけど、やっぱりつまらないものだ。
区議会委員だとか、教育委員会だとか、小難しいこと並べ立てて、これは僕たち新入生の式だってわかっているのかな?周りの生徒の半分ぐらいが下を向いている。…寝てるってことだよ。
男女別の席だから、隣には英二が座っている。すでに英二は寝てるね。しかも、口あけて。前のほうにいる大石は、ちぎりにしっかり起きて聞いているようだけどね。僕も、眠くなってきたよ。今話しているなんとか委員長の話ももう終わりだしね。


俺は…俺は…


寝て、いいよね?


「…そんなのは嫌だ!!」


突然の声。
それも大声。 英二なんかは驚いて椅子からずり落ちそうになった。

「にゃッ!?にゃんだ!?」

そのほかの眠っていた生徒たちも起きたみたいだ。
そりゃそうだよね。あれだけ大きけりゃ、みんな起きるよ。間がわるいことに、ちょうど話が終わった瞬間だしね。僕の位置からだと、微妙に叫んだ人物が見えない。かろうじて髪の毛(しかもはねてる)が見える程度だ。

「もしかして遅刻?」
「うわ、ダサ〜…」
「思いっきり寝過ごしましたって感じ〜」

彼の姿が良く見えるのであろう女生徒側からはそんな声が聞こえてきた。その言葉から推測するに、遅刻してきた新入生ってことかな?小声の波は広がって、ざわめきが体育館を覆った。

「不二〜?なになに?どしたの?」
「僕にもよくわからない」

なんたって、ここからじゃ見えないし。

「おい、お前、新入生か?遅刻か?」

誰かが彼に問いかけたようだ。
そのあとの行動は、僕は予想してなかったね。

少年が壇上に駆け上がった。ハネた黒髪に、学ランが着くずしてある。いかにも、遅刻しそうだったから急いできました!といった風体だ。前髪が目元までかかっていて彼の顔ははっきりをと判別できない。

「いいか?俺の名前は だ!俺が遅刻したことに文句あるヤツは正々堂々俺に面と向かって言いにきやがれ!バカとか親がどーのとか、初対面の人間をけなすってのは一体どういう了見だ!?てめーら、まとめて潰すぞ、コラァ!!」


彼はマイクを使って啖呵を切ると、親指を付きたてた右手を出すとそれをそのまま逆さにした。

【Go to hell】〈地獄へ行け〉

すごいね、彼。
基本的に青学新入生とその保護者にケンカ売ったよ?

「なにあいつ〜!!すげー!なんか面白い!!」

英二がはしゃいでいる。すっかり目が覚めたみたいだね。彼の啖呵に唖然として体育館は静かだ。僕も 君をよく見たくて、目を開けちゃったよ。

「よ!いいぞ 〜!!」
「もっといってやれ〜!!」
「やっと来たのか !!」

そこへ、何人かの野次がとんだ。
いまだに唖然としているその他に比べて、彼らはこの状態を心から楽しんでいるようだった。名前で呼んでるし、 君の友達かな?…なんだろう、この気持ちは。僕は、 君に気軽に声をかける彼らを見て、もやもやした感じを覚えた。

「お前ら!青学受けてたのか!?」

驚いたように は野次を飛ばした面々を見た。僕の斜め前、英二の前の席に座っている野次を飛ばした生徒が に向かって手を振っている。 の目に、今は名も知らぬ彼が映っているのかな。

〜!いい加減にしとけよ?中学でも先生たち潰す気か?」
「はぁ?なに言ってん…」

誰かの野次に は答えようと何かを言いかけた。けど、その続きは を追って壇上にまで上がった教師に遮られた。

「いい加減にしろ。お前!!」
「うわ!なにすんだよ、熊蔵!」

…熊蔵?それがあの教師の名前なのだろうか?この瞬間、きっと新入生全員がそう思ったことだろう。ていうか、熊蔵って名前、似合ってるよ。

「誰が熊蔵だ!舞台から降りんか!!」

この否定には、多分半分以上の生徒が残念に思ったことだろうね。でも、もう新入生からあの先生は「熊蔵」としか呼ばれない運命だよ。なんたって、 の命名だしね。

「放せ〜!熊蔵の毛がうつる〜!」

体ごと持ち上げられて、地に足が着かない状態で、 はなんとか逃れようと足をばたばたさせてもがいていた。

「移るかボケ!!」

所詮は大人とこどもの力の差。 はそのまま、体育館の横の扉から外へと連行された。

「嫌だ〜!!俺は入学式に出るんだ〜!!放せ熊蔵〜!!」

連れ出される直前の の悲痛な声は、体育館にこだました。

「ふふ。彼、いいね…?」
「えっと?不二〜?」
「…こほん。…あ〜、あ〜。入学式を続けます。続いて、PTA会長の…」

機転を利かせた司会(副校長?)が、厳かに式を進行していく。
僕は、 が姿を消してからの十分間、彼とどうやったら友達になれるか考えていた。まず、 のクラスを見つけることが先決だ。僕のクラスじゃないのは確かだから、他のクラスだね。僕自身のクラスを探すとき、1組と2組のクラス表には の名前はなかった。
と、いうことは、4、5、8、9、10、11、12の7クラスのどこかだね。



■□■



「お騒がせして、すいませんでした!!」

またも、突然の大声。 の声だ。

「コラ、黙れ」
「いて!」

なにが起こっているのか見えないが、 は入学式には出られるようだ。熊蔵先生、なかなかいい人だね。そのあと、 の姿を見ることは出来なかった。入学式の後、職員室に直行したらしい。

そして、 は、あんなに出たがっていた入学式に出れたのに、ほとんど大半を熟睡していたらしい。

君。
君にちょっと興味が湧いたよ?



■□■


side ::::::::: 乾

昨日の入学式は、なかなか興味深かった。
はじめはかなりつまらなくて、学校生活の中でなんの役にも多々なそうなデータばかりで、しまいにはオレまで眠ってしまいたくてしかたがなかった。しかし、起きていて良かった。


「そんなのは嫌だ!」



突然の叫び声。
多少眠気が襲ってきた時だったからかなり驚いたね。どうやら女子側の列の向こう側から聞こえたようだけど、オレの身長じゃあ全くもって影も形も見えない。
…中学生活の目下の課題は身長を伸ばすことかな?ならば、毎日飲む牛乳の成分データを集めて、どれが一番効果的か調べる必要があるな…。メジャーのものとしては、雪印、森永、明治…。

…いかん。
話が逸れた。声の主はすぐにオレの目の前。壇上に姿を現したからよく観察することができた。
髪の毛が跳ねている…。寝癖か…。

ふむ。
遅刻して急いで学校にきたってところかな?多少の汗をかいているようだし、学校までの道のりを走ってきたのは間違いないな。
そのあと、彼は自分の名前を叫び、貴重なデータが取れた。
彼の名前は



■□■



「おはよ〜」
「あ、おはよう!」
「お〜ス」

俺のクラス、11組は、どうやら出身小学校が一緒だったものが結構固まっているようだ。廊下側に集まっている女子三人のグループ。黒板側に集まっている女子四人のグループ。
そのふたチームは同じ出身の集まりだ。ノートを片手に観察は怠らない。すでに昨日のHRでクラスの名簿は配られている。その名簿のなかには、 の名前もあった。
ほかのクラスの名簿も手に入れる必要があるな。…今後のためにも。
の席は窓側の一番後ろに位置している。あいにく、俺の位置からは観察しにくい場所だ。肝心の はまだ学校に登校していない。HRまで、あと5分ある。どうやら学校へはぎりぎりでくるタイプのようだな。
書いておこう。

「うぃ〜す!グーテンモルゲン!!」

よくわからない言葉を発しながら、 が教室に入ってきた。
とはいえ、一瞬 だとはわからなかったが。昨日壇上で見た はぼさぼさの髪で、前髪が目元を覆っていて顔全体の様子がよくわからなかったが、今日の はきっちり髪をセットしていて、顔全体をはっきり見ることができる。さらさらの襟足までの黒髪、すずやかな目元の黒眼。…美少年に入るか入らないか微妙なところだ。
の明るい雰囲気が彼の魅力を30%くらい上乗せしてるね。学ランも上まできっちり着込んでいる。

「おす!」
「グーテンモルゲン」

二人ほどの男子生徒が に話しかけた。

「ほへ?!おお!!お前ら同じクラスなのか?」
「そうみたいだ。…一年間よろしくな」

簡単な挨拶だけで、三人はばらばらに自分の席に着いた。てっきりそのまま三人で話し込むかと思ったんだが。もともと、そんなに親しくないものだったのかな?

