復讐の時の音






※注意。未完です。読んでも結末は未完です。中途半端です。それでもいいならどうぞ。



木の葉崩しの敗れた五年前、うずまきナルトはかの有名な三忍…自来也により『修行』と名つけた『保護』を受けていた。
彼等がまず向かったのある町。そこで…ナルトと自来也は行方不明となった。…その場に血のついた、『怨』と書かれた紙を残し…。ガイが発見したその紙は、ただちに木の葉へと持ち帰られ、特殊班の検査の結果血液中に含まれるチャクラは自来也のものであると判明した。木の葉では、彼等の行くへを秘密裏に探った。ナルトは兎も角…伝説とまで謳われる自来也がいなくなるというのは由々しき事態と判断したためだ。

…その努力も虚しく、彼等の行方は一向にしれなかった。木の葉の里を臨時で収めていたご意見番は、『ナルトと自来也は長期任務に出た』と対外的に広めることとなった。だが…ある程度年を取ったものと上忍等はうずまきナルトは誰か同士によって殺さた、と納得した。

…それから五年。
また、この日が廻ってきた。



[復讐の時の音]



呑めや謳えや、踊れや叫べ。
今日は狐の退治された日。
笑えや謳えや、殺せや捻れ。
今日は狐が生まれ日。


この日は、十月十日。
十七年前の「九尾の狐事件」が集結を迎えた日である。老若男女が祭りへと参加する。夜になっても里にはこうこうと明かりがついている。ぼんやりと、カカシは窓から外の明かりを見ていた。

「カカシ…聞こえるか?外の音」

アスマがカカシの杯に酒を注いだ。

「あぁ〜…聞こえるよぉ〜〜…みんなして、一体なにを祝ってるんだろうね〜…」

ちびりちびりと酒を啜りながら、カカシは気のない返事を帰す。アルコール度の高い酒…なのに、いくら飲んでも酔えない。
酔えるはずもない…。

「なぁ…カカシ知ってるか…?ナルトが帰ってくるって噂が上部に流れてる」
「はぁ?そんなのあるわけないデショ?」

アスマの言葉に、カカシは思いっきり眉を潜める。あるわけない…五年間、草の根を分けるようにしてナルトを探しているのは自分だ。…探しても探しても見つからないナルト。
あの時…五年前、ナルトが"死んだ"時自分は何をしていた?ベットで眠っていただけじゃないか!!守れなかった…教え子を…。目覚めたとき、ナルトがいなくなったのを知った。しばらくの間ナルトを探すことに翻弄したが一向にナルトの痕跡は消えていた。サスケも精神にダメージを負い、しばらく意識を失っていたほどだ。昔彼らに言った、『誰も殺させやしなーいよ』という言葉が、我ながら空々しくて吐き気がしてきたほどだ。木の葉の必死の説得で、辛うじて六代目火影となるべく綱手を木の葉に引き込むことが出来た。
しかしながら、傍から見ていても綱手には六代目という役職になんの感慨を持っていないことがすぐに分かる。頼まれたから、仕方なくやっている。
…そういう気持ちを全身で表している。
ナルトが目指していた火影という一つの頂点。それを乱雑に価値のないものとして扱う綱手。見ているのが辛くなった。カカシは、再び暗部を志願した。

「だよな…。まぁ、紅と一緒に噂の元を辿ってるんだが…、まさに風の噂。根源がはっきりねぇんだよ」
「ふん…どっちにしたって…ナルトは…」

それから先の言葉は言いたくなかった。言葉にした途端、それが本当のことになりそうで怖かった。ぐびりと、カカシは杯を空にした。

++

「サスケ君じゃない!!サスケ君も来てたの?」
「ああ…まぁな」

サクラの桃色の髪は人ごみの中でも目立っていた。頭一つ分身長差のあるサクラを見下ろしながら、かすかにサスケは微笑む。アカデミーから今までの仲間としての付き合い…約七年ほども顔を合わせていればそれ相応に心許せる友となる。

「サクラ、一人か?リーは?」
「リーさん?…なんか、迷子の子供を見つけたからって親を探しにどっかいっちゃったわ」
「リーらしい…」

サクラとリーは一年ほど前から付き合っていた。三年がかりのリハビリにサクラは心打たれたようだ。誰もが認めるサスケファンであったサクラの転心に多くのものは驚いた。

「サスケ君は任務帰り?」

サクラはサスケの忍服を見て言った。サスケは引く手数多の有力な上忍だった。

「ああ…一旦家に帰ろうかとも思ったんだが…サクラも忍服着てるじゃないか」
「うん。仕事の間を抜けてきたの」

対し、サクラその頭脳を生かし里での事務処理を行う特別上忍。ふわりと微笑む。ナルトが消えた後、スリーマンセルの新しい人員配給を受けなかった二人だ。三人目はナルト…その思いが、補充の忍びを頑なに拒んだ理由だった。同じ仲間、ナルトと共有した時間。少ない期間ながらも二人はナルトのことを思っていた。

「ねぇ…サスケ君。なんかね、今更なんだけど、ナルトにもっと優しくしてあげればよかったと思うの…」
「急にどうした?」
「…うん、なんだかね、今日ってナルトの誕生日…なんだなって改めて思ったら、アイツの馬鹿みたいに明るい笑顔での『サクラちゃん、好きー!』って言葉が浮かんじゃって…」
「サクラ…」
「うん、きっと、あの時、ナルトにそう言われて、私もまんざらじゃなかったのよ」
「…」

肩より下に垂れる髪を、耳の後ろへと流しながらサクラは思い出すかのように言った。サスケは黙って聞いている。今にも、ナルトの声が割り込んできそうな感じがする。…実際に、その優しい沈黙を破ったのは、無粋な叫び声だったが。

「ぎゃあああぁぁあ!!」

突如、踊りを踊っていた里人が悲鳴を上げた。見ると、そこには何時きられたのか血溜まりが出来ている。サッとサスケとサクラは意識を周りに配る。敵か…?気配はない。隠れているわけでもなかった。"視覚"出来ていた。

