朝の予感に髪を捕まれ、月に首を絞められる













彼が歩くと、闇は道を開けた。
彼の瞳は黒銀に輝き、無情にて非情


それは直視できない太陽に似た月の影


彼の存在は 異質


のちに恐怖の代名詞となる男、ミルキ・ゾルディク


今はただの少年でしかなかった…








嘘です。俺は山田太郎(仮名)です。すいません、調子こきました。
なんか夢見てました。夢です。夢。夢はね、常に妄想で出来ているのだよ、うん。

なにやらかっこよく詩っぽいものがモノローグ的に流れたが全て妄想。







気を取り直して、俺の名前は山田太郎(仮名)。
基本的には小心者。
巨大な力を手を入れると調子ずく人間である。元が一般人なので、ちょっと(どころかかなり)権力とかに弱い。

最近出来るようになった特技は、痛覚遮断(未完成)。
痛いのいやだよー、痛いのいやだよーと駄々っ子のように転げまわる俺が「いたいのいたいの飛んでいけ!こんな痛みはないぞないったらない!」と自己暗示にて出来たことだ。痛覚遮断(未完成)とあるのは、痛みは完全に遮断することが出来ずに、大体半分くらいの痛みにしか押さえ込めないからだ。
おお、凄いぞ俺。ここまで自己暗示が出来るほどの能力は中々素晴らしいことだと思う。


俺こと山田太郎(仮名)改めミルキは二年の血反吐を吐く試練の末、無事に【念】を修得したのであーる!と言うことは前回に書いたとおりだ。

最初はゆっくり起こしてもらおうと頼み込んで瞑想とか座禅とかでまったり〜と自分の中のオーラを感じようと頑張っていたのだが、途中でどうしても眠くてうつらうつらしてしまった瞬間、親父さまの殺気を感じ飛び起きた。瞳を開けて迎撃体勢を整えようとしたのだが、そんな時間は無くシルバの攻撃が俺の正面から突撃していた。

なんぞこれ、ちょいと待ったー!!と思う隙すらなく、親父の放った 何 か が俺の細胞の隙間に入り込み、蹂躙し、なにかを無理やりにこじ開けた。
例えるなら、歯医者さんで虫歯を削られるのが厭で厭でたまらないので、歯を食いしばっていたのに「はい、痛くないですよ〜」とにこやかな、でも目が笑っていない歯医者に無理やり両手で口の中を大きく開かれる瞬間に似ていた。


身体か水流のように何かが流れだす。俺の体は膝から抜けて床に崩れた。
身体に力が入らずに、ただ、俺の中から何かが零れ落ちていくのが分かる。止まる気配がないそれは…まるで魂がどこかへ吸い込まれていくかのようだ。

重力にすら耐え切れず、地面に潰れた俺の目に親父のつま先が見えた。霞む目をかろうじて動かし、シルバを見上げる。


親父は無情に俺を観察していた。
実の息子を見る目ではない、冷たい瞳を瞼に焼付け、俺は真っ暗な暗闇に 身 を 沈 め  …







……
…………





ノォオオオー!!
何ソレ!それ死亡フラグじゃん!
ふざけんな!俺は誰だっ!?俺はミルキ(in山田)だろうっ!
メタボリックな体型であっても、原作にちょろちょろと姿を現してその存在感を遺憾なく発揮した!原作までは生き残っていたんだよ、俺はーー!!

「ふんぐっ!」
「何だ。まだ死なねぇのか」

俺が気合で腹に力を入れて起き上がろうと腕を付く姿をニヤニヤとシルバは笑って見ていた。
駄目だ!この人駄目だ!助言すらくれる気ねぇよ!なにその、「死ぬなら死ね」的な冷たい目なのっ!
お父様!今までの愛情はどこへ行ったのさ!!


「ふざけんなぁあっ!」


戻って来い、俺のソウル!エネルギー!オーラ!全て俺の中にカムバック!!誰がこの身から離すものかっ!
オーラ垂れ流し状態が急速に収集する。


おおっ…宇宙が、宇宙が見える!


