次に眠ろうと目を瞑る瞬間が夢からの剥離だったら










俺の名前は山田太郎(仮名)。
だが、今の名前はイチロー・スズキ(偽名)。


しかし、その実体は最高に名高い伝説の大魔法使いサラザール・スリザリンである!!








さて、なにやら仮名に引き続き偽名まで持ってしまった俺。
なぜそんなものを持ち出しているのかというと、俺は只今年代を感じさせる城にいる。
そうだな、ざっと千年以上たっている建築物である。

ここはどこだというと、ホグワーツ魔法学校である。


そう、オレは一般生徒としてホグワーツ魔法学校に入学したのである!!


「イチロー・スズキ!」

俺は意気揚々と組み分け帽を被った。
頭の中に無遠慮に何かがが入って来ようとするのはプライバシーの侵害の面から見てもムカつくので俺はとっとと心を閉じた。

『…ッ。なんと!君はその歳ですでに閉心術が使えるのかね?』

頭に響くしわがれた声。
俺は一部のブロックを外して答える。

『そうだ。で、俺の希望としては…んー…あー…どーなんってんのか見たいからスリザリンがいいや』
『ふむ、スリザリンを希望するのか…まぁ良かろう。スリザリンに入りたいというなら…』

馬鹿(ゴドリック)のとこでもいいかなぁと思ったんだが、ヤツのところへ行くと似たような性質のやつらばっかりな気がするのだ。

それに、ハリー・ポッターがいるし。
ぶっちゃけ、俺ってばハリー・ポッター嫌いなんだよねー。



『スリザリン!!』





スリザリンのテーブルが湧き上がる。俺はまぁ、そのテーブルに行って監督生と思われる人間に引き止められる。

「ようこそ、スリザリンへ!君は純血?」
「…まぁ、誰よりも」

いや、ほんとに俺は誰よりも純血だと思うぞ?
だって、遥か千年前の人間だし。魔法族の血の古さで言ったらかなり古いぜ?

「そうか、じゃあいいんだ。東洋の人間がスリザリンに入るなんて珍しいんじゃないかな?」
「名前は東洋ですけど、実際に東洋人じゃないんで」

先輩に素っ気無く返して、オレは席についた。斜め前に座っている少年になにやら見覚えがある。ふむ、あれは…

「君、ドラコ・マルフォイかな?」
「ああ。そうだが…お前は?」
「俺はイチロー・スズキ。シクヨロ!」
「ドラコ・マルフォイだ」
「ん。宜しく。眠れる龍よ」


俺はドラコ派なのである。



■□■



さて、俺がどーして千年後に生きているか。そのカラクリはまぁ簡単だ。
ホグワーツを他の創立者たちに押し付けてから、俺は研究に没頭した。問題はいかに長く生きるかである。俺は考えた。

そこはやはり賢者の石を作るのである。
しかしながら賢者の石の作り方がいまいちわからない。

手っ取り早く、戦場となる場所に魔方陣を書いた。
ふふ、そう!俺がしたのは鋼の錬金術師に使われたであろう賢者の石の作り方!!
魔法使いである以上、それなりに錬金術というものは発達している。
まずは何千、何万の人間の血を使って高密度の賢者の石を精製した。ビービー弾ぐらいの大きさにしたものを三個できた。
ひとつでまぁ、百年ぐらいしか生きられないだろう。それにもし、俺が不慮の事故で命がなくなったら替わりに賢者の石が砕ける。
身代わりの役目も果たすという便利な代物である。

そんなものは三個もあれば十分。
それから俺は冬眠する。あれだ、荊姫のように眠るのである。
自分で自分にかける呪いだ。百年に一回起きていろんなとこみたりしてまた眠って起きて眠って起きるの繰り返し。

まぁ、俺が起きるたびにしもべ妖精がきちんと家の管理をしてくれているんだけれどね。
まぁ、起きると時代が凄い変わっているのが良く分かるよ。中世から近代。
いやはや…人間界とは移り変わりが素晴らしい。それに引き換え魔法界は…それなりに動いてはいたが基本的には保守的だな。


別にいいけど。


というわけで、俺は不死ではないが、不老だ。
基本的に俺は人間はいつか死ぬべきだと思うので、絶対に死にたくないとは思わない。だが、歳をとってよぼよぼのジジィになって死ぬのも嫌だ。
痴呆の始まったジジィになって汚物を垂れ流して生きるぐらいなら死んだほうがマシだ。


ちょこまかとしている魔法使いというのはとてつもなく嫌いなのである。


さっきから俺はいらいらとしている。
なぜなら、大変にウザイのである。何がウザイかって?