「あぁああ…!!お前は…」
「まさか…!なぜ、生きている?」

里人たちは、みな一様に空を見上げている。後ずさり、腰を抜かしているものまでいる。

「やぁ…オレがいたら悪いか?」

穏やかな声が響いた。大きな月を背後に背負い、影が浮かび上がる。頭からすっぽりと黒色の衣を纏い、顔を判別できない。何もない空中に浮かぶようにたっているのは…。けれど、この声を忘れるわけがない。かつて、誰よりも大きく里の中に響いていた声。

「う…そ…?」

それは、正しくナルトの声だった。ぱさり、と頭にかかっていたフードが取れた。五年前の面影が少しある。

「ナ…ナルト…!?」
「ナルト…?」

四方から呆然として彼の名を呼ぶ声がした。そちらを窺うと、シカマルといの、そしてキバとシノがいた。サスケと同じように忍服なのからすると、彼等も任務帰りなのだろうか。だが、纏う空気が違いすぎて、ナルトなのだと一瞬分からなかった。

「…そうだよ?五年の間に忘れちゃった?」

ナルトもサスケたちの顔を見つけ、くすくすと笑った。ナルトは…こんなに綺麗な顔をしていたのか…?自分の姿を見つけたのを確認すると、突然にナルトは走り出した。


「怪我人を病院へ!」
「…うずまきナルトが帰ってきたと火影様に知らせろ!」

ハッとして、シカマルはキバを振り向いた。

「!?キバ!アスマに知らせろ!」
「ああ…!」

一番足が速いのはキバだ。キバは頷くと一目散に駆けていった。シカマルの指示に、キバは赤丸とともに消える。それを横目で認めるものの、ナルトは放っておいた。残りのものは、ナルトの後を追った。ナルトが走るのは恐ろしく速かった。一瞬、視界から完全に消えてしまったりしたが、まるでサスケたちを待っているように立ち止まったりしている。やがてナルトは人気の無いところで止まった。そして、ゆっくりと振り向いた。

「久しぶりだね、サスケ、シノ、サクラ、いの、そして…シカマル…?」
「ナルト!!あんた何処に行ってたのよ!!」

同じスリーマンセルを組んでいたサクラが、嬉々としてナルトに駆けよろうとした。サクラの腕を、シノが掴んだ。

「っちょ…?なによシノ?」

シノは訝しげな顔をするサクラを後ろに下がらせる。おかしいのだ…我が身の蟲が騒いでいる。

…なぜ?
…怖がっている…なにを?
…本能で…ナルトを?

「お前は…さっきのはお前の仕業か…?」
「さっきの…?」

不思議そうにナルトは首をかしげた。

「…さっき、里人を傷つけただろう?」
「あっ」

サクラは口を押さえた。シノの指摘に、今更ながら先ほどの傷つけられた里人の姿を思い出した。一瞬だけ見たが、確実に命を失わない程度の大怪我を負っていただろう。しかし、それよりも五年ぶりに現れたナルトの方意識が言ってしまい、今のシノの言葉にやっと思い出した。

「なんのことかと思えば…。傷つけたんじゃない。あのゴミは今頃は死んでるよ?」

道端のありを踏み潰したぐらいの当たり前のことをいうようにナルトは言った。

「…あんた…何言ってんのよ?」

いのが引きつった顔で言った。

「お前は…誰だ?」
「なんだよ、シノ?オレのこと忘れちゃったの?」
「…ナルトは…そんな笑いはしない…」

もっと、太陽のような笑いをした。こんな…こんな目が笑っていない笑いはしなかった。

「まぁ…オレが本物ってこと…だってばよ?」

ナルトの口癖ともいえる『だってばよ』。それをナルトが口にした…それは自然なことのはずなのに、なぜか妙な違和感がある。

「ナルト」

ナルトの後ろから手が伸び、ナルトの身体を抱きこむ。すっぽりとナルトの身体が包まれるのに、胸にざわざわとした気持ちの悪い思いが生まれる。

「イタチ…」

どこかうっとりとした様子で、ナルトは男の…イタチの首に腕を巻きつける。月明かりに浮かぶナルトの白い腕。妖艶に…イタチを見上げて微笑する。


ゾクリ


それが己に向けられた艶でないにも関わらず、身のうちにある雄がアレが欲しいと打ち震える。


笑う哂うわらう。
妖艶にワラウ。



ナルトが哂う。



「イタ…チ…?」

呆然と、サスケは呟いた。カッと、頭に血が上る。なぜ、ナルトの隣にイタチが立っている?殺す!!殺す!!殺す!!ヤツは、一族の仇!!!やっと目の前にした復讐の目標に、膨れ上がる殺意。サスケの写輪眼がこれまでにないほどの勢いで回転し始める。

「イタチィィィ〜〜〜〜!!!!」

サスケは右手に千鳥を出しながらイタチ目指し、駆けた。通常なら、止められない。サスケの実力は里のトップクラスにまで上り詰めている。いくら理性よりも本能で動いているとしても、その狙いは的確。

「サスケくんッ!?」

ナルトは…イタチの首に己が腕を巻きつけたまま、サスケの激昂したようすを氷の瞳で見詰めていた。

「…愚かな…」

ザシュゥ!!血の噴水が上がった。

「うがぁああああ!!」

叫んだのは…サスケだった。サスケの右腕が、吹き飛び、サクラたちの前まで飛んでいく。

「え…きゃああぁあ!!」
「いやぁ!!サスケくん!!」

愛しい男の腕が飛ぶ…。その現実をくの一であるが為に瞬時に理解し、把握してしまった少女たちは叫ぶ。咄嗟にシカマルは状況の異常に反応する。

「ぐぅ…」

サスケは切り離され、腕のない肩を左手で押さえ、蹲る。ただ、その瞳はいまだ殺意をともし、イタチを睨みつける。

「お前如きに、この方を害なすことが出来ようか…」
「笑止」

その声に、サスケの様子に意識をとられていたシノはハッとして背後を振り向く。一方の男の手には血に濡れた刀。

(この男が、サスケの腕を切り落としたのか…)

