月は雲を隠した



そんなにも、許せないのか、オレたちが?

「オレはナルトのことが好きですから」
「…は?」

任務の帰り、待ち構えていたシカマルの唐突な話の切り出し方にカカシは間抜けな声をだした。



■□■


いくら自分の受け持つ部下の下忍だとしても、里内での簡単な任務はカカシにはこの上なく退屈なものだ。何年もの間常に暗部として闇の仕事を請け負ってきた自分にはあくびが出るほど平和な光景だ。退屈すぎて…いやになる。彼等下忍には間が掛かるものでも、自分がちょっと本気を出せば一瞬で終わってしまうものばかりだ。それをいちいち下忍たちが実力で解決するまで我慢強くまってなくてはならないなんて。横から口とついでに手も出して、さっさと解決してやりたくなることもしばしばだ。

(いや…それ以上にオレはムカついているんだ…)

目の端に嫌でも入ってくる金色の髪に。何が楽しいのか分からないが、いつも大声で周りの気を引くように話す子供に。…自覚があった。火影に命令され、いやいやで引き受けたうずまきナルトのことを自分は"嫌い"であるという自覚が。見ているとイライラして、誰かと楽しそうに話しているとムカムカする。お前に、そんなに笑顔で笑っている権利なんてないのに。お前が笑えば、土の下で眠る九尾の犠牲者が怨嗟の言葉を吐くだろう。

「…ね、ナルト?オレと付きあおっか?」
「…!」

冗談のつもりのからかいに、ナルトは大きく目を開いた。そのとき、一瞬ナルトの目が冷静になったようだったがすぐに恥ずかしそうにボッと顔が真っ赤になった。

「…ッ」

言葉無く、小さく頷くナルトを、カカシは腕を伸ばして抱きしめた。自分の肌に、ナルトの柔らかい白い肌が触れて気持ち悪さに鳥肌が立ちそうになる。それを意思の力で押さえ込む。ナルトの細い肩に顎を乗せて、カカシは小さくナルトの耳に呟いた。

「……アイシテルヨ?」

今すぐ、殺したいくらいに。

「うん。オレも」

カカシには見えない。同じようにカカシの肩に顎を乗せたナルトが冷たく微笑したことに。



■□■


嫌いなんだから、仕方ないだろう?

お互いさまだよね?

「ナルト…本当か?」
「…なにが?」

ぽりぽりと腹ばいになりながらクッキーをかじるナルト。クッキーのカスがこぼれないように慎重に口の中に放り込んでいる。なぜなら、あとあと掃除するのが面倒くさいからだ。ここは隊長クラス以上の機密の人間にあてがわれる特別待機室だった。そのなかでナルトはのんびりとしていた。

「お前が、カカシと付き合い始めたって…」
「ああ…もう、シカマルの耳に入ったのか?」

早いなぁとナルトは呟きながら、そうでもないかと思い直す。シカマルの所属する暗部は情報解析特殊部隊。あらゆる情報…それこそ、信憑性の無い噂すらもいちはやく解部のもとへと集まって行く。どんなささいな情報でも、忍びにとっては命すら左右するものに成りかねないのだ。

「どうなんだよ?」
「…んー。答えはイエスかな」

笑って言うナルトに、シカマルはため息を吐いた。このナルトの笑い…これはろくでもないことを考えているに違いない。ナルトはカカシのことが嫌いだ。そのことをシカマルハよく知っている。火影の命を受けて監視者をしているということを差し引いても嫌いだということを。理由は…昔、シカマルと出会う前に組んでいた相手との仕事帰りにたまたま遭遇したことがあるらしい。その時のカカシから発せられた血によったもの独特の狂気が気に食わなかったのだという。尚且つ、舐めるように全身を見られて気持ち悪さに全身が総毛だったらしい。…カカシが実際に任務をしている姿を見たことはないが、ナルトが言うのならばよっぽどの姿だったのだろう。普段飄々としてのんびりしているカカシだが、暗部としての実力は折り紙付だ。それが少々問題のあるものでも、里の力として手放すことはないだろう。

「…あんまり、深入りするなよ」
「もちろん。つかさ、今日カカシ抱きしめられたんだけど、カカシってば全身に鳥肌立ててやんの」

クスクスとナルトは面白そうに笑った。

(そんなにオレのことが嫌いなんなら馬鹿なことを言い出さなきゃいいのに…) 

付き合おうだなんて突然に言われて、ナルトはかなり驚いた。カカシが自分を九尾として嫌っていることなんか百も承知だったし、同じ班であるサスケは…どうやら、カカシに好意を寄せているようだった。どうやら、波の国でのザブザ戦で「お前たちはオレが守る」との言葉にくらっと来たらしい。それが本当に恋心なのか、ただの尊敬の心なのかナルトには分からないが、とにかく、サスケがカカシに好意を持っているというのは確かなことだ。カカシの目は愛の告白をするような目では断じてなかった。監察するような冷たい目。だから、ナルトも一瞬で照れた"ナルト"の演技へと切り替わることが出来た。

