蝶が羽化する音



「先輩…強く生きてください!」
「うん…あんま自信ないけど…君もね!!」


それは、弱者同士の約束だった。



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ある日、二人は意外な思いかけないとことで再び出会う。

「ツナくん!?」
「え?あれ!うわ!もしかして、セナ先輩じゃないですか!」
「ツナくんがどうしてここに…?」

ツナは驚いたように飛び上がってセナをまじまじと見つめた。その瞳にはありありとどうしてこんなところにセナがいるんだろうという感情が表れている。けれど、それは声をかけたセナにしてみても同じだった。どうしてこんな得たいの知れないところにツナがいるのだろうか。
セナとツナが互いに驚いた表情で向かい合っているのは、まず普通の人間がこないであろう場所だった。

「いや…その。オレは問答無用で連れてこられたっていうか…せ、セナ先輩こそ、どーしてこんなところに!?」
「ぼ、僕?僕もその…うん、いつのまにか引きずって来られて…」
「セナ先輩まだパシリしてるんですか?」

セナは正直に答えた。するとツナは眉を潜めてセナを伺った。小学生時代から二人はパシリとしての役割をこなしていた。セナにとって唯一後輩(あるいは、唯一の友達)として親しくしていたのはツナのみだった。
セナが中学一年のとき、ツナは小三だった。二人の年の差は四つほど空いている。ツナはセナと入れ違いのように並盛中へ入ったのでセナと顔を合わす機会が全くなかったのだ。セナ先輩ってば、相変わらず不思議な髪型しているから一発で分かった…とツナは心の中で思った。

「うううん!それはしてないよ!あ、僕の入った高校知ってる?」
「えっと、泥門でしたっけ?」

あまり自信がなさそうにツナは答えた。

「そう。そこでアメフト部に入ってるんだよ」

ツナが知っていてくれたことを嬉しく思って微笑みながらセナは言った。

「へー…っ!って!?セナ先輩アメフト部なんかにはいって体は大丈夫なんですか!?」
「あ。あはは…やっぱりそこが心配になるよね…うん、でも主務だから、実際に試合に出ないし…(ほんとは出てるけど)」

本気で心配したようにツナはさっとセナの変わらず貧弱そうな身体を上から下までざっと眺めた。セナはちょっとだけむなしさを感じながらもそう思われるのは仕方ないかと思う。小学生のころのセナはちょっと小突かれるとすぐに泣くような子供だった。ツナは間近でそれを見ているのだから身体が激しくぶつかり合うスポーツをセナがしていると聞いて心配しないわけが無い。
セナが試合に出ていないと聞いて、ツナはほっとしたように笑った。

「すごいですねー。オレも高校どこいくかそろそろ決めなきゃだめかなー」

ツナは言いながら嫌そうな顔をした。高校なんかまだ考えたくない。

「今、中1だっけ?」
「そうですよ」
「…えっと、どう?学校は?」

セナとしては当たり障りの無い話題を提供したつもりだった。数年あっていなかったツナに何を話していいのか分からなかったし、そうなると二人の間に共通する話題は小学校か中学校ぐらいしかない。

「……聞かないで下さい。毎日狂犬がうろついてます」

物凄く、達観したような様子でツナは言った。どうこの様子を表現すればいいのか分からないが、こう、後光が差しているのに関わらず足元にはドヨーンとした斜線が渦巻いている感じだ。

「(なんか今、ツナくんの雰囲気が違った!?)えっとー…ツナくんの連れは?」

セナは話を逸らした。
ツナはフッとどこかはけなげに微笑してセナの足元を指差した。

「…ツナ先輩の足元に」
「えっ!?」

セナは足元を見た。そこにはいつの間にいたのか、小さなくりくりとした瞳の上から下まで黒のスーツで決めた幼児(というか、赤ん坊?)がいた。ちなみに帽子にはカメレオンが載っている。ああ…葉柱さんの親戚だ…とセナは間抜けに失礼なことが考えた。

