人は変わった生き物で、愛に細かく名をつける













俺の名前は山田太郎(仮名)。
只今家出中のピッチピチの十一歳。もうすぐ中学生!(嘘)











一日一回白いご飯を食べないと落ち着かない俺。味噌汁も一杯飲みたい。
あの、寒い朝に飲む味噌汁の匂い…五臓六腑に染み渡る暖かさ…!!
しかし、そんな我侭は言ってられない。誰がなんといおうと、魂の名前が山田太郎(仮)であろうと、外見はミルキ・ゾルディックなのである。
ゾルディック家では毒を食べ毒を飲み毒々しいものしか口にしていない。味付けも洋風が多い。
でも、母親があのキキョウなのでなんとなく和っぽい食べ物も出る時がある。あの人極端に和と洋が好きだ。まぁ、自分はフリフリ西洋マダムな格好してんのにカルトに着物着せているあたりがもうなんともいえないよな。似合ってるからいいけど。

そんな毎日食卓で毒を吸収しながら育った俺のもっぱらの最近の将来の夢は、地球に優しい中肉中背の少年に育つことである。デブは普通の人間よりも惑星上の貴重な酸素を取り込み、二酸化酸素を吐き出すという、非常に惑星に迷惑な車のようなものである。



俺はデブにはならない。
あの、デブな原作ミルキ・ゾルディックにはなりたくない。あんな始終「フーフー」と荒い鼻息を吐いているような人間にだけは…!!
女性の背後に立っただけで痴漢に間違えられること必須だ。電車にも乗れやしねぇ。誤認逮捕は止めてくれ。俺の輝かしい経歴に傷がつく!!世の中の男よ、今こそ立ち上がれ!電車の中では常に拳を振り上げ万歳だ!!そうすれば、冤罪は被らない!うおおおおーー!!ファイヤー!!両手ばんざーい!!




………さて、俺は天空闘技上から逃げ出したその脚でまずハンター試験の申し込みを済ませた。
ハンター試験の申込書だけなら、宝くじ売り場のように主要箇所にはたくさん置いてある。さらさらと記入し…ふと、気が付いた。
あれ?これって保護者のサインがいるよ?

ガガーン!!!!

…ハッ!いやいやいやいや…これはあってもなくても可だ。そうに違いない!
そうじゃなかったら流星街の連中はどーすんだよ!ヤツラ孤児さんだよ!親いないよ!
適当に記入できるところだけ記入する。名前は…普通にミルキでいいかな?それともヤマダにするかな?イルミは名前をギタギタ(?)にしたのだろうか…そうだよな、たぶん、めっちゃ偽名でハンター試験受けてたんじゃねーの、あの人…。

…じゃあ、俺も偽名でいいかな。ミルキって書くと足が付きそうだし…。
じゃあ、名前はヤマダでいいかな。必要事項を書いて窓口に出して終了ー。
窓口のおばさんは「あらあら、こんな小さい子がハンター試験に受かるわけないのに…うふふ、子供は無理なことして可愛いわねぇうふふ」と、なにやら気持ちの悪い生暖かい笑みを向けてきたのでガンを飛ばしておいた。


まだ試験日までは日にちがある。
ああ、それまでどこに身を潜めているべきか。点々としていればそのうちどうにかなるだろう。

試験会場にはどうやっていくのだ?
えっと…よく分からんが、一本杉のナビゲーターを探すのが一番の手立てなんだっけ?…あー…そういうの面倒だなー…原作なんて印象に残っているところと大体の流れしか覚えてないし…。



「よし、ここは漫画喫茶に行くしかないな」


結論として地道に漫画喫茶に行くことにした。(…どうしよう、なんかちょっとオタクくさいぞ自分)



まずは情報を集めることが先決だ。
それにはやはり電脳がめくれる漫画喫茶にいくのが一番だ。

ほら、情報は俺(ミルキ)の役目でしょ。
ミルキはきっとコンピューターに強いイメージがあったから、俺も強くなったよ。平均プラス50ポイントぐらいの出来る加減。はっきりいって、素人に気が生えたぐらいね。いいんだよ、別に俺がコンピューターに強くならなくたってね、世の中には適材適所っていう言葉があるのだよ。
ゾルディックにもそれなりに腕のいい情報屋との繋がりがあるし、情報は買えばいいんだからさ。…ま、自分で情報を引き出すに越したことはないけどね。

なのでなじみの情報屋は今回は使わない。だって、親父たちの息が掛かっている情報屋を使ったらすぐに俺の居所がばれてしまうではないか。
そんなのノーサンキューだ。残念無念又来週。













