死して屍




※注意。この話は未完で死にネタです。それでもよろしかったらどうぞ。










オレは、死ぬとしたら誰かに殺されて死ぬものだと思っていた。
けれど、実際にオレの命を奪おうと忍び寄ってきたのは…

死に至る、

病。


死して屍


兆候なんて、なにもなかった。
いつもみたいに暗部の任務をして、下忍の任務をする。そんな二重生活を送っていた。

その日、オレは下忍の任務で子供のお守りをしていた。小さい子供は、片手で首を捻ればすぐに死んでしまうほど脆く、己にこんなにも無力なときが一時でもあっただなんてあまり考えられない。…考えたくもない。
もしかしたら、こういう小さいときに、外のことをなにも知ることなく死ねていたら、幸福だったのだろうか?
下手に、自意識が出てきて『生きたい』と思ってしまったオレ。里の者にとっては、憎悪対象でしかないオレ。

「…お前はいいな…こんなにも愛されていて…」

大人しく、オレのような人の命を奪うことで生きている人間の腕の中で眠る、無垢な魂。
そっと、やわらかな髪に指を絡ます。
善意も、悪意も。感情すらしらずに、快か不快しか感じない、ある意味本能の塊の子供。オレも、似たようなものかもしれない。

オレの持つ感情は二つ。
使えるか、使えないか。

利用できるものなら、例えそれが相手の好意からくるものだったとしても利用しよう。

使えないヤツだったら、生かしておく必要はない。
邪魔なら、殺せ。
暗い考えに、オレはうっすらと微笑む。風に乗った甘ったるい、子供特有のミルクのにおいにオレはむせた。

「ゴホッ…」

口元を押さえて…次に、手の平を目にいれて、オレは無感動に赤い色を見た。

赤い色…血の色。
慣れすぎたその色。
…一体、どこから流れたのか?

「ほんぎゃああああー!!」

不思議に思って手に付着した血を見ていると、腕に抱かれていた子供が神経質に泣き出した。

「?」

見ると、子供の目から赤い血が滴っている。

血の涙か?
…よくある、表現を思い出すが、実際に子供の目から流れているのはどうやらオレの手から落ちた血らしい。拭ってやろうと手を伸ばすが、拭うどころか、オレの手からの血でますます子供は赤く顔を染めていく。

「ふんぎゃーー!」
「ナルト?どうかしたの…って、あんた、どうしたのッ!?」

子供の尋常でない泣き声に、奥で流動食を作っていサクラが出てきた。オレと子供の様子を一目見るなり、血相を変えてナルトに駆け寄った。

「大丈夫?どうしたの?血吐いたの…?」

サクラは手に持っていたタオルで、子供の顔を拭き、オレの口元を拭こうと手を伸ばしてきた。

「…なんだってばよ?サクラちゃん?別にオレは血なんて吐いてないってばよ?」

オレは、サクラの手をやんわりと交わそうとしてにこりと笑う。けれど、サクラは全く信じてない顔をして、オレの顔をごじごしと乱暴にタオルで拭った。真っ白かったタオルは、オレの血で真っ赤に染まる。その色が、鮮明で綺麗だなと思いながら、オレは眉をひそめているサクラを見る。

「ナルト…あんた、すぐに病院行きなさい。血、吐いたんでしょ?…それって、めちゃめちゃ危険よ」
「えー…でもさ、今任務中だよ?そんなの任務が終わってからいつでもいけるってばよ?」
「四の五の言わず、さっさと行きなさい!」

いつもより、サクラは強い調子でオレに言った。カカシとサスケは、買出しに行っていていない。腐っても任務中だったから、いちおうはカカシに言ってから行ったほうがいいと思ったんだが…。

「へーい。サクラちゃんが言うなら言ってくる…。あ、サスケとカカシせんせーには言わないでくれってばよ!」

あの無表情な顔で心配なくせに嫌味を言うサスケの相手をするのは疲れる。
サスケは嫌いじゃない。
頭がいいくせに、鈍感で、オレが裏でなにやってても気が付かないところがいい。あいつのお陰で、オレは結構下忍の任務に小細工が出来る。サクラに大きく手を振って、オレは病院に向かった。

もちろん、暗部病院の裏口にね?
暗部病院だったら多少は安心できるし。

でもさ…その向かう途中、オレさ、




死んじゃったんだ。




裏道を通ってたのが悪かったのかもしれない。
スッと意識が遠のいて、アレ?と思うまもなく、衝撃がきて、
目の前には、大量の血の水溜り。
ビチャと、顔がその中に沈んで、やっとオレは理解した。

『オレ、死ぬんだ』

分かったんだ。
いや、思い出したといったほうがいいかもしれない。
オレのこの状態は、十五年前、濁魂の国で流行った原因不明の病。

突然の発症。
死亡率90%。

ああ…そっか、オレ、死ぬんだ。
オレが一番最初に発症して、この里を巻き込んで滅ぼすんだ…。
オレが死ぬことで、この里まるごと一個を滅ぼせる…。体の感覚がなくなって、心臓がバクバクして、脳に針を刺されたような激痛が襲う。

それでも

オレは、これから滅び行く里を思って、嘲笑った。

笑顔で


死んだ。

ナルト





うずまきナルトが死んだ。
その知らせを受けたとき、オレは持っていた将棋の駒を取り落とした。

「なに言ってんだよ、チョウジ…冗談だろ?」
「冗談でも、嘘でもない。ナルトが死んだ」
「…ッ!嘘だって言えよ!!」

そんな縁起でもねぇ冗談に付き合ってらんねぇ!
オレは、玄関先に現れたチョウジを押しのけると、ナルトの家を目指して走り出した。
外は日が暮れて暗くて…まるで、あいつの絶望そのものだった。



死して屍



ナルトの家のドアを力任せに叩く。
中から反応はない。

「おい!オイ、ナルト!居るならでろよ!居留守使ってんじゃねーよッ!」

なんで出ネェんだよ!
もう、下忍の仕事は終わってるだろ?
今日は、暗部の仕事も入ってないじゃねーかよ!
ドアを開けて、

『なにやってんだよ、シカマル?』

って、呆れた顔してオレを見てくれよ!

ガチャ…

駄目元でまわしたドアノブが、空く。ナルト…鍵かけてなかったのかよ?不用心なヤツだな…まぁ、ナルトをどうにかしようとしても、返り討ちにあうだろうが。オレは、苦笑をしたんがら、そのままドアを押した。暗いナルトの部屋。
ベットに誰かが腰掛けている。

「ナルト…?」

オレは、その陰に向かって呼びかけた。

「……ナルトは、いないよ」

少しの沈黙のあと、帰ってきたのはナルトではなかった。
けれど、その声は知っていた。

「カカシ…?」

なんで、カカシがここにいるんだ?

「カカシ、ナルトは…」
「死んだ」

オレの声を遮るように、カカシは感情のない声で呟いた。

「死んじゃった。さっき、見てきた」
「…どこでだよ…?」





ナ ル ト が 死 ん だ 

ぐるぐるとその言葉が頭の中を反芻する。

「…今、三代目の所にあるよ」

カカシがみなまで言う前に、オレはナルトの部屋を飛びだした。


++


火影邸の地下には、死体安置所がある。
シカマルは、その場所に近づくに連れて走るスピードが遅くなった。

見たい。
見たくない。
二つの思いが交錯して、オレの足は重い鉛が入っているようになる…。
最奥の重い扉を押す手が…怖かった。

「…シカマル…」
「…」


何人もの忍びが集まっていた。下忍たち。そして、アスマ、ガイ。
…真ん中にある寝台に、白い布が掛かっている。ふらふらと、オレはその台に向かって歩いた。周りの連中が痛ましそうな目を向けてるが、そんなの知ったこっちゃねー。目に映るのは、ナルトだけだ…。ナルト…。顔に掛かった白い布を、そっと捲る。ナルトの綺麗な顔が、微笑みながらそこにあった。

なんで?
なぁ、なんでお前、笑いながら死んでんだよ?
ナルト…なんで、お前が死ななきゃなんねーんだ?
誰だよ?
誰が、お前を殺したんだ?