よろよろと立ち上がり、空高く両腕を伸ばす。大きく息を吸って、吐く。止まれ、命、俺のオーラよ。


「………」

何度目かの呼吸で、体が幾分楽になった。
親父を振り返りハンッと笑ってみせる。足はガクガク、生まれたての子羊のよう。クララが立ったよ!ミルキが立ったよ!とかボケたかったけれど、そんな暇は無く全身を泥のような疲れが多い、ふらふらと俺は今度こそ意識を手放した。
俺を地面に倒れこむ前に、俺を支えるように受け止めてくれた誰かの感触。…シルバかなぁ…?







そんなこんなで、俺は紆余曲折を経て【念】を修得したのだ!


一歩家の外に出れば超人、仙人、天才、最高、手品師と皆に喝采をあ…ああん?なんか今最後の方に変な単語が混ざったな(手品師ってなんだよ、オイ)。

要するに畏怖の瞳で喝采を浴びるのだ。
平凡の皆様、あら御免あそばせ!そこをおのき遊ばせ!みたいな感じでな。手に孔雀だかなんだかのケバケバしい扇子を持ってるイメージで宜しく。

まぁ、そんなこんなでなんとかぎりぎりで父さんから【念】の基礎は大体取得できたと認めてもらえた。
なかでも、「【絶】と【隠】は完璧だ」とお墨付きを頂いた。ふ、そりゃあ元が山田太郎(仮名)ですからね。基本的には平凡さのあまり、どこにでも溶け込めるのが特技です。中の俺は平凡です。被っている皮は最上級の人間が多いですがね。スリザリンとかゾルディックとか世界レベルで上位の人間だろう。

俺とは縁遠いい。
きっと現実世界であっていたら俺は路傍の石…いや、ありんこみたいな感じで全く知覚していただけないに違いない。

さて、本当ならここで【念】を覚えたぞ!万歳!となるところなのだが、俺が【念】を使えるようになったことって誰に言えばいいのだろうか?
親父は裏試験官名わけじゃねぇし、俺は念が使えるようになっても親父が俺を真のハンターとして認めてくれるわけじゃない。

いちおう、事前に配布されているハンター証は使えるから、それを使って電脳にアクセスしてハンター協会のホームページを見てみたのだが…裏試験管が身近にいない場合の対処法がどこにも書いてあるわけでもなく…。


「あー…ということは、俺はハンター協会まで出向かなければいけないのか?」


めーんーどーくーさーいー。その一言に尽きる。
見ていたパソコン画面から離れ、ベットに寝っころがる。

しかしながら、腰を上げなくては正真正銘のハンター証が手に入らない。
ハンター証が手に入ったらもう一生遊んで暮らせるんだぞー。なんだその素晴らしいアイテム。宝くじがよりも素晴らしいかもしれない。垂涎の的に間違いない。
こうして折角【念】まで覚えたのだからやっぱり真のハンター証は欲しい。いざとなったら売り払って一生遊んで暮らそう。そうだそうしよう!
天空競技場で稼いだ分と、ハンター証を売ったお金で一生遊んで暮らせることは間違いない。

いつまでも暗殺家業をやってたくはない。両手両足で足りないほどサクっと人殺しをしている俺だが、やっぱりこびり付く殺人への嫌悪感というのはそうそう拭えるものではない。超極悪人を殺したりするのは自分が正義の味方になった感じで気分がいいんだけどなー…。
女子供を殺すのはやっぱりイヤだし、いい人を殺すのは心が痛む。(爪の先ほど)


俺としては殺されて死ぬのはイヤだ。
スパッと痛みも無く殺してくれるならまぁ、いいんだけどさ。死んだことに自分が気が付かないからね。
でも…ネチネチと殺されたりしたらあれだな、特に拷問とかされたら俺ってば超恨むよ。恨みまくるよ。
使えないのを分かっていても、呪いの呪文唱えてしまう。我が修めし闇の呪文をとくと聞け!そして呪われ苦痛に死ね!


やっぱり、こんな暗殺家業はそうそうに俺だけでも身を引くべきだな。ブラックな賞金首のヤツラとであったことがないのが救いだ。格下しか相手にしたことがないからなぁ。
いやいや、でもそれはゾルディックの【勝てない敵と戦うな!】という素晴らしい家訓のお陰だ!