最近の漫画喫茶は発展してるなー。
中に入るとなにやら近未来的な内装の漫画喫茶にちょっと嬉しい気分になる。この、新しい家のような匂いと本の匂いがなんともいえない。カウンターにいるお姉さんがにこりと俺に笑いかける。
俺もにこりと笑い帰しながらカウンターに近寄った。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

見れば分かるが俺は一人だ。しかし、この場合、言葉道理に言ってはならない。

「うん…『出来れはペアシートがいいな』」
「!…『お時間はどのぐらいになさいますか?』」
「『二十五分』」
「『他にご要望はございますか?』」
「『チーズ抜きのピザとコーラ』」
「…はい。かしこまりました。お席のはY-104になります。そちらの席にお座りになってお待ち下さい」

ドリンクコーナーでまずはメロンソーダを手に、Y-104の席のペアシートのスライドドアを開けた。

「…あ、ども」

中には見知らぬ男が一人いた。相席かよッと心の中で突っ込んでぺこりと頭を下げる。男はサングラスを掛けている以外は、普通だ。
リクライニングソファに横になり、配管がむき出しのコンクリートの天井を見上げながらズーズーとメロンソーダを飲む。
メロンソーダのこの、なんともいえない合成着色料の緑色。これに粉末ゼラチンを入れて固めたら緑色のスライムが出来るに違いない。メロンソーダ美味いなぁ…俺としては、上にアイスクリームが乗っかったやつがもっと好きだが。
アイスとソーダの間のシャリシャリとした中途半端なシャーベット状のところを食べるのがとくに大好きだーー!!




そんなこんななで、シートに座ると椅子が秘密基地センターに直結するがごとく椅子が沈み会場に着いた。

てかさ、試験会場でみんな手ぶらすぎるんだよバロウ(馬鹿野郎のなまった言い方)。
俺なんてリュックサックの中に食料とか替えのパンツとか携帯用トイレとかタオルとかいろいろ詰め込んでいるのにさぁ…なんなの?みんなってば長いハンター試験の最中に一回も下着とか変えないの?そんなことを思いながらはしっこの方で体育すわり。

ところで誰も興味がないかも知れないが現在の俺の格好はニット帽に眼鏡掛けてマフラー でジーンズ・ロンティといういたってごく普通な格好である。
俺は淑女ならぬ淑男なので肌をさらさない。(てか、肌には拷問で出来た傷がありすぎて見せられない……)
私ってば脱いだら凄いのよ☆あはん!状態だ。



(ハンター試験、ちょろいナぁ)

俺は手元の薄っぺらいハンター証をビヨビヨと振るわせた。
これって力加減間違えたら折れちゃいそうだなー。


持久力なら死の連続七日間のデスマラソン(イルミとの鬼ごっこ捕まったら半殺し)、筆記試験はキョウママンの英才教育(間違えると容赦なく鞭に打たれたり、電気ビリビリだったり)、瞬発力だってゼノじいちゃんのほれほれ教育(「ほれほれ」と言いながら千手観音張りの残像すら見える手で石を投げつけてくる)などを俺はクリアしてるんじゃぁ!

ハンター試験なんてちょろい!ちょろい!キルアも原作で言ってただろ、ちょろいって!
大体、レオリオっちが受かるぐらいのものなんだから、ゾルディックの俺が受からないはずはない!!中身は凡人でも、外身は非凡なのだよ!



………ところで、同期に「シャル」って愛称で呼ばれてた、金髪っぽい髪の男を見かけたんだ が、あれってまさか蜘蛛の人じゃないよな?
俺の気のせいだよね?誰か気のせいだと俺に言ってください。 うん、たぶん気のせい。(自己完結)

悪いがデフォからリアルになった人間はすぐに認識できないからね。
すっげぇ 特徴があるやつは別だよ?奇抜な顔ペイントありのヒソカとかヒソカとかヒソカとか…。 …うん。額に逆十字架いれちゃってる クロロとかクロロとか…そのぐらいだろ。
たぶん気のせいだということで一切近寄らなかった。あっちは子供が珍しそうにたまにこっち見てたけど。シカトだシカト。





■□■






号泣バスに乗ってクルルーマウンテン、我が家の正面玄関まで帰ってきた。
ああ、俺もなつかしの我が家の門を前に号泣したい…。

しかし、俺は号泣バスの中から出ることもせず座席に座ったまま頭を抱えて下を向いていた。
あー…ここまで帰ってきてしまったよ。どうしようどうしよう。いまさらだけど、帰るの嫌だ。親父怒っているだろうか。
親父に怒られて一喝なんてされてみろ。俺は白眼剥いて泡を吹いて後方に頭からぶっ倒れて痙攣してしまうこと間違いないのである。つか、死ぬ。