あまりの早業に、目が追いついていない。このような忍びが…いたのか。シノが見ている中、二人の男の姿は消える。

「!?」
「死、あるのみ…」

次の瞬間、蹲るサスケを囲むように男がたち、刀を無造作に脳天に突き立てようとしていた。





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「…あ〜あ…今日の宴もたけなわだねぇ…。アノ子がいないっていうのにさぁ…」

違う。アノ子がいないからこその宴。窓から赤く揺れる祭りの光を見下ろしながら、カカシは一人ごちる。

「…本当に…嫌だネェ、この里は」

自嘲して、カカシはなみなみに盛られた酒をあおった。

「アスマ!!」

カカシの酒には付き合いきれず、外の空気を吸おうと表に出たアスマは、名を呼ばれ目を見張った。四足でキバは猛スピードで走ってくる。全力疾走をしたキバは、荒い息を吐きアスマの腕の中に倒れこみそうになった。

「キバ…?どうしたんだ?」
「ナ…ルトが…ナルトが帰ってきた…!」

息つぎの間今に、キバは一気に一部始終を語った。祭りの最中に突然の悲鳴。血の匂い。驚いて見てみると…成長をしているが、確かにナルトの姿。聞き終えると、アスマはカカシの居る上へと駆け上がった。

「おい、カカシ、大変だ!」
「なにヨ?」

気だるげにソファに腕を投げ出したカカシが瞳だけをアスマに向ける。カカシの怠惰的な様子と部屋に篭もる、強烈な酒と煙草の混ざった匂いに続けて入ってきたキバは鼻を押さえる。通人より鼻のいいキバにはこの部屋の匂いは悪臭でしかない。

「馬鹿野郎、話聞け、ナルトが!!」

アスマはずんずんとカカシの前に進み、カカシの胸倉を掴みあげる。鬱陶しそうに其の手を払おうとするカカシだが、ナルトの名前に手を止める。

「ナルト?」

今更、アスマがナルトの名前を口すたことに怪訝な顔をする。ナルトの名前は、それだけで禁忌のように扱われる。ナルトが行方不明になってから、ナルトの名前を口にすることはなくなった。ナルトを例える言葉は"アノ子"

「ナルトが…帰ってきた!!」

アスマの言葉が、カカシの酔っていない意識に到達するまで数秒を要した。

「………なんだと?」

淀んでいたカカシの目に、光がともる。




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「いい。サスケはそのままで…」

風のような呟きに、すさまじい速度で振り下ろされた刀がぴたりと眉間の先一ミリで止まる。瞬時に止めることほど、難しいことはない。むしろ、勢いを殺さずただ突き立てるほうが楽なのである。

「ガロウ、クウガ…先に木の葉中枢部を落とせ。…殺すも、殺さぬもお前たちに任せる」
「ああ…」
「…わかった」

ガロウとクウガ…そう呼ばれた男たちは、ぞんざいな返答をしながらもナルトに向かい膝を就き礼をする。

「行け…」

手を振る。音も無く消えた。

「なッ?それはどういうことだよ、ナルト!!」

中枢を落とす…?それは、木の葉を乗っ取るということか!!

「話をしよう。里の犠牲となった哀れな子羊の話を…」

ゆっくりと、ナルトは両手を広げて天を仰ぐ。
それは、祈りのように。

「そうだな…こんな素晴らしい月の夜だったのかもしれない…」




空を覆う金の月よ…。



紡がれる物語。
それは一人の赤ん坊の話。
負わされたのは里の罪。
無垢な魂は侵食される…里の悪意に、憎悪に。
独りの生。
信じるものはない。
いつでも付けているのは偽りの仮面。
心に漆黒の鎧を。
手に復讐の鎌を。
目に千里の遠を。
そうして…常に死と隣り合わせで子供は生きていた。

「…まぁ、こんなことをいちいちオレ自身の口から語らなくても"上忍"である奴等はすでに知っていたかもしれないけどね…」

ビクリと、全員の肩が震える。上忍ともなれば、情報の閲覧はある程度のレベルで解放される。だが、改めてナルトの口から淡々と幼少記が語られ、それが自分たちの想像をはるかに超えた残酷さにあることにああ、なんて愚かだった私たちの子供の頃。ああ、なんて巧妙だったナルトの隠蔽。

「でもさ…お前たちもうすうす分かっていただろう?…里の対に対する反応がおかしいことに…」

過去を振り返れば分かる。妙に冷たい目で見る大人たち。ただ、落ちこぼれに対する嫌悪の姿だと思っていた。しかし、それはもっと根深い…憎悪の姿。

「ま、きっとオレより不幸な人間は世界を探せば沢山いるだろうけどね。オレだけが世の中の不幸を全て背負い込んでるとは思っちゃいないよ?…まぁ、でも、オレはこの里を滅ぼすけどね…」

うっとりと…ナルトは月を見ながら吐息のように言う。
どこか、狂気を宿した瞳で。

「ナルト」

今まで、悲痛な表情で立っていたシカマルが進み出た。

「シカマル…」

ふわりと、シカマルを見咎めてナルトは柔らかに笑った。

(なんで?…シカマルにはあんな笑みを…?)