ターバンの先公である。
俺はどうも間が悪いらしく、例のリドルがヴォルデモート卿になったあたりの年代は寝ていたのである。凄まじく詰まらん。

で、この話はまぁ恐らく遥か昔に読んだ物語のようになるのだろう。
そうだろう。そうでなくてはならない。
だから、我慢するのだ、俺よ…!!
折角生徒としてもぐりこんだのに、こんな早々にターバン先公からの悪臭に切れそうになっているんじゃねーぞ、俺よ!!


おおおおお…駄目だーーーー!!


ガッチャーン!!

俺は目の前の皿をひっくり返した。それはまぁ、テーブルとひっくり返すのと違ってさほど俺は注目を浴びなかった。隣や斜め前の、俺と割と席が近いやつはどうしたんだと見てくるが。

俺は俯きがちに肉を切っていたフォークとナイフを掴んだ手を教壇席に目掛けて投げた。
目にも留まらぬ速さで投げられたナイフとフォークはかなりの殺傷能力を持ってターバン(なんて名前だったかなんて覚えてねぇ。覚えるつもりもねぇ。)へと向かう。
誰も…いや、俺の周りにいる数名の生徒が俺がしたことに唖然としている。

「ひっぃ!!」

しとめたと思ったのだが、驚くほどの回避能力を発揮したターバンが避ける。
チッ、眼球と喉を狙ったのに避けられたか…いや、少し喉もとにフォークはかすったか。

ガッターン!と派手な音を立ててターバンが椅子から転げ落ちた。

「大丈夫ですか、クィレル先生!」
「い、や、あは、い」

動作不審にターバンを抑えながらターバンが立ち上がる。椅子の倒れた音は大きく、生徒がお祭り騒ぎの食事を止めて何事かと教壇席を仰ぎ見た。

「誰じゃ!」

ダンブルドアだっけ?力はそれなりにあるくせに、全然役に立たないと評判の校長が立ち上がって生徒たちをぐるりと見下ろした。

あーあ。馬鹿じゃねーの?

「…俺ですよー」

はいはーい!と手を上げて俺は立ち上がった。
大半の生徒は俺が何をしたのか分かってない。分かっているのは俺が何かをしたらしいということ。立ち上がった表紙に獅子寮で興味深げに首を伸ばしている赤毛の双子が見えた。
ああ、双子だ。あの双子はいいキャラだよなー。

足取りも軽く、俺は教壇席の方…もとは組み分け帽があったあたりに立つ。まぁ、舞台の中心に立ったということですかな。


「君は確かイチロー・スズキだったかな?」

校長が聞いてきた。いい髭してますね。

「ノンノン、すんまそん。それ、偽名なんです」

ちょっとだけ申し訳なさそうに言っておく。
嘘は泥棒の始まりというからなー。謝れるときはいちおう謝っておくのが俺のポリシィ!

「して…、なぜクィレル先生にナイフとフォークを投げたのかね?君の行為は問題だのう」

一見、穏かに問いただしているようだが、その眼は結構冷たくて怖い。おお、流石は『闇殺しのダンブルドア』と異名をとっていただけはある。
つか、俺の偽名発言はさらっと流されたんだけど、そこってどーなの?突っ込み…ああ、ヘビロクが懐かしい!


「いやぁ…そいつに憑いてる悪臭の元を、殺したくてたまらなくて…」

殺気を載せて微笑むと、場の空気が軽く冷たくなった。
背後で生徒たちが持っていたフォークやらスプーンやらを取り落としている音がする。


「そこは神聖な教師陣…未来を担う子供を育てる教師が座る席なんですよねぇ…そういう人が座るために作ったんですよ?」

一歩、俺は近づく。
スネイプらしき先公が眼の端で俺に向かって杖を振るったのが見えた。俺はそちらにむけて手の平を向ける。
それだけで、スネイプが出した呪文は消滅する。

あー…なんか、今の一撃で分かったわ。
魔法って、かなり衰弱してやがる。ツマンネーなぁ…。
スネイプは驚いた顔をしているが俺の知ったこっちゃない。スネイプのキャラも悪人ズラでいい感じの人で虐めたくなるから好きだよ。