ということで、思い立ったが吉日。
出かける用意だ!


「ミルキ、いる?………なにしてるの?」


ノックもなしに開いたドアからイルミが遠慮なく入ってきたので「ちょっと、もうっ、お兄ちゃんノックもなしに入らないでよ!」と妹ごっこをしてみようと思ったが、衣装や小物や武器やらを床に散らかしている状況を見てイミルが眉を潜めたので言うのを止めた。
イルミ兄ぃには何を言ってもこう、投げた変化球が見えないストレート魔球になって帰って来るんだよな。…だから、余計なことは言わないほうがいい。
いくら兄弟として育って、イルミ兄ぃのことが他人よりは理解出来てるとはいっても、俺でさえ時たま宇宙人と話している気分になるのだ。

「んー、ちょっと出かけようと思ってさー。準備してんのー」
「仕事…じゃないよね。どこ行くの」

イルミはリュックに洋服を詰め込んでいる俺の横に屈みこんだ。座り方が股を広げたヤンキー座りなので、ペシッと膝を叩く。

「なに」
「ヤンキー座りなんてしないで床に座りなよ…」
「わかった…」

素直に座るイルミ兄ぃは無表情があいまって可愛い。ミケにそっくり。
ほ〜ら、ほ〜ら!と言いながら目先に猫じゃらしを翳して遊びたくなる。…まぁ、たぶん一瞬にして猫じゃらしは奪われてしまうがな。シュパッと俺の目が追いつけないほどの速度で。俺より動くのが早いからな…俺も光速スピードを身につけたいものだ。主に、逃走用に。


「それでミルキはどこ行くの?」
「ハンター登録がさ、【念】が使えるようになったってどっかのハンターに申告しなくちゃいけないっぽいんだよねー。だからハンター協会まで行ってこようと思って」
「帰ってきたばかりなのに」
「ん?そうだっけ?なんんだかんだで二年ぐらいは家にいたんじゃない?その間に扱いてもらったし、仕事もちょっとしたし。また外行きたいなぁって思って」


しばらく訓練は勘弁して欲しい。
漫画ではゴンとキルアは超最速で【念】をマスターしているっぽかったが、俺は山田太郎(仮名)なので二年もかかってしまったのだよ。

俺は努力の人ではないけれど、そこそこ血反吐は吐いたヨ。
死んだほうが楽なこともあるから、頑張ることなんかないけど、【念】はね、ハンターに来たからにはお約束として頑張らねばね。

「父さーん。俺またちょっと家開けるわー。ケータイは持ってるから連絡はこっちにしてくれよ」

折角ハンター世界にいるんだし、もっと世界中いろいろみたいよなー。サラザールの時だっていろんな国に行ってたし。
帰ってきた間に、暗殺家業はちょこちょこっとお手伝いで外にでかけたけれど…んー、さらっと名所観光だけって感じで街中とかあんまりみてないんだよなぁ。

「まぁまぁ、ミルキちゃんたら、またおうちを出て行くなんて!ママは寂しいわ!」
「うん、でもほら、メールも電話も通じるし、可愛い子には旅させろっていうし。ここは俺を送り出してくれよ。大丈夫だって、毎月連絡いれるからさ」

ゾルディック家には五人の子供がいるんだから、次男の俺が抜けたところで特に支障はない。というか、改めて考えてみると五人とかって子沢山だなー。シルバったら励んだな。(にやり)

…なーんて、冗談。単純に多めに生んでおかないと何時子供が仕事で死ぬか分からないものな。
あれだ、魚は沢山卵を産むけど生き延びられるのはホンノ一握りっていう自然界の話だわな。


時は1995年(俺、十三歳)、くしくもも俺はキルアが天空闘技場から帰ってくるのと入れ違いに再びゾルディック家をあとにしたのだった。





■□■





まず最初に、最短ルートでハンター協会に行った。目当てのことは最初にするに限る。
昔、買おうと思っていた洋服をフロア一周して戻ってきたらソウルドアウトしていたときの哀しさだ。欲しいものは先に食べねばならぬ。いちごのショートケーキのように、いちごだけ最後に食べるの!なぁんてことは女子供がすれば可愛いかもしれないが男は最初に据え膳食うのだ。
ハンター協会にまでやってきた俺は、堂々とこう受付で宣言した。