「シカマル…おい、大丈夫か?」

肩を、ぐっとアスマに引かれた。
オレはその手を払い落とす。今、オレはナルトと話しているんだ。邪魔するな、アスマ。

「…ナルト」

冷たくなったナルトの目じりから顎にかけて、指を滑らす。
冷たいな。

ああ、オレも今すぐお前の傍に。

シカマル






ナルトが死んで。
皆が喜んだ。

その姿は醜悪で。

わたしは、今までいったい大人の何を見てきたのかと…

吐き気がした。



死して屍



ナルトが血を吐いて、わたしはナルトに病院にいくことを進めた。
口から血を吐くなんて…尋常なことじゃないと思ったから。わたしがその時、ナルトに病院に行くようにいったのがイイことだったのか、悪いことだったのか。今となってはわからない。もし、ナルトがあのまま任務をしていたとしても、ナルトは倒れて死んだかもしれない。
けれど、もし、わたしの目の前で死んだとしても、そのほうが良かったかもしれない。きっと、わたしとサスケくんとカカシせんせーで、死ぬ間際を看取ってあげられたかもしれない。

…全部、『かもしれない』。

実際にナルトが死んだのは、人の通りが全くない裏路地で。
どうしてナルトがそんなところを歩いて病院にいこうとしたのか、わたしには分からなかった。ナルトは、誰にもその死に際を看取られずに死んでしまった。自らが吐いた血の海に沈んで。その白い顔を赤く染め、なぜか、幸せそうな顔をして。

どうして?
どうして、そんなにも幸せそうに微笑んでナルトは死んでいたの?

「ナルト…?嘘、いや…いやぁあぁあああーーーーー!!」

ナルトの死んだ姿は眠っているみたいで、安置されているナルトの姿を見たときわたしは『ナルトは寝ている』と、一瞬現実逃避をした。でもそれは、ありのままのナルトを否定することだとすぐに気が付いて。

わたしは、ただ叫んだ。
涙を流して。

「サクラ…」


隣で、同じように呆然としていたサスケ君が、わたしを気使うように肩を抱き寄せてくれた。こんな場面じゃなかったら、わたしは嬉しいと思って顔を赤く染めていたと思う。だけど…サスケ君がわたしを抱き寄せる手にも何も感じなかった。
ナルトの姿を見ないように、サスケくんはわたしの頭を自分の胸に抱き寄せた。そのときのサスケくんの心臓の音がいやに早くて…。
わたしは、その心臓の音が消えてしまうことが怖くて、サスケ君にしがみ付いた。


++


安置所のすぐ外にある長いすに誰かに案内されて、座らされた。

「大丈夫か?」

と、声をかけられても、わたしは震えることしかできなかかった。
脳はもう、ナルトが死んだということを受け入れた。けれど、心はそうじゃない。冷静になってきていると自分では思うけれど、なにがなんだかわかららない感情が飛来し、手足はみっともなく震えたまま。

「…サクラ、今は眠れ…」
「サスケ君…?」

サスケくんは、今にも自分が倒れそうな土気色の顔をしていた。

「…いや…」

わたしは伸びてくるサスケくんのの指先を見ながら、弱弱しく抵抗の言葉を吐いた。
チョンと、額に指が触れた。途端に、身体から力が抜け、意識が朦朧となる。わたしは、眠りに落ちようとする意識に必死に抵抗した。

いや!いやよ!
ナルトの傍にいたい!

闇に意識が落ちる寸前、わたしはかけてくるシカマルの姿を見た。

…ねぇ、ナルト。
冷たかったの?

世界は、この里は、あなたに?



…ごめんなさい。



サクラ







死んでいく。

ナルトが死んだのを皮切りに…里人たちが、死んでいく。
それはまるで…ナルトの呪いが侵食していくように。



死して屍



ナルトが死んだことが里に公表された。
どうして、たかが下忍一人の死が、里中に向けて公表されるのか。火影が張り紙を張り出したときボクには分からなかった。けれど…その張り紙を見た里人の多くが、笑顔を零した。ある程度年配になっている忍びも、嬉しさに顔を綻ばせた。

「父さん…なんで?なんで、里人はナルトに死に喜ぶの?」

とうとう、ボクは父さんに聞いた。
父さんはナルトが死んだことに愕然として、深く沈んだ様子だったからだ。父さんが他の里人と同じように喜んだり、または何も反応を示さなかったら、ボクは親父に聞くことはしなかっただろう。けれど、父さんは…確かに、ナルトの"死"を悲しんだんだ。

「…それを聞いてどうするんだ?チョウジ?」

大きな身体を揺らして、いつもはほがらかな父さんは力なくボクに笑いかけた。

「…わからない」

どうするとか、そういうんじゃないんだ。
ただ、知りたいだけなんだ。ナルトが死んじゃって。それに、どうして大人は喜ぶのか。
ねぇ、ナルトって、確かに馬鹿だったよ。
けれど、人に恨まれるような、人の心が分からないような言動はしなかった。ボクのことを"デブ"って言いそうになるのだって、悪意はなかったんだ。そこにある、ただの事実を言おうとしただけ。本当のことを、「本当だ」と言って、なにが悪いの?
裸の王様はおかしいな、と思ったのに、「おかしい!」と叫ぶことは出来なかった。ボクは、ナルトの死体を前にして「嘘だ!」と叫びたかった。

「チョウジ…。今はまだ知る必要はない。お前が大人になれば、分かるから。…いや、すでにシカマルは…」

諭すようにボクの肩に大きな手を乗せて…父さんは、ふと眉を顰めた。
シカマル?
今、父さんはシカマルと言った。
シカマル…お前は、何かを知ってるの?


++


「ナルトが死んだ…」

なんで、ボクがシカマルにこんなことを告げなきゃならないんだろう…。ボクは糖分が足りないのか、ぼんやりとした頭で、シカマルを見た。

ああ…甘いお菓子が食べたい。
ふわふわの生地の上に、たっぷりととろとろした真っ白なクリーム。真っ赤な…血みたいに真っ赤な色をしたイチゴに、チョコレートシロップが掛かってて…。

「なに言ってんだよ、チョウジ…冗談だろ?」
「冗談でも、嘘でもない。ナルトが死んだ」

そう。
今すぐにでも食べたいな。

美味しくて…美味しくて…涙が出るほど美味しくて…。

食べさせてあげたいな、ナルトに。
ボクの母さんの手作りケーキ。もったいなくて、独り占めして食べてたけど、ナルトに、食べさせてあげたいな…。

「…ッ!嘘だって言えよ!!」

シカマルも食べたいの?
でも、駄目だよ。
そのケーキはナルトにあげるんだ。

一緒に食べて、お腹一杯食べて、幸せな気分になるんだ。

ボクを突き飛ばして、シカマルは走っていってしまった。
ボクはのろのろと、ポケットから包装紙のはがれたチョコレートを取り出して、かじった。
…苦かった。
なんで?
そうか、塩カライんだ。

ボクの頬を伝う、涙の所為で。


++


ナルトの綺麗な寝顔みたいな死に顔は。
ボクの心を突きさして。

ナルトが死んだ後、二日間はお祭りみたいだった。
けど、三日目。

死が始まった。

悪意を持って、人を選別していくように。
苦しみ、苦しみ、里人が倒れていった。
里の小道を入った脇には、死体が折り重ねリ。

犬も、猫も、人も…

全てが等しく死んでいった。

そしてボクはいまここにいる。
ナルトの死体がひっそりと置かれているここに。
ドライアイスの冷たい温度が、心地いい。ドライアイスに包まれ、また、死後経過して硬くなったナルトの頬につねる。すこし、跡が付いてしまったけど。

「ねぇ、ナルト?ボクが痩せちゃったら・・・それは、ナルトの所為だからね?」

綺麗な笑顔で、天国でお腹一杯美味しいもの食べてね?