「校長。俺はそいつが殺したい。だから、くれはぬか?」
「何者かな、君は?」

校長自身の手が杖に伸びる。

「ハッ!まさかここにいる者は俺が闇の帝王の関係者かとでも思っているのか?それこそ、腹片が痛いわ。そこなターバンを寄こせ。悪いようにはしない」

いらいらとしてきた。あぁ。メンド癖ぇなぁ…。
膠着する事態。動かぬ人。固まる生徒。

「………ああ、もういい。ここの法律は俺だから、俺が勝手にするわ」

俺はパチンと指を鳴らした。

ゆらり、と空間が揺れる。
ぼこぼこと地面が起伏する。

現れたのは兵士。遥か中世の騎士団。素敵な素敵な俺の私兵。

ざっと七人の亡霊。どの顔も女どもが喜びそうな美しい造詣だ。(いや、顔の美形で選んだわけじゃないよ?そりゃ、俺って面食いだけどさぁ…)

『我が主よ。馳せ参じましたは我等に命を』

一斉にマントが閃いて、膝を突いて剣を掲げるように前に出す。
それは一種の荘厳な儀式のような美しさ。この城の装飾がさらにその美麗さを引き立てる。

俺はうっすらと笑いながら教壇席のやつを指差す。

「アイツ、俺の目の前まで引き立てて」
『ハッ!』

四人の騎士が動く。
その光景に眼を奪われていた他の教師たちが我に帰ったように俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。
…なーんで俺が攻撃されるわけ?
しかも、なんか高度な術が多いし…まぁ、威力的には大したこと無い。
何度も言うように術の劣化が激しいねぇ…。

残りの三人の騎士が俺の周りを守る。(どうでもいいけど、俺が子供の姿のために三人が壁になって周りが見えにくい…)
魔剣を持つ彼等はその魔法の閃光を見極め、切り捨てる。

なんか怖そうな魔女…なんだっけ…マクドナルド?…違うな。なんかそんな名前の魔女がその間に生徒たちに向かって叫んだ。

「監督生!直ちに城から脱出を!!」

一斉に立ち上がった生徒たちは我先にと逃げようとするがそこは監督生の必死な誘導で行動しようとした。
しかぁーし!そうは問屋が卸さない。

「急げ!順番にッ…」

誰もが簡単に開ける大広間の扉が硬く閉じられたまま開かない。

「先生!扉が開きません!」
「そんなッ、なぜ!」

例のマクドナルド魔女が焦った顔で言った。この先公って慌てるイメージないんだけどなぁ…珍しいものが見れたということで。

生徒たちは恐慌状態に陥った。ああ、マジでメンドイ。つーか、うっさい。

「あー…別に、君たちに危害は加えないよ?別に俺お前等の敵じゃねーし」

後ろを振り返って言ってみるが、効果は薄いようだ。
いやぁ、俺の目の前には騎士と魔法使いの戦いが行なわれているわけだからなぁ…滅多に見れんぞ、魔剣で戦う騎士と魔法使いの戦いなんて。

ああ、俺の愛しのドラコはどこかなぁと思ってちょっと探してみると…おお、いたいた。
気丈にこっちを見ているよ。おお、可愛いなぁ…!あのブルブルと震えているところなんか…臆病な白兎のようではないか!!

他のヤツもいるのかなぁと探してみたが、双子は相変わらずちょっとわくわくした顔でこっち見てるし(素晴らしいね、是非ともお友達になりたいものだ)、なんか知らんがハリー・ポッター君はこちらを睨みつけるように見ている。うわ、うぜぇ。
ハーマイオニーもこっちを睨んでるし…ロン?ああ、ロンはこっちを向いてないね。壁を賢明に叩いて脱出を図ろうとしているね…。


ああ、そうだ。
ポンッと俺は手を打った。


「あそこのそばかす赤毛の持っている指のかけたネズミ、連れてきて」
『了解しました』

騎士の一人が離れる。
素敵なグレーの髪と青っぽい眼を持っているステキガイ。
生徒たちは手当たり次第近くにあるものを投げたり、魔法を放ったりしているが騎士には通じない。つーか、もとは亡霊なので身体を通り過ぎるだけである。