「席に着け〜」

担任が入ってきた。
なるほど、先生の来る時間だからか。彼らはケジメがあるようだな。担任の自己紹介を終え、いよいよ俺の待っていたクラスメートたちの自己紹介の時間だ。しっかりデータを取らなければ。

「乾貞治です。趣味は…まあ、いろいろと。人間観察とか。好き嫌いはとくにありません。小学校のときは理科が好きだったので、物理の授業が楽しみです。よろしく」

俺自身の自己紹介は、あたりさわりのないことを言って済ませた。自分のことを話すよりも、他人のデータ、特に のデータが欲しいしね。
の番だ。

「ども! です。趣味は読書…ってか、主に漫画。あと、ラジオを適当に聴くことかな〜。あ、俺んちTVないからTVネタって全然わかんないから。そこんとこ頼むね。青学にはめちゃはいりたかったんで、これからの一年、どぞよろしく〜!!」

ノートに書き漏らすことなく記入する。ふむ。あまり詳しくはわからないな。直接接触したほうがいいな。…さて、どうやって話しかけるか。

「なぁなぁ、お前って、『乾』って言うんだろ?犬って呼んでもいい?」

…いぬ?

「いぬというのはあの『犬』か?」
「そう!動物の『犬』!!」

HRが終わると、 が俺の席までやってきて、唐突に言った。 から俺に話しかけてくれるとは思ってなかったので、降ってわいたこの状況をどうにか長引かせることにしよう。

「残念だけど、その呼び方は却下させてもらうよ。さすがの俺も『犬』だなんて呼ばれたくないしね」

乾という苗字が珍しいね!とか言うんならわかるが、いきなり『犬』はないだろう?

「…やっぱ駄目?」
「ああ」
「どうしても?」
「ああ」
「いぬ?」
「…」
「…じゃあ、貞治だから、『ハル』でいいか?」

それならまともだ。親しい感じもするし。

「それならいいよ。俺は君の事を でいいか?」
「いや、俺がハルって名前で呼ぶんだし、ハルも俺のこと『 』か『 』のどっちかで呼べよ?俺もそっちのほうが慣れてるし。なんたって、今日から俺たち友達だしな!」

友達。今話したばっかりなのにもう友達か…。

「OK。なら、 って呼ぶことにするよ。よろしくな、
「おしゃ!よろしく、ハル!!」

は、人懐こい性格のようだ。
家族は何人だとか、受験の問題はどうだったとか、授業はどんな風に進むのかとか…。

「あ、そういや、入学式のときの熊蔵知ってる?」
「熊蔵とは、 を壇上から下ろした教師のことかな?」
「そうそう。俺、あれから職員室で知ったんだけど、熊蔵って、実は英語の教師なんだって!」
「…体育教師じゃないのか?」

あのガタイのよさで英語教師か…。ある意味、裏切りだな。

「だろっ!?あの顔は絶対体育教師だよな?熊蔵を雇った面接官に会ってみてぇよ!」

は入学式のように突拍子のない行動、または言動をするのかと思ったが、なんてことはない普通の人物だった。…俺のことを『イヌ』と呼ぶ気だったのは、突拍子のないことだな。

「ところでハル。つかぬ事を聞くが…お前身長なんセンチ?」
「俺は、最後に計ったときは150センチだったが…」

12歳の全国平均は152.3センチという統計から見ると、俺はそれよりも小さい。小学校の背の順では、一番前ということはなかったが。

「マジで?じゃあ、俺のほうが1センチ高いぜ!!」
は151センチなのか?」
「そう!あ〜よかった。俺より小さいやつがいて!俺の小学校さ、みんな身長高くて、俺が背の順一番前だったんだよ。ああ…よかった。俺より小さいやつがいて。これで中学校では一番前に立たなくてすむ!」

なんというか…ムカつくな。

「小さい小さいって、俺と1センチしか違わないわけだろ?だったら成長期の今、その程度の違いは三ヶ月もすれば変化が現れると思うのだが」
「小さいもんは小さいの!それに俺だって今成長期だし、牛乳毎日飲んでるからでかくなるんだよ!」
「わからないさ。俺も牛乳を毎日飲んでるしね。…そうだ。俺と三年間でどっちが高くなってるか競争しないか?」
「競争?」

牛乳は、俺はこれから各社の成分を分析してどの牛乳が一番いいのか伸び比べてみるから効率よくいくだろう。しかも、ライバルがいると燃えるしね。

「負けたほうが勝ったほうの命令をひとつなんでも聞くっていう条件付。二ヶ月に一回、お互いの身長を報告しあう。俺が記録をとるから、嘘はつくなよ?」
「てか、俺やるなんて言ってないじゃん」
「俺に負けるのが怖いわけ?」
「…やったろうじゃん。負けて吼え面書くのはハルだぜ!」

よし。これでもし、二年生になってクラスが変わったとしても二ヶ月に一回は必ず と会えるわけだ。

「しかもハル!俺はお前をマブダチ一号に任命してやろう!しかもオプションとして今から俺とお前は
「『好敵手』と書いて『ライバル』と読む仲だ!!」
「?…それは、俗に言う親友というヤツか?」
「ちが〜う!マブダチ一号!」
「…要するに、正妻?」
「…正妻?…てか、愛人?」

おお、正妻の意味がわかったか。なかなかの博識だな。というか、愛人という言葉を中学生に上がったばかりの子供が知っていていいのか?…いや、衛生教育上駄目だろ。

「まともな言い方をすれば、親友ってことだな」

これが一番普通な表現だな。

「そう。ハルは俺の親友だ!きっと俺たち気が合うぜ!」

にっこりと俺に笑いかけてくる …そう、こいつを現すのは『太陽』。眩しくて、その気質は限りなく陽。

「…中学校生活が、楽しくなりそうだな、 ?」
「ああ。そうだな、ハル」

なにはともあれ、俺はなぜか の『親友』という位置を手にいれてしまったらしい。 というか、なぜ俺は の親友に任命されてしまったんだ?わからんな。
と友達になりたいと思ったやつは昨日の入学式に沢山いただろうに。まあ、 に気にいられたのは確かなようだ。…俺のどこを気にいったのか疑問だが。これからの交流で、 のことがもっとわかっていくだろう。


この日俺は、新たに『 観察丸秘ノート』を作成した。


備考
「グーテンモルゲン」とは、ドイツ語で「おはよう」という意味らしい。



■□■



新入生歓迎会。

それは上級生と新入生の顔合わせに他ならない…。
しかし、1400名もの新入生と、在学生2800名が一同に集い、一体なにをするというのか?



■□■



side:::::::: 俺


俺は、おれより1センチ背の低い乾貞治に話しかけた。たとえ1センチだろうが、俺のほうが高いんだ!

「なあ、ハル〜。今日って午後から二時間使って新入生歓迎会するんだって〜」

入学式から二日目。
昨日はハルとマブダチ&ライバル宣言をしたぜ!
身長に関しては、1センチ俺のほうが高いけど、こうやってお互い立って話してるとあんま目線が変わんないんだよな。どっこいどっこい。どんぐりの背比べ?うう…自分で言うとなんか悲しいな…。

「つかさぁ、まだクラスメートの名前すら覚えてないのに先輩たちと顔合わせとかしたって意味ねぇと思わない?」
「そうか?俺はもうクラスメートの名前覚えたぞ?」
「…お前おかしいよ」

二日で名前を全員分覚えられるものなのか、普通?