「ナルト。分かってると思うが、満月の日は会うなよ?お前にとっても、カカシにとっても…」

心配そうに言ってくるシカマルに、暖かい思いを抱きながらナルトは素直に頷いた。シカマルだけだ。きっと、本当にナルトを損得抜きで見てくれているのは。火影だって…いざとなったら九尾としてナルトを切り捨てるのだ。それが里全体のためならば。だけど、シカマルはナルト自身のことを見てくれている。だからナルトは傍らに膝を付いたシカマルの腕をひぱった。

「オイ!」
「…分かってるよ」

力いっぱい惹かれて、シカマルは体勢を崩してナルトの上に覆いかぶさるように倒れた。シカマルは、ナルトの身体を押しつぶさないように慌てて腕でナルトと自分の身体の間に隙間を作る。

「シカマル大好きだよ」

間近に見るナルトの柔らかな表情にシカマルはドキりとしながらも、ナルトの言葉にやさしい笑みを零した。

「オレも好きだぜ」

大事なものを愛しむ、一人の男の表情だった。ナルトは目を閉じた。シカマルもその意味が分からないほどの朴念頭のわけではない。そっと、ナルトの桜色の唇にキスを落とす。情欲とはかけ離れたこれは…そう、一つの儀式。天才として人とは違う故に異端であるシカマルと、人ではないものを抱き込む異質であるナルトの。絆の、儀式。

「…分かってると思うが、辛くなったら間違えずにオレのところに来い」
「ああ…オレに触れてイイのはシカマルだけだから…」

本当にすきなのは、シカマルだけだから…。吐息が耳に掛かるほどの至近距離で言われて、ナルトはくすぐったくなりながらも笑った。
シカマルとナルトの関係は…二人だけが知っていればいい。


■□■


完璧だろ?
オレの演技は?

少しは見習えってば?

「ナルトーv今日うちに来ない?」
「エッ?…今日はオレ、イルカ先生のところに行く約束してるんだってばよ」

カカシは今までのナルトへの無関心振りが嘘のようにナルトに構い倒して甘やかした。急なその変化に、サクラは驚き、サスケは顔を顰めた。その小さな不協和音にナルトは一人心の中で嘲笑する。

「酷いよ!オレ、ナルトの恋人なのに、恋人よりイルカセンセーをナルトは取るの?」
「…当然だてってばよ!イルカセンセーの夕飯は美味しいんだってばよ!」
「そんなぁ…」

ナルトの言葉に途端にうじうじするカカシの姿は、近くで見ているサクラにしてみればただの漫才のようにしか見えない。カカシのナルトに対する行動は変わった。けれど、ナルトのカカシに対する姿は以前と全く変わっていないようにサクラには思えた。ナルトにうちに来るようにと必死で説得をするカカシの情けない姿を見ながら、サクラは隣のサスケの姿を盗み見た。サスケは強張った表情でカカシとナルトのいちゃつきを見ている。

(サスケ君…)

サクラは、いたたまれない思いで胸で呟いた。サスケを好きなサクラは、サスケが目で追っている相手のことは比較的早くに気が付いていた。ナルトは…果たしてこのことを知っていたのかは分からない。鈍感なナルトは、サスケがカカシのことが好きだったとは露ほど考えていないかもしれない。…だから、そんな無邪気に笑うナルトが少し憎たらしかった。もちろん、サスケのことが好きな自分は、サスケと結ばれたいと思っている。だけれど、こんな風に辛そうにカカシとナルトを見ているサスケは元気がなくサクラは辛くなった。

「…分かったってばよ…」
「分かってくれたの!ナルト!じゃ、今日はうちに…」
「明日!!明日は、カカシせんせーんちに行ってあげるってば!」
「えー…」

それがナルトの精一杯の譲歩、とでもいうようにナルトはカカシを遮って声を上げた。カカシはしばらく考え込む風にしていたが、やがて肩を落としてしぶしぶ明日ということで了承した。

「イルカせんせー!いるー?」

任務の後、ナルトはドンドンとイルカの自宅のドアを叩いた。中からイルカの気配はしている。

「?イルカせんせー?」

ナルトはなおも叩いた。中のイルカの気配はナルトの叩くドアへと集中しているのだがイルカは出てくる様子がない。どうやら、居留守を使う気らしい。

(あーあ…イルカせんせーに嫌われちゃたかな?)

今日は別段イルカと会う約束は無かった。カカシの誘いを断れればそれでよかったのだ。目はまったく残念がっていないくせに残念そうにするカカシの下手な演技を馬鹿にしていた。
カカシは暗殺を得意とする忍者だ。顔を見られずに一瞬にして背後から殺す。そのために目と目を合わせての駆け引きはそんなに上手くない。

(だからって…オレをドベだかなんだか思ってるのか知らないけど、それなりに目の感情を操ってみせろよ…)

ナルト如きに気が付かれないと思っているのか、カカシは頻繁に本心からの感情を目に浮かべすぎている。なんというか…冷静さと通り越した熱すぎる目?