「磔の呪文!」

気合が入った声がして、あれま!禁断の呪文が放たれましたよ、奥さん!嫌だなぁ…その呪文、俺きらーい。

「やった!」

やった!と喜ばれると悲しいよなぁ…殺った!だもんなぁ…。

「なんだとーー!?」
「変わり身の術です…まぁ、どーでもいいですがね。先生方もそちらにいないで怯えている可哀想な生徒たちのほうに行ってあげたらどうですか?失礼ですが、貴方方は未熟だ。俺には敵いませんよ」



ターバンが俺の前に引きずり出された
ついでに、騎士がネズミを捕まえてきた。


最初はピシッと着ていた制服のネクタイは緩めた。魔法使いのローブを後ろにはらって椅子のひとつに方膝を抱えて座る。
わお!俺の左右には我が筆頭騎士の二人が立って控え、残る五人がフ分散して立っている。


ターバンが見ているこちらがムカつくほど覚えている。ネズミも必死なって逃走を図ろうとしてるが亡霊をネズミが傷つけることは出来ない。

「ということで始めましょうかね」
「なにを始めるのかね?」
「……うるせぇな。無能なジジィは黙ってろ」
「ほっほっ無能とはのぅ。なにをしてかね?」

校長は余裕綽々…までは言わないが俺に聞いてきた。ハッと鼻で笑う。

「ここまで来ても気がつかないその愚かさ。このぐらいは気がついてもいいはずだ。それに引き換え、流石は我が蛇寮の寮監督は鼻が利く」

ニヤリと笑って憮然として今にも飛び掛ってこんばかりのスネイプを流し見る。

「詰まらんな。いいや。さっさと終わらそう。もっと早く芽を摘んでおけばこんなことには成らなかったんだろうけどなぁ…ま、所詮は過ぎたこと。レッツゴー人生!」

一人でオー!と拳を掲げて独り言を言ってみるが、帰ってくるのは冷ややかな視線。酷いヨー。

「じゃ、どっちを先にする。薄汚いネズミを先に処分するか」
「それは僕の…」
「ああん?何か言ったか、小僧?」
「……」

なにか抗議の声を上げようとしたロン少年に威嚇の視線をくれてやるとぶるぶると触れながら誰かの背中に隠れた。つか、その誰かってハリー・ポッター少年だ。
んだよ、その親の仇を見るような視線。


――…本来なら、親の敵のその視線、俺が弟から受け取るべきものだったのかも、な。


「では、始めよう…まず、そこのネズミ」

指差してくいっと手首を持ち上げると、その動きと一緒にネズミが宙に上がる。バタバタと四肢を動かす姿。うむ、ネズミよの。


「校長。少し過去のこと。そこな稲妻の少年の父親の友人を知っているかな?いや…覚えているかな?」

ちらりと、髭校長がハリー・ポッターを見る。

「…ああ、覚えておるよ。彼等はいつも一緒だった」
「そこな我等が蛇寮の寮監督も?」
「…ああ」

小さく頷くスネイプ。

「うむ。では覚えているだろう。裏切り者のことを」
「裏切り者…?先生!裏切り者ってなんですか!誰が僕の両親を…!!」
「落ち着いてくれるかな。話が進まねぇんだよ、餓鬼」

途端に元気(?)になったハリー少年を止める。
校長は昔を思い出すかのように目を瞑り、心なしか首を振る。

「……シリウス・ブラックが、裏切ったのだ…」

しみじみとかみ締めるように言う、校長。笑える。いや、事実が違うって知ってるから笑えるんだけどさぁ…。

「ばっかじゃねーの。つか、無能だな。無能。だから魔法界ってのは進歩がねーんんだよ。今時はDNA鑑定とかしろよ。ミジンコみたいになったて、それなりに調査できるだろーが、無能。ああ、そうだタイムターナーなんつー素敵な時間操作魔法用具あったよな。そーいうの使えよ、無能が」

無能を四回言ってやった。

「シリウス・ブラックは無実だよ。はい、これが証拠。【汝、真なる姿を現せ、解】

煙が上がって、ネズミが消える。いや、消えはしない。
ネズミがいたところに薄汚いハゲ男がいるだけだ。ああ、嫌だ。

「はい、ネズミ男のピーター君です。ポッター夫妻を裏切って闇の帝王さんに両親の居所を教えたのは、このネズミ男です。なぜなら、これは動物変身魔法っていうんですねー。スネイプは知ってたかな?あの、仲良し四人組はみんな何かしらの動物に変身できたって?」

