まだ、死ねない
※ロードちゃんへの残酷描写がちょっぴりはいるにゅ。(「にゅ」とか言って緩和してみる)
「止めろッ!!」
僕の制止の声をAKUMAは聞かない。
「ユウッ!!」
「神田!!」
叫び声は、届かない。
「――……ッ!!!」
深々とAKUMAの爪は神田の胸を突きささり、背中へと突き抜けた。
赤く染まった爪先はひたひたと禍々しく光る。
「ぐッ…ハッ…」
小さく呻き、神田の体は串刺しにされたまま中へと投げ出された。
糸の切れた木偶の人形のように神田の体が宙へ舞い、抜きとられた凶器の跡から血が噴出し、赤い虹が空間を彩る。
「あ…」
アレンは言葉をなくす。
「リナリーー!!」
唯一動けたリナリーが果敢にAKUMAに立ち向かったが、彼女の身体はいともたやすく捕らえられて壁へと激突した。
頭から血を流したリナリーはくたりと動かなくなった。
吸い込んだ血臭は、体の細胞のひとつひとつを冷たく焦がした。
アレンは傷ついた右腕のイノセンスを庇いながら立ち上がる。
「ア、レン?」
「逃げろ、アレン君。君はまだ動けるんだ、ここは僕がなんとかするから、リナリーを…」
同じく傷ついた立っているのもやっとのラビ、瓦礫の中に埋まるようにしていたコムイが言う。
けれど、どうでもいい。
よくも神田を、
五月蝿い。黙れ。もう―…
「――…ああ、もう、オマエラ、ウザイよ」
僕が止めろと言ったのに。
それを聞かなかったオマエらが悪い。
―…アレを殺すのは、僕なのだ。
「だから、コワレロ」
僕は微笑む。凍てついた笑みを。
アレンは左手を肩の高さへ横に水平に持ち上げた。
それは奇妙な湯気のような霧を発生させて見る見るうちに傷一つない状態に復元されていく。
自己再生を図ったアレンのイノセンスにコムイは驚きながらも、常とは違うアレンから目を離さない。
「はぁ?オマエは何を言ってるんだー?」
AKUMAは首を傾げてアレンを嘲笑する。
「神田。コムイ」
アレンは呼びかけた。
「耳を塞げ」
言葉の
「口を噤め」
ひとつひとつが
「そして、瞳を閉じよ」
魔法のように
「―…僕の姿を見るな」
アレンの呟きの言葉は力を持ってイノセンスを持つものにへと強制的に働いた。
唯一、コムイだけがアレンの言葉を受け取ることなく、微かに意識を保ち、薄く目を開けている。
アレンは神田とラビが意識を手放したことを後ろを振り返らずに確かめたアレンは正面からAKUMAを見据えた。
アレンのイノセンスがAKUMAに向けられる。音もなくピンポン玉ほどのの大きさの塊が吐き出され、ふよふよと空間を漂ってAKUMAに向って飛んでいった。
「なんだーこりゃ、ハハハ!」
AKUMAはよろよろと飛んでくる、どう見ても出来損ない、不発にしかみえないピンポン玉を避けようともせずに自ら手を伸ばして掴んだ。
―…プシュ
「ア?」
炭酸の抜けたジュースのような音が音がして、AKUMAは粉々に砕け散った。
べチャベチャトはじけた柘榴のようなAKUMAの身体はそこら中に飛び散って、悪臭を放った。
赤赤赤赤。広がる赤は、赤く黒く。色を変える。
「うわぁ!すごいね、アレン。急に強くなっちゃった?」
ロードは一方的に痛めつけられて反撃してこないアレンたちを詰まらなそうに見ていただけだったが、やっと反撃してきたアレンに嬉しそうに笑った。
無邪気ともいえるロードの笑みを、アレンはじっと見つめた。
「なに?」
答えてくれないアレンにロード不機嫌に眉を寄せた。
アレンはゆっくりと破壊された瓦礫の上を歩く。途中、AKUMAの肉体のかけらを踏み潰して。
アレンの靴の下で、ますます肉は踏みにじられる。
「―…僕の過去の名を持って、お前達を滅ぼそう。けれど、僕の前で僕の獲物を奪うのならば、お前達は――…身の程を知れ」
「ハァ?」
ロード・キャメロットはあからさまに聞くものに不快感を感じさせる聞き返し方してきた。
―殺すは僕だ。僕が、あの僕のかけらを持つモノを。
それを横から横取りしようとは…所詮はたかが愛玩人形のくせに。
「真実を教えてやろう。お前らこそがノアの人間に作られた愛玩人形」
悲しいノアの人々が、可愛がるためだけに作り出した不死身の人形。
