踊り疲れた渇いた背を、愚物どもが鞭でうつ










俺の名前は山田太郎(仮名)。
巻き込まれ型一般市民。しかし、こうなってしまったら願うのは一般市民を越えた一般市民。すなわち、超市民を目指したいところである。










目下、その目標を達成することは遠いい。



















なにやら俺の目の前にとっても美人なお姉さま。
涼やかな長い黒髪と澄んだ黒目で「あらあら」と困ったように口元に手を当てて俺を覗き込んでいた。間近でみると改めてすっごい美人なお姉さま。
所謂、絶滅の危機に瀕している大和撫子と言うやつである。

綺麗なお姉さまは好きですか?
大好きです!

しかし、視線を下にずらして目に入った服装にちょっと引いた。
ゴスロリだ…妙にヒラヒラとした西洋風の黒のドレスを見に纏っている。俺の希望としては着物で色っぽくうなじを見せて欲しかった…。
いや、気を取り直そう。
動こうとして俺は自分の身の自由が利かないことに気が付いた。ガシャガシャと天井から鎖で手首を拘束されている。

おかしいぞ、なんか変だぞ。
あれ?よく見ればこの綺麗なお姉さま、手に鞭を持っている。

俺の願望が夢に現れたのか…いいや、そんなことはない!俺はやられるりもやるほうが好きだ!
女王様!と叫ぶよりもご主人様!と言われるほうが男の浪漫だと思うぞ!

お姉さまが俺の頬にそっと手を添えた。黒の手袋をしているくせに、冷たくてひんやりした手だ。手首が超細い。

「ああ!ごめんなさいね!初めての電撃レッスンなのに間違って100万ボルトから初めてしまったわ!うっかりなお母さまを許してね、ミルキちゃん!!」
「ヒグッ!」

憂いを帯びた大和撫子は頭のてっぺんから出しているとしか思えないキンキン声を発した。頭を抱きかかえるように抱きしめられ、耳元へ至近距離のその甲高い声に俺は鼓膜を突き抜けて脳に響いて変な悲鳴をあげた。

なんだこれは!超音波攻撃か!
なんと、目からビームならぬ、口から電波!(違)


「ミルキちゃん!どうしたの!まだピリピリするのかしら!あら、ちょっと、ミルキちゃんったら白め剥いちゃって…しょうのない子ね、いえ、今日のはお母さまが悪いわね!もうちょっとで蘇生できなかったんですもの!今日のレッスンはこのくらいにしておきましょうね!大事なミルキちゃんが死んでしまったら、わたくし、がっかりですもの!」


一方的に話かけながらお姉さん…いや、お母さま?は俺に話しかけながら四肢を拘束していた鎖を外した。がくんと身体の支えを失った俺の身体は冷えた床に膝を付いた。

「ミルキちゃん!駄目よ駄目よ!この程度で膝を付いたら殺されちゃうわよ!」

言いながら、お姉さんは手に持った鞭でビシビシと床を叩いている。その手首の振り、しなる鞭の音は素人では出せなさそうな空気を裂く鋭利な音だ。

おいおい。俺はミルキちゃんじゃないですよ、マザー。
全身正座のしすぎで痺れたようなふらふらな身体を叱咤し、俺は起き上がった。

「そうよ、良い子ね!それでこそわたくしの子だわ!」

はいよ、マザー。
俺は……ミルキ・ゾルディックですか。





■□■





俺はミルキ・ゾルディック!
将来の夢はフィギュア収集家として世界に名を馳せるコレクターとなること!

んなわけない!!(誰か、突っ込んで!)