スネイプに話を振ってみるが反応は薄かった。返事を返してくれないので肩を竦める。

「ま、美しきかな友情よっ!てな。あ、ジジィ。分かってると思うけど、ようするに無許可で申請せずに変身魔法を使ってたってことね」

自分の変身が解けたことに気がついた男はそれこそ顔を蒼白にして暴れる。うざーいよ。

「…汚いから縛って顔に布でもかけて俺の目に触れさせないでくれる?舌かまないようにしてね。ま、自決するだけの勇気のある人間じゃねーだろーけど」
『御意』

ポイッとネズミ男を放り捨て、騎士に任せる。彼はシリウス・ブラックをアズカバンから出すときに役立てなきゃね。シリウス・ブラックのヘタレぷりはどこか楽しみだ。
話しに着いていけてない一同。
いやいや、一部の先生方は理解しているらしいけどまだまだ半信半疑ってことかな。


「さて、真打が登場です!皆さん、拍手で迎えてあげてください!!」

わー!と再び一人で盛り上がって俺は引き立てられたターバンを見た。
俺には女王様趣味は無いけれど、こう、蹴っ飛ばしたくなるヤツだな。陰気だ。


「ご機嫌はいかがですか?」
「わ、わ、わ」

どもる。

「あんた、普通にしゃべれるんだよね?普通に話せよ」
「な、なんで、わ、わた、しを…」
「茶番はいいですよ。ま、俺も茶番だけどね」

楽しいことは大好きさー面倒なことは大嫌いさー。
ま、強大な力を持っている身としては、さっさとヴォルデモートとハリー・ポッター君の争いを止めさせたいわけですよ。
普通だったらさぁ、毎年のハリー・ポッターの活躍を脇役もどきでこそこそと暗躍したりしてハリーの成長を助けるんだろうけど。
それしてたら面倒じゃないか。(いやいや、最初は頑張ってそこらへんのことを我慢してドラコと戯れながら高みの見物をしようと思っていたのになぁ…)
俺の目の前にヴォルデモートがいるなら倒しちゃえ!
別にハリーの今後が普通の学生生活を送ることになるってことだ。ただそれだけやん。
むしろ、普通の学園生活なんだから、よろしいんでない?

「ここで気持ち悪いものをお見せしましょう!――…人面ヴォルデモートです!」

騎士がターバンのターバンを無理やり剥ぎ取った。

「ひっ!」
「なにあれ!」
「気持ち悪い…」
「なんと…」

三者三様。流石にこれには生徒を驚いてくれたみたいだ。俺は気を良くして解説にはいった。

「これはそこなハリー・ポッターくんの母親の愛の力によって、粉々に成ったヴォル君が頑張って復活している様子です。凄いですねー人間の執念って素敵だ!」
「まさか…そんな」
「…ジジィ。そこのスネイプはうすうすわかってたんだぜ。…たぶん」
「額が…痛い…」

ハリー少年が顔を顰めて膝をついた。心優しきハー子が慌てて介抱する。そうさ、人間顔の外面よりも内面の美しさだよな。


「おのれ…貴様なにものだ…」

凸凹した人面が俺に向かって言う。
いやぁ…見ると聞くとは大違い。腐った匂いは臭いですよー。

「貴様とか言っちゃうと、あとで後悔するのは間違えなく君だよ?っていうか、俺はかるーく怒ってるンだよねぇ…我が弟に…プリッ」
「弟だと?俺様には兄も弟もいない!肉親などいないのだ!」
「……俺様?俺様とか一人称やめれ?これ命令だから。そんな言葉使いされちゃうとお兄さんこまっちゃうよ?」

さてさて、どーしようかな。
この阿呆。俺様とか言っちゃってるよ。俺様何様アホ部様?