(まぁ、そのほうが分かりやすいからいいけどね…)

「あーあ…イルカセンセーいないんだ…折角御飯食べに来たっていうのに〜!」

残念そうに、中にいるだろうイルカに聞こえるような声で言ってナルトはイルカの玄関に背を向けた。イルカは…なにがどうしてどうなっているのか知らないが、どうやらカカシと関係があったらしい。俗にいう、"大人の関係"。愛とかじゃなくて、傷の舐めあいみたいな身体だけの関係。そこでの睦言は、ただ快感を増すためだけの偽りの愛の言葉。そういう割り切った関係なはずなのに、イルカは本気でカカシに惚れてしまったらしい。まぁ…里の中でもビジュアルはNO.1であるカカシの外見と言葉にふらふら〜となってしまったのだろう。サスケみたいに。

「クッ…」

おかしくて、ナルトは喉で笑った。あんな男のどこがいいのか…?
ナルトにはさっぱり分からなかった。


■□■


あー…つまらない。
もっとドキドキさせてよ?
お前とオレの駆け引きを楽しませてよ?

その日はたまたま満月だった。

(まずい…)

ナルトは思った。今日が満月だということを忘れていたわけではない。カカシのうちに来たのはいいが、ご飯を食べて世間話をしてすぐに帰るつもりだったのだ。カカシも本心では長いこと二人っきりでナルトといたいわけでは無いだろう。出来ればそうそうに帰って欲しいはずだ。憎い九尾を家にまで上げるとは…カカシが何を考えているのかいまいちよくわからない。

「…っと、もうこんな時間?オレ、もう帰るってばよ!」

ちらりとカカシの部屋の時計を見上げると、すでに時間は十一時。よい子良いこのナルトとしてはもう帰りたい時間だった。

「…なんで?」
「なんでって…明日も任務あるんでしょ?だったら、オレ早く帰って眠りたいってばよ」

わざとらしく眠そうにあくびをしながらナルトは言った。

「だったら泊まっていけば?」
「え…いいってば」

慌ててナルトは首を振った。ここで引き止められるとは思わなかった。ナルトの予想だと「そう?だったら送ってくよ?」と返事をされるはずだったのだ。

「…えっと、ほら。今日お泊りセット持ってきてないし?」
「オレの服を貸してあげるよ?」

なんだかじりじりと迫ってくるカカシ。ナルトもじりじりと後退していく。

「…ネェ?ナルト…?」

甘ったるく声をだして、カカシは真剣な表情をしてにじり寄ってくる。

「カカシせんせー?」

真剣なカカシの顔に不思議な思いを抱きながら、ナルトは愛想笑いをした。トンっと軽い音を立てて背中に壁が当たった。まずい。後ろに逃げ場がなくなった。さらにナルトの逃げ場を無くすように、カカシは両腕ナルトの頭の横から壁につける。逃がさないようにと、左右への逃げ場をなくした。

(ちょっと待て…どうする気だ?)

「カ、カカシせんせー?」

不安そうに名前を呼んでみる。

「ネェ、ナルト。なんで、何も言ってこないの?」
「…?なんのことだってば?」

なにかの激情に揺れているカカシの目を見ながら、本当になんのことを言っているのか分からなくてナルトは首を捻った。

「…見てたデショ?オレが女と一緒にいたとこ?」

そこまで言われて、やっとナルトはカカシがなんのことを言っているのかわかった。昨日、イルカの家から帰りにカカシを見かけたのだ。しかも、街の裏路地で盛りの付いた獣みたいに女と交わっているカカシを。女だろうが男だろうが、カカシが誰とヤろうと勝手だがなにも不特定多数に見られる可能性のある裏路地なんてところでヤる必要はないだろう。聞こえてくる嬌声に、気分が悪くなった。
だから、何も言わずにさっさとその場から離れた。人の濡れ場を覗きたいとは思わない。

「…だから?なんだってばよ?」
「どうしてなんにも聞かないの?」
「…別に…オレとカカシせんせーってそういう仲じゃないでしょう?」

実際、カカシとナルトには身体の関係はない。ナルトが子供っぽさを前面に出して、穢れを知らぬ純真無垢さを装ている。そういう雰囲気になったら、天然っぽさでそれとなくかわしていた。