「お前は…里を滅びすつもりか…?」
「…うん」

素直にナルトは頷く。

「お前…変わったな…どうしてだ?」

…あの時、里を抜けると言っていた日はそんな目をしていなかった。やっと、イタチと一緒に行けると、久々に見るナルトの明るい笑顔だった。

「変わった…?変わってないさ…」

どこかうつろな目でシカマルを見返す。

「お前は…オレじゃなくて、イタチを選んだんだな…?」

悲痛な、愛切の篭もった声に、サクラもシノもいのもシカマルを振り向いた。ナルトを見るシカマルの瞳。見るものの心を苦しくさせるような…。

(そうか…お前も、だったんだな…)

シノは納得する。ナルトに淡い想いを抱いていた者は大勢いた。それは憧れに近かった。真っ直ぐなナルトに。忍びという闇の属であることを忘れさせてくれるようなナルトの光に…。

「そう…オレのイタチを選んだんだ。里の中で始めてオレに打算もなく見返りも求めずに優しくしてくれた人だから」

イタチが、ナルトを抱く腕に力を込める。

「でも、もし…オレがイタチよりも先にシカマルと会ってたら…この里を取ったかもしれない」」
「それでも、ナルトとは…オレを選んではくれなかったんだろ…?」
「…うん残念だけど、そうなるね…」

本当に残念そうにナルトはシカマルを見る。シカマルは…ナルトの蒼い瞳に自身だけが映る喜びに身が震えそうになる。自らが、ナルトを闇から救い出したいと…いや、自ら堕ちてでもナルトの側にいたいと願った。元から闇に身を置く忍びの職業。殺すことに躊躇いは無い。ナルトが幼少のころに出会ったイタチに、盲目的な親愛を感じていたことは知っていた。もし、イタチにナルトが出会うより早く、自分がナルトに出会っていたら…そう思わずにはいられない…考えてしまう『もしも』。自らを磨き、ナルトの側に。自分は木の葉の里に留まり、ナルトが何時帰ってきてもいいように準備を整え、里の権力を握る。間違えなく、ナルトは木の葉の里を憎みながらも強く愛していたから。…なのに?

「なぜ…里を滅ぼそうとする…?」
「…ソレだけの罪が里にはあるからだよ…」

その一瞬、ナルトの瞳が強く光る。

「理由は…」
「ゴミを燃やすのに理由なんている?」

ぴしゃりと言葉を遮る。

「ナルト…」
「イタチ…オレたちも遊びに行こう?」

それきり、シカマルたちに興味が無くなったというようにナルトはイタチを見上げた。
イタチは、小さくナルトに笑いかける。

「ああ…」
「…」

ナルトがぱちんと指を鳴らす。

「ここに…」
「同じく」

ナルトの背後に闇から浮かび上がるように現れる二つの影。

「…この場はお前たちに任せよう…お前等の好きなように…」
「はっ!」
「御意…」
「じゃあ、また…会えたら…ね?」

ナルトとイタチは闇に溶け込み姿を消した。

「…あの人の許しは得た。…オレの好きにやらして貰う。…サクラ、いの、…悪く思うなよ…」
「…え?」

どこか、知っているような声だった。けれど…彼は…死んだはずだ。

「…はは。オレが誰かわからないか?薄情な教え子たちだな〜…」
「イ…ルカ…先生…?」

ぱっと、男は両手を上に上げる。暗闇だったところから一歩前へでると、変わらないイルカの姿が光によって浮かび上がる。

「正解だ!」

小さな子供が答えを見つけたかのように満足そうにうなずいた。

「え…だって、イルカ先生は、任務で殉職したって!!」
「…あ〜…あの人もそういってたけど…やっぱオレ、殉職ってことになってんだ…参ったな…」

溜まらず、サクラがイルカに向かって叫んだ言葉に、苦笑交じりにイルカは自分の頭を掻いた。と、その雰囲気が一変する。

「…この里が殺したくせになぁ…」

スゥっと鼻の傷を指でなぞる。いつもの温和なイルカではなく、忍びのイルカ。瞳から柔らかさが消え、代わりに冷徹な光がともる。

「…所詮は、里の業は里に被って貰う。オレが大事にしていたアノ子まで壊してしまったなんて…許すことは出来ないさ…」
「イルカ先生…?まさか、先生まで里崩しに同意してるの!?」
「…好きだったさ、この里は。アノ子は憎んでなかったのに…むしろ愛していたのに…アノ子にした仕打ちは…、オレに力が無かったから…」

イルカは、空高く浮かぶ月を仰ぐ。

「…今こそ、罪を償おう…」




殺し尽くし、全てを無へと。



++++++++++++



シカマルはナルトを追っていた。彼が行く先は…里の中心火影の屋敷だということがなんとなくシカマルには予想できた。火影は里最強の忍び。その者の首を取られたら、全ての忍びは士気が下がる。

「…なんでなんだよ!?お前は、里を愛してたんじゃないのかよッ!」

…誰も答えぬ問いが、自然とシカマルの口からこぼれた。



++++++++++++



「カカシ…」
「っち。邪魔だねぇ…」

対侵入者用の完全装備…暗部服を身に付け、カカシ、アスマ、紅はナルトたちがいるであろう場所に走っていた。だが、少しも行かないところで目配せをしあう。

「ふん…流石は…木の葉の上忍だな」
「…そうでなければ…面白くない」

行く手に現れたのは、木の葉の上忍。

「…久しぶり…というべきなのかもな…」
「誰よ、お前?オレの知ってる人?」

片方より、少し身長が低いほうがカカシを見た。
止まり、じりじりと対面する。

(…殺気は…ない…)

彼等からは殺気は感じられなかった。自然体でそこにいる。

「…お前の教え子のアレには、世話になった…」
「教え子…?」

カカシが今までもった教え子は、ナルト、サスケ、サクラの三人しか居ない。その三人のうちの誰かと、こいつは戦ったことがあるということなのだろうか?