「ちわー。ミルキ・ゾルディックですけど、えっと、ハンターの人誰かお願いします」



受付のお姉さんはゾルディックと聞いて一瞬顔をこわばらせたけれど、俺が渡したハンター証のデータが山田太郎(仮名)に為っていることに気が付いて、

「山田太郎さまですね。お待ち下さい」

と、わざわざ言い直した。

……いや、俺はミルキ・ゾルディックなんですけど…。中は山田太郎(仮名)ですけど…。ハンター登録も山田太郎(仮名)でしましたけど…。
んんー。登録した名前そのままでハンター証が発行されてるってことだよなぁ…偽名でいいハンター証ってどんなのだよっ!って感じだけど。あれか、ということはイルミもこののちのハンター試験ではギダ…ギダなんとかの名前でハンター証が発行されたのかなぁ…いや、でも、イルミ・ゾルディックで登録された可能性もあるよなぁ…。
最後で、イルミの顔バレ、名前バレしてんだから…。


俺は最後まで山田太郎(仮名)で通したからいいけど。


まぁ、山田太郎(仮名)のままハンター登録したままでいいか。途中で申請すれば登録名変えられるかもしれないし!…それに、たぶん、ハンター協会の方でも多少の素性調査とかしてるだろうからな。
家に普通に帰ったし、別に顔を隠しているわけでもないので俺がゾルディックに関わりある人間ってことはバレてるあろう。

ハンター協会に勤務しているハンターの人がやってきた。そしてそこらへんにいた眼鏡かけたハンターの人に別室に連れて行かれてちょっと怖かった。眼鏡掛けてる大人ってみんな先生に見える。そして二人だけの別室に連れて行かれると何を言われるのかと何も悪いことしてないのにドキドキしてしまう…。
眼鏡掛けた人に言われるがまま、覚えた四大行【纏】【練】【絶】【発】、続いて応用の【凝】【隠】【周】【円】【堅】【流】【硬】などをお披露目して終了。


「四大行は完璧ですね…応用も、この短期間にそこまで学んだのは驚きべきことです」
「うわーい。じゃあ、裏試験合格ですか?」
「はい。おめでとうございました…ええっと、山田くん?」
「ありがとうございましたー」
「いえ…」


にっこにこ笑顔で俺はハンター協会をあとにした。ヘテロ…いや、ネテロ会長にも挨拶したほうがいいのかとも思ったが、別に狸ジジィの顔を拝む必要もないかと思って背を向けた。



俺のハンター世界万遊紀は始まったのである。
取り合えず、俺が覚えている場所をリストアップして、地図で探すことにした。

あと、やっぱり途中で凄い敵とかに会ってしまった場合を考えて修行っぽいのをした。もちろん、全てゴンとキルアが…えーとなんだっけ、物忘れが激しくて人の名前とか忘れてんだよなー…ロリ系の女の人に教えてもらった…えー…変身するとムキムキになる…駄目だ、思い出せない。顔を思い出せるんだけどなー。
その女にやらされていた訓練をそのままパクッてね。


それから、ケータイ電話ももうひとつ買った。
翻訳機能が入っているので超割り高だったけど、こっちは仕事用に使おうと思う。割り高って言っても高がしれてるしな。俺、お金一杯持ってるし。

放浪の旅の中で、俺はのみ市でなどで骨董品を探すことに嵌った。【凝】で見て探すっていう、アレをしてみたわけだが、これが意外に面白い!ガラクタの中からイイモノを探し出すちょっとした宝探し気分。
骨董品でよさげなものを見つけたら買って、電脳で売るのである。