…ボクも、そのうち食べに行くから。



チョウジ






ああ…ナルト。

笑ってるね。


嬉しいよ。
お前が笑えばさ、オレはそれだけで嬉しいんだよ?

知ってたデショ?
知ってたよね?

だってお前、ナルトが笑ってのが嬉しくてオレが笑った途端、にがにがしそうに笑いを引っ込めるんだもん。どうして?ナルト…ナルトには、笑顔が似合うよ。

でも…死に笑顔なんて似合わない。
オレは、ナルトに生きて笑ってて欲しかったんだ。

『カカシせんせー!』
「カカシ!」

太陽の君も。
月のお前も。

どちらも…綺麗な笑顔だった。
それが俺の腕の中に飛び込んできて、次の瞬間血に染まった。

「…あ」

首から下がなくなって、首だけになって。
オレの手の中で笑ってるの。

真っ赤に染まって。
目を閉じてさ。
もう二度と開かないんだ、その蒼い澄んだ瞳は。
もう、二度と、オレの姿を映すことはないんだ…。

ああ…

「あぁあぁああああああーーーーー!!」


憎い。
自分も含めて、この里に存在する全ての生き物が。
オレからナルトを奪ったのは誰?オレから師匠を奪ったのは誰だ?
誰がオレから奪ったの?
許さない。
オレも、里人も…すべて、呪われてしまえ!



死して屍



「カカシせんッ…!ナルト、ナルトがが!」
「キバー?こんな時間になにしてんの?駄目じゃん子供は早く帰れよー?」

普通にオレが夜の大通りを家に帰ろうと歩いていると、脇の路地から子供が飛び出してきた。
キバだった。
酷く慌ててて、動転している。オレが優しく帰るように促しても、こっちの話なんて爪の先ほど聞いてない。ナルトが…ナルトが…!!と、ただ繰り返す。流石のオレも、おかしすぎることに気が付いてくる。そうだ…しばらくの間、ベテランとばっかり任務をこなしてきたためにこういう反応を見せる相手のことを忘れていた。

…初めて目にする、仲間の死。

に、動揺する新米下忍そのものだ。

「ナルトが、どうしたの?」

オレは同じことを繰り返すだけのキバの目を見詰める。瞳孔が、大きくなったり小さくなったり、呼吸も乱れていて、症状としては良くない。キバは、大きく深呼吸をすると、おもむろに…


オレが生きているうちに

絶対に 聞きたくなかった 言葉を 言った

「…死んでる」

周りの音とか、呼吸すら、心臓すら、オレの中での全ての機能が停止した気がした。

「誰が…?」

自分の声が、自分のものじゃないかのようにかすれていた。
ざらざらした声。
舌が乾いて。

次の瞬間、駆け出した。
暗い夜道の裏路地で。闇と同化するように倒れた人影。凝り固まった、真っ黒な血に染まり。白い頬はドス黒く濡れていて…。

「ねぇ、ナルト?どうしたの?どうして、こんなところに寝てるの?風邪引くよ…?」

ナルトの横に方膝を付いて、そっとナルトの額にかかった髪を持ち上げた。
それから後の記憶は飛び飛びで、あんまりよく覚えてない。


++


オレは、死んでいく奴等を笑顔で見詰めていた。
だって、ナルトが笑ってるんだ。
オレも笑わなくちゃね。死ぬのは怖くないよね?だって、死んだらナルトに会えるかもしれないよ?ああ、それもちろんお師匠様にもね。

いいなぁ…そんな病気ですぐに死ねて。

「死に…た…ない…!」

足元に血を吐きながらすがり付いてきた里人を足で蹴り飛ばした。
邪魔。
呻いて、そいつは転がって、すぐにぴくぴくして動かなくなった。
お前等の汚い血をオレに付けないでくんない?ああ…ナルトのだったら、いくらでもオレを汚してくれていいよ?

「あぁ〜あ…醜悪な顔。気持ち悪いね…」

死んだ奴等の顔は、どれも苦悶でゆがんでて、オレは眉をひそめた。
死ねよ。
笑顔でさ?

オレは、眠ろう。

ナルトのにおいがのこる。
このベットの上で。



カカシ






また、身近なものが死んだ。

父さん、母さん…。
あの時、殺されたのはオレと同じ血を引く者たちだった。血の絆を持つものたち。うちは一族。殺したのは、オレの兄。

そう、オレの憎むべき対象。殺すべき相手。


オレは、イタチを恨めばいい。



死して屍



けれど、ナルトの死に、誰を恨めばいい?殺されたのなら、殺した相手を憎めばいい。恨むべき対象…それは、病?病なんて、恨めないじゃねーかよ。

「ナルト…」

一瞬、苦しみなく死んだのかと、こちらが勘違いするほどに、それは笑顔の死に顔だった。
満足そうに…。満足なんて、あるわけねぇだろーが、ウスラトンカチ!十二歳そこそこで死ぬなんて…。ああ…でも、歳なんて関係ないよな。オレたちが身を浸しているのは、忍びの世界。死ぬことなんて日常で。
………でもよ、お前は”病”に殺されちまったんだな?

「…ナルト…!」

握り締めた冷たい手は、オレの手を握り返してくれることはない。


++


「ひでぇ顔…」

鏡に映った自分の顔を見て、オレは自嘲する。
血を失ったようなげっそりとした顔。たった一日で、コレほどまでに衰弱したような顔になってしまったのか?馬鹿が…オレはそんなにナルトに依存していたのかよ?知らないやつが死ぬのは、全く良心の呵責なんかない。問題なのは他人じゃなくて、自分自身のことだろう?自分じゃない誰かのために自己犠牲が出来るほど、オレは出来た人間じゃない。
なのに…よ、オレがマジで命を懸けたことがあるんだぜ?あのウスラトンカチのナルト相手に…。

「…ふざけるなッ!!」


鏡に映る自分の顔を殴りつける。
ガチャンと音がして、鏡が割れる。鏡の中のオレは歪み、叩きつけた拳からは血が滴る。たかが一人の死に、なぜオレがこんなにも動揺しなければいけない?

なにが悪いんだッ!!!!?











そうか…


ひびの入った鏡の中の何人ものオレが、笑みを形作る。やっと、謎が全て解けたという晴れ晴れとした笑顔だ。
そうだ…ナルトが死んだのが悪いんだ。ならば、ナルトを殺したのはなんだ?

病?
病?