「随分、古い話になってしまうがな…」
「誰だ…お前は…?」
「…ナルトのもう一つの形…」
「…形…?」

なにか、かちりと脳の中でかみ合った。

「…まさか…」
「カカシ?」

アスマがカカシが何かに気が付いたのに気づき、先を促す。もう一つの形。ナルトとという、特殊な状況を同じような環境で育ったもの…そして、オレの教え子と戦ったことがあるもの…。

「我愛羅…か…?」
「…ふん、覚えていたか……」

見れば、雲の隙間からの光で我愛羅が姿を表す。大人びた我愛羅。着ているものの形は昔と大して違いは無いが、我愛羅の瞳が前よりももっと深い色を放っていた。

「我愛羅?我愛羅って…中忍試験のとき、リーのことをずたぼろにした砂の…」
「…違う…。我愛羅は、最前戦に回され暗殺されたと聞いたが…?」

事実、砂の里の最終兵器とさえ言える我愛羅が殺されたことは衝撃として忍界をめぐったことは記憶に新しい。

「オレが、そこらへんの忍に殺されることがあるはずないだろう…?」

馬鹿は実物を見て言えとでも言う調子で、我愛羅は無表情だ。我愛羅の隣に立つ、彼とさほど身長はかわらないほうが我愛羅の頭に手を置いた。

「ああ、お前はオレの作った、里の最高傑作…その存在意味の価値を知らずに手を出すようなもの…馬鹿の極みだ」
「…お前は?」

我愛羅の性分上、あのように頭に手を乗せられることは極度に嫌う。しかし、少し顔をしかめただけで振り払おうとはしなかった。

「…木の葉崩しの件は、すまなかったな…。オレの落ち度だ。思ったより傷を治すのに手間取った…」
「傷…?」
「まぁ、大蛇丸は失敗したようだが…当たり前だな。オレを殺せなかったことに気が付かないような奴だ」

くッと、男は笑った。

「…ひとつ、写輪眼のカカシ、そして猿野アスマ、紅の女に聞こう」

ゆっくりと、男は頭のフードを取り外す。
ぱさりと…音を立てて後ろに落ちる。

赤い髪。
風をはらんだ砂の匂い。

「お前たちは…五影よりも強いか…?」



―-―死んだはずの、風影だった。



++++++++++++



「ナルト…、どこへ行くんだ?」
「んー…どこに行こう?どこがいい、イタチ?」

イタチと共に並走しながら、ナルトはイタチに意見を求める。久々に訪れる木の葉の里。

「いや…オレたちが動かなくても、奴等がやってくれるとは思うが…いちおう、オレたちもなにかしたほうがいいんじゃないか?」
「そうかな?…じゃぁ…火影のところにいく?」
「五代目…三忍の綱手のところか」
「うん。オレ見たことないんだけどね…?いやいや火影になったらしいぜ?」

くすくすと笑って、ナルトはぐるりと見渡す。

「じゃぁ、出合った忍びを片っ端から殺して行くってのは?」

いやいやで火影になった綱手…その命、どこまで里に捧げている?
情熱もなにもなく…里への関心も低いだろう綱手。
…すでに、彼女は傀儡か…。

「面倒じゃないか?」
「面倒?はっ!この里にオレたちよりも強い忍びなんていんのかよ?いないんじゃないか?」
「それもそうだな…では、オレはナルトの残りカスを殺していくか…」
「決定ね」

ナルトが気配を漏らす。
全く無の存在だったナルトの気配があふれ出す。

「これで…何人引っかかるかな…?」

蜜に集まる虫のように…。



いのもサクラも、里のくの一の中では上位に位置する階級の上では、中忍の地位にいたはずのイルカとは同じほどの力のはず…。なのに、肌でイルカを強いと感じる。アカデミーを卒業してからそうそう会うことの無かったイルカ。先生としてのイルカなら知っている。しかし、忍びとしてのイルカは…?私たちは、知らない…。余程の実力の差が無い限り、相手の力を知らないというのは致命的だ。

「オレはな、ナルトのことを自分の子供みたいに思ってたんだ…中忍試験の時だって、教え子には平等にしなきゃいけないって分かっていながら…ナルトのことが一番心配だった」

睨みつけてくる教え子を冷たく見下ろしながら、口調だけは昔のまま暖かい。そのギャップには戸惑いながらもサクラといのは相手を見極めようとする。

「ナルトが、狂ったのは…お前たちのせいでもあるんだよ…」
「なに言ってるの?」

心当たりの無いことを言われて、皆目分からないと眉をひそめるサクラといの。


「それなんだよ。知らないことは…罪だったんだ」


++++


(強い…)

シノは自らの前に立った忍びとの距離を窺っていた。きりきりと張り詰めた空気が痛い。己が身のうちに飼う蟲どもが、緊張とともに研ぎ澄まされていくチャクラに反応して内部で蠢く。

「ごほっ…」

と、目の前の忍びが腰を曲げて咳き込んだ。その一瞬隙が出来るが、あえてシノは飛び込まなかった。ただ…どこかで聞いたことのあるような咳だと思った。

「ゴホッ…いや、すいませんね。シノくん」

片手を突き出して、相手を止めるようなしぐさをしながら、ゆっくりとその男はフードを脱いだ。

「…お前は…」

サングラスの下で、シノは目を開いた。

「あー…このフード、被ってると結構苦しいんですよ」

夜目にも青白い肌の色。
今にも倒れてしまんではないかと思われるほどの病人顔…。

「月光ハヤテ…?」
「はい。お久しぶりですねぇ〜…」

緊張感もなく再び咳き込みながらも、シノを見詰めるハヤテの瞳は冷たかった。


++++


カーンカーン!!
第一級警報が、闇を切り裂けとばかりに里を揺るがす。

祭りのため里人の多くは夜半の今で起きていたため里人の行動はすばやかった各家から飛び出して、何事かと里全体が騒然となっていた。里人の心に、五年前の悪夢。三忍と謳われた大蛇丸とその賛同者による木の葉崩しによる甚大な被害を思い出す。あの日、多くの優秀な忍びが死に、里全体の勢力は大幅に衰えた。三代目の命がけの術により、大蛇丸を撃退することが出来たが、その後が困難であった。次代の火影となるべき人材がいず、里は統率力を失った。権力争いの派閥争いや、他の隠れ里からの政治的介入などが起こり、里は当時の半分ほどの規模となっていた。今でこそ、五代目の火影を向かえ当時の力が徐々に取り戻す兆しを見せていた。