「顔と名前を一致させないと、あとで困るだろう?」
「いや…。困らんと思う。つか、顔と名前がもう誰が誰だかわかってんの?」
「ああ」

違うな。
単にこいつがおかしいだけだ。担任でさえ、まだ主席簿を見ながら話しかけているんだぞ?

「…すごいな」

俺なんか、はっきり言って、ハルと、小学校のときの同級生の名前ぐらいしか顔と名前が判別できてない。
小学校の同級生の名前と顔も微妙に一致してないやつも何人かいるし。やっぱ、友達は気の会うやつにかぎるよな〜。そりゃ、話しかけられたら話すよ?普通に。
でも、あるじゃん!こう、なんか初めて会った瞬間に感じる電撃!!みたいな。

ハルもそうだよ。
あの底の見えない眼鏡の鈍い輝きに俺の心は惹かれたね!ついでに、俺と身長がどっこいどっこいなのがいい!

「で?新入生歓迎会がどうかしたのか?」
「いや〜…。歓迎会ってどんな風にするのかなぁ〜って」
「…そんなの、実際行ってみればわかるじゃないか」
「ちぇっ。ロマンのわかんないヤツだなぁ〜」

そう!もしかしたら恋の出会いがあるかもしれないじゃないか!いいね〜中学校生活三日目にして、運命の出会い!

生まれる恋の嵐!
新入生歓迎会が楽しみだ!


午前の初めての授業のほとんどは自己紹介でつぶれた。毎日がこうだといいんだけどな〜。
でも、勉強道具をせっかく持ってきた意味がないじゃないか!!教科書っていうものは重たいんだ!わかってるのか、教師陣!使うなら使う!使わないんなら、前もって使わないって言え!…っていうか、別に俺はロッカーに置き勉するからいいけどね♪

さて、待ちに待ったお昼だ。

「ハル〜。お前、お弁当?学食?購買?どれ?」

今日は俺はお弁当だ。お母さん!早起き早起きして作ってくれてありがとう!今度購買にいってみよう。冬は学食で暖かいものが食べたいな〜。

「今日は、お弁当だよ」
「ふ〜ん。どうする?一緒に食べるか?別でもいいけど」
「俺もどっちでもいいよ」

あれ?なんか、お昼関係で誰かとなんかを話の途中でどうにかなったような?

「なあ。お昼関係で誰かとなんかを話の途中でどうにかなったような気がするんだけど、なんだと思う?」
「…わけがわからん。誰かとは誰だ?そこから考えろ」
「あっれ〜?なんだっけか?」
「俺に聞いても知るか。腹減ったんだけど早く食べたいんだけど?」
「あ、うん。俺も腹減った。食お」

俺の机の椅子を持ってきて、乾の席にくっつける。

「んじゃ、いただきま〜す☆」
「いただきます」

ちゃんと胸の前で手を合わせて、いただきますをしましょう!
さあ!
次は待ちに待った出会いの場、新入生歓迎会だ!



■□■



昼飯後、俺たちは各自自分の椅子を持ってぞろぞろと体育館に移動した。

あ〜…入学式のこともあって、体育館は俺にとっての記念すべき場所になりつつあるね。広いはずの体育館は、1〜3学年までの生徒が入ると狭く感じられた。

「ハル〜。なんか暑くない?」

学ランの襟元をパタパタさせて風を送り込む。
春の暖かいちょうどいい気温じゃなくて、体育館には夏みたいな熱気があった。

「そりゃそうだろう。人間は、何にもしてないときでも常に玉電球ほどの熱を発散しているんだ。これだけの人間が半密閉的な場所に集まったらそれだけ熱が内にこもり、暑い」
「ほ〜。物知りだな〜ハルは!」

なるほど。人間には熱があるんだもんな。そりゃそうだ。

ハルってば、実は頭いい?
眼鏡かけてるし、頭よさそうだよな。別に、眼鏡かけてるから頭いいとは限らないけど。見た目ね、見た目。
先輩方との顔合わせは、1年が前方2・3年が後方に座り、その境目のところで1年が後ろを向いて【ご対面】しただけで終わりだった。在学生の代表者が新入生を歓迎します。と、ただこれだけ言って終わり。
そして、2・3年は体育館から去っていった…。おい!一体どこが歓迎してんだよ!

「…つまんない」

一時間ぐらい、延々と中学校生活の諸注意だとか、勉強の仕方だとか、ノートのとり方だとか、高校の持ち上がり進学についてだとか、成績のつけ方についてだとかを教師が入れ替わり、立ち代り話している。それに関係するプリント類が沢山配られた。どうせ、家に帰れば燃えるごみと化すのに…。資源の無駄だね。

「では、次は生徒会のほうからの注意事項です」

中学校の生徒会か〜優等生の入るものだね。俺には縁がないものだ。生徒会とかって、頭いいヤツが入る気するよな〜。
または異様に先生受けがいいやつとか、高校外部推薦狙ってるヤツ。俺が入るわけじゃないから接点ないけど。
入学式と同じで眠くなってきたよ〜。


zzzzz〜・・・



■□■



「続きまして、新入生の交流時間にしたいと思います。各自いすを体育館の脇に寄せて下さい」
「おい。 。動くぞ。起きろ。」
「あぅ。なに?終わり?」
「いや、これからが本番らしい」
「うげ〜…。まじかよ〜」

マジ勘弁。これ以上なにするっていうの?

「え〜、今から名刺サイズの紙を五枚配りますのでその紙に自分の名前とか、プロフィールを書いてください」

回ってきた紙に名前と適当なことを書く。
俺は、横で書いてるハルのを参考にしながら名前、誕生日、血液、趣味。あ、あと携帯の番号とメアドを書いといた。ちなみに、筆記用具はハルから借りた。
すごいよ?
どこからともなく鉛筆が五本も出てくるだよ。俺のは真似できないね。つ〜か、ホント、どこに持ってたんだよ?体に刺さるんじゃないの?うわ、痛いね〜。

「はい。では、これから音楽をかけるんで、その間、その紙を誰かに渡してください。そのさい、自分のクラス以外の人にしてください」

え〜と、要するに、自分のクラス以外に友達を持て、とそういうことか。
つくづく思うんだけど、自分のクラスでも友達なんてちょっとしか作れてないのに、ほかのクラスに友達を作らそうとするのはどうかと思うよ、青学。まあ、とにかく、ここで俺は女の子と運命の出会いを果たすんだ!!
きっとそうに違いない!そうと判れば、いざ、出陣!

「ハル!俺は運命の出会いを果たしてくるぜ!短い間だったが、世話になったな」
「ああ、そう。いってらっしゃい」
「くぅ…!」

なんだ!?
その反応は!!もっとリアクションしろよ!さびしいじゃん!!俺たちマブダチだろ!

「ちくしょう!お前なんて捨ててやる〜」

ハルに背を向けて走り出す。コンセプトは、振られたダンナ。

「はいはい」

ひらひらと手を振るハル。
待っていろ!
俺の運命の相手!!



■□■



…びびっとさぁ、クルはずなんだよ?
これだけ女子がいれば、ひとりやふたり、クルはずでしょうが!ちくしょう!!騙された!!なんか知らんが、なん人かからは声を掛けられた。しかも、馴れ馴れしく名前呼び捨てで呼んできやがった。
…そういうやつはシカトしといた。
あと、見るからにお調子ものっぽいやつもシカト。てか、なんでよ?男ばっかだよ、声掛けてくるの?どうも女子は固まって行動をしているようだった。ほとんどが2、3人ずつで動いている。そういう女子たちの動きを目で追っていると、人ごみの隙間から外はねをした男と目が合った。
そいつは、大きな目をくりくりさせて

「いた〜!!」

と叫んだ。
は?なに?
なんで俺見て叫ぶの?