「よう。ツナの先輩か?ツナが先輩と呼ぶだけあって似たような弱っちょろい面してやがるな」
「…リボーンです。リボーン!なに失礼なこと先輩に言ってんだよ!」

ツナはリボーンを睨んだ。

「オレは事実を言ったまでだ」
「…」
「…」

セナとツナは口を噤んだ。
セナも自分が弱っちょろい顔をしていることは自覚しているため、なおさら反論できない。

沈黙が痛い。

セナとツナは二人して視線を合わせた。気まずい雰囲気なのはお互いに分かっている。そしてその原因はリボーンのせいだ。

「糞チビ?何してんだ?」
「ヒル魔さん!」

にょきっと後ろから生えてきた手がセナの頭に載った。ヒル魔さんってだれ?と思いながらツナはセナの背後の人物を見た。ツナは突然現われた金髪で眉毛が細いいかにも怖そうな男にビビった。弱虫根性は人の外見にたやすく反応するのだ。リボーンは気安くヒル魔に向かって言った。

「よう、久しぶりだな。ここんとこ噂を聞かねーと思ったら、こんな僻地でコーコーセーか?」
「なんでテメェがこんなところに嫌がるんだ、糞赤子」

ヒル魔はあからさまに柳眉を潜めているものの、その口調にはそれほど悪感情が含まれていないことをセナは気が付いた。金髪といえばツナの中では外国人が思い浮かぶ。リボーンが自分から「久しぶり!」とか言いながら挨拶を交わしている辺りがこの青年を恐怖させる一因でもある。

「ヒル魔さん!?知り合いなんですか!?」
「リボーン!?知ってるの?」

ツナとセナは同時に声を上げた。

「もちろん知ってるに決まってるだろーが、なぁ…?最強の糞ヒットマン・リボーン」

にやっと笑ってヒル魔が言った。

「ヒットマン?」

不思議そうにセナは首をかしげた。その様子にツナは「羨ましい…セナ先輩、そんなものには関わりなく生きてきたんだなぁ…」という眼差しを向けた。しかし、リボーンをヒットマンと知っている裏世界に通じているだろう男と、どうしてそんな男とセナが一緒に射るんだろうかとツナは不思議に思った。

「殺し屋のことだ。この赤ん坊はそういう乳くせぇ成りを甘く見るとトタンに脳天に風穴開けられるぜ。糞チビ、死にたくなかったら離れてろ」
「は、はい!」

ヒル魔の端的な言葉に、飛び上がってセナは一瞬でヒル魔の背後に隠れた。そのあまりの速さに一瞬ツナはセナが瞬間移動したように見えて呆気に取られる。セナの足は自分とは違って速くて、パシリとしては重畳されていたのはいつも見かけていたが、そのころよりも走るのが速くなっていないだろうか?

「おー。よく調教してあんじゃねーか。ツナも見習え」
「はぁ!?何を見習えってんだよ!」

従順にかつすばやくヒル魔に従ったセナをリボーンは面白そうに笑った。笑ったといっても、セナにはそれは分からない。ツナは何ヶ月もの付き合いでリボーンが機嫌よく笑っていることに気が付いた。ヒル魔も同じく気が付きケッと鼻で笑った。リボーンは突っ込んだツナを無視してヒル魔が担いでいるものに目線を向けた。

「こんなとこでもそんなデケェ下品なマシンガンを持ち歩いてんのか?相変わらず趣味を疑うな」
「黙れ糞赤子。こんな東洋になにしに来てんだ?…おっと、そういや聞くまでもなかったな。ボンゴレの代替わりだろ?死にそうなおっさんをおいて日本まではるばる来日たぁ天下のヒットマンの名が泣くぜ」

ツナはマシンガンと聞き、ヒル魔を改めてみた。なるほど、確かにヒル魔は背中にマシンガンを担いでいる。どうして今まで自分が気付かなかったのか不思議だ。しかし、獄寺という例がある。彼もいつもどこに大量のダイナマイトを隠しているのだろうか。まぁ、きっとそれはツナには分からない獄寺不思議の一つだ。