「仕方ないってばよ?オレはまだまだ子供だし…センセーはちゃんとした男だし、我慢できなくなるのは仕方ないってオレ、ちゃんと分かってるってばよ?」

オレってば、聞き分けがいいでしょ?と、ニシシと笑って見せても、カカシの表情は変わらない。

「…ナルト、オレのこと、好き?」
「なにを今頃言ってるんだってば?」

一度だって、ナルトから好きだと言ったことはない。『オレも…』と答えることはあっても、はっきりと『好き』とは言ったことはなかった。

「…ナルトさ、なんでオレと付き合ってるの?」
「じゃあ、なんでカカシせんせーはオレと付き合ってるの?」

同じ質問をそのまま返してやる。カカシは黙りこくった。ほら、答えられないだろ?本当のことが言えないんだよ、『ナルトが嫌いだから弄んで捨てるため』ってね?ナルトは内心でため息をついた。もういいや…、と投げやりなことを考える。

「…もうイイよ。もっとカカシセンセーと付き合ったら楽しいかと思ったけど、そうでもなかった」
「…ナルト?」

やけにあっさりとしたナルトの口調にカカシは不思議そうにした。

「だからさ、センセー?」

そうだ。それがいい。もっとスリルがあって楽しいかと思っていたのに…どんな手を使って、オレのことを追い詰めようとしているのか…ちょっと楽しみだったのに。詰まらない。だから。

「別れよ?」

にっこりと笑ってナルトはカカシに告げた。


■□■


しつこい男は嫌われるって。
それ、当たり前ジャン?

「ふざけるな!」

ナルトの別れ話に、カカシは激昂したように声を荒げた。ナルトはきょとんとしカカシを見返した。
どうして、そんなに感情を高ぶらせるのだろうか?
(…あ、もしかして別れ話はカカシから持ち出して、オレが泣いて引き止めるようなことを望んでたとか?)

それはありえることだった。どうやらカカシはナルトがカカシのことを好きだと思っているようだった。そこで、カカシから告白して甘い夢を見せて手ひどく自分を振るつもりだったのだかもしれない。だったら、もうちょっとカカシと恋人ごっこをして遊んでても良かったかもしれない。カカシに別れ話を切り出されたときに、笑って「バイバイv」って言ってやるとか。…でも、それまでの過程が長そうだ。そんなに悠長にカカシと遊んでいるほどナルトは暇ではない。

「…ごめんね?カカシせんせ?」
「…お前は…人をなんだと思ってるんだ…?」

唸るように、カカシは血走った目でナルトを見下ろした。壁についていた手が、ナルトの肩にかかり、指が食い込むほどの力を込められる。

「い、痛いってばよセンセー!」
「お前は…どうしていつもさも、『自分は綺麗です』って顔してるの?…気に食わないよ。気に入らない…!!オレだけが…こんなにもナルトを想っているのに!!!」
「センセッ!?」

ヤバイ。カカシの目が座ってる!!カカシは押さえていた感情があふれ出したかのようだ。ナルトは肩置かれた手に、本気で痛みを覚えながらも急に態度が急変したカカシを宥めようとした。このままナルトの力で跳ね返すことも可能だが…本性をバラスつもりは毛頭ない。

「センセ、ごめん。ほら落ち着いてってば?」
「…汚してやる」
「え…?」

は?とナルトが思った瞬間世界が廻った。次に瞬きをしたとき、ナルトの目は天井を見ていた。

(…ちょっと待て!この体勢は…まさかッ!?)

「ナルト・・・」
「やっ!カカシセンセー何するんだってば!!」

"ナルト"の演技を続けながらも、ナルトはぐるぐると考えていた。

(まさか…まさか、カカシの野郎、オレを抱こうとしているのか?カカシの分際で?…っていうか、鳥肌を立てるぐらい嫌いな相手を抱けるのか?嘘だろ!?マジかよ!?)

ナルトはカカシを甘く見ていた。最初のとき、抱きしめただけで鳥肌を立てていたカカシだ。まかり間違っても…そんな相手を進んで抱くようなことはしないだろうと踏んでいたのだ。それが今、どこをトチ狂ったのかカカシはナルトを抱こうとしていた。

(おいおいおいおい!冗談じゃねーって!!)

「ナルト…お前が汚れたら、きっと皆が喜ぶよ?」
「はぁ?何言って…!?ひゃッ!」

カカシはナルトの両の腕を片手で拘束して、ナルトの首筋に舌を這わせた。ぬるりとした生暖かい感触が気持ち悪くて、ナルトは一気に鳥肌を立てた。快感もなにもへったくれもあったもんじゃない。ただただ気持ちが悪い。

「…アイシテルよ?ナルト?」
「…馬鹿言ってんじゃねーよ!!」

うっとりとして呟くカカシを思いっきり睨みつけようとして顔を上げたナルトはハッとした。

カカシの背後の窓から覗く、黄金の満月。
雲の中から…姿を表す月。

ナルトは月を直視してしまった。

(イケナイ!!)

警鐘がガンガンと理性を震わす。月に蒼い色が引き込まれ、替わりに紅い色が取って変わる。

(…シカマル…!!!)

ナルトは声に出さず、胸の内で叫んだ。


■□■


触れるな。オレに触れるな…!!

汚らわしいッ!!!