俺はミルキくんになってしまったらしい。らしいっつーか、確定ですが。

ためしに、「お母さま?」と呼びかけたら、「あら、ママって呼んでくれないの、ミルキちゃん?」と返事をされたので、やっぱりこの美人なお姉さんはキキョウなんだなぁと思った。
ヘロヘロな俺をキキョウが部屋までつれてってくれたの「俺の部屋ってどこですか?」とキキョウに聞くのは免れた。キキョウはすっごい美人だ。テンションが高くてちょっとアレなところを覗けば。

たどり着いた部屋の扉を開けるとき、未知の世界(漫画やらフィギュアがたくさんあったらどうしよう!)への不安で一杯だったが、開けてみれば普通の部屋だった。広くてベットがあって本棚があって、個人シャワー室があって…。

うん、普通万歳。

鏡を見れば、俺の姿はちっちゃかった。
いや、これは鎖から開放されて膝付いた状態でキキョウを見上げたときに気が付いたんだけどね。まぁ、またっていったらまたですが、子供のころのミルキからスタート!っていうことらしいですよ。

「なにこの子…」

鏡に映る己が姿(=ミルキくん)にちょっとよろめく。
ミルキくんのイメージがデブ、豚、オタク、汗臭そう、童貞、肉、とあんまり良いイメージがないということに拍車が掛かって鏡を覗いたときの衝撃は激しかった。

「…生意気そうで可愛いよ…」

なんだろう。
猛毒兵器を作り出そうとしたら、間違って浄化装置を作ってしまったような衝撃だ。

鏡に映った俺は年齢は大体に三歳ぐらいだろうか。

さらさらとしたうなじまで掛かる黒髪。
ちょっと吊りあがりぎみの切れ長っぽい瞳…あれ、よく見ていると、黒じゃなくて銀っぽい色も混ざっている。

オマエ、成長したら美形になるぜ!と太鼓判を押してあげたい子だ。まぁ、ちっちゃいから捻くれた天使っぽい。…なにこの表現、メルヘンでキモイ表現をしてしまったよ。
ああ、ミルキよ…原作でのあのデブリンぶりはいただけない…俺はあんな風になりたくない。

人間は中身だというが、第一印象は外見である。
所詮は外見、面の皮一枚。はいでしまえば筋肉筋しか見えなくても、それでも外見。


目指せ、中肉中背!




■□■





ゾルディック家の晩餐の席で俺は縮こまっていた。
いやね、テーブルマナーとかはドンときやがれですよ?サラザール・スリザリンのときにばっちり出来るようになったからさ。

年季が入った大テーブルに座ると、サラザールだったときを思いだす。
あの時はほとんど一人で食べてばっかりで、ちょっとだけ寂しかったけれどヘビロクを見つけてからは一緒に食べていたのでそれも消えた。

ゾルディック家では家族揃って食事を食べることが強制ではないけれど習慣としてあるようだ。
上座に構えた現当主、シルバ・ゾルディックが豪快に口を開けて肉の塊を咀嚼している。その様は弱肉強食…って、意味が違うか。でも、なんの肉かは知らないが、絶対シルバよりは弱い肉を食べているんだろうなぁ。

俺の正面には人形のような無表情な子供がこれまた美味いのかまずいのか分からない顔をして飯を食っている。俺もご飯を食べながらその人形を観察していた。いや、人形って言ったら失礼だろうけど、人形に見える。
イルミ・ゾルディック。俺の兄ちゃん。

…兄ちゃんって呼ぶの?
いやいや、たぶん、そういうのに拘りなさそうだからそのうち「イルミ」って呼び捨てさせてもらおう。
そーだそうだそうしよう。

「なに?」
「え……俺スか?」

唐突にイルミに話しかけられて、俺は焦った。

「ミルキ以外にいるの?」
「いないですけど…」
「今日はね、ミルキちゃんったら死んじゃったのよ!おほほほほ!」

おほほほほじゃねーよ!と思ったが曖昧な笑みを零して俺は頷いた。

「ほう、死んだか、ミルキ!」

シルバが面白そうな視線を俺に送る。いや、面白くないよ。全然、まったく、これっぽっちも。

「三歳になったから、ちゃんと訓練始めようと思いましたのよ!わたくしったら、最初から百万ボルトの電撃を与えてしまいましたの!」
「百万ボルトか。あれは最初はちょっと痛いが慣れればまぁコリがほぐれて結構いいぞ」