「口だけは達者だな。そのセリフはそのままてめーに返してやるぜ。ゴールデン・フォックス<金狐>」

リボーンは冷静に言った。

「ゴールデン・フォックス!?」
「ゴールデン・フォックス?…」

ツナが驚いたように叫び、セナは全く分からないと首を傾げた。
ツナは嘘だろ!?という表情をしてリボーンとヒル魔を見比べたが両方とも否定をしない。

「ツナ。お勉強の時間だ。ゴールデン・フォックスについて知ってることは?」

ツナはごくりと息を飲み込んで今までの家庭教師の成果を発揮する。ここでもし「忘れた」と言ったら死ぬ気弾を打たれて「死ぬ気で思い出す!」ということになりそうだ。それは勘弁して欲しい。セナの前であんな露出狂のような真似はしたくない。
だが、今回のリボーンの質問はそれほど難しいものはなかった。ツナは良く覚えている。

「……世界をまたに駆けた凄腕の傭兵。彼の参加した側は不敗を誇る。しかし、実態は不明。狐が化かすように戦況を左右する作戦力から、ゴールデン・フォックスと呼ばれる」

それが、ゴールデン・フォックス。

「正解だ」
「ほう。そんなことをそんな糞ガキが知ってんのは不可解だな。…つーことは、ソレが新しいボンゴレの十代目か?」
「ああ」

ヒル魔が面白そうに眉を跳ね上げて鋭くツナを視線で捕らえた。口元は吊りあがって笑みのような形を取っているものの、瞳は友好的なものはひとかけらも感じられないと、ツナは思って知らず後ずさる。ヒル魔はにやりと笑った。

「…敵対組織に売れば、大層な値段になるんだろうなぁ?」
「やってみろ。お前の脳が散乱するぞ」

ジャキーン!
カシャーン!

双方が取り出した武器にツナとセナははっと我に帰った。

「リボーン!やめろって!」
「ヒル魔さん、駄目ですよ!!!」

リボーンが武器を出したらヒル魔が殺される。
ヒル魔が武器を出したら赤ん坊が殺される。

…双方の考えは、固有名詞を変える以外のところで見事に一致していた。

「…って言ってるが?」
「っち。しょーがねーな。テメェと遊ぶのは今度にしてやるよ」

ツナはリボーンの台詞に、このヒル魔という男はリボーンが格下と見ていない相手であることを悟った。それはそれでこの男が最凶に危険なことを表しているに過ぎない。ツナはますますどうしてそんな人間とセナが一緒に射るのかが分からない。自分のようにいきなりマフィアの後継者だとか言われているわけでもなさそうだ。
ヒル魔はツナの上から見下ろした。威圧的なヒル魔にツナは首を竦める。ヒル魔はどこか昔のセナに似た反応を見せるツナに好奇心が湧いた。

「糞ガキ。テメェの名前は?」
「オレは沢田綱吉です!!」
「綱吉…あれか、将軍と同じ名前だな」
「あ、はい」

ビクビクしながらツナは答えた。

「先輩…この人…ヒル魔さんとは一体どういう関係なんですか…?」
「ヒル魔さんは…部活の先輩なんだ」
「ぶ、部活って…アメフトの?」
「うん」
「……」

どうして部活の先輩が傭兵なんだ…ツナは世の中は間違っていると思った。本当に頼むから、誰かオレに平凡だった日々を返してくれ。

「ツナ。帰るぞ」
「あ、うん。あの!セナ先輩…毎日楽しいですか…?」

この場にはもう用は無いとばかりにさっさとリボーンは出口に向っていった。ツナはリボーンの後ろを追いかけようとしたが、セナを振り返って聞いてみた。

「うん!」

セナは晴れやかに笑った。ツナはほっとした。

「ツナくんは?」
「オレですか…?オレは……」

質問を返されて、ツナはふと考えた。

「…ええ、楽しいです」

ツナも最上級の笑みを返した。

「じゃあね。ツナくん」
「はい…先輩も…」

二人は笑顔を交し合う。昔みたいに悲しい笑顔ではない。
心から喜びの笑顔を。

二人は思う。
仲間が出来たんだ、友達が出来たんだ!


毎日が楽しい!!


「セナ、行くぞ」
「あ、はい!」

セナは小走りにヒル魔の後を追った。






道は再び交差する。



the end

REBORNI×C21のクロスものです。一回やってみたかった。ネタがあったらまた書きたいです。