やっと愛してくれたね


京子さんが死んだ。



やっと愛してくれたね



「ツナさん…」
「…ん、どうしたハル?」

ツナさんは疲れています。
とてもとても…疲れています。まだまだ子供っぽく丸みを帯びていた顔は、この何日かですっきりと余分な肉が削げて、すっきりとしてしまいました。
大人になってしまったようです。子供ではいられなかったのです。
声をかければ、笑いかけてくれます。いつもの優しい笑顔を振りまいてくれます。けれど…

「ハルは、嫌いです」

私はじっとツナさんの目を見つめてきっぱりと呟きました。
薄暗いカーテンを閉め切った部屋の中でソファに腕を回してだらしなく寛いでいるツナさんは私の強い言い方に、右手で顎をさすって困ったように微笑みます。

「なにが?」
「……ツナさんの、フェイクの笑顔なんて全然欲しくありません」
「そう?」

あいまいにツナさんは苦笑しました。

「しょーがないよ。オレ、この笑顔しかできねーもん」
「…そんなことありません」

ツナさんはいつだって感情豊かに表情をころころと変えます。喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、泣き…なのに、今のツナさんは能面を被っているように笑っていません。顔の筋肉が動いているだけです。そこに感情なんてなにも宿っていないのです。

「私じゃ…ダメですか?」
「ダメって?なにが?」

ぎゅっとお腹の辺りで両手を見つめながら、ハルは言いました。不思議そうにツナさんが聞いてきます。

「私じゃ…京子さんの代わりになれませんか?」

沈黙。


心が痛い。

…これが、無言の答えだから。
ツナさんは疲れたように薄く笑って首を振りました。


「なれない…誰も、京子ちゃんの代わりなんかになれないよ」


泣くな、私。


「そうですか…」

にじみそうになる視界に、私は俯きました。
ぽたり、と一滴が床の絨毯に吸い込まれていきました。



「……だって、ハルはハルだし。京子ちゃんとは違うよ?ハルは、ハルとして、好きだよ」


本当に小さな声だったので、私は聞き間違えかと思いました。俯いた私の腰の辺りに、ツナさんが膝をついて抱きつきました。

「ひう!」

突然のことで、私は吃驚しました。


「でもさ、ごめん。ハルの気持ちを利用するようで悪いんだけど、オレのこと抱きしめてくれない?」

強いあなたが震えています。
けれど、涙は流しません。
強いですね。

男のあなたたちには出来ません。
抱きしめることは出来るかもしれない。
私は女なのです。

悲しいほどに女なのです。
いつまでも無邪気でいた京子さんと、私は違います。

この手を、血に染めたとしても。
私は、ツナさんの隣で一緒に生きたいと思うのです。
同じものを見て、同じものを考え、私が、ツナさんを。



包み、守ります。



京子さん、私はこの人を癒します。
私の全てをかけて癒します。

その、狂気すらも。


…私には、愛しいのだから。


いつからこんなにツナさんのことを好きになったのか。
私にももう分からない。ただひとつ、私はマフィアのボスの妻になる。その一念が憑かれたように心のなかに存在していた。中学生で出会って、ずっと一緒に無茶をやって、ツナさんはいつも困って慌てていたけれど、楽しそうに笑って。

いつまでも、続く私たちの未来への希望。


「ハルは…どこもいかないで」


ええ、京子さんは逝ってしまいましたね。
私たちを置いて。

どさりと、私の体が柔らかな弾力のあるソファへと倒されました。胸に顔を埋められ、ツナさんは私の身体をまさぐります。熱が私の中に満ちていきます。私はツナさんの柔らかい茶色の髪を、微笑みながら撫ぜました。


「やっと…私も愛してくれるんですね」


私は幸せです。
あなたに少しでも愛されるのなら。
あなたが、傍にいるのなら。
恋焦がれ続けたあなた。


私は、あなたと一緒に。



満ちていく、熱と私。



the end

京子ちゃんが死んで、仇をぶっころした後のツナとハルみたいな。…エロを入れようか真剣に悩んだよ。…恥ずかしいからやっぱり止めた!(純情派)