「なにが起こっている」
「…ッ、五代目さま!敵の侵入ですッ!」

質素だが、上質のガウンに身を包んだツナデが緊急事態に火影邸の下に集まった忍びたちを見下ろして問うた。手にしているものは呑みかけの酒のボトル瓶。薄っすらとツナデの頬が紅潮して見えるのは酒の酔いのせいだろうか。

「人数は?」
「ハッ。確認した限りでは、六名!其のうちの二人は…うずまきナルトとうちわイタチでありますッ!!」
「なんだとッ!?」

綱手は、目を見開くと、皮肉な笑みを口元に浮かべた。

「くくッ。帰ってきたのかい、復讐に燃える鬼たちが…」

ガシャン!
ツナデは手にしていた酒のボトルと壁に叩きつけた。瓶の割れる音と広がる濃い酒の匂いにツナデの前に整列した忍びのうち何名かは眉を潜めた。

「なんだい?なんかあたしに文句でもあるってのかい?」

見咎めたツナデが眉を潜めた忍びを睨みつける。

「いえ…」
「ふんッ」

忍びは目を伏せ、服従を示す。それを鼻で吹き飛ばしながら、ツナデは濁った目で彼らを見回した。

「カカシはいないのかい?」
「…はたけカカシ・猿飛アスマ。ともにすでに侵入者二名と交戦中です」
「仕事が速いねぇ。あんたたちも、自分の頭で動いたらどうだい?大好きな里のためにね…」

嘲笑の篭もった言葉に、居並ぶ忍びたちに「なぜ、このような人が火影となったのか…」という失望の気持ちが生まれてくる。確かにツナデは「木の葉の三忍」と謳われた人だ。優れた忍術と知識。
…確かに、それは彼女を持っいるだろう。
だが、それだけだ。
なのに、このお方は火影として一番大切なものを宿していない。それこそが火影となる素質、導くものの絶対条件だというのに…。

彼女を五代目に押したという、ご意見番の老人たちを疑う。あの時は彼女の姿を見たわけでもなく、「三忍」と歌われたものならば…ともろ手を挙げて賛成した。だが、こんな女と知っていれば里全体が喜んで迎え入れることはしなかっただろう。

「とはいえ、腐ってもあたしは火影なんてもんだからね…。貰ってる借金の返済代ぐらいの仕事はするさ」

この五代目と称す火影に足りないもの。

…それは、木の葉の里を愛する心。

バルコニーから忍び立ちの前に飛び降りと酔いのためか足元がふらついていた。ふらりと、一人の忍に顔を近づけてにんまりと笑うツナデ。なにかだらしなさの漂う、投げやりな表情だ。忍びはツナデから吐き出される酒気に気づいたが無表情を通した。

「うずまきナルト…九尾のガキだったか?アイツはドベだったんだろ?三年たって少しは成長したかもしれないが…問題はうちはイタチだね。一族を弟だけを残し、皆殺しにしているんだろう?その当時から大層な腕で…何年か前にはカカシとも手合わせをしたんだっけねぇ…」

ツナデはゆっくりと考え込んだ。うずまきナルト本人とは会ったことがない。ツナデが木の葉の里に膨大になり過ぎた借金の金と引き換えにしぶしぶとやってきた時、すでにナルトは自来也とともに行方不明になっていた。腕利きのはずのカカシは病院で昏々と眠っていて、腕だけはいいカカシの坊主がここまでやられるとはと半場感心した覚えがある。ならば、一番危険なのはうちはイタチといえるだろう。どんなに努力したところで、使い物にならない落ちこぼれがなれるのはせいぜい中の上程度の腕前。最高になれることはないだろう。里にいたことは火影になると騒いでた子供らしいが、そんな夢は所詮夢のまた夢。

うずまきナルト、うちはイタチ、他四名。

この四名というのが曲者だ。情報がない。情報のない敵ほど戦いにくいものはない。彼らは影のように現れ、影のように消えたのだという。せめて顔さえ見れれば、ビンゴブックに載っているような人物かもしれない。

「…それでも、わざわざ木の葉の里に入ってくるなんて、袋の中のネズミだね」

ただの人里とはわけが違う。いくら衰えているとはいえ、ここは木の葉の里なのだ。――忍びの里なのだ。

「うちはイタチに向けて暗部を二班、他の五人には上忍と中忍編成部隊を一斑ずつ投入しろ。他の忍びは各重要地点の警備及び里人の安全確保……っとまぁこのくらいでいいかしら?」

糞面白くもない責任だけを負わされる火影の任になんて、まっぴらごめんだったがご意見番の糞ばばぁと糞じじぃのくれる金がいい値段だった。だから、仕事分はやろう。借金が全部返済して、また金の元手が手に入ったら火影の任務なんかほっぽって出て行こう。なぜなら、私はこの里には苦い思い出しかない。大嫌いなのだから。



++++



「さて、オレたちはナルトの命令に従って、お前たちを抹殺する」

かすかに目元をほころばせながら元風影は言った。こんな表情が出来る人だったのかとカカシたちは思った。自分が所属する里の長以外の、五影と接する機会は滅多にない。五年前の風影の姿は大蛇丸たちが化けた姿であったし、本物の風影を近で見るのはこれが初めてだった。

「風影さま…なぜ、あなたが生きて?」

いや、なぜという問いは無意味だ。紅は声を出してしまってから思った。風影が生きているということは、死んだと思われていた風影の死体が影武者かなにかのものだったと言うことだろう。秘密裏に傷を癒し、生きていたのだ…。

「…オレはもう、風影じゃない。名前はサイガって言うんだ」

風影と呼ばれたのが気に食わなかったらしく、風影は名前を訂正した。

「何をのんきに自己紹介してるんだ」

風影…サイガにそっくりな息子、我愛羅は相変わらず感情を感じさせない声で言った。サイガはそんな息子を見て肩をすくめた。

「大事なことだ。今、砂隠れの風影はバキだ。オレの称号じゃないのさ」
「どうでもいいことだと思うがな」
「じゃあそんなどうでも言いことを話すのは終わらせ。…オレたちの仕事をしよう」

和やかだったサイガの雰囲気が一変する。隣に立つ我愛羅と同質の硬質なものとなった。アスマと紅が身構える。カカシは立ちふさがれたことにイラついていた。こんなところで。止まっているわけには行かないのだ。救えなかった教え子が、今、この里に帰ってきているのだ!