サイト名は『山田商店』。まんまや。まんまである。

もちろん、いいもの(というか、いわくつきのもの)を売っている自信があるので、こちらとしてもあんまり安くは売りたくないなぁと思う。
二束三文で買って転売しているのでそのあたりは自分でもがめついとは思うが。でも、それが商売ってもんだよな。利益は上げなくては為らない。
それに、そんなにめちゃくちゃにあこぎな商売してるわけでもないし。
ボチボチでんがなーと言う感じだ。美術品とか分からないので、価値が分からない俺が持ってても仕方がないしな。

『山田商店』を開いてメール友達が出来たのは、ちょっと嬉しかったりする。
俺は普通にヤマダで通しているが、相手はキャッツという人だ。丁寧な文章の人で、結構俺んとこの骨董品を買ってくれる。品がいいねと褒められれば悪い気はしない。俺は褒められれば調子に乗るお手軽な人間である。

時計回りにアイジエン大陸から入り、バルサ諸島の島国を回った。なんだかあまり馴染みの無い文化や知られていない国が多く、面白い場所だった。
もちろん、バルサ諸島のミテネ連邦のひとつ、NGL自治国には興味深々で行った。隣のロカリオ共和国との国境になっている川の近くにある検問所兼大使館で厳しい入国チェックを受けた。
流石に肛門までチェックしようとするのはどうかと思った。俺、ハズカシイ。


そして、俺はヨルビアン大陸に来ていた。ヨルビアンでの目的地はヨークシティだ。平和なうちに是非とも行っておきたい。
出来るだけ交通網を使わない徒歩での世界放浪をしているのだが、流石に砂漠を徒歩で渡ろうとは思わない。ジープの荷台に載っている。共同ジープなので、俺と似たような人間が六人ほど荷台には乗っていた。特に俺と接点が無いだろう、人のよさそうな旅人風だった。

「熱いね」
「熱いですね…」
「水のむ?」
「いただきます…」

喉を潤す水に、人間とは水分で出来ている
ゴルドー砂漠を越えるために、砂避けのマントとのゴーグルを買った。太陽光避けをしていても、やはり暑いものは熱い。
ジリジリと服の上から焼ける感覚がする。マントフードを買っておいてよかったと心底思う。




「暑い…目玉が焼ける…」

あ、いい間違えた。目玉焼きが焼けるだ。…目玉を焼いたってグロイだけだよなー。






■□■






やっぱり電脳喫茶はいいよなー。
ドリンク飲み放題だし、空調は効いているし、シャワーもあるし、漫画やビデオ見れるし!ホテルにハンター証で泊まってもいいけど、こっちの方が気楽でいいよ。庶民派ですから。
ふかふかベットで眠りたいときはホテルに泊まるけどさ。


ピロロ〜ン♪


「もしもし、父さんどうしたの?」

声を潜めて電話に出た。

『ミルキか?俺だ』
「うん、それは分かってるけど…父さんから電話なんて珍しいね。なんかあったの?仕事?」
『キルアが家出した』
「え?」

パァードン?

『…キルアが家出した』

面倒くさそうに、シルバがもう一回繰り返した。

「え、は?ええ?家出?キルア家出ぇ!?」
『ああ…キキョウが刺されてな。カルトも少し怪我をした』
「…」



俺、絶句。
いつのまに月日は経ったのだろうか。

家出ってことは、あれか、原作についに突入したということなのだろっ!?
シルバやイミルとは時たま仕事を一緒にしたりしていたからいいけど、実家にまでは帰っていなかったのでキルアの成長なんて見ていない。ていうか、ほとんど記憶に無い…。
ええっと、俺はいま十九で…あれ、原作始まったとき、ミルキってこんなに若かったの?