「まぁ、テメェが復活したって俺が殺せることは間違いないんだ。いいかなぁ…どうしようかなぁ…校長!リドルって若い頃かっこよかった!?」
「なっ、貴様なぜ俺様の…」
「……リドルは、そうだな、ワシの眼が曇ってしまうほどに麗しい少年だったわい」
「そうか…じゃあ。やっぱいいな」
「俺様の話を聞け…!!」

無視されるのが大嫌いな人間らしい。

「あ、でも。そうするとお前が記憶を残した日記も必要だよな…」
「なぜ、日記のことを…!?」
「あれはドラコんちにあるんだよな。おいドラコ。お前後で父親に言ってリドルの日記持ってすぐ来るように言えよ?…返事は?」
「あ、あ。分かった!」

ドラコ可愛いなぁー。
いやいかん。顔を引き締めねば。

「やるぞー!」

俺は両手を前に出す。

イメージするのは魔法の構成。一瞬にして薄光する魔法陣が俺の眼前に展開される。



【創造せよ 想像せよ 世界の理を見よ 聞け、我が願いを 我が祈りを 】
俺は片手で耳元を弄る。



【我と汝が力持て 全ては 現実に 全ては 環となる 】
付けていたピアスのうちひとつをむしりとる。



【我が名において発動せよ 我が名はサラザール・スリザリンなり!】
キモイ人面にピアスを押し付けた。





「俺って凄くね?」





見事。少年の姿のヴォルデモートが現れた!


「おおー!美少年だね、リドル!や、ヴォルって読んだほうがいいのかな?」


リドルだかヴォルだかは自分の身に起こったことが分からない様子で自分の身体を見下ろしている。



「なにを…した」
「リドルに新しいに身体上げただけだけど?」


人体練成?いやいや、そんな世界の理に反することはやってないのですよ。
もともとヴォルさんは死んでは無かったからね。賢者の石でちょちょいのちょい。


「聞いただろ?俺はサラザール・スリザリン」


俺は変身を解く。
現れたのは俺が一番輝いていた時代の二十五歳ぐらいの年恰好。いやぁ、三十代の男味が増しているときでもいいけど、こんなお子様たちのところで俺だけっていやなのである。

閉じ込めていた魔力も少しだけ溢れる。



誰よりも赤い眼。そして誰より輝きを秘めた銀髪。

その瞳で見回せば、魔法学校の人々は多少驚いているようだが信じてない疑わしげな気配が満々に伝わってくる。


リドルは信じられないとばかりに俺を見上げている。
兎さんみたいに赤い瞳に妙に心がくすぐられる。
うーん。素敵に無敵に隔世遺伝したもんだねー…。

「サラザール・スリザリンだと?ハッ、そんな戯言は大概にしろ」

鼻で俺を笑うその姿…うーん、教育を間違えてしまっている感があるよ。

「信じてないね。おっと、その前にそこのターバン、殺せ」
『御意』

七人の騎士どもがターバンを囲い、剣を振り降ろす。断末魔の悲鳴が城に響く。
裏切り者には死を。

「眼の色だけじゃだめかぁ…おお、ヘビロクがここにはいるじゃないか!」
「ヘビロク?」

なんだそれは、という顔をするヴォル。
俺はオレがサラザールであることを証明する素敵な証人がいるじゃないか!

「ヘビロク、ヘビロック!カモーン!!」

指パッチンで声高くヘビロクを呼びつける。
何がなんだか分からない顔をする人間が大半だ。やがてズズズと妙な振動が城の廊下から響いてくる。うわぁー、なんか此処まで這ってくる音だけでヘビロクの成長ぶりが伺えるというものである。


『ヘビロクゆうな!ワシの名はバジリクスやー!!どこのどいつじゃ!』


大広間の扉を突き破ってヘビロクの登場だ。
息巻いているらしく、少々シューシューと呼吸が五月蝿い。

「きゃーー!」
「うわぁあああー!」

と、何人かの生徒が絶叫して失神した。我先にと大広間から逃げていく生徒もいる。

「おお、我が友よ!ヘビロクよ!お前のツッコミが聞きたかったぞ!」

大きく手を広げてヘビロクとの感動の再開に打ち震える俺。

『ヘビロクちゃうわな!魂の名はバジリスクやー!……ってあれ!自分サラやないか!なしてここに!?死んだんちゃうのッ!?』

大きく眼を見張ってヘビロクが俺を眼に留めた。
ふッ、流石は我が友。
千年たっても俺とお前の友情はくずれーん!