親父に怒られるのは嫌だー!めっちゃ怖い。どうしようどうしよう。ブルブルル。


「いいから、鍵だせっていってんだよおっさん」
「ちょ、乱暴なことはよしてくださいよ!ああッ、ちょっと!」
「うるせぇな、アンタ程度のおっさんが門番なんてしてるゾルディックなんてたかが知れてるよなー」
「この大門、どうせはったりで開かないようになってんだろ?無駄にデカイ門で相手を怖気付けさせようっていうセコイ魂胆なんだ?」
「違いますよ!あたしは門番じゃないし、ちゃんとそれは門なんですよ…」
「大体、顔もさらしてないなんてよ、よっぽど臆病で顔を見られるのが怖いんだろ?そうじゃなかったらどうどうと顔さらせっての」


ん。なんか俺の耳に大変不愉快な発言が入ってきたのである。
特に、はったりとか、セコイとか臆病とか臆病とか臆病とかッ…!くそ、俺はそのとおりなのだが、人に向って言ってはいけないNGワードと言うのがあるのだよ!!

「お客さーん。バスはそろそろ出発しますよ?」
「ああん?いいぜ、オレたちのことはこのままで。ババァ、覚えておけよ。オレたちがゾルディックを殺した男として新聞の表紙を飾るからな」
「あー…そうですか、じゃ、他のみなさーん!バスが出るんで乗ってくださーい」

年配のちょっと肥えたおばさんガイドは爽やかな笑みで男達を無視に、他の客に呼びかけた。行きのバスの中で今日は臨時バスガイドらしく肝っ玉がありそうなおばさんである。なんでも今は引退しているがこの道三十年のベテランだとかなんだとか。きっと今までの号泣バス勤務でこういう阿呆な連中を沢山みてきたのだろう。その場に残るという連中を止めるでもなくさっさと切り捨てた。中々いい判断だな。

「おい、おっさん。この扉ってどうやってあけるんだ?」
「どうやってって…普通に押せば開きますよ」
「押しても引いても開かねぇっつの!あっちははったりの大扉で、そっちの小さいのが本当の扉なんだろ?」
「ああ、本当に悪いこと言わないからやめときなってあんたら…」
「うるせーなぁ…」

男がゼブロの身体を殴りつけた。ゼブロったらぶざまに転がりやがった。
うわー…あいつら俺んち門番管理人になにしてくれちゃってんの?てか、ゼブロもそのぐらいの衝撃に耐えることできないわけ?あんた、トン単位の扉開けられるんでしょ?

「では、出発しまーす」
「!あ、あ!俺、俺降ります!!」
「ちょ、お客様〜!?」

バスの窓から飛び降りた。
俺がスタッと華麗に地面の上に着地する。俺が強制離脱したバスは停止することなく遠ざかっていった。…なんだろう、ちょっとぐらいブレーキ踏んで止まってくれてもいいじゃんよぉ、とちっこく思った。
なんか見捨てられたようで悲しい。いや、自分で飛び降りておいてってのは分かっているのだけどね。
ちょっと恨みがましい目をバスに向け、その後、くるりとゼブロを振り向いた。


「ただいまっする!ゼブ!」


ニコリと片手を軽く上げて、尻餅をついているゼブロに挨拶をする。

「…あ、あなたは…」

俺を見上げて呆然としているゼブロの腕を取って立たせてやり、さらに服に付いた汚れを払ってやりながら、俺はゼブロの無抵抗主義に感心していた。ゼブロ、大人しく馬鹿男にやられてやって偉いなー。『試しの門』を開けられるんだから、こっと平手で叩いてやれば十メートルぐらい吹っ飛んですぐに相手を殺せるだろうに。
いっそのこと、ゴキブリを殺すかのように叩き潰してやればいいのに。

俺はあんな馬鹿なヤツにはなにか同じ空気を吸っていたくないので心広く持つことは出来ないなー。



殺しちゃうね。
(え、平和主義者とかことなかれ主義って言っている人間の言葉じゃないって?…いや、だってほら、俺んちの家訓は『勝てない敵と戦うな』だし。勝てる敵とはバリバリやるよー)



「って、おい、ゼブ?眼ぇ開けたまま寝てんのか?俺だって、え、俺だって分かるよな!?」

眼を開けたまま、俺に対して何も返事を返してくれないゼブロにちょっと不安になんって手のひらを眼前で振ってやる。おーい、俺だよ、ミルキですよ。別に顔立ちなんて変わってないはずだ。誰にも顔ボこられたことないし。イルミみたいに顔を整形しているわけでもないし?