「サイガ殿。どうして、あなたが木の葉の里になんのようなのですか!」
「…うるさいな。こいつ」
「少しは付き合ってやれ」

カカシに煩そうな視線をやって、さっさと始末したいと見え見えの声色発した我愛羅に苦笑しながらサイガが抑える。アスマと紅は目配せをし合って、慎重に我愛羅とサイガを囲むよう移動する。それに気が付きながらも彼らは慌てる様子はない。

「こいつは、何も出来なかった自分を悔やんでいるらしいからな」

口元をゆがめ、サイガはカカシを見下したように言った。ずっと抱えている気持ちを言い当てられてカカシは唇をかむ。我愛羅はそういうことか、と頷き、今にもこの場から飛び出してナルトに会いに行きたいと気を張っているカカシの瞳を見据えた。

「馬鹿が。アイツがお前ごときが救えるほどの軽いものであると思うのか」

我愛羅の姿が掻き消えた。次の瞬間、我愛羅はカカシの後ろを取っていた。あまりの速さに、カカシは目で追うことすら出来なかった。

「カカシっ!!」

アスマと紅が動こうとしたが、紅は足が動かないことに気が付く。いつの間にか、足元に硬い砂が這い上がり動けないような固めている。アスマは力任せに足を引き抜こうともがいたが、簡単には抜けない。

カカシはぴたりと首筋に当てられたクナイの冷たい刃を感じた。


「知らなかったくせに…」

我愛羅が低い声で淡々とカカシに囁く。


――…もし、アイツの気持ちを理解できるとしたら、それは、オレだ。


我愛羅は微かな優越感をにじませた声は風に消えた。



++++



「罪って…なんのことよ?」

罪だのなんだの言われても、知らないことに違いはない。いのはイルカに聞いた。イルカは再びアカデミーの先生と慕われていた優しい笑顔を浮かべた。先ほどの忍びとしての冷たい表情を見てしまった後では、どこか得体の知れないもののような気がした。

「ナルトの生い立ちは聞いたろう?」
「ええ…」

上忍になってやっと知りえたナルトが抱えていたものの大きさ。私たちはみな蒼くなったものだ。
やっと、里人のナルトに対する冷たい目の意味を知った。九尾の事件で孤児となっている子供は多かった。その中で、なぜかナルトだけに里人はなんの親切な扱いも与えない。

父や母にナルトのことを聞けば、真実だ。と首を立てに振られる。
どうして、なぜ。今まで教えてくれなかったのか!問い詰めたら、重く口を開いた。…それは里の禁忌だから。

「それだよ。それを知らないことが罪だったのさ」
「なんで、それが私たちの罪なのよ!それが起こったとき、私たちは生まれたばっかりだったし、アカデミー時代でも子供だったじゃない!」
「そうだな」

あっさりとイルカは同意する。

「『そうだな』って…」

いのが呆れたように顔をしかめた。イルカは腰から取り出したクナイをくるくると回した。

「当時大人だった人々は、九尾の入れ物となったナルトを守るためという名目のため、ナルトが九尾の器であることをに緘口令を敷いた。なおかつ、学校で教えるのは九尾は四代目が命を賭して撃退したということだけだ。九尾の襲来事件以後生まれた子供たちは、ソレが人体に封印されているとは知らないっていうのは当然だ。誰も、教えようとしないんだからな」

その情報を見れるのは、上忍以上の忍と限定された。

「ナルトは目に見えないところで常に迫害を受けていた。それがどの程度のものかは…オレは実際体験したわけじゃないから知らないけどなバケモノ、バケモノ、九尾の狐と言われ続けたナルトは…どんな気持ちだったんだろうなぁ…」

しみじみとイルカはナルトを思って言葉をかみ締める。

「みんながみんな、ナルトに酷かったわけじゃないでしょう?」
「そうよ。…少なくとも、私たちはナルトと普通に付き合ってきたわ」
「そんなのはごく一部だ。…オレはナルトを憎んでいたよ」

二人は息を呑んだ。イルカといえば、誰よりもナルトを大切にしていた。間違っても彼がナルトを憎んでいるだんなて言葉を吐くとは思っていなかった。驚くいのとサクラにイルカは笑う。

「…オレの両親を九尾に殺された」

知っている、と二人は頷く。

「だから、オレは心のどこかでナルトを憎んでいたよ…正確には、中に封印されたものをな。赤ん坊に封印されたというのは…父と母が死んだ当時、オレはうわさで聞いた」

イルカは手に持ったクナイを掲げて、月光を反射させた。

「オレの手で殺してやりたくて、あの頃は夜な夜な眠れなかった。…大人になって、心の整理がついて、それから…オレはナルトの監視者に選ばれた」

あの時はなんでオレが!と思ったなぁ、とイルカは懐かしそうに言った。そして、初めてナルトを遠くから見た。

「愕然としたよ。あんなに素直に育ってるだんなん…おかしいだろう?」

中忍試験のときの我愛羅…あいつを見ていればその違いの異質さがよく分かる。我愛羅のように周りすべてが敵だと考え、拒絶し、殻に閉じこもってしまうほうが自然だ。ナルトはよく笑い、人見知りをしなかった。それを見て、けじめをつけたはずの憎しみが生まれなかったとは言わない。両親を失ったことの自分と同じ行動…おどけ、馬鹿な真似をして周りの気を引こうとする中に、ナルトの中に自分を見た。似ていたから。自分を見ているようで、大切に思えて、いつかしか保護者のようになっていた。