身体を堅くして、腕を振り回してカカシから逃れようとナルトはもがく。カカシはいい加減いらいらして、大人しくさせるためにどこかを殴ってやろうかと考え始めた。だが、思ったと同時に、ブルリと一度大きく身体を震わして、唐突にナルトのがむしゃらな抵抗が止んだ。
なんだ、もう抵抗やめちゃうんだ?

カカシは抵抗を諦めたのかと思い、微かに口元を歪めるとさらにナルトの身体を撫でていった。服の隙間から手を差し入れてすべらかな肌をまさぐっていく。子供特有の女の肉体に劣らない、ふっくらとした肉。カカシは顔のマスクを降ろすと、壁に押し付けたナルトの首筋に顔をうずめ、きつく吸ったり舐めた。ぴちゃり、と湿った音が小さくした。シャツの中にもぐりこんでくるカカシの手が、胸の突起を探り当てる。小さなそれを摘んだり、捏ねているうちに序序に堅く反応を返してくる。

「触るな…」

うっとりとカカシナルトの皮膚を味わっていた。聞き取れないほどで囁くナルトの声は聞こえない。聞こえていたとしても目の前にあるナルトという美味しそうなものを食べるのに夢中である。ねっとりと耳たぶの裏を舐め上げる。
手に入るのだ。この憎くて憎くて堪らなくて、同時に殺したいほど愛しいものが。ナルトは堪えるように瞑っていた瞼をゆっくりと開いた。

天には月。
雲に隠されることのない、強大なる月。空の全体を紗にかけるように覆う雲が、月光にだけ払われる。そこだけが異次元のようにぽっかりと姿を表している月。卵の黄身だけを浮かべたような。黄金を溶かしたような。空から落ちて、自分を押しつぶすのではないかと錯覚するほどの魔力。
狂月。
人を狂わし、獣を歓喜させるムーン・シャイニング。
"紅い"瞳が輝く。



ああ、触るな…。赦しなく、触るな…。

オレに…

「オレに触れるなぁぁあああッッ!!!」

ナルトの怒気の篭もった一喝とともに、カカシの身体は後方に吹き飛ばされた。

「っ…!?」

背中をしたたか打ちつけながら、思わぬ反撃にカカシは正気に戻って顔をあげた。何が起こったのか、一瞬分からない。上忍である身が吹き飛ばされる衝撃?ナルトがか?女子供の力如きで、どうこうなるような体重でもないはずだ。一瞬にして夢から無理やり覚まされたようで、カカシはイラつきながらもナルトに呼びかけた。

「ナルト…?」

カカシは顔を上げた。窓から差し込む月明かりにキラキラと光の粒子が反射する。カカシは目を細めた。いつもは優しいはずの光が、目に差すように痛い。

「ナルト…?その姿は…?」

カカシは目とついでに口もあんぐりと見開いてナルトの姿に魅入った。

ナルトの姿は、十二歳の子供には見えなかった。平均の成人男性よりも少し下ほどの、青年の姿だった。絹糸のように細くさらさらとした金色の髪は腰まで伸びている。空のように、海のように同じ青でも深い色を湛えているはずの瞳はルビーのように赤く闇に浮かび上がる。月を見上げていた視線を降ろし、ナルトはカカシに向かい妖艶に目を細めた。桜色の唇からほろりと覗く、鋭い牙のような犬歯。いつもは足首まで隠すオレンジ色のズボンが膝の辺りまでしかなく、短パンとなっている。突然の変貌に呆気に取られたがナルトの誘うような微笑に、カカシはボーっとなった。

「…カカシ、センセ?」

ナルトはカカシに軽い足取りで近づき、細い白い蛇のような腕をカカシの首に回した。カカシの鼻腔を甘い香りがくすぐった。媚薬のような香りに、カカシは溜まらずそのままナルトを押し倒そうとした。
だが…

「!?」


蛇に睨まれた蛙…、金縛りに掛かったように体が動かなかった。悲しいかな、指一本が動かせない無様なその状態で男の証だけがギンギンに存在を主張してズボンを押し上げていて痛かった。
ナルトはふふふと笑いながら、情けない顔をしながらも欲情に燃えてギラギラした粘着質な目をしたカカシを挑発するようにぺろりと舌をチラつかせた。息が掛かるほど間近に顔を寄せたナルトの貌に見惚れながらも、カカシは頭の唯一正常に働いていると思われる場所で考えていた。おかしい。ナルトの瞳の色が…血のように、真っ赤だ。誘われるように覗き込んでしまった瞳は、禍々しく赤くつややかに塗れ、唇が人の生き血を吸ったかのように赤く動く。