「死んでおらん。寝て起きてわくわく人生をエンジョイ中だ」
『おおっ、この阿呆いゆるさ…サラや…ほんまもんのサラや!』
「失敬なヤツだ…」

俺のまん前に首を持ってきたヘビロク。すげぇ迫力だ。ひと呑みペロリで俺を飲み込めそうやん。
ちろちろと見える二枚舌がちょっと怖いです。

「そんな…バジリスクが…」
「…蛇の、言葉が…分かる?」

リドルとハリーだけしか蛇語は分からないだろう。蛇語しゃべれるのって特殊らしいから。…いやでも、サラザールが生きてた時代って自然と共にあったから動物の言葉を話せるやつはそれなりに捜せばいたんだけど。


「ということだ。わかったか?俺がサラザール・スリザリンなのですよ」
「ご先祖さま…?」
「リドルンはご先祖さまにあたるねー。でも、俺はガキ作った覚えはないから俺の愚弟がお前の直接のご先祖様かな」

そうに違いない。どこかの女を孕ました覚えはないからな。弟のヴィクターが適当に子供生ませたんだろう。

「生きていらしたなら、ご先祖さまはなぜマグルどもを生かしていらっしゃるのです!!」
「あー…マグルは見てて楽しいからなぁ…」
「我が寮は貴方の方針でマグルを認めていないのでしょう!?」
「そうだよ。マグルは原則、俺の寮にはこれないようになってる」
「それは純血の誇りです。ホグワーツにはマグル出身者はいれるべきではない!」
「マグルの何がいけないのよ!」

自他ともに認めるマグル代表、ハーマイオニーがカッとして叫んだ。慌ててハリーが後ろからハーマイオニーの口を塞いでいる。

「……いや、マグルは別にホグワーツにはいるのはどうでもいいんよ。でも、寮に関しては、ね。将来…っていうか、今現在は純血って少ないだろ?マグルや混血に比べりゃ純血なんて少ないじゃん。その純血を守って何が悪いの?って話しなんだよね」

種の保存って言うの?

「この中で完璧な純血っている?たぶん、ブラック家のやつとか、そこのマルフォイ家のやつとかは純血なんだろうけど…ああ、赤毛のウィズリー家もいちをそうか。純血は年々減っている。それを守るために蛇寮はマグル出身者を認めない。認めるのは純血。――…そして、血の濃い混血。混血は混ざれば純血に近づけるだけの可能性のある者だ。純血同士の結束を高めることで、血の保存と家の断続を防ぐ。それが俺の狙いだったわけなんよ」

原作通りに純血主義を育てなきゃ駄目だしね。

「大体さー、別に各寮毛嫌いしなくていいんだぜ?なんで獅子寮と仲が悪くなったわけ?ゴドリックなんてただの馬鹿ジャン。あいつは顔だけはいいし、頭もまぁ回転良かったけど所詮は弄られキャラで勇気と無謀を間違えた馬鹿」

グリフィンドール寮のやつらがいきり立つ。

「んで、秀才のヘルガんとこだけど…ヘルガはなぁ…頭は良かったなぁ…腹黒だし、俺にまとわりついて離れない野郎だったけど…」
「野郎?」
「あれ?文献残ってるだろ?アイツはふわふわ乙女趣味の男ぜ」
「あとは我等が紅一点のロウェナか。あいつはカッコ良かったぜ。男の俺が惚れ惚れするような男装の騎士様だ。あんなカッコいい女はいないよな…いつも女泣かせのロウェナって有名だったもんなぁ」
「女泣かせ…」

混乱の渦に巻き込まれる生徒たち。教師陣も新たなる驚愕の事実に呆然としている。

「ゴグは馬鹿だけどいいやつだったなぁ…俺の初めての友達で親友だし。ヘルガは俺のこといつも好きすきプロポーズしてきたし、いいヤツだった。ヘルガは…うん、とてもいい突っ込み友達だったわ」

しんみりと言いながらヘビロクの頭を撫でていると、ヘビロクは身体を擦り付けてきた。いや、鱗痛いんだっつの。

「うん。で、最後に俺ね。俺はサラザール・スリザリンなわけよ。しょうがないからホグワーツ作らなきゃいけないし、それまで母親に殺されないように頑張って幼少期を過ごして…しかしならが、まぁ過ちを犯しつつ、健全に過ごしてホグワーツを作ったのが俺なわけですよ」


と、俺は自分を指差した。



「はっはは!崇め奉りやがれ、この愚民ども!!」



俺はヘビロクの頭のに飛び乗ると高笑いをしたのであった。




「っていう夢を見たんだけど、どうかな?実行に移してみるってのは?」
『自分…今死ぬ間際の床の癖になに言うてんねん…ホンマ、…さっさとくたばれや!』

「おおっぅぅ…お花畑が見えるゥ…!!!」