「…ま、それも…ナルトの仮面の一部だったけどな」

まんまと騙されていた。と、イタチは笑う。

「でも、あの頃のナルトも、確かにナルトの一部さ…」

一緒に眠り、食事し、喜び、悲しみ、怒り、笑いあった日々。

「オレはナルトの置かれていた状況を正しく理解していなかった」

シャラン…
イルカの片手に三本ずつ、計六本のクナイが現れた。

「悪いが死んでくれ」



++++



舞う。
ゆらり、ゆらり、ゆらり。

月明かりの下を柳が風になびくように。

揺れると同時赤い花が散る。

ビシュ…

遊ぶことはしない。
急所を一突き。そうするれば、木から落ちて大地に転がる動かぬ実となる。ナルトの気配を感知し、ぞろぞろとおびき寄せられた忍びをナルトは無表情で狩っていた。反撃もままならないまま、彼らは血に沈む。

「…弱い」

なんなのだ、この弱さは?額宛の下の顔を見ればまだ若い。ほんの子供だ。十二、三…ナルトたちがアカデミーを卒業したときと同じくらいだろう。いくら木の葉崩しの後、忍びを教育する時間がなかったといっても、これでは弱すぎる。アカデミーでは一体どんな教育をしていたのだろうか。質が格段に落ちている。

「…つまらんな」
「ああ」

イタチも同感であったらしい。

「なぜ生きて戻ってきた、バケモノめ!!」

下忍の三名を指揮していた、年配の上忍が憎憎しげに言った。すでに部下の下忍三名は事切れている。やすやすと己の部下の下忍を殺されたことにはあまり気を払っていないらしい。年の頃からいって、大方九尾の事件の日に親族でも殺されたのだろう。彼がナルトに対して憎しみの目を向けて太刀を構えた。ナルトも背負っていた太刀を抜いた。ギラリと刀身が月光を受ける。

「お前は、まぁまぁ使えそうだな」
「…バケモノが。お前は遥か昔に死ぬべきだったのだ!」
「お断りだ。オレは死にたくない」

二人の姿が掻き消える。カキィン!ぶつかり、跳ね返る音。すぐさままた刃が交える。しかと大地に足を張り、両者は力比べのように一歩も引かない。上忍は目の前の細腕のどこにこのような力があるのかと思いながらも、足を踏ん張った。

「何をしに戻った!」
「そんなの…決まっているじゃないか」

男の問いにナルトは笑った。男はぞっと背筋が泡立った。至近距離から見たナルトの青い瞳の深さに。青…これは深い闇のようだ。何を見ているのか?このバケモノの瞳の中に自分は食われてしまうのではないか?

「消すんだよ」


――…里をね。
ひとわき強い力で押され、男は後ろに飛びのいた。


「バケモノが…!」
「バケモノバケモノって言わないでくれるか?いくらオレがバケモノでも、そう何度も言われるのは気分がよくない」

耳元で声がしたかと思うと、それが男の聞いた最後の言葉だった。



++++



逃げろ。
逃げ惑え。

あの死の年のように。適わぬ敵に立ち向かい、最後に一人の男と一人の赤子を犠牲にした日を思い出せ。

そして、絶望の中で、死んでしまえ。死ぬべきだった。この里は、消えるべきだったのだから。
少女は、空を見上げた。きっと、昼には陽炎のように、夜には太陽のように空から見下ろす月がある。

「ナルト君…」

その光を肌で感じながら少女は呟く。何も見えぬ、がらんどうの瞳を。空へ向けて。



++++



「月光ハヤテ…お前は、死んだのではなかったのか?」

今はもう、はるか昔のように思える初めての中忍試験。常に咳き込んでいるかのような、具合の悪そうな顔色の悪い男だった。その折に起こった木の葉崩しの大蛇丸の計略によってあっけなく命を奪われた試験管の一人だったと記憶している。

「ええ、死にましたね。確かに」

薄っすらとハヤテは笑みを顔に刷く。

「…死んだといいながら、生きているお前は何だ?」
「何だといわれても…」

コホン、とハヤテが咳払いを一つ。


「……―ただの、死に損ないですよ?」



綱手は真っ赤なネイルの手を顎に当ててあでやかにいやらしく微笑んだ。

「ヒナタを助けに来たのかい?」
「ヒナタ…?」

見下ろしてくる綱手にナルトは「なんのことだ」と眉を寄せる。すると綱手は予想外のナルトの反応に竦めた。

「ありゃ。違ったのかい?てっきりあの子を迎えに来たのかと思ってたんだがね」
「…ヒナタに、彼女になにかしたのか?」
「別に。私はなーんにもしちゃいないよ。けどね、あの子が勝手に一人よがりで里を抜けようとしたんだよね…あたしはあんな子一人が里を抜けたところでどうもこうもないと思ったんだけど、血継限界の血だからね。日向家で幽閉ってことになったんだけど、目がなけりゃいいのねと抉っちゃったんだよね、じ・ぶ・んで」



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以上未完。
脳内予定では上のように綱手が出てきて悪役ぽでヒナタが実は悲劇ヒロインで、里に渦巻くご意見番の親族の陰謀とか、渦巻き隊(我愛羅、サイガ、イルカ、ハヤテ)VS元仲間(いの、サクラ、シノ、カカシ)との白熱した戦いにて、ことごとく渦巻き隊の勝利。いの、サクラ、カカシ、シノら死亡。
そして以下のように里が滅びるつもりだった。










最後には高台の上に立って炎にまみれた里を見下ろしていた。
そして、彼らは新たなる里を作る。

死んだはずの者たちがいる里。
死に切れなかった者の里。


それが…



――――死ノ火(シノビ)の里。