「…悪い人にはお仕置きが必要だよね?」

毒毒しい唇が、楽しそうに言葉を紡いだ。ごくん、とカカシの喉がなる。はぁはぁと情けなく荒い息だけをせわしなく吐いた。盛りのついた十代のようだ。

「ナル…ト…」

甘く甘く掠れた声でカカシはナルトの名を呼んだ。ナルトは妖艶に微笑んでカカシのあらわになった唇に己が唇を寄せ…

…る寸前で止めた。

下腹の辺りを襲った衝撃にカカシは呻いた。息が苦しくなる。首を絞められたような酸欠状態に、カカシは朦朧となりながら薄い笑みを刷き続けるナルトを見ながら意識を失った。ナルトは感情の無い冷え冷えとした横顔を見せながら前のめりに倒れたカカシを一瞥さえしなかった。。

「…熱いな…」

嫌悪とは違う意味で、またナルトは身体を振るわせた。ほんのりと桜色に上気している頬。熱い切ない吐息を吐き、ナルトは窓枠に手を掛けた。

「……行かなきゃ…」

ナルトは窓から月の輝く空にふわりと飛び出した。


満月の周りには小さく存在を主張する、儚き星たち。


■□■


シカマルはボーっと空を眺めて思い出していた。ナルトが満ちた月の日に、本人の意思とは関係なく"変化"が訪れると知ったのは何時の頃だったのか。アカデミー時代…二年ぐらいの前の十月だった。その頃、シカマルはすでにナルトの仮面を知り、アカデミー内でのナルトの演技のフォローをそれとなくしていた。ナルトがどうして里内で疎まれているのか。シカマルは普段は眠っている脳を働かせて調べ、考えた。答えはひどくあっさりと導き出された。
ナルトには九尾の狐が封印されている。

大した驚きではなかった。ナルトの本当の性格を知ったときのほうが驚いた。見知っていたナルトとはギャップが激しすぎた。九尾が封印されていることを知ったからといって、シカマルはどうもなかった。ただ、恨みをナルトにぶつけるしかない里人が哀れになっただけだった。

ナルトとシカマルは親交を深めていった。シカマルはもともといい頭脳を活用して、ナルトの裏の仕事もたびたび手伝うようになった。父親のシカクも仕事の関係でナルトのことを知っているようで大いに賛成してくれていた。親父の方が先に素顔のナルトを知っていたと知った時にはもやもやとした思いが生まれたものだ。それがなんなのかは、その頃には分からなかったが…。親友と言っていいほどの仲になった二人だったが、一つだけシカマルには解せないことがあった。

月に一度。ナルトが絶対に捕まらないときがあるのだ。毎月必ず一日は休みを取るナルトを、最初のうちは一日中仕事が入ってしまって学校にこれないのかと思った。何度か「どうした?」と聞いたが、笑って「仕事だったんだ」といわれたのだが、シカマルはナルトが嘘をついていると看破した。ほんの一瞬だったが、ナルトは瞳を揺らしたのだ。やがてシカマルは一つの共通する符号を見つけた。ナルトが姿を見せない日は、必ず満月の日であるということを。
ある日、シカマルは満月の日にナルトの後を付けた。ナルトに追跡を悟られないように細心の注意と距離を取る。ナルトは里から離れた町に降りていった。

「ここって…」

シカマルはナルトが入って行った町に唖然とした。

町は町でも、そこは…色町。春をひさぐ女や色子がひしめく、快楽と享楽にまみれた町だった。子供が町に入れるわけがないので、シカマルは"変化の術"を使い、成年男子に姿を変えた。ナルトも変化で成年男子に姿を替えスタスタと歩いていった。どうしてこんなところにナルトが用があるのか?シカマルは不審に思いながらもナルトが暖簾を潜った建物を見上げた。間違うことなく、そこは女郎屋の一つだった。

シカマルはその女郎屋に入ることをせず、忍びらしく建物の屋根に上った。どの部屋かは分からないが客観的に見てもナルトは上物だ。ナルトが身体を売っているならば、ナルトがあげられる部屋は女郎屋の中でも上質な部屋だろう。シカマルは息を潜めて屋根を伝い、一つ一つの部屋を少しだけ障子を開けて確認しながら進んだ。
足元は月光のために明るい。丸々とした満月だ。ナルトの金色の髪を思い出す。

シカマルは別の部屋を開いた。

(!)


衝撃。
そのヒトコトにシカマルの心情全てが込められていた。薄暗い部屋の中にナルトの少し高い声が響いている。苦しそうな、けれど、艶を含んだ嬌声。女郎屋に入ったときから、ナルトが身体を売っているかもしれないと考えたが、考えるのと、実際に見るのとは大違いだ。


……次に気がついたとき、シカマルの手は血に濡れていた。

「…あ?あれ?どうしたんだ、こいつ?」

原型をとどめないほど顔が変形している男が布団の上に沈んでいる。畳みに飛び散った血の跡。鈍い痛みを訴えてくる己の拳に、たぶん、シカマル自身が殴ったのだろうと推測する。

「…ッ」

息を呑む音に、シカマルはやっと無意識に見ることを避けていたナルトに瞳を向けた。驚いたようにナルトが小刻みに唇を震わせてシカマルを見上げていた。闇目にも白い肌を情け程度にかき集めた着物で隠し、ナルトはおびえた目をして視線がかち合ったシカマルから目を逸らした。

何故、そんなことをしている?