「っ!坊ちゃん!今までどちらにいらっしゃってたんですか!」
「え、どこって天空闘技場…」
「そんなこと、あたしだって知ってますよ!その後ですよ、あなた、行方不明になってたんですって?旦那さまも奥様もそりゅあ心配なさってたんですよ!あたしの方まで執事室から連絡があったんですから!『坊ちゃんの行き先を知らないか』って!もちろん、坊ちゃんの行き先なんてあたしゃ知りませんから、なんもお答えできませんでしたけど」

凄い剣幕で言葉を並べ立てるゼブロにちょっとビビリながら、俺はうんうんと頷く。
そりゃあね、俺ゾルディックネットワーク(ってなんだそれ)に引っかからないように慎重に行動したからねー。見つかってたまるものか!見つかってしまったらおしりぺんぺん百万回…いや、そんな可愛いものじゃない。トゲトゲの付いてた金属バットでお尻ペンペンとかそれ以上の拷問が待っているかと思うと命がけで隠密行動に徹したから!!!

「ああ、こうしちゃいられない。早く執事室に電話を…」
「ぎゃー!頼むから、止めろ、止めて、止め!俺がこれから帰るから!マジでちゃんと帰るから!お願い!!」

小屋に走りよるゼブロの腰に縋りつくようにひっつき、いやいやと首を振る。なにか男に捨てられて縋りつく女のような体だがそんなことはどうでもよい。

「そんなこと言われても…」
「頼む、ゼブロ」
「全く、仕方ないですね…」

ゼブロは俺を孫を見るような出来の悪い子供を見るような瞳で見て、目元を和ませた。ゼブロたち掃除人に与えられている部屋のものが面白くて子供の頃何度も遊びに行ったものだ…。おお、懐かしき我が子供時代よ。いや、今もまだ子供だけどね。




ゴゴッ



俺とゼブロがほのぼの近所のおじさん近所の子供ごっこ?をしていと扉が重く鈍い音を立てて開いた。


「ひっ、あ、アニキ…?」
「な、嘘だろ…!!」

侵入者用の門が開き、のっそりと中から鋭い爪の生えた巨大な獣の手が器用に白骨化したものを放り捨てる。素晴らしい食べ方だ!そうだよ、焼き魚だってこのぐらい綺麗に食べられるようにいつかなりたいものだ…別に俺が食い意地をはっているわけではない。

「な、どうなってんだよ、これ!」

あれ、まだお前らいたの?
ゼブロとの感動の再会の所為で存在を忘れていたよ…というのは冗談だけど。数秒の間に扉の向こうで行われた白骨化に恐れをなしている三下賞金稼ぎたち。


「うん。あんたら随分うちの悪口言ってくれたよね」
「は?ガキ、てめぇにゃ用はない、すっこんでろ!!」

腰の剣を抜いて俺に横なぎにされた刃を手で受け止める。受け止められるとは思っていなかった馬鹿男は信じられないものを見る目をしていた。

「駄目だよ、お兄さん?」

お兄さんっつーか、俺の魂年齢はこの世界に生きる誰よりも長いと思うがな。俺、尊敬できない人間(と、俺より強い人間)には、基本的には傲慢なんだよ。うわーい。弱肉強食長いものには巻かれろ権力者には絶対服従。
うん、素敵だ。



「俺、ゾルディックなのよ」







うん。







「また、つまらぬものを抜いてしまった」








俺の手には、真っ赤に脈動する赤い心臓が二つ。

ブチュッ。ただ、握りつぶせば柘榴となってはじけた。







あー嫌だなー家までのこの道がもっと嫌だ。
『試しの門』を開けて、俺は我が家の庭にてくてくと歩いていた。それはそれは鈍く歩いた。
ああ、ここが庭なのか。ここは富士の樹海かよ…。門から本宅までキロ単位がある家ってそうそうないだろ。つーかねぇよ!
一人ノリツッコミは哀しいな…と、歩いているとガサゴソと草むらが動いた。ムム!誰だ!

