end

10.5


ア オ イ




美しい人だ。と、思ったことは無い。
黒髪黒目の瞳は確かにミステリアスな雰囲気を醸し出していたし、時折こちらまで不安にさせるような深い寂しげな光を見せることもあった。『彼』はパーツのひとつひとつはよくよく見れば整っているのに、全体の印象は平凡だった。
色が無い、と評すればいいのだろうか。パッとした華やかさが無く、詰まらない。彼程度の容姿を持つ人間なら兵士のなかにもいくらだっているし、到底アキラさまに敵うようなものでもない。


――…しかし、総帥閣下が望んで籠に閉じ込めた。


そして、私に付き人の真似事をさせた。総帥閣下ひいてはアキラさまの命令は絶対だ。従い、私は『彼』という人間の世話係となった。
なぜ、四天が一角の私がこのようなことをせねばならないのか、そんなもの他の力もない人間にやらせればいいのに、……と何度思ったことか。


同僚のユーヤに零せば、

「でも、彼はシキさまにとって大事な方なんだろ?俺、見たことないから、任されてるアオイのことがちょっと羨ましいけどなぁ」

……変わってやりたいものだ。と俺はため息をついた。


守れ、と言われた。
命を懸けて守れということだ。それは私の命が総帥閣下にとって『彼』よりも低いということを表している。


弱いものを守れ。

それは弱いものの価値を認めない総帥閣下に矛盾する。力こそが全て、弱者の価値はない。

それが、『彼』の存在で覆した。

他でもない、総帥閣下自身によって。




だから、壁に控えながら『彼』を観察する。

その横顔に向って問いかける。






お前の価値とは なんだ?