ゼノじいちゃんが首を左右にポキポキと鳴らしながら言った。そんなんでほぐれるコリってヤバイよ。

「…僕、まだ八十万ボルトまでしかいってない」
「いいのよいいのよイルミちゃん!最初から百万ボルトだなんてミルキちゃんみたいに死んでしまうわよ!」
「そうだぞ、イルミ。何事も慣れだ」

和気藹々とした雰囲気で家族の会話がされていく。



俺の死んだことを話のネタにしやがって…くっそう。





■□■





毎日毎日三百六十五日。
訓練という名の拷問が激しい。ゾルディックの英才教育は生まれたときから十歳未満が勝負らしい。流石にちょっと年取らないと身体の発達が良くなくなるという話なので三歳から訓練は始められるらしい。

ありえない。なんで俺死なないんだろう。

激痛につぐ激痛で、ちょっと霞みかかった脳裏で思った。そのくせ、頭のどこかが強固にブロックされているようで、ちゃんと考える場所がある。
これが脈々と受け継がれるゾルディック家の血と肉体なんだろうか。すごいなぁ、超人だよなぁ…。

あれかな、金と痛みだけがとーもだちさ♪(愛と勇気だけが友達さ♪byアンパンマン)


…違うよなぁ、そんなんいやだよなぁ…。


爪を剥がされそのに毒薬を塗られたり。(痛い痛い!折角の綺麗な桜色の爪が!)
眼球の三ミリ先に針を設置され、時間内に一ミリたりとも微動しなかったり。(目が、目がぁ…目が乾くぅうううーー!)
暗闇に閉じ込められて餓死されそうになったり。(暗い、眠い、腹減った、はらへりはらほれ〜)
それに伴いお勉強。文字を読んだり計算やらなんやら、古代文明の知識やら。(ミルキって脳みそ結構よろしい子だわ!)

なんだろう、俺って暗殺者になるために頑張ってるんだよね?
なんだろう、ハンターになるために勉強している気分になってくるのは?

度重なる拷問訓練。
それから、殺人訓練。

俺の繊細なハートはボロボロだい。(ほろり)

家族としては素敵だよ。
キキョウさんは子供アイシテルし、シルバもまぁ可愛がってるくれるし、ジジィたちも多少は気に掛けてるし。訓練の合間に愛情を感じるもんなー。




死ぬな。死なぬために強くなれ。
殺すのは俺たちだ。
俺たちは殺されはしない。

ゾルディックである限り、殺すのは俺たちだ。

ひたすらに痛みへの感覚を麻痺される。
ひたすらに毒薬への耐性を強化される。
ひたすらに暗殺への技術を昇華される。

ひたすらにその性能を試される。

勝てない敵と戦うな。(うん、その意見には激しく賛成)




ところで、俺と兄弟の仲はまぁ良好だ。
意外に(いや、イルミの過保護ってのはそこそこ漫画から知っていたんだが)イルミは面倒見がいい。たまに訓練見てくれるし。
すごくお兄ちゃんしている。
俺って一人っ子だからちょっと楽しい。甘えている。

ああ、俺っていい大人なのに…。

「イルミ兄ぃ。あれやってみせて」
「コレ?」
「そう!すげーな…なんでビキビキなんの?」

お家芸、手刀を強化し相手の心臓を抜き取るやつ!あきらかに異音を立ててイルミの手が一瞬にして固く鋭く爪が伸びる。

「さぁ?ミルキもやってみれば?教えてあげようか?」
「…どうしてビキビキなるのか分からないくせに…」
「いや、指先揃えてピンと伸ばして変形させればいいんだよ」
「………うん」
「ほら、やってみて」
「…………うん(出来るかよ、バーカバーカ)」

無表情だけれど、まだまだ感情を殺しきれていないらしくとても分かりやすい。最初は人形みたいで話しかけるのをはばかっていたんだが実はとてもいい子だ。

友達はいらない。
家族は大事。

家族の絆は絶対だと思っている節がある。(それはゾル家のみんなに言えることだけど)


うん。
オレも家族はまぁまぁ大事だと思うよ。





■□■





五歳になった。
俺はパソコン類を与えられた。ありがたい。
世の中の情報化に対応しなきゃ駄目だよな。ゴンみたいに田舎もんになっちゃうよ。一家に一台、いやいや、ここは一人に一台のパソコンが欲しいですよ。

今日も拷問に耐えた自分へのご褒美にネットサーフィン!今日のニュースなどなどを読んでいて、俺の目はある記事にとまった。

「グリードアイランド!?予約受付中!?」

これは買わなきゃだめだ!
グリードアイランド!これはハンター世界で重要なアイテムだ!将来的にも買っておいて損はない!