振り向くと、見上げるほどのデカイ図体が。


「ミーちゃん!ミーちゃん久しぶり!ぎゃー!ミーちゃんだっ!」


我が家のペットのミケがいた。
俺はミーちゃんと呼んでいる。
どうやら俺が家を出たと同時期に番犬となってしまったのだが、それまでは自由気ままに俺のペットとして遊んでいたものだ…。

ミーちゃん、かーわーいーいー!ミーちゃんはくりくりとした無感動な瞳で見つめてくる。無感動無表情のくせに、すりすりと俺にすりよってくるところがたまらなくたまらん!!
ミーちゃんの目はイミル兄ィの瞳に良く似ている。凄く純粋で、曇りも無く、ただただ、そこにあるガラス玉。

見ているだけで怖くなる、でも、いつまでも見ていたい、そんな無感情な目。



だから、好きだ。
懐かない野生の生き物に懐かれている気分だ。(や、実際になついてるんだけどね)


「ん?俺に乗れって?」

ミーちゃんが俺に背中に乗れ乗れと意思表示をしてきたので俺は背中に飛び乗った。ミーちゃんが走り出す。ビュンビュンと樹海を走り、緑の光景が後方へと流れてく。あー…風が気持ちいいなー。
気分はもののけ姫のサンだな。ちょっと獣臭いのが何だけど。


樹海の王のミーちゃんの背中に乗った、俺。


ヘビロク(蛇)の背中に乗ってるよりはカッコいい気がするぞ。
あの頃は気が付かなかったが、蛇って、某忍者の玉なしを思い出すよなー。まぁ、蛇は蛇でも俺のヘビロクの方が優秀に決まっている!なんたって人体化できるんだからな!

ミーちゃんとはよくこうして背中に乗せてもらって走ったり、一緒に追いかけっこしたり、冬には寝そべったミーちゃんの腹にくっついてお昼ねしたり、といろいろした。
たまに頭から舐められてべとべとになってしまったときもあるけど。ゴンにでさえ懐かないミーちゃんがおれに懐いている思うと、こう、なんていうか優越感だね。ゴンたちが来たときに俺が家に居たら大いに自慢してやろうと思う。「みろい!俺とミーちゃんの華麗なる技を!」とか何とか言って。

遠い未来を思っていると遥か前方に屋敷が見えた。


「あ、ミーちゃん。俺、執事室に近くならないとこで降ろしてくれる?そこからまた歩いていくからさ」


ミーちゃんの背中を叩いて、耳元に顔を寄せるとミーちゃんは分かったというように軽く頭を上下に振った。ミーちゃんは頭がいいなー。俺はミーちゃんの頭を撫でてから頭上から飛び降りた。
ここからは徒歩で執事の屋敷のやつらからばれないように本宅へと向わなければならない。
抜き足差し足忍び足。俺は歩く木だ。風に飛ばされ転がる石だ。念を使えない俺は「絶」に出来るだけ近づくように気配を極限に殺して歩いた。




だが、俺は甘かった。





「お帰りなさいませ、ミルキ坊ちゃん」




俺がこっそりと執事室を迂回しようと思ったのに、俺の行く手に先回りしてずらりと並ぶ黒服が五人。いわずもがな、我が家の優秀な執事さんたちである。羊ではない。
ゴトーらを初めとする彼らが一様に頭を下げる。

「お帰りなさいませ。お久しぶりです。ミルキ坊ちゃん」
「あー…なんで分かったの?」

このまま全力逃走っていう手もあるが、丁寧な出迎えには答えてやらねば。ていうか、執事の前か逃亡とか雇い主側の人間としては恥ずかしいよ。俺は諦めてポケットに手を突っ込んでゴトーらを見やった。

「『試しの門』を開けられたでしょう。そんな方、中々居ませんしね」

…それに、我が家の使用人みんな念を使えるだろうしな。俺みたいな不完全な気配消しはバレバレってやつですか。

「正面から来たんだもんな、そりゃ、誰か来たって分かるわな…てか、ゴトー、もしかして、もう家に電話しちゃった?」
「いえ、まだ本宅の方には連絡しておりません。ミルキ坊ちゃんがいいとおっしゃるのでしたら、すぐに本宅に電話を差し上げますが?」
「いやいやいや、いいから!連絡しないで」

ぶんぶんと首を振って否定する。連絡しないで下さい。
執事室からだと直接本宅に通じる電話があるのだ。

「坊ちゃん」
「あー…もう坊ちゃんって言うの止めてよ。俺、もう十代になったしさぁ?」
「…はい。では、ミルキ様とお呼びしても?」
「うん、そうしてくれ」

好青年風にゴトーは笑顔で俺に接する。
その中には執事というものを越えた親愛が込められている。まぁ、俺としてはこういう敬語で俺に話しかけるゴトーもいいけど、漫画でのゴンたちに脅迫をしてたヤクザの若頭みたいな口調と表情も好きだなー。
俺の前ではあの口調と態度を出してくれたことないのだがな。そりゃ、雇い主と使用人なわけだから間違ってもあんな風に俺に対してくれないよなー。
ああ、見て見たい、ヤクザチックゴトー。