……あのふてぶてしい体型は、二十歳越えてると思ってたのに…たぷたぷのお腹が贅肉を太鼓のように叩きたかった。ぽよよ〜ん、ぽよよ〜んと可愛い音がしそうだ。


『聞いてるか?ミルキ』
「あ、聞いてるよ。…じゃあ、久しぶりに家に帰るわ。なんか土産いる?」

一旦家に帰って、母さんを宥めて、カルトを見舞おう。
あー…カルトには可哀想なことしたなぁ…俺がいなかった代わりに、カルトに被害が行っちまって…。

『いや…特にああ、こないだ言ってたベンズナイフ、くれよ』
「…もちろん。俺、いらねーもん」
『じゃあな』

手元に残っていた炭酸の抜けたメロンソーダをぐいっと飲み干して俺は個室を出た。

「会計お願いします」
「は、はいっ…!」

カウンターの女性に上ずった声で告げられた代金を支払い、俺は早足に出口へ向った。

「カッコイイー…!」
「また来ないかなぁ…」

……俺は自分だけど自分(ミルキ)じゃないから客観的評価している。けして、ナルシストなわけでも、自意識過剰の可哀想な子なわけじゃない。

だから言おう。誤解を恐れずに言おう。
俺は町のショッピングウインドウに映る自分の姿を見て、呟いた。






「俺、カッコイイ」






ミルキ・ゾルディック(in山田)はカッコイイ。すごくカッコイイ。(強調)
太らなかったら人気が出たキャラだろうになぁと、俺は姿見に全身を映してしみじみと思った。

身長と体重は電脳喫茶のシャワールームで量ったら178の62。体重がちょっと少ないので痩せ型の細身だ。
すっきりとした輪郭にちょっと長くなってしまった艶やかな黒髪がかかっていて、前髪に少し隠された一重の瞳は切れ長。優等生って感じでもなく、なんだか小奇麗でちょっと影のある少年って感じだ。これで伏し目がちに座っていれば、ちょっと怖い気がしないでもないつり目が緩和されて物憂げな美少年って感じだ。

…美少年、というか、美少年と青年の真ん中あたり?
中間の未発達な荒削りな原石っぽい?…オエッゥ、自分で言っててなんかナルっぽくて気持ち悪ぃ…。

いや、でも実を言うとサラザール・スリザリンの造詣には遠く及ばない。あれは神の造詣だった。ありえない造詣だった。
そもそも、銀髪に赤目とかオカシイ。なにそのいかにも神秘的な常人じゃないよ色彩は。

帰りは急ごうと思うので久々にまともな交通網を利用することにした。久々に使ったバスは込んでいたが二人用の席が空いていたので座った。

「隣いい?」
「あ、はい。どーぞ」

窓の外を見ていると隣に人が座った。ちらりと顔を見て、へらりと愛想笑い。暇なとき用の漫画本を読みながら、家路へと向ったのであった。


「お帰りなさいませ、ミルキさま」
「タダイマー」

さて、ゼブロのいる正面玄関を抜け、執事室まで移動した。
毎度の如く現れたゴトーたち男五人衆のさらに後方には、幼い幼女が、不釣合いな黒服を着て深く頭を下げたまま顔を上げようとしない。だが、俺には彼女が誰だか検討がついた。
確か、カメリヤ……いや、違うな、カナリアだったけ?

「ゴトー。その後ろのちまいのは?」
「新しく入った執事見習いです。カナリア、ご挨拶を」

促されて、顔を上げたカナリアは俺の前に立ち、緊張した面持ちで名乗った。セットしずらそうなチリチリとした髪の毛をぎゅっと結び、褐色の肌が健康そうだ。

「初めまして。執事見習いのカナリアと申します」
「俺はミルキ・ゾルディック。この家の次男坊だ。……ってことで、握手でもする?」
「え…と」

にこやかにフレンドリーに手を差し出してあげたら、狼狽された。なにかもの悲しい。

「はは。なんでもない。握手なんかしないよなー。んで、唐突に聞くけど、カナリアはキルアにはもう会ったんだよな?」

もうこの時期ってキルアに会ってるよな…と思って聞いてみる。カナリア見たら、漫画でキルアが木の上に座って下に立つカナリアに話しかけている場面がパッと頭に思い出されたのだ。あのページはなにか胸キュンしたよなぁー…。キルアお友達いない子ななのねっ!(というか、俺も友達いないけど…旅の間に知り合いはいるけどさ…)