「父さん!父さんとうさーん!!」
「ミルキ、どうしたの?」

廊下を駆けて回ってどこにいるともしれない父さんを探していると、ひょこりとイルミが廊下から顔をだした。

「イルミ兄ぃ!父さんみなかった!?」
「親父?親父なら今オレと一緒に仕事から帰ってきたから…部屋にでもいるんじゃない?」
「サンキュ!お疲れ!」

イルミ兄ぃは今日は父さんと仕事だったのか…俺はまだ家を出て仕事をしたことがない。いや、殺人は…侵入者をちょっと殺させられたりします。殺すのが日常化した家ですから。なんか自分がすっごく悪人になった気がする。

「ただで殺しをするのはやっぱり損だ」と、父さんが言ってたらかそのプロ意識には脱帽だ。

ゾル家って内部に入ってみればよく分かる。
別に殺人狂ってわけではないんだよ。家業が暗殺業ってだけで。(すでに暗殺業が家業ってこと事態がヤバイんだが)
ゼノじっちゃんから聞いた話によると、殺人狂になって無意味な殺人を繰り返すゾル家の人間はゾル家によって殺されるんだってさ。

ゾル家の依頼料は高い。
基本料金が高いんだから高い金が払える人間が依頼してくる。金持ちってあれだね、殺し殺され又殺す。ぐるぐると循環して首が変わる。首を刈り取るのはゾルディックなんだけど。

金持ちが考えることはわかんねーな。

「父さん!」
「ミルキか。珍しいなお前がオレの部屋にくるなんて」
「父さん!お願いがあるんだ!」
「お願い?」

父さんは普通に構えてるんだろうけれど、そのズンと腰に響くような威圧感は半端ない。二メートルに届かないぐらいの身長であるはずなのに、すごく大男に見える。
おいでと手招きされて、父に抱き上げられる。

シルバに抱き上げられるって凄い貴重な経験だ。
彼の癖のある銀髪が揺れて、ほんの少し、血の臭いがした。

「あのさ、グリードアイランド、買って!」

思いっきり強請ってみる。俺は子供だ!ねだったっていいじゃねーか!子供の特権じゃ!

「グリードアイランド…ああ、今度発売されるゲームだったか」
「そう、ゲーム!超レア!限定百本!でも高額!お願い、買ってよ父さん!」

ほんの少し首を傾げて父さんはオレの瞳を覗き込んだ。
途端に、俺の身体は蛇に見込まれた蛙状態。恐怖に竦んで身体が動かなくなる。

「なんでだ?」

低く問われて、髪の毛を耳の後ろに流される。さらさらした、母さんに似た髪質はすぐに耳から零れ落ちてしまう。

「ほ、欲しいから。あれ、俺、絶対行きたいんだ。ね、今買ってかなくちゃ損だよ。あれは、絶対に必要になるんだ」

張り付きそうな舌の根を動かして、必死に俺は言い募った。父さん、マジ怖いよー。

地震雷火事親父。
この四つの中で、一番怖いのは間違えなく親父だ。

「58億ジェニーだよ!これからレアになって三倍ぐらい値が吊りあがっちゃうから…なんだったら、出世払いで俺が払うから!お願いします!」

そうだ!出世払いにすればいいんじゃないか?
お願い!と両手を合わせて父さんに頼み込む。これで駄目なら…駄目だな…。俺が手に入れられる確率がめちゃめちゃ消える。

「いいぞ」
うっそぉ!マジで!?」

以外にあっさり返答が。

「ああ」
「え、本当に買ってくれんの!?つか、それは出世払いってこと!?」
「いや、俺のポケットマネーでそのくらい買ってやる」

ニカっと笑顔で言われて、俺は父さんに抱きついた。

「うわ!うわ!父さんすごい、太っ腹!さすがゾルディック当主!素敵!カッコいい!キャー!」

スゲー首の太さだ。太すぎる。どんな首筋肉してんだ…。
先日生まれたキルアは父さんに似ているはずだから、将来キルアもこんな風になっちゃうのかなぁ…と思うとちょっと微妙。