…違う。

きっと、それはなにも気が付かなかったオレたち。
気が付かなかった。

…なにに?

そう、違和感だ。
ナルトの死を喜ぶ、里の全てだ。

なに喜んでんだよ?
なに、笑ってんだよ?
お前等は、オレの気に障る。
だから…居なくなっちまえ。

オレのナルトの復讐は、ナルトの死を喜ぶお前等だ。

サスケ






「嘘でしょ…?」


私の口から漏れた言葉は、酷く乾いていた。
うずまきナルトが死んだという話は、ナルトが死んだその日に私の耳まで廻ってきた。嬉しそうに私にそのことを話す同僚を無視して、私はナルトの死体が安置されている場所へと急いだ。

「ねぇ…聞きました、奥さん!」
「ええ、ええ…聞きましたとも!これでうちの人も報われますわ…!」
「今日は帰ったら赤飯を炊こうと思っておりますのよ!」
「まぁ、うちもですよ!」

大通りを通るときに聞くともなしに耳に入る言葉たち。
祭りの時のように、夜に差し掛かった里には人と明かりが溢れていた。

祭り…そう。
これは祭りだ。
死んだことを喜ぶ祭り…。



死して屍



「ついに死んだか!」
「良かった!」

周りをはばかることなく、大声で交わされる会話に、ナルトが死んだことが改めて感じた。
厳重な厳戒令が下されていたナルトの秘密。

"うずまきナルトに封印されているもの"

そう。
彼そのものは決して「九尾そのもの」ではない。彼がアカデミー生の時から、私はなんども里の中で見かけていた。遠めにも目立つ金髪が街中では際立っていた。
けれど…下忍の担当になることが決まって、うずまきナルトと面と向かって話す機会があった。初めて近くでみる、手の届く距離にいるうずまきナルト。下手に不自由なく育ってきた子供よりもよほど、「まっすぐに素直」に育っていると感じた。

「…あなたがうずまきナルトね?私は夕日紅よ」
「紅せんせー?オレは、うずまきナルトだってばよ!」

えっへんとエバるように胸を張って、ナルトは私に向かって無邪気な笑いを向けた。まるで、綺麗なものしか見たことがないように…。

…何もかもを見通すような、澄んだ青い瞳が無性に憎たらしく思え、また、怖かった。
里中の全ての罪を知り、内包しているようで…。


++


火影邸の地下。
出入り口には人は無かった。なのに、火影邸へ近づくごとに異様な雰囲気が漂ってきた。私自身が、ナルトと言葉を交わした回数は驚くほど少ない。今にして思えば、避けられていたのかしらと思ってしまうほどだ。

「…アスマ…ナルトは…」
「ああ、紅。来たのか?」

地下は、見えない死神が冷気を放っているかのように淀み、その場にいる悲しみにくれる人々の心を食い、さらに増大しているかのようだった。

「もう、ナルトの知り合いはあらかた来て、帰っちまったぜ?お前が最後かもな…見るか?」
「ええ…」

もちろんよ。
私は、ナルトに会いに来たんだから…。

「綺麗なもんだぜ?…こりゃ、戦場でみすみす傷つけて殺されるよりもよっぽど良かったろうよ…」

へらっと、いつものシニカルな笑いではなく緩んだ笑みを浮かべるアスマに…私はわけもなくゾッとした。魔の下の隈が、病的な廃頽的な印象を私にもたらす。何度かともに戦地へ赴き、どんな極限でも頼りになる男だったアスマ。
…そのアスマが、こんなにも憔悴しているときを、私は見たことがあっただろうか?

「アスマ…?あんた寝てないんじゃない?大丈夫?」
「寝る?…ああ、そういや寝てねぇーな…。ま、でももうすぐ皆して寝れるしな!」

にこっと、嬉しそうにアスマは笑みを漏らした。汚い大人の世界のものではなく、子供のような無邪気な…。

…壊れたような…?

「アスマ、あんた…」

何を…?
何を言ってるの?

「ほれ、ナルトが待ってるぜ?覗いてってやってくれよ」

アスマの手によって開かれたナルトの遺体へと続く扉。
…冷たい冷気が、私を誘い込むように流れてきた。冷たくなったナルトの死体は、とても綺麗に安置されていた。花に包まれ、そこだけ光が注していた。
暗い闇のような部屋で、ナルトだけに天から注ぎ込む光…。

「ナルト…」

うずまきナルト。
私はあなたのことをよくは知らない…。けれど、貴方と親しかった、多くの人間が貴方に入れ込んでいる…。…あなたは、この里をどうしたかったの?

入り口を出ると、すでにアスマの姿は無かった。代わりに私を待っていたのは春野サクラ。ナルトが慕っていた少女…いや、ナルトはこの娘を本当に好きだったのだろうか?サクラはナルトの姉のように接していた。ナルトも、それでいいと思っていたようだった。じっとサクラを見詰める私から目を逸らしながら、サクラはポツリと言った。

「…私は…この里が嫌いになりました…」

俯いている肩が、小刻みに振るえている。
私は宥めようと手を伸ばした…けれど、

バシッ
伸ばした手は、怒りをともした少女の手に弾かれた。唖然とする私を睨みつけながら、鮮やかな桃色の髪を持つ少女は叫んだ。

「どうしてッ!?なんで、ナルトはこんなにも死んだことが皆から喜ばれるのッ!?」

…私には、その答えを教える権限は無かった。

++

サクラの前を逃げるようにして、次の日。
私は朝一番で教え子の家へと向かった。うずまきナルトに切ない、不器用な恋をしていた日向ヒナタの家に。門を潜り、ヒナタの居場所を聞く。

「…ヒナタなら、部屋にこもっている」

日向家の当主・ヒアシの簡潔だが、忌々しげな言葉に、私は不憫に思いながらヒナタの部屋へといった。日向家において、ヒナタの立場は微妙だ。弱いものはイラナイ。

「ヒナタ?入るわよ?」

声をかけ、障子を開けた。私の目に入ったのは、部屋の端でうずくまるヒナタの姿…。私は、鼻に付いた匂いに眉を潜めた。

「ヒナタ?」

つかつかとヒナタに寄って、ヒナタの手を掴んで、中のものを取り上げた。

「ヒナ…タ?あんた、なにを考えてるの!?」

ヒナタが持っていたものに…私はゾッした。いや…そんなものをヒナタが持っているとは思わなかった。思いも拠らぬもの、とはこういうものかもしれない。

「やめて!取らないで!それは私のものなのッ!!!」

信じられないほどの強い力で、紅の手からもぎ取られる。



蒼い色彩を持つ、稀有な眼球を…。



「ヒナタッ、あんた、自分が何をしてるか分かっているの!?」
「…わかって…分かってます。そんなの…私はずっとナルト君を見てたんだからッ…!ナルト君のこと知ってたんだから!!」

身を切るように、ヒナタは声を荒げる。怒鳴る、ということを知らないはずの少女が声を荒げるのは、それだけ…大切だったのだろう。
胸がいたい。同時に、私の周りの人々の異常な感情に身の毛がよだつ。ヒナタは、奪い返した眼球を…美しい澄んだ空を溶かしたようなナルトの瞳を大切に両手で包む。
そして、瞳に向けて優しい笑顔を向けた。

「ほら…やっぱり…この里の人たちは…最悪だよ。ナルト君…」

透明な涙を零しながら、ヒナタは呟く。

…最悪。
其の通りね、ここまで来る道のり、いたるところでお祭りだったわ…。喜んでいるのね、みんな。
…アノ子の死を…。人、一人の死を…。人の死をなんとも思わずに…喜ぶ、麻痺した閉鎖された里。

「…約束を…誓いを果たすね」

ふいに、震えていたヒナタの声が止まった。
そして、私は絶句する。

「さようなら、紅先生ー…」

ヒナタは面を被った。
暗部の面を。

私はただ、立ち尽くすことしか出来なかった。
全ては、私の知らないところで廻っている。
全てが狂っている。
全ての危うい均衡を保っていたナルトという存在を失って…。

ああ…。
彼等のように狂えたら、どんなに楽だろう。
ナルト…あなたは死んでしまうべきではなかった。
私にはなにも出来ない。
…だから…

私は沈んで行く太陽を見る。
くれないに照らされた大地を見る。

見届けましょう。
あなたを失ったこの里のなかで、狂っていった彼等の行く末を。








死んじゃったよ。
ナルト君。

だから、約束、果たすね?