「はい……」

躊躇いがちにカナリアが頷いた。

「ああ、そっか。じゃ、やっぱりお友達になれませんよー宣言しちゃったりしたわけだ?」
「な、どうして、それをご存知で…!?」

あからさまに顔色が強張った。そうだよなー。
なんで今まで居なかった人間が帰宅したと思ったら、んなキルアと二人だけしか知らない秘密(お、なんかこの言い方って卑猥な感じ!)を知ってるんだもんな。
お前はエスパーかぁああ!!と突っ込みたくなるな。いや、是非とも突っ込んで欲しいところだが、使用人にそんな高等スキルは望むなかれ…。


「あー、いいのいいの。別に怒ってるわけでもなくてね。この家にいる限り、雇用主と使用人が友達になれるわけないじゃんね?」


なぁ?と首を傾げて同意を求めてみるが固い表情のまま、返事は返ってこない。

そういえば、俺が出て行った時にキルアは一体何歳だったんだっけ…。母上はキルアが生まれたとき、やっと親父似の銀髪のゾルディックの血を色濃く受け継ぐ子供が生まれたから、その日は高笑いが凄かったのを覚えている。家の中が母上の笑いの高周波でいたるところにヒビが入ったんだよな…。

あと、嬉しそうに微弱のスタンガンの電流をキルアの柔肌に押し付けていていたこととか…兄貴もキルアのことを興味深々で触っていたなぁ。
特に、その銀入りの髪をね、物珍しそうにブチブチと引き抜いていたよ…(あれも一瞬の拷問?)


俺、キルアと話した覚えが数えるほどしかないのですが。
いや、ほらだってさ、母上とイミルがめっちゃキルアに構いまくってたし。俺は朝昼晩の飯の席で一緒になるぐらいしかなかったのですよ。別にわざわざキルアの様子を見に行く必要性も感じなかったしさぁ、なんかキルア、俺に懐いてくれなかっていうか…あの頃が確か、キルアが三歳ぐらいだったのかな。
おっきくなってんのかなー。俺が家を出た時はよく動いてはいたが言葉はまだおぼつかなかったんだよなー。


「俺んちの愛情表現って複雑なんだよねー。親父は威厳がありすぎて何を俺らに求めてるのかいまいちよく分からないし、母上はちょっと愛が痛いし、イミル兄ぃも兄ぃで、キルアのこと凄く大切に育ててるし…なんつの、キルアにとって同等の"友達"ってここにいないんだよね。…だからさ、たぶん、カナリアも色々考えてると思うんだ。使用人としてでもいい、それ以上の感情をもってもいい。いざっていうとき、キルアに味方してやってくれ」


うん。俺んちの愛情は濃いからねー。
ほんと痛いし死にそうだし、熱々の熱湯の中に真綿でぐるぐるまきにされながら針を刺されている感じに。


「ま、キルアはまだまだガキだからね。この家にいる限りこの呪縛は早々抜け出せないさ。でも、いつかはこの家も途絶えるだろう。……それはどんな栄華を極めた一族にでも言えること。人間の一生なんて宇宙から見れば虫の如き短小よ」


スリザリン家がいい例かな…あの家も終わる時は終わったしな。


「そう、…逃れることは出来ぬのだ」


気が付いたら子孫は出来の悪いリドルだけだよ?勘弁してくれって感じだよな。肩を竦めて遠くを見てちょっぴりスリザリン・モード。


「ミルキさま…」
「ミルキ坊ちゃん…」


なにやら怯えを滲ませた声が聞こえたが、気のせいだと思う。





■□■





「ミルキちゃんっ!帰ってきてくれたのね!ママに貴方のお顔をよく見せて頂戴っ!」

物凄い力で引っ張られ、母さんの身体に覆いかぶさりそうになったのを両手をついて押し留める。危ないなー。母さん、自分が怪我人だってこと忘れてるんじゃねーの?