「おうちの扉を開けるのが嫌です」

俺の前には本宅の玄関の前にいた。なんていうか、ピンポンダッシュして逃げたいぐらい。いや、ピンポンが無いんだけどね、うちんち。


「ただいまー…」

と小さな声でドアを開ける。家の中は静かだった。

「おお、ミルキ。帰ったのか」
「はぎゅ!…ってうわ、ゼノじいちゃんかぁ!」

振り返れば祖父がいた。流石は完璧な気配の消し方!

「なにを変な悲鳴あげておるんじゃ」
「吃驚したからだよ!あー…久しぶりです。じいちゃんも達者そうでなによりです」
「ワシもまだまだ現役じゃ。ミルキの顔を見るのも久しぶりだのぅ、何年ぶりじゃ?」
「…四年ぐらい?」
「四年か」

ふむふむと顎鬚に手をやって頷きながら、くるりと背を向けても元来た道を去っていく。
ゼノじっちゃんはドラゴンボールの亀仙人の天下一武道会の変装バージョンに似ていると密かに思っている。
ゼノじいちゃんの服には「無死無片」。

…えっと元は「無私無偏」だよな?私心がなくどちらにも偏らずに公平っていう意味の…。

「シルバは部屋におったぞ。さっさと顔を見せてやれ」
「あいさー!」

ビシッと敬礼を返し、俺は早足にシルバの部屋に向った。








「よく帰ってきたな」


え、なにその「よく帰ってきたな」って。
それはあれか、「てめぇ、よく俺の前に顔を出せたなぁ、ああん?」と言う意味なのか。
シルバったらカッコいいよなーこれが、俺の親父だと思うとなにか現実世界のくびれたサラリーマンの父親が哀れになってくる。シルバみたいな親父だったらもう俺が娘だったら「お嫁になんかいかない!父さんの以上の人なんていないもの!」状態だ。

「どこに道草くってたんだ」
「あー…えっと、天空競技場って殺しちゃいけないの知ってる?知ってるよね、うん、ちょっとなんていうか、思わず頭来て手が滑っちゃったっていうか…うん、殺しちゃってね、199階どまりで200階に行けなかったんだよ。…だから、ごめんなさい」

父さんの目をまともに見れず、言い訳にもならぬ言葉を発し、俺はふかぶかとシルバに頭を下げた。うう、怖いよー。
己より強い相手に謝るときは九十度に身体を折り曲げましょう。さらに、やばい時は土下座しましょう。プライドで飯は食えません。気分はジャンピング土下座。むしろスライディング投身平伏でもオッケー。

「あ、そ、それでね、ハンター試験を受けてきました。合格しました。だから許してください…」

営業マン同士が名刺交換するかの如く、ハンター証明書を提出する。


「…」
「…あ、あの」 
「…」
「…ご、ごめんなさい」
「……」


頼むからなんか言ってよ!もしくは行動してよ!下げた頭にズキズキと視線が痛いよ!
いやーん!熱い視線に俺の後頭部は虫眼鏡で太陽光線にさらされたかのようにジリジリとなるよ!穴が開くよー!

シルバが動いた。


「おかえり」
「…ッ」

ポンっ、と大きな手が俺の後頭部に載せられる。
お父さん!俺は今なら夕日に向って走れる気がする!!ガバッと身体を起こして父さんに飛びついた。





ああ、素晴らしきかな家族愛!!!





■□■






久々のゾルディック家の夕飯は豪勢だった。
デカイテーブルに所狭しと並べられた湯気の立つおいしそうな料理の数々!ぷわんと美味しそうな匂いに口の中はパブロフの犬のように涎塗れに……は、ならない。
どっちかっていうと、この料理に含まれている毒を思い、冷や汗が出てくる。

毎月闘技場に送られてきた毒ノルマは達成していましましたよ!ゾルディックから逃げている間は毒をあまり飲んでいなかったので、これは明らかに拷問だ。俺、ちょっと耐えられる自信がない。