外はねは、新しい獲物を見つけた猫のように俺に向かってい直線で走ってきた!…なんだか、四本足で走っているかのようなスピードだよ。

怖!

なんかキタよ!!
俺は迫りクル猫もどきから逃げるべく、逃げた。

「あ!なんで逃げるんだよ〜。止まるにゃ〜」

…『にゃ?』
今、『にゃ』といったのか?やばい。きっとヤツは猫人間だ。百年生きた化け猫だ。つかまったら喰われる!!俺は必死の思いで人影に隠れた。

「えっと、どうかしたの?」

俺が盾にしたやつが話しかけてきた。
…眉毛が下がってる。しかも、太い!いいねぇ〜、太い眉!男らしいよ、お前!ちょっと、びびっとキタかな?一年の割には体格がよい。おかげで俺が後ろに隠れるんだけど。(…俺がちびだからとか、そういうのは抜きにしてね?)

「今は何も聞くな!黙って俺をかくまえ!」
「あ、うん。わかった」

大人しく彼は俺の言うことを聞いて背中を貸してくれた。イイやつだ。

「なんかよくわかんないけど、はい」

そういつは、後ろ手に何かを渡してきた。今の歓迎式の本来の目的、名刺だった。

「お、さんきゅー。俺のもやるよ」
「ありがとう。よかった〜。まだ誰にも渡してなかったんだよ」
「大丈夫。俺もだよ」

…女の子じゃなかったけど、男眉毛、河村隆をゲットした。

「よろしくな」
「よろしく…。えっと… ?」
「おう!!」

俺たちはさわやかに握手を交わした。おお!友情の青い春を感じるぜ!!

「見つけた〜!!」

ぎょっとして声のしたほうを見ると、またあいつ、猫人間だ!

「げっ!見つかった!またな、タカ!」
「今度こそ捕まえてやるにゃ〜!!」

再び俺と猫人間との追いかけっこが始まった。

名刺、残り四枚!!!


■□■



続くよ続く、線路は続くよ〜♪…いや、続かないでいいって!!

「なんで、俺を追いかけるんだ〜!?」

俺たちのデットヒートは続いていた。俺もあいつも、器用にひとを避けて走っている。…というか、なんで俺が逃げなきゃいかんのだ?

「うわッ!ごめん!」

俺は、生徒にぶつかってしまった。しかもスピードがついているものだから、相手は吹っ飛ばされてしりもちをついた。

「あ、なんだ。男か」

一瞬、髪が長かったから女の子かと思った。けど、手を貸そうとしたら学ラン着ているから男だとわかった。

「なに?女だったらなにかあるの?」

俺の指し伸びた手を掴んで立ち上がった。俺より、目線が上だった。
肩よりもちょっと短い明るい茶色の髪。目は開いているのかいないのか判別に苦しむ。でもなんか、笑っている?…んだと思う。よく見たら、美人だ。おう、クルね。美人さん。男に美人ってのは変かな?

「ほら、女の子だったらしりもちついたときにスカート捲れちゃうかもしれないだろ?

そんなの、かわいそうじゃん。その点、男だったら恥かかないしな。

「なるほどね…」
「おう。悪かったな。じゃ!」

俺はその場を離れようとした。だって、まだ追いかけっこは続いてるし。ほんのちょっとのこのタイムロスが命取りになりかねない!!…まあ、命なんか取り合ってないけど。

「不二〜!!捕まえて〜!!」
「おっけー、エージ」

がしっと腕の横から肩を掴まれた。なんだこいつら、名前よびあってるぞ?さては、仲間か!?

「くそう!騙された!」
「いやいや、誰も騙してないって」

俺は、悪の手先(?)に捕まった。

「にゃ〜ん。やっと捕まえた〜vv」
「あ〜、はいはい…」

俺の背後に抱きついてごーろごろと擦り寄ってくる猫人間はまさしく猫そのものだ。可愛いといえばかわいいが・・・。

「お前、なんなんだよ、ひとのこと追っかけまわしたがって」
「違うよ! が逃げたからいけないんにゃ!!友達になろ〜と思ったのに!」
「だって、お前が追いかけてきたじゃん」

うわ!しかもこいつ、いきなり呼び捨てじゃん!…俺も心の中では猫人間だなんていってるし、お互い様か。

が逃げたから!追いかけたの!」
「だって、急に追いかけてきたから怖かったんだよ!」
が悪いんにゃ〜!」
「あ〜、そこまでにしなよ、二人とも?そうしないと…怒るよ?」

な、なんだ、今の寒気は?
ぞぞ〜って、背中に氷が這ったような感覚は?猫人間も同じだったようだ。さぁ〜と顔を青くして美人のほうを窺ってる。…まさか、いまの寒気は美人から?にこにこと笑っている美人からは、そんな気配はしない。
…うん。きっときのせいだよな…。俺は空恐ろしいものを感じながら自分に言い聞かせた。

「はいコレ」
「あ、名刺。俺のもあげるよ〜」

二人はそれぞれ名刺を差し出してきた。

「俺のも、あげなきゃ駄目?」
「「もちろん(にゃ)」」

俺はため息をつきながら名刺を交換した。

「美人が不二周介。かたっぽは、菊丸英二ね」
「はじめまして、 くん」
「よろしくね〜、 ♪」
「じゃあ、周介、英二って呼ぶな。俺、友達は極力名前で呼ぶ主義だし。お前らはキタし」

俺は、にかっと二人に笑いかけた。
そうだよな。この二人は、どんな形にせよ、俺に『キタ』。


「…キタ?」
「なにそれ?」


あ〜、キタの意味はわからないか。


「ようするに、マブダチニ号三号ってこと!」
「二号三号って …」
「愛人とかじゃないんだから…」


あ、周介と英二が引いた。


「マブダチって認識した順だから。ちなみに、もう、一号の座は売約ずみだからな?」
「…光栄…なのかな?」
「なんかよくわからないけど、俺は の友達になったってことだにゃ?」
「そうそう。ただの友達じゃなくてマブダチな」

嬉しいな。こんなに、気が合いそうな面白そうなやつがいっぱいいるなんて。やっぱ俺、青学にして良かったよ!

「え〜。もうそろそろ、歓迎会を終わらせたいと思います。各自の名刺はすべて誰かに渡せましたか?では、各自椅子を持って、もとの場所に戻ってください」
「あれ?もう終わりだってよ」
「あ〜…俺たち、ずっと走り回ってたからね〜」

ずっと走ってたから、名刺、まだ二枚も残ってるよ…。

「じゃな」
「うん。またね、
「ばいばいにゃ〜」

周介が俺のことを名前で呼んだのは、ちょっと嬉しかった。笑ってるけど、周介ってなんとなくなに考えてるのかわからないし。…あの、妙な悪寒のこともあるし。



■□■



、どうだった?」
「ハル。ハルこそどうだったんだよ?」

座席を持ってハルのそばに行くと、ハルはぱっと五枚の名刺を広げた。

「有力そうな人間上位五名分はもらったつもりだ」
「…さいですか」
は?運命の出会いとやらはあったか?ずいぶんと追いかけられていたみたいだけど?」
「見てたのか?だったら助けろよ!」

この薄情者!マブダチが困ってんだから助けろよ!エージに追いかけられて、ホントに怖かったんだからな!

「…運命の出会いといえば出会いがあったけど、男ばっかり三人…」
「上々だな。…二枚あまったのなら、一枚くれないか?」
「いいよ。あ、俺もハルの欲しいな…って余ってないか?」

五枚手にいれたってことは、全部渡しちまったってことだよな?…じゃあ、余ってないか。

「じゃじゃーん。 のぶんはちゃんと取っておいたよ」

手品みたいにハルは、名刺を俺にくれた。

「うそ!マジ?やっぱお前は俺のマブダチだ!!」

嬉しいんだけど!ハルが俺のためにわざわざ取っといてくれたってことだろ?これが嬉しくないはずがない!