「ミルキは…随分感情が豊かなんだな」

万歳三唱をしていると、父さんが言った。

「へ?俺?……そうかなぁ…折角生きてるんだし、心のままに素直に生きようかと思って」
「そうか」
「うん!受け入れちゃえば楽だしね、俺はミルキ・ゾルディックだって」

にっこりと笑って言えば、父さんは誇らしい表情で笑ってくれた。
それが嬉しくて俺も笑い返す。

やばい、俺もゾルディック家の「家族の絆」ってやつに洗脳されているっぽいぞ。





■□■





それなりに俺はゾル家の人間として頑張っております。
八歳になったので、俺はゾル家を出ました。いや、もちろん自分から出たわけじゃない。言っておくが家出じゃない。
拷問の数々の間に家出して逃亡したくなったのは両手じゃ数えられないくらいだけど、家出するには八歳は若すぎる。せめて十五歳になってバイクで走りだす年頃に……って、別にそこらへんに変なポリシーがあるわけでもない。

たぶん、俺の力量じゃゾル家から逃げ出すの難しいんだろうなぁーと思ったわけですよ。
キルアでさえ、母親の顔と兄のわき腹を刺して(…あれ?ここで刺された兄って俺のこと?俺のことだよね?)、ゾル家を飛びだしたんだもんなぁ…。

俺、そこまで頑張れない。

しかし、ゾルディックの人間になったからにはスリザリンの人間になったときのように超一流を目指して頑張りのである。
きっと、それだけの能力がこの身体(=ミルキ)には潜んでいるに違いない。



さてさて、そんなわけで(どんなわけだ)八歳になった俺は父さんに呼び出され、天空競技場へ行ってこいと命令された。さらにはシルバいわく「二百階になったらすぐ帰って来い」、だそうです。

父さんはゾルディック家専用気球で天空競技場で送ってくれると言ってくれたのだが、俺としては初めての一人での外出だ。
自分の足で歩き回りたい。なので、正面玄関から外出することにした。

ゾル家の『試しの門』を開く。
ズズ…と地面を擦りながら扉が開く。これって片側で2トンあるんだよな?…単位が間違ってるよな、いろいろと。2トンなんか人間が開けられるわけがない。俺(=山田太郎)だったら絶対に開けられない。
これの難点は、自分が一体何門まで開けれたのか上を向いてもいまいち分かりにくいということだ。

「いってきます」





■□■





三年かかって、ところで俺は現在199階にいる。
たらたらとお金を稼いでここまで来た。キルアはたしか…六歳で来て、二年で二百階に到達したとか…。
どうしよう、俺、才能の差を感じるんだけど。八歳で来て三年かかってここまでってどーよ。


所詮は俺はミルキか…。


「続きまして、本日最後の試合になります!!その素顔は果たしでどんな顔なのか!?ミルキー選手の入場でーす!!」
「わーー!」
「ミルキー!頑張ってー!」

登録用紙の名前の欄にはミルキーと書いておいた。「ミルキ」ではなく「ミルキー」と。
甘いお菓子を思い出すね。ママの味はミルキーだよ。

ゾルディックとは書かなかった。書いてもいいんだろうけど、いらん敵に殺されそうになるのは嫌だ。俺の基本は平和主義。面倒くさいことは嫌いなのだよ。

ファッションはアラブ系を意識して目元だけを露出させている。
まぁ、俺の顔を知っている人間は皆無だろうから、わざわざ隠す必要なんてないんだろうがな。


気分的に隠しているのだよ。だって俺、暗殺者だもん♪


………誰か突っ込んでくれないかなぁ…「だもんって何!キモ!」とか…。
俺、絶対念能力は具現化系がいいなぁ…突っ込みスキルのある相棒をつくり世界に名をはす素敵漫才コンビに…ってちがーう!