死して屍






なんでかな?
みんなが、ナルト君の死んだことを喜んでるよ?
ふふ、変なの。
ねぇ、ナルト君もそう思わない?ナルト君が一体なにをしたの?通常の忍びに回されないような、命が幾つあっても足りないような危険な任務をナルト君はいつもしていた。
ナルト君の体の傷はすぐに綺麗になっちゃうの。
だから、誰もナルト君が怪我をしていることを知らないの。痛いって、苦しいって、いつもナルト君の心の奥深いところで血を流していたのに。


++


コトン…

「…あ」

私の机の上においてあった、ナルト君と私、そして皆が一緒に写っている写真立てが倒れた。

ナルト君斜め後ろに、私が恥ずかしそうにしながら立っていて、ナルト君はいたずらっこの満面の笑顔でピースサイン。サスケ君は無表情だけど、両隣にはサクラちゃんといのちゃんが引っ付いてて、ちょっとだけ鬱陶しそうな顔をしてる。サクラちゃんといのちゃんは、サスケ君を挟んでのにらみ合い。シカマル君はナルト君の隣で、眠そうな目でカメラを睨みながらあくびをしている。チョウジ君は私の横でポテトチップを大きな口を開けて食べていた。ナルト君が小腹が空いたのかチョウジ君からお菓子を貰おうとしたけど、断られてたっけ…。、
キバ君は一番先頭で赤丸を腕に抱えて座り込んでいる。ナルト君はそんなキバ君の頭を今にも乗り越えそう。そして、シノ君は一番後ろのほうで興味なさそうに指に蝶々をとめて、それを眺めている。

…日常がそのまま詰まった感じの写真は、私の宝もの。
本当は、もっとナルト君の近くに行こうとしたんだけど、下忍としての私には斜め後ろに行くのが精一杯だった。私は毎日この写真を眺めるのが日課だった。ナルト君が、本当にこんなふうに笑える日が来るのかな、来たらいいなって。
…そして、その近くに、私が一緒に入れたらいいなって。
私がナルト君の素顔を知ってる女の子だってことが、ちょっとだけ優越感とともに嬉しい。日向家で落ちこぼれ、と言われている私だけど、ナルト君の役に立てるんですもの。
もっともっと自分を出せばいいのは分かっている。けれど…私がこの家の当主になってしまったら、ハナビは…。叔父様のように…ネジ兄さんのように…この家の悪しき風習に縛られてしまう。

そんなことは私がさせない。

写真立てが倒れた時、とても嫌な予感がした。風もないのに、なんの振動も無いのに、勝手に写真立てが倒れたことに。胸の中で真っ黒な雲がとぐろをまいて、出口を探して無限大に広がって行くような。…たかが、写真立てが倒れただけなのに、吐きたくなるぐらい気持ちが悪かった。
写真立てを立て直そうと、指を伸ばす。その指先すら、何かを恐れるように震えていることに私は恐怖が助長する。
写真立てを立て直す。そこに写る、時を閉じ込めた光景。

…なぜか、ナルト君だけが薄れて見えた。

目の錯覚かもしれない。
けれど、私の目にはナルト君の存在が、突然写真の中で希薄になってしまったように感じた。


++


「ナルトが死んだ」

ナルト君が死んだことを教えてくれたのは、シカマル君だった。
真夜中の雨の中、ずぶ濡れになりながらやってきたシカマル君は無表情だった。シカマル君は冗談や嘘は言わない。ナルト君の片腕として、いつでも冷静にナルト君の手助けをしていた。
そんな二人の仲に嫉妬しながらも、私はナルト君とシカマル君のサポートに徹していた。

「…死?」

ああ、何を言っているのか分からないよ、ナルト君。
ナルト君が死んじゃったの?いなくなっちゃった?
シカマル君の言っている言葉の意味は、私の頭を右から左へ通り過ぎて行く。甘受できないナルト君の死に対し、同時に、写真立てが倒れたときの胸騒ぎの原因が分かった。

いいえ。
写真立てが倒れて、ナルト君が薄れて見えたあの時、すでに私には分かっていたのかもしれない。ナルト君に何かがあったのかもしれないって。だから、今、私は泣き崩れないで立っていられる。…それでも、最悪な"死"であったことに心は冷たく凍ったけれど。本当の私は遠くにいて、今いる私は冷静に現実を認識できている。

「…ああ、ナルトは死んだ」
「そう…ナルト君…」

事実をかみ締めるようにシカマル君は言う。虚ろな震えた声がどこからかする。
誰の声?

私の声だね。

「…会いに行くか?」
「…もちろん」

シカマル君の駆け出した背中を、私は追った。
闇を疾走する。

火影邸地下。
私が安置所に着いた時、ナルト君の遺体の傍には誰もいなかった。
真っ暗な中でも、私の目にはナルト君がはっきりと見える。見えるよ…本当に、ナルト君の体からは一辺たりともチャクラの流れを感じない…。私はゆっくりとナルト君の傍に寄った。
死後硬直が進んでて、硬いね、ナルト君。

「ナルト君…死ぬとき苦しかったかな?」
「さぁな…」

暗闇の影に立たずんでシカマル君はじっとしている。
私と一緒で、ナルト君みたいに、シカマル君もどこか心が凍っちゃったみたいだね。
私も、一緒。
冷たいの。
ナルト君の体の所為じゃなくて、体と心の芯から冷たいの。
私は、そっとナルト君の唇に口付けた。
好きだよ、ナルト君。
大好き。
だから、許してね?
眠ってるナルト君にキスしちゃったこと。
ごめんね。
でも、おかしいね。
ナルト君が生きてたら、私はこんなことできないよ。

「あ、あれ…?」

なんだろ。
目が霞んじゃうよ。熱いんだけど、冷たい雫が私の目から勝手に流れてくる。おかしいね、涙なんか出ないと思ってたのに。

くすくす。

私は笑ったんだと思う。
笑いながら、もう一回ナルト君にキスをした。

「…ねぇ、欲しいものがあるの、ナルト君」
「おい、ヒナタ?」

歌うように言う私に、シカマル君が声をかけてきたけど…今、私はナルト君と話をしてるの、だから、邪魔、しないでね?