「俺のも、やるよ!」

俺はポケットから、名刺を取り出した。

あれ?
おかしい。二枚残っているはずなのに、でてきたのは一枚だけだ。

「ああ、ありがとう」

ハル一枚あげるだけだし、まあいいか。
たぶんエージと追いかけっこしているときにどこかに落としたんだろう。

以上。
新入生歓迎会、終了!



■□■



「…なんだ?」

手塚は、自分の椅子を列に並べると、椅子の足に何かが下敷きになっているのを見つけた。拾ってみると、いまの交流のために使われていた名刺だった。

 『1−11  

手塚に、 の最後の名刺は渡った。

名刺、残り0枚。



■□■

side::::::: 菊丸


!!今日から仮入部期間だって!!聞いた?」

俺は、朝のHRが終わるとすぐに のいる11組に向かった。 はめがねと一緒に窓で話していた。…確か、乾、立ったかにゃ?

「なんだよ?朝っぱらから来たと思ったらそんなことか」

に向かって飛びつく。 は俺よりも小さいから抱きつくのにもちょうど良い。いまいち反応の薄い 。なんだよ!オレがせっかく来たんだからもっとこう、嬉しそうにしてよ!

「でね、 どこの部活入るんだにゃ?」
「けっ。お前もハルと同じこと聞くんだな〜」
「うん。僕も知りたいよ」

あ、不二。やっぱり、不二も がどの部活に入りたいのか気になったんだ。だよね〜。 と同じ部活にはいりたいもんね〜。

「不二も来たの〜?」
「お前ら、みんな暇だな…。朝から俺なんかのトコ来て…」

あきれたように自分を囲む面々を見る 。ちがうよ〜。 だからオレたちが集まってるんだってば〜。 ってば、にぶいね。

「いいから!早く教えてよ!」
「ほら、 、不二も菊丸もこう言ってるぞ?お前はなに部に入るんだ?」
「じゃあ、俺のことはいいから、お前らはなにに入るんだよ!?」

なんで俺だけ…と言う風にちょっときつめの目で俺たちを見回す。にゃ、そうきたか…。オレと不二と乾は申し合わせたように互いの視線を交差させた。

「なにって…」
「そりゃあね」
「俺は…」

「「「テニス部にゃ(だ・よ)」」」

そろった!!
不二とそろうのはわかるけど、乾まで揃ったていうのはすごい。

「…はぁ?お前ら三人ともテニス部に入るの?なんで?」

あっけに取られた顔して は順々にオレたちの顔を眺めた。

「なんでって…、青学はテニスの名門だよ?小さいころから僕と菊丸はテニスやってたし」

そうそう。オレと不二は一緒にテニスやってたしね♪他に入りたいと思う部活もないし、名門のテニス部ってとこでレギュラー獲るのも楽しそうじゃん?

「青学って、テニスの名門なの…?…知らなかった」
「へ?嘘」

オレ、驚いちゃった。青学っていったら、テニスでめちゃ有名だし、入学したっていうのに、知らないやつのほうが珍しいと思うんだけど…。っていうか、オレでさえ知ってるのに〜。

…。お前はどうして青学に入ったんだ…?」
「えっと〜…近くてでかくて、綺麗だから」

当たり前じゃん?という感じにいう

「…それだけ?」
「それだけ…って、他に、なんか理由があるのか?」
に、なにか別の答えを求めた僕がバカだったよ…」

ふっと、窓の外に視線を向ける不二…。朝なのに黄昏ているよ…。

「…いま、俺のことバカにしたか?」
「いや。僕自身をバカにしたんだよ?」

ニコニコと不二スマイル。

「?…そうか。ならいいや」

〜。単純だよ〜(泣)きっとオレも、不二からしたらこんな風に扱われているんだろうな〜…。(遠いい目)

「さあ。俺たちの入る部活は言ったぞ?お前はどこに入るんだ?」

きらりとメガネを光らせて乾が言った。

「ん〜…じゃあ、テニス部でいいやvv」

やけにあっさりと は言った。いままで答えを渋っていたのはなんだったんだよ?

「マジ!?」

ほんとに?テニス部に入るの?部活一緒?うわ!!マジ嬉しいんだけど!

「ホントに? もテニス部はいるの?」

ほら!不二だっていつもより、笑顔のオーラが白いもん!乾は…………乾の表情は眼鏡で全然わかんないよ…。…目が見えないよ。

「じゃあ、この四人はみんなテニス部だな。しかし、 もそうなら早く言えばいいじゃないか」

う〜んと は唸った。

「だってさ〜、入るんだったら誰かと同じ部活に入ったほうが楽しいじゃん?で、俺自身は文化系以外だったらなんでも良かったんだけど、特に入りたいのがなかったんだよ。んで、今聞いたら三人とも同じだっていうし、だったら俺も同じでいいかなぁ〜って思って」
「それって、俺たちの誰かと一緒になりたかったってこと?」
「誰かっていうか、三人がばらばらだったらその中の部活から入るの選ぼうと思ってた」
「そうか。ならばちょうどよかったな」
「俺も悩まなくてすんだし、マジ楽でよかったよ…」
「じゃあ、今日から早速テニス部に行ってみようね?」
「は?今日からいくの?」
「そうだよん。早く行ったほうが早くなれることできるよ」
「そっか〜。よかったな、今日体育がある日で。なかったら俺行かなかったもん」

体操服があってよかった。もし、『ない』って言われても、誰かのを無理やり借りて に着せるけどねv

「英二!やっと見つけた!なにやってんだ?教室移動遅れるぞ?」
「あ〜、大石」

大石が俺の分の教科書と筆記用具を持って立っていた。

「次、英語だぞ?まったく。HR終わったと思ったらすぐに教室飛び出しちゃうし…」

やれやれとした表情で俺の教科書を渡してくれる。

「ごめん!大石!ありがとう!」

えへへ。大石ありがとうな〜。お前がいてくれてよかったよ!あ、そういえば、俺、大石がなに部に入りたいのか聞いてないや。

「ねぇ〜ねぇ〜。大石は部活なにはいるの?」
「俺?俺はテニス部に…」

急な話題転換にも契りに答えてくれる大石。

「うそ!!大石もテニス部!?」

びっくり仰天雨霰!

「うそとはなんだ!…も、ってことは英二もテニス部なのか?」
「うん!俺も も不二も乾もみんなテニス部!!」

大石が、オレの話していたみんなにペコリと頭を下げた。

「へ〜…。すごくねぇ?テニス部に入るやつがこんなに集まるなんて運命的だな?」

が嬉しそうに順々にオレたちを見た。

「俺、 。お前は?」
「俺は、大石秀一郎。よろしく、
「俺は乾貞治だ」
「よろしく」

なんか、自分と仲いいやつがみんな仲良くなるのって嬉しいな。

「じゃあ、ちょうどいいからこの五人で今日の仮入部に行こうか?」
「ああ!それいいな!大石も行くだろ?」
「行こうよ〜、大石♪」
「ああ、大丈夫だよ」
「わーい!」

大石の腕にぶら下がるオレ。

「でも今は、そんなことより早く行かないと…あ」

キ〜ンコ〜ン

「…これって、本鈴?」
「ああ、そうだ」

乾は自分の机に教科書を並べながら返した。

「…急ぐぞ!英二!!」
「じゃね〜! 、不二、乾!」

俺は大石に腕をつかまれ、慌てて走った。
もっと話していたかったけど、今日の放課後みんなで会えるし、ま、いっか!!
うきうきした気分のまま、オレは大石と走った。

「僕も急がなくちゃね…」
「なに悠長なこと言ってんだよ、周介!早く行けよ」

しっしっと手を払う。

「…冷たいね?」
「いやいや、学校に入ってすぐに劣等生のレッテルが張られるのはいただけないからな」

笑って はみんなに手を振って見送った



■□■



side::::::::俺


放課後。
センスの悪い青学のジャージに着替え、俺たちはテニス部へ!