「ミルキちゃん、お食べなさいな?今日のお夕飯はフルコースよ!オホホホホホ!!」
「……い、いただきます」

覚悟を決めて肉を一口。

「ッ……うぅ」

ジーンと舌先が一瞬にして痺れる。歯医者さんが治療で間違えて麻酔薬を多く注入してしまった感じ……。口の中が五倍ぐらいに肥大したようにぼんやりと痺れる。半泣きになりながら出された料理を平らげる。目の前がぐらぐらする、脂汗出てきた。絶対今のおれは青ざめている。唇も真っ青かもしれない…。
帰ってきた早々にこの毒量はやめてくれ…。

息も絶え絶え俺の前に出された料理を食べ終える。うう、死ぬ。最後に何も入ってない水を飲み干し、ほっとして食卓を改めて見回すと、俺とゼノじいちゃんと、マハじぃじと、シルバとキキョウとイル兄とアルカとカルトがいた。
……あれ?大事な人間が一人足りなくない?と、今更ながら気が付いた。

「…ねぇ、父さん。キルアは?」
「ん?キルは天空闘技場にやったぞ」
「………キルアって、今何歳だっけ?」
「キルちゃんは六歳よ、ミルキちゃん!」
「……へーへーへー…」

そうか、俺と五歳差があるからな、今の俺は十一だよ俺。もうすぐ十二歳になるけどさ。ほほう。なんというか遂に原作突入って感じかな。
つーことは、キルアが帰ってくるのは二年後ってことだな…うむ。ちっこいキルアが見たかった…が、まぁいっか。とりあえず二年後ってことはキルアが八歳で帰ってくるんだおなーそれから四年後に家出するわけだろ?俺はどうしようかなー何しようかなー。

「ごちそうさまでしたー」
「ミルキ」

ちょっとふらふらになりながら食堂を出ようとすると、とイルミに呼び止められた。

「イル兄!久しぶりー元気元気?まぁ、兄貴はいつだって元気だろうけどさ」

まだイルミにはただいまの挨拶をしてなかったなぁと、笑顔で挨拶。

「うん。元気だよ。ミルキは?」
「俺は元気だってば。なんかさー、父さんが結構簡単に行方不明になったこと許してくれて良かったよ。ほんと、父さんが頭撫でてくれるまで生きた心地がしなかった…」
「ミルキはまたどこか行くの?」
「暫くは家にいるよ。なに、なんか俺にも仕事があったりすんの?あんま自信ないんだけど…」
「いや、俺も今は仕事入ってないよ。しばらくは家にいるよ」
「へぇ、そうなんだー」


俺の横をシルバが通り過ぎようとする。
あ…なんかさっき俺忘れていたことを思い出したんだけど…

「あ、父さん父さん、ちょっと待って!お願いがあるんだけど!」
「なんだ、ミルキ」
「俺に、【念】を教えてくださいませ!ッ……!!

お願いした途端に、この世のものとは思えない圧力が俺を襲った。こ、これは…念で威嚇されてるッ!!

身体が、石にでもなったかのように固まる。
目が、極限まで開かれる。キモチワルイ、キモチワルイ、コワイコワイ、頭を埋め尽くすのは死。死ぬ、殺される、いや、父さんが俺を殺すはずはない。でも、これはマジな殺気だ。
これがあれか、【念】を知らない人間が無防備にに受けてしまうものか。

俺は瞬きすら出来ず、歯を食いしばる。
駄目だ、負けられない。動け、俺、動け。





死?





……死は怖くない。死んだら…死んだらきっと、元の世界に戻るだけだから。






恐怖が。恐怖自体が怖い。






俺は一気に手甲を変化させると己の太ももに突き刺した。

ザクリと肉が裂け、血が噴出す痛い!痛みに一瞬頭が冴える。
一気に後方に飛びのく、目は片時もシルバから逸らすことなく、逸らしたら訪れるのは死しかないと確信がある。
それは、恐ろしいほどの死の予感。



俺は逃げた。
それはもう、下手すれば腰を抜かして一歩も動けなくなりそうに振るえる足を必死に動かして。とにかく、この恐怖の領域から逃げ出したい。だが、走っても走っても足が先に進んでいる気がまったくしない。逃げれない逃げれない。



ふっと、後方からの圧力が消えた。
固まっていた空気が揺らいで風が通る。


「……はふっぅ…」

がっくりと膝を付く。全身が弛緩する。

「大丈夫?ミルキ」
「イル兄ィ…駄目だ、俺は死ぬ。死んだ。…腰が抜けて、立てないッ…」


もう笑いさえ出てきません。半泣きの顔でイミルを見上げた。その横には父さんも立っていた。
イミルが手を引いて無理やり立ち上がらせてくれた。膝がまだ笑っていてへっぴり腰だけど、なんとか立てた。うおお、気を抜くとまた膝から落ちそうだ。