……や、マジで突っ込み相棒が欲しいなぁ…。
最近、突込みがいないせいで一人ノリ突っ込みのスキルと脳内独り言が増えてしまったよ。皺ひとつない俺の脳みそを返せ!!

誰かそこらへんに俺の精孔を開けてくれる人いないかな…いや、一人でも起こせるんだっけ?
俺ってば才能ねーからなぁ…。

「対して、怒涛の強さで登ってきた強豪、その拳から突き出されるのは果たしてミルキー選手の身体を粉砕してしまうのかぁあー!レイヤー選手の入場でーす!」

登場したのは身体凄く大きな男。
リングの上で向かい合って、あれ?と男に違和感を感じる。なんだろう…こう、産毛が逆立つような…嫌な感じだ。立っている姿はむしろ隙が多い。すぐに殺せそうだ。
けれど、むやみやたらと近づくな、と俺の中の研ぎ澄まされた勘が言っている。

「ちわ、ミルキーです……よろしくおねがいしまーす」
「小僧、悪いが俺は手加減が出来ない。死んでも恨むなよ」
「うい。もちろん」

取りあえず、様子をみるか。

俺は自然体で構えを取り、自分から仕掛けずに相手の出方を伺った。
男が拳を突き出すしぐさをした。

「!」

んな!?咄嗟に俺は横へ飛びのいた。
俺が居た場所をなにか風圧らしきものが通り過ぎる。

「お前まさか…念使いか?」
「ほう、知っているか」
「知ってるけど…」

俺は使えません。

念使いに当たったのかよ…俺死ぬ?

また相手が拳を突き出す。今度は両拳だ。

俺は瞬時に身構えるが、すぐには衝撃波は来ず、一拍置いてからゾワッと来たので避けるがよけた方向に衝撃波が直撃した。

「…ぐ」

吹っ飛ばされて体がリングに激突する。痛い。

だが、攻撃を受けたことでひとつ分かったことがある。相手は熟練した念使いでない。
動作は遅い。適わぬ相手ではない。

そう、俺が適わぬ相手ではない。

スイッチが入る。
コレはたぶん、ゾルディック家の特徴であるのかな、と俺は思っている。



「お前…潰すよ」



ペロリ、と俺は唇を舐めて、俺は嗤った。










199階で俺は天空競技場を出た。
いやぁ、吃驚。俺、死ぬかと思った。

つか、やばかった。一発当たった衝撃で、頭きちまったんだよねー。
別に俺は切れる子供ではないぞ。むしろ生きてきた時間は大人だ。

俺は一気に飛び込んで相手を殺したkill

うん、殺しちゃった…えへv

殺しちゃいけなかったんだよなぁ…天空競技場ってさぁ…。
折角199階まで我慢して我慢して我慢して相手を殺さないように自分ハンデを作って殺さずに徹して来たってのに…。

プチッとスイッチいれてしまったのである。
俺が唯一得意なのってお家芸の心臓抜き取りなんだよね…だってアレ、凄いじゃん。一瞬で外傷もなく心臓だけ抜き取るのって凄くない?思わず、極めちまったよ。

それにしても…殺しちゃったので天空競技場から追い出された。
っていうか、殺人犯になっちゃったよ。急いで逃げなくては。(それ以前に暗殺者なんですがね)



父さんは200階になったら帰って来いって言ってたのに199階でドンつまりだよ…先へは進めないよ。

おうちに帰れないよ…。
父さんに怒られちゃうよ…どうしよう…。















行方をくらまそう…。

(あ、取りあえずハンター試験を受けにいこうと思う)







※ミルキん痩せたら美形説推奨。恐らく、幽白の刃霧要っぽいと思うのだよ!