「すげ!広いな〜?」
「ああ、都内の学校としてはこんなにコートがあるのは少ないほうだろうな」
「どこに行けばいいのかにゃ〜?」
「あれじゃない?」
「ああ。人がずいぶん集まってるなぁ」

俺は一年が取り囲んでるその人に近づいた。

「すいませ〜ん?仮入部ってここでいいんですか?」
「ん?ああ。ここだよ。ちょっと待ってな?今部長があっち行っちゃってて…」

困ったように奥のコートを指さす。

「ね! 打とうよ!」
ヤダ

間髪いれずに断る。
ヤダよ。だってお前ら経験者だろ?俺みたいな初心者がやったって相手になれるわけないじゃん。そう言ってやりたいけど、言ってやらない。言っちゃうと、なんか悔しい。つ〜か、せめて、『俺が教えてやるよ!』ぐらい言え。

「…そうだよね、英二なんかとじゃヤダよね?じゃあ僕と打とうよ?」
「む!なに言ってんだよ!俺が先に誘ったんだからな!」
「僕より弱いくせに、なに言ってんのさ?」
「…言ったな!じゃあ試合しようよ!勝ったほうが方が と打つんだにゃ!!」

あ〜はいはい。けんかするほど仲がいいってのは本当だな〜。俺は自分が人並み程度にならない限りはお前たちと打つ気はないんだがな…。

は初心者なんだろ?俺が教えてやろうか?」

大石が遠慮がちに言った。

「いいやつだな〜…大石は…」

てか、大石も経験者か〜…。あいつらに見習って欲しいくらいだ…。ハルは、勝手にコートで打ち合いを始めた二人を観察しながらノートに何か書いてるし…。

「ねぇ、君たちもテニス部にはいるの?」
「?おう!そうだけど?」

振り向くと、俺よりでかい男。

「ってか!!タカじゃんか!!」

歓迎会で俺をかくまってくれた、タカだよ!タカ!!うわ、あれから見たの今日が初めてだよ!

!奇遇だね、 もテニス部なの?」
「へぇ〜。タカもテニス部なのか?なんか俺の友達って、ことごとくテニス部だな〜…」
の友達もテニス部なの?」
「そうなんだよ、ハルだろ、菊丸だろ、不二だろ、大石だろ…。あ、タカも入れたら五人だぜ?」
「それは、すごいかも…」

指折り数えて俺は改めてすごいなぁと思った。俺の友達、全員がテニス部だ。…でも、なんか俺、こいつら以外とあまりしゃべったことがないような…?もしかして俺、友達少ない?

がぁぁ〜ん!!!
友達百人作ろうと思ってたのに!!駄目だ。明日から『友達作ろう大作戦』の開始だ…。

、知り合いか?」

ぶつぶつと俺は計画を練る。大石の呼びかけで現世に立ち返った。いかん。トリップしていた…。

「あ、大石。ごめん、こいつ、ええっと、河村隆…だったよな?」 

ヤバイ、ちょっとタカの名前忘れてた。間違いてやしないかとタカの顔を見上げるが変化は無い。

「うん、そうだよ」

あ〜良かった…。俺はほっと胸をなでおろした。
人の名前を覚えるのは、言っちゃ悪いがちょっと苦手だ。皆同じ顔に見えるんだよな〜。あ、でも、今んとこの五人は個性的(髪型)だから覚えやすい。みんなこんな風にわかりやすい髪形だといいのになぁ〜。

「俺は大石秀一郎だ」

トントンの肩を叩かれた。

「ん?」
「やっぱり、 くんでしたか」
「あ〜!!大和先輩!!」

テニスラケットを手に、大和先輩がいた。

「なんだお前、部長と知り合いなのか?」
「は?部長って…大和先輩が?」

テニス部員の驚いた顔に、俺はまじまじと大和先輩を見た。

「ええ。ボクはテニス部の部長をしています。 君はテニス部に入るんですか?」
「そうっス。俺の友達はみんなテニス部に入るっていってるし、俺、特にはいりたい部がなかったから…」
君なら歓迎ですよ」

いや、ホント!ここまで俺の知り合いだらけだと、もう運命を感じちゃうね!!

「大和…?」
「どうした?大石」

不思議そうに大和先輩を見ながら大石が首を捻った。

「大和部長って、生徒会長してませんでしたっけ?」
「えええ!?大和先輩、そんなのしてんですか?」

そんなの初耳だ!

「『えええ!?』とはなんですか?ボクが会長していたらおかしいですか?」

いえいえ、おかしくはないけど、けど…。

「だって、屋上を私物化しているような…もご!」
くん?そういうことは言わないお約束ですよね?」

俺の口を塞ぐ先輩。にこにこ柔和に笑っているが…、苦しい!激しくうなずくと、大和先輩はやっと口から手を放してくれた。

「はぁ〜はぁ〜…」

うう。酷いっス…。

「ああ、そうだ。手塚くんを紹介しましょう」
「手塚?」

手塚って、手塚治?って、違うか。あ〜…。アトムが欲しい…。

「手塚くん!ちょっとこっちに来てください」
「…はい、なんでしょうか?」

大和先輩が奥のコートへ手招きすると、インテリ眼鏡がすぐに走りよって来た。

「こちらは、手塚くんです。で、こっちは くん」
…?」

手塚、と紹介されたやつに眉間にしわが寄った。わっかいんだから皺なんか寄せるなよ〜…。せっかくのいい男がだいなしだ。

「…下の名前は か?」
「ああ、そうだけど…。なんで知ってんの?」

なんでだ?俺、こんなやつ見たことないけど…?

「こないだの歓迎会で名刺を拾ったんだ」
「まじ?お前が拾ってくれたのか?へ〜…偶然だね〜。手塚もテニス部なのか?」
「ああ。名刺、俺の机に乗ってるが、返した方がいいか?」
「いや、いいよ。変わりに今度手塚の携帯とメアド教えてくれれば!!」

友達げ〜とっ!
と単純に喜んだ俺だった。

…これから何日もしないうちに、俺はコイツラ新しい仲間たちの最強ぶりを知ることとなるのは先のお話。





強制的にthe end 続きません。三年全員出せたからいちお満足して終わりました。


02 太陽少年 番外


side・・・越前



「あーーー!もう嫌だもう嫌だ…!!猛レッツに俺は熱いぞーーー!!」


先輩が叫んだ。
…余計に熱くなった気がする…。

先輩はかったるそうにラケットを振って自分を仰いでいる。
…そんなことしたって、風が来るわけないじゃん。ラケットのガットの面はすかすかなんだからさ。

「にゃー! 、暑いんだったらそのジャージ脱げばいいじゃんか!」

菊丸先輩は猫だから、どうやら暑さにだべっているようだ。いつもの軽快さがない。汗だくで、へろへろしながら 先輩に寄りかかった。

「…離れんかい、余計暑いわ!」
「そうだよ、離れなよ、英二」

…この暑さに、不二先輩はさわやかに笑ってる。その顔には汗一つ流れていない。(ような気がする)
先輩は長ジャージを上下着用している。そりゃあ、暑いに決まってるでしょ?それに… 先輩って仮にも青学三年のテニス部員なのに…度下手なんだよね…。なんで、あんなにレギュラーと仲がいいのか…。すげー謎。
まぁ、単純に一個人としての友人?って感じ。

「手塚国光ー!!俺はお前に休憩を要請するー!!」

暑さにか、どうも眉間にしわがいつもより寄ってる気がする部長に 先輩は指を突きつけた。

「… 。グランド三十週とここで素振り三百回どっちがいい?」
「…どっちも嫌です」

提示された二つに、 先輩は目を泳がせてすごすごと引き下がった。

。英二が言ったように、そのジャージ脱げばいいんじゃないかとオレは思うんだが…」

大石先輩が横から口を出した。もっともだ。

「…だからさー…脱ぐとさ、俺すごいじゃん?」

怒ったような顔して、 先輩は大石先輩を見た。

なんだ、ソレ?あれか、親父が持ってたエロビデオの題名に『アタシ、脱いだら凄いんですv』とか言う題名のがあったような覚えがあつけど…。そういうの…な、分けないよね。