湧き上がってくる叫びを押し殺し、シカマルはナルトに一歩近づいた。シカマルから逃げるように、ナルトも後すざりをする。

「ナルト…」
「…っァ」

低く掠れたシカマルの声に、ナルトは首をめぐらして必死に顔を背けた。

どうしてこんなところにシカマルがいるのだろうか?
どうして?
――見られた。最悪だ。
どうして?
――きっと、オレのことを呆れる。
どうして?

…なんで、シカマルが…。

「…ナルト、こっちを向け」

ぐいっと顎を掴まれて無理やり顔をシカマルに向けらされた。シカマルの指がナルトの顎を掴む。それだけの接触に、ナルトの意思ではどうにもならない身体の飢えが刺激される。
身体が勝手に熱くなる。唇をきつくかみながら熱をやり過ごそうとナルトは努力した。シカマルはナルトの様子がおかしいことに気がついたナルト自身は気がついていないのかも知れないが、そわそわと身体を揺らしている。

「ナルト…その瞳は?」

シカマルは淡々と聞いた。聞いたことのないシカマルの冷たい声にナルトは身を竦ませながらぎこちなく瞬きをした。ナルトの瞳は青。けれど、今のナルトの瞳は赤だった。

「…あ、これは…」

言いにくそうに、ナルトは歯切れの悪い口調で言葉を濁す。シカマルは冷静にナルトの様子を観察した。ナルトの身体からは、ナルトらしからなう淫靡な雰囲気が流されている。おかしい。

「……九尾か?」
「…」

ナルトは答えずに下を向いた。それが答えだった。ナルトは九尾の影響でこんな淫乱な身体になる自分が許せなく、涙が浮かんできた。もう駄目だ。こんな身体を知られてしまったら、きっと、シカマルに軽蔑される。折角出来た、相棒だったのに…。

「…辛いのか?」

しばらくの沈黙の後、降ってきた思わぬ優しさを含んだ声にはっとして顔を上げた。すると、シカマルの暖かい瞳が交差した。ナルトは安堵が襲ってきてしゃっくりをあげた。

「…だ、駄目なんだよ…。九尾は、満ち、なきゃ、いけないんだ。ヤラれ、なきゃ、治まんない…」
「…女相手じゃ駄目なのか?」

ナルトは首を横に振る。

「駄目、だ。でも、ヤんなきゃ、オレの、頭がおかしくなる…」

嫌でいやで堪らなくて、止めようと思ったことがあった。だが、それはナルトを発狂させるような拷問に等しかった。身体にぽっかりと空いた空洞が、荒れ狂い、欲しくて溜まらずに、身体のあちこちをかきむしり、最後には誰彼構わずに誑かして三日間の狂宴となってしまった。あの時の自分の精神状態、状況、どれを思い出してみても寒気がする。満月の晩の一日だけ。それだけを目を瞑って快楽に身を任せれば、それで終わる。

「…その姿は?変化なのか?」

これにもナルトは首を振る。満月が空に頂上に上る前後になると、勝手に姿が変化するのだという。シカマルは、そうか、と頷いた。ナルトは下を向いたまま自らの身体を抱きしめた。今この瞬間でも身体は荒れ狂う熱が支配している。息を大きく吸って、やり過ごそうとする。ふっ、とナルトに影が覆った。それはシカマルの腕だった。
シカマルが、黙ってナルトを力強くナルトを抱きしめたのだった。戸惑うナルトだったが、シカマルの腕は緩む気配も無くナルトを抱きしめる。突き放されることは覚悟していた。
けれど、抱きしめられるとは思っていなかった。どうしていいのかナルトにはわからない。

「シ、シカマル…?」

不安がそのまま出たような声でナルトはシカマルを呼んだ。ぎゅうぎゅうに抱きしめれて心なしか息が苦しい。密着した身体は、服の上からだというのに熱くて、シカマルの体温を感じた。なぜだか、シカマルの腕の中はひどく安心した。熱は収まらないが、どこかで性交渉を持つことを冷めていた体の芯が暖かくなる。このまま…このまま、ずっと抱きしめていて欲しい。
シカマルは大人しく腕の中に治まるナルトを抱きしめながら、うずまく感情をどうすればいいのか迷っていた。ナルトが満月の晩…動物でいう発情に近い状態になるのは分かった。九尾が男だったのか女だったのか知らない―この男を相手にしているあたり、女だったのかもしれない―が、ナルトの持つ性別が男なだけに、ナルトにとっては最悪なことを強要されているに等しい。
女とは違い、子を孕むことが無いだけ、救いがあるのかもしれないが…。本人にしてみれば、どっちもどっちだろう。 抱くものが居なければ、ナルトは狂うと自分言った。ナルトは九尾の封印がなくなるまで同じことを繰り返すだろう。