人形であることを忘れ、自身が強い人間だと思い込んだ、哀れなピノキオ人形達。
「ずっと、情けはかけてきた。『ノアズ・ドール』。君達は自我を持ちえた成功体だったから。」
ロードの顔にいつの間にか先ほどAKUMAを一撃で倒した玉が命中していた。
ロードは人間(定義としては違うかもしれないが、人間である)を攻撃してきたアレンを信じられないような目で見つめた。
破壊された右目の視覚は断絶、脳漿の散失。
「う、ぁ、ぎゃあああああああーー!!!」
いつもだったらすぐに直るはずの傷が治らない。
なまじ意識と痛覚があるだけに、耐え切れない発狂するような痛みがロードを襲った。
「僕の名前はすでに誰も知らないだろうね。けれど、僕は僕であることには変わりない。だから、教えてあげるよ―…僕の名前はアレン。ア―レン・ウル・ノア」
転げまわるロードに、いっそ優しくアレンは言いながらも、容赦なくロードの頭を硬いブーツで踏みつけた。
グシャ…グシャ…グシャ
何度も何度も踏みつけると、ロードの頭部があったはずのところはただのミンチのミンチの肉の塊があるだけだ。
それでもなまじ強い回復力を持っていたロードの手足はビクンビクンと痙攣を繰り返している。
ドロドログチャギュチャ
耳を塞ぎたくなるような粘着音はどこか卑猥で、そのくせ、赤ん坊がこねくり回すいちごジャムのように無邪気に聞こえた。
<核>(コア)を破壊しないかぎりは何度でも復元する。それがノアズ・ドール。
けして不死ではない。哀れな人形。
もぞもぞと回復しようと蠢く、ミミズのような肉の繊維を見ていたアレンだが、やがて飽きたようにロードから視線を外した。
「千年伯爵…いや、■■■、いるのだろう?出て来い」
アレンは、不思議な響きの言葉を言った。
それは、千年公が遥か昔に捨てた名だった。
「いやいや。まさか貴方がアレン・ウル・ノアでしたとは…とんだ計算違いでしたゥ」
ふわりと、空間から千年伯爵が現れた。
「僕だって。君がそんな風にして生きているとは思っていなかったよ」
「ワタシだって、好きでこの体にしたわけではないのですよ?けれど、ワタシにはウル・ノアの人々のように何千年も生きられるような体は持ってませんでしたからゥ」
「馬鹿なことだ。こんな体は呪いでしかない。それを自分から求めるとはな」
「ええ、貴方はそうおっしゃるんでしょうねゥ」
「…」
「…でも、血族を皆殺しにした貴方がそんなことを言うなんて、可笑しいですねゥ」
「…仕方がない。我が一族はおごり高ぶった。この地上に根付いた時点で神である権利は失われたのに、」
「貴方も神に連なるものでしょう?」
「僕は違う!僕は…」
ノアの箱舟。
空を駆ける楽園から地へと降りたのち、神への畏敬を忘れ、滅びた一族。
それが、ノアの末路。
「どうして、その同属たちを殺した貴方が生きているんですか?」
「――死ねないからさ」
アレンは自嘲した。
「ほう?」
「白々しいな、千年公。僕がわざわざエクソシストなんかと行動をしている意味を分かっているのだろ?」
「そんなことありませんよ。いくら長生きしていても知らないことは沢山ありますゥ」
「…まぁ、別に構わないさ。僕が探しているイノセンスさえ奪わなければ」
「困りましたね、ワタシたちだって探しているんですよ、イノセンスを」
「僕が探しているイノセンスは貴様らには到底扱えないものだ。誰にも、僕以外には」
「…―いいでしょう。私たちが貴方に敵うわけがありませんからね」
千年公は深々とアレンに向かいお辞儀をすると、ロードの動かぬ身体を抱えて姿を消した。
完全に彼らの気配が消えるのを感じると、ちらりとアレンは神田と見やった。
そう、あれは僕が殺すモノなのだ。
―…僕の命で作った、イノセンスが全て僕の手に揃ったとき、全て破壊する。
そして、僕はやっと死ぬことが出来るんだ。
静かにその時を夢見て、クスクスと笑うアレンの姿を、コムイとティムキャンピーだけが見ていた。
the
end
別にロードちゃんキライじゃないです…。分かりにくい話ですな。残酷描写も未熟なり…。うん。特殊設定。
051010