「ちょーだい?」


何を、とは言わない。
にっこりと涙で濡れた顔を隠さずに私はナルト君に尋ねた。

―――いいぜ。

どこかで、ナルト君の返事が聞こえた。
私の妄想かもしれないけれど、それで十分。

「おいッ!」

私は、ナルト君の右目を抉り取った。



ああ、それは美しい青い瞳。




私たちには約束があった。
私たちには業があった。
私たちは異端だった。

…そしてそれが、私たちを結び付けていた。
私たちは違っていた。
それは、嬉しい意味での違いじゃなかった。私たちが求めていたのは平凡だった。だけど、平凡に幸せを掴むことを周りが許してくれなかった。

ナルト君は異端。
シカマル君は天才。
私は…肉親を犠牲にしてでも、当主となることを望まれた。

全て、私たちの意志で定められたことじゃなかった。

私とナルト君は初めは二人で任務をこなしていた。誰にも知られずに、二人だけの秘密で。それは、くすぐったくて嬉しくて、小さな幸せだった。
ある日、ナルト君がシカマル君にバレタということを話してくれたとき、私はちょっとだけ悲しかった。男の子同士のほうが、友達としてナルト君の近くにいれそうな気がしたから。私との任務、してくれなくなっちゃうのかなって。でも、ナルト君はシカマル君に私をちゃんと紹介してくれた。

「ヒナタだ。知ってるよな?オレの暗部でのパートナーだ」
「今晩和、シカマル君…」
「ああ、知ってる…参ったな、まさかヒナタが…」

パートナー。
この一言がどんなに嬉しかったか、ナルト君には想像できるかな?シカマル君は驚いた様子で私とナルト君を見比べた。滅多に動揺しないシカマル君の姿がなんだか面白くて、私とナルト君は顔を見合わせて笑った。

「…や。でも、マジで驚いた」

本当に感心したようにシカマル君は言った。

「だろーな。ヒナタは本当はすごいんだぜ?マジでやれば、ヒアシに匹敵するんじゃねーの?」
「そんなことないよ、ナルト君」

私はちょっとだけ照れながら謙遜した。
どうだろう…父上と本気でやったら、私はどこまで太刀打ちできるのか私はあんまりよく分からなかった。私が表で見せる力をセーブし始めてから、落ちこぼれとなった私に父上が稽古を付けてくれる時はなくなった。時折、思い出したように稽古を付けてくれるだけ。本気を出したら…どうだろう?

「謙遜するなよ。ほんとにヒナタは強いぜ?そうじゃなきゃ、オレの背中を預けられないもんな」
「そう…?ありがとう」

ニコリと笑って私の背中をバンバン叩くナルト君の笑顔に、私も笑みを返す。そっか。私、ナルト君の背中を守れてるんだよね。

「ま、なんだ。ナルトもヒナタも…これから一つよろしくな」
「ああ、シカマル頭いいからな。オレたちのことバラした変わりにこれからしっかりオレたちのために働いてくれ」
「はぁ?馬鹿言うな。んな面倒くせぇこと…」
「よろしくね、シカマル君。ナルト君のために」
「…ヒナタまで…」

ナルト君の言葉を後押しするように、私もシカマル君に言ったら、シカマル君は呆れた顔をして「…ヒナタって、こんなに言うやつだっけ?」とぶつぶつ言っていたけど、私は気にしない。
だって、シカマル君が頭がいいのは知ってたから、少しでもその知識がナルト君を助けてくれたらいいと思った。どこまでも、ナルト君のことを一番に考えてしまってる自分が、少し嫌だったけど。

「…分かった。付き合ってやるよ」

ため息を吐きながら、シカマル君は言った。私たちを見返した顔は、生き生きしてた…ああ、シカマル君も同じだね。

「ヒナタ!今日は祝いだぜ。仲間が三人に増えた」
「うん」

笑うナルト君の横顔を見ながら、私は思う。
好き、ナルト君。


++


「ヒナタ、いつまで篭もっているんだ?」
「姉上…気落ちしたのはわかりますが、篭もっていては…」

ふすまの向こうから、たびたび入れ替わるように聞こえる声。
だけど私は答えなかった。ハナビ。私の可愛い妹。あなたには私の気持ちはわからないよ。別にわかって欲しいとは思わないけれど。

「…ね、ナルト君」

私は掌で進みこんだ球体を撫でる。
ナルト君の瞳をくりぬいたとき、シカマル君はひどく慌てていたけど…。

「ヒナタ?入るわよ?」

この声は…紅先生だ…。でも、会いたくない。だから返事をしないで部屋で気配を消してじっとしていた。…なのに、紅先生は勝手に部屋に入ってきた。

「ヒナタ?」

ことさら身体を丸めて背中に拒絶を表すのに、紅先生は私に近寄ってきた。

「ヒナ…タ?あんた、なにを考えてるの!?」

なににそんなに驚いているのかな。先生は強張った形相で、一瞬にして私の手から大切なものを奪い取った。

喪失感。
なんで?
なんで先生は私の手からそれを奪うの?

やめてよっ!!

「やめて!取らないで!それは私のものなのッ!!!」

私は何時もの手加減を忘れて、本気で紅先生から奪い返した。
蒼い色彩を持つ、稀有な眼球を…。

ナルト君の瞳を。

「ヒナタッ、あんた、自分が何をしてるか分かっているの!?」
「…わかって…分かってます。そんなの…私はずっとナルト君を見てたんだからッ…!ナルト君のこと知ってたんだから!!」

紅先生は、諭すように私に言う。
だけど、そんなことは分かってるよ!!今更、先生に言われなくても!私の方がナルト君をずっと、ずっと、ずっと見て、一緒にいたんだから!!
嫌いなんでしょ?里の人たちは、ナルト君が!!なんで、ナルト君はその身をもって里を平和にしたんだよッ!!

おかしいよ!!
おかしいよ!!

私は、奪い返した眼球を…美しい澄んだ空を溶かしたようなナルト君の瞳を大切に両手で包んだ。私は瞳に向けて笑った。でも、その顔は泣き笑いみたいになってたと思う。

「ほら…やっぱり…この里の人たちは…最悪だよ。ナルト君…」

あ…、私、また泣いてる。

ねぇ、ナルト君。ナルト君が死んで二日目。この里、今、どんな風だと思う?喜んでるよ。ナルト君が死んで。

本当に悲しんでるのは…ほんのちょっと。

なんでだろうね?
考えてもわからないよね。人間って、こういうものなんだよね。なにか、自分よりも貶める存在が欲しいんだよね。仕方ないのかもしれないけど…でも、なんかそれって違うよね。
ねぇ、ナルト君。こんなにも敵はいたんだね、ナルト君の敵は。

ナルト君の敵は私の敵だよ?