「【念】についてはどこで聞いた?…二百階には足を踏み入れていないのだろう?」

父さんが聞いてきたので、まぁね、と笑う。おお、やっと笑えた。

「でも、知ってる、よ。出来ないけどさ」
「誰に聞いた?」
「……誰にも。俺(ヤマダ)が知っているんだよ」


ハンターハンターの漫画読んでるとさ、結構【念】って誰でも知ってるものっぽい風に見えるんだけどなー…。歩けば【念】使いに当たるみたいな…これは「東京を歩けば芸能人に当たる」という言葉に近いな。お台場とか行けば芸能人が歩いてたりするけどな。
誰にも聞かずに【念】を知っているのは流石におかしいだろう。あのキルアでさえ、身近にこんなにも素晴らしい念使いがいることにハンター試験を合格し、天空競技場に行くまで知らなかったのだから…。つか、ゾルの人間が【念】についての隠蔽が超上手かったということだろうな。


「ほら、それにさ。ハンター試験証とったから、【念】使えないと裏試験に合格できないっていうか…」

そう付け足すように言えば、にやり、とシルバは質の悪い笑みを浮かべた。
あれ、なにその笑み。なんか嫌な予感がするよ。


「じゃあ、今日からバリバリ扱いてやろう」
「え」








地獄の特訓が始まった。


実家に戻り早3ヶ月…オレ、ドメスティックバイオレンスで本当の世界に帰りたいです。


嬉し恥ずかしは・じ・め・て☆の精孔を開けてくれたのはマイ・パパンでした。
パパンの熱いハート は受け止めたぜ!…ちょっと魂(オーラ)が抜けそうになったけどな!ぎゃはっはは!!(崩壊)
まあ、今生きてれば 過去のことなんて水に流してしまえ!トイレットペーパーと一緒にな! 明日は振り返らない、人間、時間は戻らないのさ!






息も絶え絶え、たどり着いた念は操作系だった。
操作系の特徴は理屈屋・マイペースである。

こんな風にいろんな人の中に入っているのに適応している俺は間違いなくマイペースな人間だろう。理屈屋…っていうのは身に覚えがないがな。だが、そんな些細なことはよいではないか。

第一希望は具現化(いでよ、突っ込み相棒!)、第2希望は特殊系だったのに…。

操作系かぁ…。
操作系って誰が一緒だ?家族以外では幻影旅団の人しか思い浮かばないのですが。
そのうち誰か同じ念のやつと会えるだろー。それまで、俺はどんな念にするか決めなくちゃな。

あーあ、それにしても、ほんのちょっぴり特質系の可能性を考えてあったんだけどなぁ…俺(太郎)が俺(ミルキ)な時点で有り得ない状態で人と違いませんか?中の俺は異世界人ですよ!
……だけどなぁ特殊系みたいなカリスマとか無いからな。



やっぱ無理だな。 中身俺だし(笑)。



見よォ!
一般市民な俺(山田)から発散される垢の落ちない庶民オーラ!
隠し味の偉大なるサラザール・スリザリンのなんちゃって似非貴族オーラ!
さらにわっ、…ふとした哀愁をブレン ドした暗殺者ミルキ・ゾルディックのいじらしい陰オーラァァ!


なにか、素敵にブレンドされたなエレガント優雅山田オーラが出来ている気がするぞ。(どんなだ)


ふむ、今度鏡の前でちょっとポーズを決めて見たい気もする。
あれだな、ハンターハンターの原作者に敬意を表して、決め台詞は「月に替わってお仕置きだぜ★」でどうだろうか?え、駄目だって?消えろ?ふざけんな?


イタ、イタイ!ちょっと、石投げないで!



……と、脳内の分身俺に石を投げられたので今の鏡の前でうんたら…は記憶の彼方に消し去ろう。





















あー…ほんと、何にしよう…。






(とりあえず、死にそうな敵から逃げられるような念能力がいいな!)




※最初はパブに入って階段下りて地下のいめくら痴漢電車ごっこの電車にのって会場まで向うつもりでした…というか、そういうのかいてたんですけれど、途中でデータが全部消えました(笑顔)やっぱり健全路線で行きますよ。どうでもいいが、なんかこの話は詰め込みすぎて収集が付かなくなった感がある。

※ミルキの念能力を変更。変化→操作に。原作が操作ってなってた!071122