誰か、見知らぬ男がナルトを抱く?
ふざけるな。
冗談じゃない。

こみ上げてくるのは怒り…いや、違う。
黒い燻る炎は、嫉妬だ。



――…腹を括ってしまえ。


どこかで囁く己の声がした。

ナルトの傍に立つことが目標だ。ならば、どんな形で立ちたいのか。友達?相棒?家族?……恋人?
その、全てだ。ナルトを支え、愛し、ともにいく。シカマルはナルトを抱きしめたまま微笑んだ。諦めたような、さっぱり決意をしたような、満足した表情で。ナルトはシカマルの胸に顔を押し付けていたのでその笑みは見えなかった。
いいさ。どうせ、オレはナルトに囚われてるんだ。どこまでも一緒に堕ちることもいとわない。息を吸い込んで、吐いた。ナルトの肩を押して、お互いの顔が見れるほどの距離を置く。ぶつかる赤と黒。

「…ナルト。オレがお前を抱く」

何を言うのかとナルトの目が丸くなる。固まったように動かない。

「だから」

だから、さ?

「…オレだけに、してくれ…」

最後の方が情けなくも懇願するような色を持った。縛ることは出来ない。
ナルトは自由だ。ナルトは分けも分からず切なくなった。どうして、こんなにも澄んだ黒の瞳でオレを見てくれるのだろうか。オレのあんな汚らわしい姿を見たのに。嫌わないの?
だってオレ、男に抱かれて喘いでるような、薄汚い人間なんだよ?九尾の所為のことだけど、喜んで声を出してるのはオレなんだ。身体と心が一致して無い。嫌だと心が叫んでも、身体は喜んで男に足を開くんだ。最初の頃は、終わったあとに思い出しては吐いた。
拒絶してよ。
シカマルは清廉なんだ。
ヤダよ。
オレみたいなヤツに触るなよ。

…オレは弱いから、お前の手、取っちゃうじゃんかよ…。

涙が溢れた。
我知らず頬を伝うは透明な雫。

悲しいわけじゃない。
嬉しいわけじゃない。

ただ、涙が溢れた。
ナルトは声を殺して泣いた。

「…いいの?」

弱弱しい声でナルトはシカマルに尋ねた。迷子の子供が母親を見つけた時のような表情だった。いつも無表情なことが多いナルトが、歳よりも幼い子供のようにシカマルを恐る恐ると見上げた。シカマルは頷いた。

「…オレは、ナルトが好きだ…だから、お前が欲しい」

ナルトはシカマルに自分から抱きついた。

好き。初めて言われた言葉。好き好き好き好き好き好き好き。オレもシカマルが好きだ!狂ったように心が言葉を繰り返す。ナルトはシカマルに向けて微笑んだ。シカマルも微笑んだ。ナルトは目を閉じてシカマルにキスをした。それは、唯一つシカマルにあげられる"初めて"。抱かれた誰にも許しはしなかった、大切な人へのためのキスだった。



■□■



開け放した窓は、風に揺られてさらりと揺れた。

「ナルト…」

カーテンで顔の半分を隠しながら、色香を放つナルトが姿を表した。シカマルは少しだけ口元を歪めて笑いかけた。その笑みに答えるように、ナルトも笑う。シカマルはナルトに向かって迎え入れるように両手を広げた。ナルトは堪えきれない熱を持つ身体をシカマルに預けた。

「ごめ…やっぱ、キた、みたい…」
「バーカ。だから言ったのによ…お前、油断しすぎ」
「ん…、ごめん」

長い金髪を撫でるように梳いてやると、それだけの刺激にナルトは身体を振るわせた。身体のどこもかしこも敏感になっている。撫でる指先一つで、感じる。もっと触って欲しいとせがむように身体を揺らしてしまう。

「ん…ふぅ…」
「…辛いか?」

声を漏らすと、シカマルが苦笑を含んだように聞いてきた。

「ん…」

何度も同じような行為を繰り返しているくせに、ナルトは最初の一歩を踏み出すのをいつも躊躇う。まぁ、そこが普段スレているくせに初々しくて可愛いんだけど。と、シカマルは心中で一人ごちながらも、ナルトを抱きしめていた腕を外してナルトと距離を取る。"変化"したナルトとの身長差の所為でシカマルがナルトを見上げるような形だ。シカマルも子供姿のままではいられないので、目も覚めるような青年姿のナルトに相応しい年齢まで"変化"をする。ナルトは潤みきった瞳でシカマルを見た。

「…ごめん。シカマル…」
「…いいんだって。オレは、お前が大切なんだから…」

どこか泣きそうな表情をしたナルトに、シカマルは真摯に言った。



「ナルトのためなら、どんなことでも絶対、めんどくせぇなんて言わねーよ?」


the end