いつか、三人で約束したよね?
大事な約束。

「…約束を…誓いを果たすね」

私の心は固まった。氷のように私の心は凍った。今度こそ、この氷が溶けて涙となることはないだろう。

「さようなら、紅先生ー…」

私は決別する。この里と。

暗部の面を。
これは私の仮面にして素顔。…弱い、私の泣き虫な私はさようなら。そしてその日、私は日向家から消えた。

++


「ナルト君ナルト君ナルト君ナルト君ナルト君」

誰もいないそこで。私とナルト君しか知らない初めてあった場所で。狂ったみたいに、何度もナルト君の名前を呼んで。

最後に、言った。

いつも心の中でナルト君に向かって言っていた言葉を。
初めて、声に出して。

「私は、ナルト君のことを愛しています」

ああ、この言葉は、あなたが聞くことは無い。



ヒナタ






オレは好きだったよ、お前と遊ぶ時間。

変なヤツラばっかり受かった今年の下忍試験。まさかさ、お前みたいな落ちこぼれが受かるだなんて、誰も考えてなかったんじゃねーの?かく言うオレも、授業中なんて眠ってばっかしだったから受かるだなんてあんま思われてなかったみてーだけどさ。

思えば。
オレらって感情的なところが結構似てたよな?オレの馬鹿なイタズラに付き合ってくれるのはお前だったし、オレが付き合ってした馬鹿なイタズラを考えたのもお前だった。
たまにさ、オレはお前の考えるイタズラに感心してたんだぜ?ぶっちゃけ、頭が悪いはずのお前がさ、なんでこんなに緻密なイタズラ考えられんだよ!?って。
お前の頭は良かったよ。それはオレが保証してやる。
お前みたいな突拍子もない考えが浮かぶヤツの作戦ってどんなんだろうなってオレは思ってたよ。いつか、お前が部下を率いるほどの地位に着いたら、むちゃくちゃ奇抜なアイデアを出すだろう。そうしたら…オレはお前の下で働きたい。

オレがこんなこと考えてるって知ったら、お前どうしてた?
きっと、変な顔を見せてからにんまり笑って「オレは火影を越す男だからな!」とか、そういうこと言うんだろう?

すげーよ、その夢。
お前になら出来るかもしれなかったよな。

でも、もう駄目だな。


お前は、死んじまったんだもなんな。

ナルト。

ナルト…。
オレ、自分の鼻が利くことをこんなに忌々しく思ったことはねーよ。
同時に、こんなに嬉しく思ったこともない。

オレが。

お前を一番最初に見つけたんだ。



死して屍



「ぐぅ…は…」

胃の中をひっくり返してトイレに向かって吐瀉物を吐く。九の字に折った体の中から搾り出すのはもう胃液だけだった。

気持ち悪い。
苦しい。

口の中には饐えた味がして、すっぱくて、それが死ぬほど気持ち悪い。足元には赤丸が心配そうに鳴いている。赤丸にまで心配かけるなんて情けねーなぁ、オレ。
自嘲が浮かぶ。

「大丈夫だ。赤丸」

頭を撫でてやっても、赤丸は心配そうな様子を崩そうとはしない。オレは吐くモンがなくなって空っぽの腹に手を当てながらトイレのドアを背にずるずると床に尻を付いた。

ぼーっとした頭でトイレの天井の豆電球を見詰める。
ゆらりゆらり。
オレの身体に身を寄せて丸くなった赤丸の身体を撫でてやりながら、オレは思い出す。


赤とオレンジを。


++


任務も終わってすがすがしい気分での帰り道は楽しい。赤丸と一緒に路地や屋根の上を飛び跳ねる。
街も日が暮れかかって家路に急ぐ人たちで沢山だ。

木の葉の里は忍の里だ。
里には忍びの他に沢山の職種があるが、いわば忍びは街の公務員みたいなもんだ。任務が入っていない忍びは五時ごろがいちおう定時となっている。とは言うものの、それがちゃんと機能しているかどうかは別だ。突発的な仕事はいくらでもはいる。

「赤丸ー!ほらよ!」
「わんわん!!」

オレが投げたボールに嬉しそうに赤丸が飛びつく。そんなことを繰り返して遊ぶ。夕焼けが逆光でまぶしい。ボールを咥えて戻ってきた赤丸からボールを受け取り、オレはがしがしと赤丸の頭を撫でてやる。

「オレたっちってコミュニケーションばっちりだな!!」

くすぐったそうに赤丸が吼える。

風が路地を流れた。
途端に、赤丸は吼えるのを止めて、不審気に唸った。

「どうした、赤丸?」
「ワンッ…!」

警戒…というよりは、戸惑った様子で睨む先にあるのは、裏路地のまた裏路地に続く道だった。夕焼けや街灯の明かりが届かないそこは、暗い穴がぽっかりと空いていて暗闇に誘い込むように開いている。

先は見えない。
なんだか嫌な感じだ。オレはぶるりと身を震わせた。赤丸が警戒するってことは、なんか悪いことがあるに決まってる。

オレはチャクラを鼻に集めた。何倍にもアップした嗅覚は鮮明に辺りに充満した匂いをかぎ分ける。クンッと鼻を鳴らすと、鼻腔をくすぐったのは生臭い鉄分を含んだ匂い。

「血の匂いか…?」

オレは鼻を擦りながらゆっくりと慎重にその路地に入っていった。

入らないほうが良かった?
今となっては分からない。

けれど、オレは好奇心で入って行ったよ。行動派のオレとしては本能に従ったわけだ。それにほら、誰かが怪我してたいりしたら助けてやんなきゃいけねーじゃん。

そして。

目に飛び込むのは赤とオレンジ。
それは黒く染まり、けれど赤く鮮やかに。


「……ナルト?」


赤丸の吼え声が、遠いい。


何も聞こえない。
何も見えない。

否―――見たくない。

世界と自分が隔たれる。


赤丸が吼える。
――五月蝿い。
どす黒い血の色。
――汚い。
かすかな里のざわめき。
――五月蝿い。
鼻を着く錆びた匂い。
――気持ち悪い。

五月蝿い五月蝿い五月蝿い。

耳元で誰かが叫んでいる。
絶叫している、吼えている。

誰だ?

そしてオレは気づく。



五月蝿いと思ったのはオレが、空に叫んだ絶叫だった。



――ああ、オレが一番うるせぇ…



プツンと、糸の切れたようにオレは唐突に叫びを止めた。
周りの光景が酷く現実味がない。
冷静な自分が何処かでふらふらその死体の横に膝まづくオレの動作を見ている。

心と身体が別物だ。
現実を現実と認められない。
これが現実?
ナルトが死んでるのが?
嘘だろ?
なんで死んでるんだよ、お前。

死ぬとか…うそだろ?なんでお前が死んじゃってんの?

「ナ、ルト」

掠れた声で途切れ途切れに名前を呼んで身体を揺する。うつぶせに倒れたナルトは揺れるだけ。

「なんだよ、オレは眠ってるんだから起こすなってばよ!」

なぁ、そう返事してくれよ?
寝てんだろ、これって赤と黒の混ざったペンキにこけただけだろ?お前の口から出てる赤いのはトマトジュースかなんかだろ?

「なぁ、なるとー。なに寝てんだよ?家帰れよ、風邪引くぜ?」

いつもと同じ口調で声を掛ける。

起きろ。
起きろ。
起きろ。
笑え、これがイタズラだって言って。

「やーい、キバってば騙されてやんのー!」

うしししって、変な笑い方してさ。オレのこと馬鹿にしろよ。オレ、お前が、ナルトがマジで死んじまったて思って、マジで焦ってんだぜ?馬鹿にしろよ。

「ナルト?起き、ろッ!!」

何時までたっても眼を開けないナルトをオレは抱きかかえた。口元に乾き張り付いた血糊。
オレは信じない。

けれど、信じる。

ナルトは、死んだ。
息をしないで誰が生きている?心臓が止まっていて誰が生きている?

…ナルトは死んでいる。


オレはナルトの体を放り出した。


触っていたくない。
冷たいナルトの身体なんて。
死んだナルトの身体なんて。
オレが知っているのは暖かい血の通った生きているナルトだ。
こんな堅くなって冷たいナルトじゃない。
これはナルトじゃない。
違う。違う。違う。

これはただの、死んだナルト。

オレはナルトをそのままに、闇雲に路地を走って逃げた。

ドンっと、衝撃が来た。
周りを見ずに走っていたので誰かにぶつかったらしい。顔を上げると、知っている顔だ。
誰だっけ?
ああ、そうだ。ナルトの先生のカカシ先生だ。何ド忘れしてんだよ、オレ。

ナルトのこと伝えなきゃ。
言わなきゃ。
オレは口を動かす。

「カカシせんッ…!ナルト、ナルトが!」

ああ、ナルトがどうしたんだっけ?
ナルトがに続く言葉は?