「…ほう、何がすごいのかな?是非オレのデータに加えさせて欲しいものだな」
「…ハル…」

ゲッという感じで 先輩は乾先輩を見上げた。その身長差…10センチぐらいかな?あー… 先輩、不二先輩よりは僅差ででかいけど、乾先輩には全然及ばない。

「…てめぇは出てくんな!俺は今手塚と話してんだよ」
「…酷いな、オレと の仲じゃないか…?」
「知るかー!てめぇなんか裏切り者の癖にー!!なに食ったらそんなに育つんだよっ!?」

そうそう、これがおかしいと思うんだよね?桃ちゃん先輩から聞いた話だと、 先輩と乾先輩は桃ちゃん先輩がテニス部に入部したときはどっこいどっこいの背だったって言うんだよ。それが、急に乾先輩だけがすくすくと伸びて…。
現在の結果がこうらしい。

「… 、まだこれから部活続くよ?長ジャージ着てたら汗が沢山でてっちゃうし…脱水症状起こす前に、脱ぐか、水分補給したほうがいいと思うよ?」
「…タカさん!!」

河村先輩が差し出したボトルに、嬉しそうに 先輩は受け取ろうと…する前に、乾先輩が河村先輩の手かとって上へと掲げた。

「あーッ!?ハル、水返せ!」
「…と、 は言ってるけど?手塚?」
「… 、誰の許可で水を飲んでいいといった?」

腕を組んだ手塚部長が 先輩を見下ろしている。

「…インテリ眼鏡の体育会系って嫌いだ…」

ぼそっと 先輩が呟いた。…インテリ眼鏡の体育会系…。

「っぷ…」

げ。思わず噴出してしまった…。先輩たちの視線がオレに集まってくる。

「…越前?なにが可笑しかったのかな?」
「え…いや、別になんでもないッス」
「そう?」

不二先輩が笑顔で…まぁ、オレが笑った理由は分かってるんだろうケド聞いてきたので、帽子を目深に被りなおしてそれとなくかわす。

「越前…お前は俺の味方だよな?」
「はぁ?」

突然、 先輩に肩をつかまれて同意を求められる。

「いや…別にオレはそんなに暑くないんで…」
「…なんでだよ!?超暑いじゃん!!」
「だから、それは 先輩が長ジャージなんか着てるからだと思いますよ?」

…しかも、普通の学校指定のジャージ。ダサ…。

「クッ…そんなこと言われても、コレ脱いだら…!!」
「「「「「脱いだら?」」」」」

胸元をしぐさをする先輩に先輩たちが狙ってたのか!?と言うようなほどの連携の取れたツッコミを入れた。すごい…この人たちがこんなに一致団結してること見るの、オレ初めてかもしんない…。ちょっとオレが感動している間にも、 先輩には危機(?)が訪れていた。
ガバァと先輩たちの 先輩を囲む輪が収束し、 先輩の姿が外側からは見えなくなる。…ちょっと待ってよ、なんで手塚先輩も大石先輩も、河村先輩も加わってんの!?あんたら、そういうキャラじゃないでしょ!!??


「ちょ…や…んぁ」


変な声が聞こえた。
なんか変な声が聞こえた!!


「… 先輩、大丈夫かねー…」
「プシュー…大丈夫だろう」

…のんきだ。
この二年の先輩たちはのんきだ。今の声が聞こえなかったの!?明らかにあやし…。

「…越前、あのぐらいはいつものことだ」
「まぁ、慣れりゃー楽しいぜ?」

ぽんと肩を叩かれて応援された。

「なんだ…ソレ着てたのか…」
「驚かさないでよね」
「まだ ってば持ってたんだー?いつも着てればいいじゃーん!」
「…それを着てるってことは…忘れたのか?体操着」
「普通に言ってくれればよかったのに、余計な心配したじゃないか…」
「はぁ…良かった…」

上から順に、手塚、不二、菊丸、乾、大石、河村、先輩だった。安心したように息を吐いて、 先輩から離れた。輪の中心から、ズタボロになった 先輩が見える。


「……レギュラーユニホーム?」


長ジャージを剥ぎ取られた 先輩がきているのは、青と白の色が映える、青学テニス部においての一種の栄光。太陽の光に反射して、レギュラーユニホームが綺麗に光る。オレは目を細めながらそのユニホームを見た。

「なんで、 先輩がそんなん着てるんですか?」

青学レギュラーユニホームを着ている=強い。

…けど、オレ、校内試合に 先輩出てるの見たことない。ってことは、ユニホームを持ってるのはおかしい…っていうか、激弱だし…。

「…え…と貰ったから」

ほこりを払いながら 先輩は立ち上がって困った顔して頭をかく。

「…貰った?もらえるモンなんスか、ソレ」
「まぁ…っていうか、勘違いしてもらっちゃた困るけど、俺…激弱だから」
「そうだねー…激弱だよねー… のテニスは」

ふふふと笑いながら不二先輩。…この人、やっぱり良く分からないな…。

「…大体コレ、俺のじゃないしー。大和先輩のだしー…」


ぼそぼそ 先輩がなんか言ってたけど、オレをちらみした部長になんか言われる前にオレは素振りに戻った。


the end



03 不動の王



不動
彼は、不動の王なのだ。決して揺るぐことの無い。

…まったく動かずに。

ただ、見ているだけの。



「ちっス。久しぶりー?」
さん…!?」

校舎から校門に続く道、学ラン姿の さんが、オレたちに向かって手を振っている。いるはずのない人の突然の出現に、オレは一瞬目が点になる。

「…誰だ?」

橘さんが訝しげな表情をしてオレに聞いた。

「…あ。橘さん…知りませんでしたか?彼は、うちの学校の三年…テニス部の部長でした」
「なんだと?」

そう。
さんは、元の不動峰の部長。

「久しぶりです…。 さん、やっと大丈夫なんですか?結構酷いってオレ聞いたんですけど?…あ、それとももう残ってる時間が少ないから…?そうだな、 さんならそういうこといいそうだ」
「…オイ。深司、失礼なものいいだな?」

深司が さんに近づいてぶつくさ言っている。 さんは苦笑して深司の髪を撫でた。

「おお!髪の手触りがますます良くなってるな?」
「… さん、あんた、言いたいことはそれだけなんですか?」

髪に触られるのを嫌がる深司が、眉を顰めたままで払いのけようとはしない。好き嫌いが激しい深司が さんと話しているのを、橘さんは驚いたようにしている。
まぁ、深司はなにげに さんになついてたし。 さんも結構気に入ってたみたいだし?

さん」
「アキラ…そちらの方が今度の不動王?」
「不動王?」

橘さんがそれはなんだと、声を出す。

「…そんなあだ名が付いてたのは さんだけですよ!橘さんです。新しいオレたちの部長の…」

オレは、橘さんを さんの前に押し出した。

「…部長の、橘だ」
「…元前部長の だ」

さんは、橘さんに手を差し出した。気が付いた橘さんはその手を握り返した。オレが尊敬する二人が握手している姿は…なんだかこっちが感慨深かった。

さんと、橘さんは…同じ三年でいいんですよね?」

深司が さんの隣に立って聞いた。…ああ、なんか昔は良く見てたこの光景が…懐かしく感じる。あの頃、 さんは今のオレと同じ二年生だったのに。

オレは…どうだろう。
さんが居ない間、成長したか?