言いたくねーよ。
口に乗せたら、それは…。

「キバー?こんな時間になにしてんの?駄目じゃん子供は早く帰れよー?」

オレにいつもと変わらない飄々とした感じで話しかけて、カカシはシッシッと手を振った。こんな時間ってまだ、子供かえる時間だよ!といつもならオレも突っ込むが、そんなことに気が回らない。オレはくちをぱくぱくとさせて、「ナルトがナルトが…」と繰り返す。そのフレーズしか出てこないオレに流石に不審に感じたのか、カカシがオレの目線に屈みこんだ。安心させるように肩を手を置いて、そのほのかな暖かさが身にしみる。

アレとは違う。

「ナルトが、どうしたの?」

じっと深い色をした瞳でオレの瞳を覗き込む。

落ち着け。
オレは大きく息を吸った。オレを監察していた別のオレが戻ってくる。ぼんやりと霞が掛かっていた夜の世界が鮮明になる。

認めろ。
アレは…ナルト。

「…死んでる」

死んだナルトだ。
アレは。

「誰が…?」

カカシが掠れた声で呟いた。
オレはナルトが死んだでいたということをかみ締める。
身体が震えていた。
ガタガタと、立っていられないほど足が震える。

それからオレはうずくまって泣いた。


++



「キバ…」

労わるようにオレの額に手が置かれて、オレは覚ました。

「お袋…?」

赤丸とお袋がオレを心配そうに見下ろしていた。目を閉じる前は、あたりは赤く美しい夕日が照らしていたのに…。ここは薄闇で、空には星が瞬いている。
…あれ?
いつの間に夜になったんだ?

「なに、こんなところで寝てんのさ。風邪引くよ?」
「どこ、ここ?」

視線を回りに走らすと、ここは道の端っこだった。
他人には興味がない人々がオレがお袋に介抱されている場所を避けるように歩いている。オレはお袋の顔を見上げた。お袋は苦い顔をしながらオレの脇に腕を差し入れてオレを立ち上がらせた。一人でも立てるとオレは邪険にお袋の腕を払おうとしたが、足に力が入らずに立ち上がることが困難で、足元がふらついた。

「赤丸があんたのとこまであたしを連れてきたんだよ。一日中こんなところに放って置かれなかった礼は赤丸に言いな」
「あ。赤丸…」

呼ぶと赤丸が身を摺り寄せてきた。暖かい…アレとは大違いだ。

「ごめんな…」

逃げるのに必死で…赤丸のこと忘れてたぜ…。ぎゅっと抱きしめててやるとぺろぺろとオレの顔をなめてきた。

「帰るよ」
「ああ…」

お袋の言葉にオレは力なく赤丸を抱いたまま立ち上がった。

本当はさ、夢だと思いたかった。目が覚めたら、アレは全部夢で。
…夢だと思いたかった。

「あぁあああ…」

オレは震えて自分を見下ろした。
闇夜に見えなかったオレの体が街灯に照らされ、オレの赤く染まった手と服が視覚される。

誰の血だ。
これは誰の血だ?
オレじゃない。
赤丸じゃない。
お袋じゃない。

「キバ!あんたしっかりしなさいっ!」

お袋のオレを抱きとめる腕と、叱咤する声が聞こえたけれど。オレは急速に意識を失った。だって…これは現実なんだろう?ならオレは夢を見てーよ。

オレが再び目を覚ましたのは、それからまる二日たってからだった。
お袋がナルトの体は今火影邸にあると教えてくれた。行くかと言われたが、オレの脳裏には赤とオレンジが浮かび、受け付けがたいその映像に体が拒否反応をした。返事をする前にオレはこうしてトイレに逃げ込んでいる。

「情けねぇ…」

オレは赤丸を胸に、膝を抱えて泣いた。
…どのくらい泣いていたのかは分からない。オレは何か音が聞こえたような気がして顔を上げた。赤丸も耳をピンと立てているから聞き違いでないはずだ。

「キバ!いるんでしょう!開けて!」
「…センセー?」

今度はさっきよりはっきりと聞こえた。
ほぼ毎日聞いてる人の声を聞き間違えるようなことはない。

紅先生だ。激しくドアを叩いている。
どうしたんだ?と不思議に思った。オレはこもっていたトイレから出て、玄関の鍵を開けた。瞬間、血相を変えた紅先生がオレの顔を両手で掴む。

「ど!どうしたんだよ、センセー」
「…あんたは、大丈夫よね?」

真剣な目をして、オレのどんな嘘を見逃さないと言うように睨み付けてきた。オレはさっぱり紅先生の言っていることが分からない。
大丈夫?

…全然大丈夫じゃねーよ、アレが死んだんだ。

「ナルトが死んだの…知ってるわよね?」

オレは途端に呼吸が乱れた。
アレだ。
アレが死んだんだ。

「キバ?」
「ナルトナルトなるとは赤く冷たく染まったオレンジ空は赤く血はオレを染める」
「キバ!」

意識が朦朧として、意味不明なことが口を付いて出た。

紅先生はオレのほほを力いっぱい叩いた。痛みに我に返る。頭が少しだけまともに動き始める。

「オレが…オレが最初にアレを見つけたんだ」
「アレって?」
「…あれはアレだ。あれはアレ以外の何者でもない」
「ナルトね?」

ナルト?ああ、あれはあれでナルトであったアレだ。
オレは表情をぎこちなく動かした。泣きそうだ。いや、もう泣きまくって目とかが真っ赤に腫れていることだろう。オレはそれを思い出して泣きはらした顔を見られたくないと下を向いた。せんせーは、なぜかオレの肩においていた手をこわばらせた。

「…キバ、ヒナタを知っている?」
「ヒナタ?」

ああ、オレのチームメートだよ。
知ってるに決まってる。アイツは、ナルトが好きなんだ。ナルト君ナルト君って、横で見ているオレが背中を押す…もとい、どついてやりたくなるようなやつだ。

「ヒナタは!?あいつ…ナルトのこと…!!」

ナルトのことをすげー好きだったから…あいつ…もしかして思いつめて…!!

「いいえ。ヒナタは生きてるわ…。でもあの子…」
「ヒナタがどうかしたのかよ!」
「…こっちには来ていないのね。もし、もし、ヒナタが貴方のところにきたら、私のところに来るように言って頂戴」
「紅せんせー…顔色が悪いぜ?せんせーこそ大丈夫かよ?」
「ありがとう。…キバ」

微笑んで、紅先生はすぐに消えてしまった。
一体何をしにきたのだろうか。ヒナタのことしか話していない。

…ヒナタがどうかしたのか?

なぜか口元が緩んだ。

わりぃなヒナタ。オレがお前の大好きなナルトの死を、最初に確認したんだ。

うらやましいか?
うらやましいだろう?

…なぁナルト。
オレが最初にお前を見つけたんだ。

他の誰でもない、オレが。


赤く彩られて、死んだお前を。


くすくすと笑い出したオレを赤丸がおびえた目で見たが、そんなことは知ったこっちゃない。

キバ