「ん?ごめん、留年したわ…」
「マジッですか!?じゃあ、オレらと同じ二年!?」

オレは驚いた。

「へぇ〜… さん、そうするとオレたちと同じ年に一緒に卒業するってこと?」
「…そうだよ?」

何時でも冷静な深司が、無表情に さんを見上げた。

「同い年なのか?」

橘さんが さんに訝しげな顔をして聞いた。

「そうだよ。本来なら三年…だけど、全く勉強がわかんないんだ…だから、落ちた」

照れ笑いなのか、頭を書きながら さんは言う。

「そりゃそうッスよ。 さん、どのくらい休学してたんですか?」
「…深司とアキラが入ってから…六ヶ月後に行ったから…七ヶ月ぐらいだっけな…?」
「そんなに?」

そうか…もう、そんなに経ってたのか…。 さんも、オレと同じように思ったのか、目を細めて懐かしいような目をした。

「…ねぇ…、 さん」
「なんだ?深司?」

ジィッと深司は さんを見上げる。

「…不動王は、もう直ったの?」

スッと、 さんの空気が変わる。研ぎ澄まされる。

「…ああ、いちおな」
「そっか…良かった…あー…ホント。オレたちのことには何の関心もないくせにさ、犬猫動物には優しいって、 さんなんかどっか変なんじゃないの?」

瞬間、深司の毒舌が発揮される。…いや、確かに基本的に さんはオレらに関心はないかもしれないけど…。お前、よくはっきり さんに面向かって言えるなぁ…。

「…んー…別に。人間は言葉が通じるし?犬猫とは種族が違うだろ?」

…軽く受け流す さんも、 さんだけど…。

「なぁ、 ?お前、またテニス部に戻るのか?」
「え?ああ…そうか」
「…そうですよ! さん、戻ってくるんですよね!?」

橘さんが言ったので、オレも一番肝心なこと思い出した。

そうだよな!
もう休学終わって、直ったんなら、テニス部に戻れるはずだよな!?

…唯一、在学部員の中で、オレたちより強かった さん。戻ってきてくれたら…嬉しい。それに、橘さんだって同じ学年…っていうか、年が同じ人がいたほうがなにかと気が置けないで楽なんじゃないか?
さんは考えるような素振りを見せた。

「…そう…だよな…」

さんは首を小さく振って、妙に小さな声で呟いた。

「… さん?」
「…でもさ、アキラ。すでにお前等にとっての不動王は新しく出来たろ?俺はほんとに動くの嫌いだからなぁ…。…部活に入部するんじゃなくて、遊びに行くだけの人ってのは駄目?」

…そう、だよな。この人、ちょっとやそっとで動くのが嫌いなの忘れてた…。そういう意味も込めての不動王。

「なに考えてるんですか…。駄目に決まってるでしょうが」

冷たく深司が咎める。
…だよなぁ…。きっと、長い間のぐーたら生活の味をしめてしまったんだろうなぁ…。

「…やっぱり?じゃあ、学校生活を始めてから考えるわ」
「あ、学校には何時から来るんですか?」
「明日…かな?今日はさ、俺が前使ってた教科者じゃ使えないヤツを貰いに来たんだよ。…なんで、学年が一つ違うと教科書まで変わるんだろうな…」
「じゃあさ、もしかしたら さんオレと同じクラスになるかも知れないの?」
「かもなぁ…」
「そっか…」

なるほど…その可能性があるわけか…。 さんと机並べて一緒に勉強するねぇ…あんま考えられないな…。

「橘、だっけ?お前って転校生、だよな?」
「ああ?」
「前の顧問、どうにかしたんだって?」
「ああ…お前は…」
「ふーん…いいけど。あの顧問馬鹿だもんな」

酷く冷たく さんは笑いながら言った。

ブオォン!
校門前で、バイクの吹かす音がする。

「あ、ごめん。アレ俺の連れだからもう行くな?また、明日学校でな、深司、アキラ、橘!」
「え!?」
「おいッ!?」
「あ〜…あ、行っちゃった…」

オレたちの三者三様の声にも耳を貸さず、 さんは走ってバイクの後ろに飛びのった。
さんがまたがると同時に、バイクは猛スピードで発進する。

「…なぁ、アキラ。 が『不動王』…ってどういう意味だ?」
「…それは、明日になればわかりますよ」

橘さんの問いには答えず、オレはオレの中で、過去の さんの映像が更新されたのを感じた。


そう。

明日からまた不動峰には不動の柱が帰ってくる。



■□■



「と、言うことで、知っているやつも多いと思うが今日からこのクラスの一員となる…」
です。適当によろしくお願いします」

担任の言葉を引き継いで、 は名前を言い、笑った。

咄嗟に、オレは後ろの席の内村を不意向いた。部活中はいつも被っている帽子を取っているので、その表情はすぐに見える。ぽかんと口を開けて を凝視している。

「あ、すごいなこのクラス。京介、雅也、辰徳の三人とも一緒なのか?」

目に留まった元テニス部後輩を見て、驚いたように目を開く。たまたま入ったクラスの中で、見知った顔を三つもみつければ当然の反応かもしれない。

「あーあー、テニス部同志の交流は後にして、今は先に席に座れ。 の席は…廊下側の一番後ろだ」
「そんなの見ればわかりますって。そこしか空いてないじゃないスか」

揚げ足を取られて苦い顔をした担任に、クラスの一同は楽しそうに笑った。簡単な連絡事項だけで、すぐにHRは終わった。森がすぐに机とお友達….ようするに、眠ろうとした 先輩に急いで近寄って行った。

先輩…」

躊躇いがちに、声をかけている。

「あぁ?…ああ、辰徳か…?」

折角眠ろうとしたところを起こされて、不機嫌に答えるが、森だとわかると机から身を起こした。

(…ほんとに、 先輩だ…)

目の合った内村に頷いて、オレも 先輩に近づいた。

「あの…どうして、うちのクラスに?」

聞いてるこっちがなに聞いてるんだ?と思う馬鹿な質問を森は さんに聞いていた。

「どうしてって…俺は転入生?…いや、ちょっと違うか…学校復帰生?だから…」
「それって…留年したってことですか?」

横からオレは口を挟んだ。

「雅也…うん、その通りだ」
「んなあっさりと言わないで下さいよ…」

オレは脱力した。
オレと並ぶように、内村も控えめながら隣に立って 先輩を見ていた。自分から話せよ、内村…バタバタと廊下側から音がした。

さん!!」
「…」

入ってきたのは伊武と神尾だった。だろうな、とオレは思ってたからなんとも思わない。

「…こっちのクラスだったんですね…」
「あーあ、楽しみにしてたのに…クラス違うのかぁ…っていうか、こっちに三人も集まってるのってなんかずるいなぁ…」

ぼやく伊武に苦笑して、 先輩は手を伸ばす。

「おいで、深司」

隣で、内村がクッと唇をかみ締めた。

ああ…出たよ。
内村の伊武に対する嫉妬が…まぁ、 先輩も伊武の髪(?)を撫でるの好きだからなぁ…。
伊武も黙ってれば・・・ほんっとうに黙ってれば、かなりの美少年だし…。 先輩も、野性味の中に怠惰な雰囲気があるというなんというか、不良的にカッコいい人だし…。

…お似合い?

いや、違うだろ、自分!道徳的に男同士はいかんだろう…。そんなことより内村だ。

「あの、 先輩!」
「うん?」

猫にするみたいに伊武の髪をすいていた先輩がオレを向く。

「一時間目、移動教室なんですよ」
「へぇ、どこに?」
「音楽です…」

移動するためには、そろそろ教室から出なければならない。今も、皆が移動し始めてて教室の中から人が少なくなっている。

「そうなの?京介?」
「はい…そうッス」

内村は俯きがちに答えた。…もうちょい、会話を続けろよ!面倒くさそうに 先輩は立ち上がった。

「じゃあ、行かなきゃな…あ、神尾お前はクラスどこ?」
「隣です。あ、深司も一緒なんで、体育の時は合同ッスよ」

二クラス分は合同で体育が行われる。

「そっか…今日って体育あるの?辰則?」
「あッはい、三時間目に…」

思い出すようにして森が応じる。
途端、眉間に皺を寄せた 先輩に、伊武が聞いた。

「どうしたの、 さん?」
「…俺、体操着なんて持ってきてないよ?」

…なかなか前途難に多難に 先輩の再復活が始まりそうだった…。



the end
内村が好きだ!(何度でも言うぞ!)