「ただいまー母さん。うっわー…包帯グルグルだねー。傷の具合はどう?」
「このぐらい、虫に刺されたようなものよ!オホホ」

その怪我を虫に刺されたぐらいとはよく言うよな、母さん!
キキョウの体は、あの漫画で見たととおりに包帯に巻かれていた。特に、綺麗な和風美人の顔が隠されてしまっているのがなんだかショックだった。

「キルアもよくやったよな…母さんの顔、傷つけやがって…」

いや。別にマザコンというわけではない。
でも、女の顔は傷つけないであげようよ。それが男だろ。

「ウフフ。大丈夫よ。暫くすれば綺麗に直るわ」
「そっか。ならいいけど…でも、よかったね、母さん。キルアもとうとう反抗期だね」
「そうよ、そうなのよっ!あの子もやっと私を刺すことが出来るぐらいに成長したのよ!」

テンション高くベットの上ではしゃぐ母さんに、ちょっと付いていけないものを感じながらも、そうだねーと適当に相槌を打つ。
反抗期で親刺すって、それどんな反抗期だよ。自分で反抗期だねーと言っておいて、空寒いものを感じだぞ。

「あ…カルト?」
「はい…」
「いやいや、顔合わすの久しぶりだけど、そんな固くなるなよー。お兄ちゃん悲しいぞー」

まだまだチッコイ。…そしてやっぱり、着物着てる。
屈みこんで、綺麗に揃えられた髪をかき混ぜてやると吃驚したようにカルトは固まった。

「え…」

驚いて俺がぐちゃぐちゃに撫でた髪に手を持って行く。その拍子に着物の振袖が捲れ、包帯が巻かれた部分が見えた。…ああ、腕切られたのかな。でも、そんなに大した傷じゃないっぽい。腕を自分の頭の上まで持ってけるんだから。
俺は背負っていたズタ袋の中からカルト用のお土産を「ジャジャ−ン!」と口で効果音つきで取り出してカルトに差し出した。


「これお土産な。俺のおススメの!これは凄いんだぞ。誰も入らないような森の中にひっそりとやっているパン屋さんでな、でも、パン屋さんかと思うと、実は薬草販売をしているところだ!これ、毒食べた後に飲むとすっきりするぞー!」
「あ、りがとう?」
「父さんにはこれね!ペンズナイフ!」
「ああ」


そして一ヶ月ほど実家でカルトと鬼ごっこして遊んだり、父さんと手合わせしたり、母さんとお買い物に行ったり、マハじいちゃんとゲームしたり、ゼノじいちゃんの肩もんだりと親孝行をして過ごした。
一通りの家族サービスを終え、電脳のブックマークしてあるハンター協会を捲ってみると、ハンター試験の始まりがtopに大きく告知がされていた。

「イル兄ぃ、ハンター試験受けるんだっけ」
「うん。仕事で必要だから」

なぜか俺の部屋のベットを占領し、グダグダと俺の漫画本を読んでいるイルミ(…いや、いいんだけどね?全然別に構わんのだがね)が頷いた。

「顔はそのままで行くの?」
「そのつもりだけど。なんで?」
「……顔、変えていったほうがいいよ。試験にキルアがいるから」
「へぇ。じゃあ変えていこうかな」

イルミ兄ぃは、なんで俺がキルアがハンター試験を受けるって知っているのか聞かない。特に俺には干渉する気はないということか。
他のめぼしいページを見て、『山田商店』の状況を見て何通か着ていたメール返信してほう、と一息ついた。

ピロロン♪ピロロン♪


「電話?俺のじゃねーし。イルミ兄ぃのケータイじゃ…」

着信音が鳴ったが、俺の電話じゃない。じゃあイミルのかと思ってベットを振り向くが、いつのまにかイミルは漫画を開きっぱなしでいなくなっていた。電話はしつこくなり続ける。俺だったら電話のコールは五回過ぎたら切るのに…。


「電話なってるよー!イル兄ぃいないのっ!?」

大声を出してみるが、イルミの気配は無い。

「ち、留守電にもしてないのかよー。出るよー!出ちゃうからねー!もしもーし!」
『おや、君は誰だい?』
「あなたこそどちらさまですかー」
『これ、イルミの電話だよね?』
「そうですよー。今手が離せないんでのちほどおかけ直し下さい」
『君でもいいよ。君の名前はなんだい?ボクはヒ』
「じゃ、お願いしマース」

ブチ。
問答無用でぶちきる。
ポイッとケータイをベットに捨てると同時にイルミが帰ってきた。手には二つのコップを持っている。どうやら飲み物を取りに行っていたようだ。

「今電話かかってきた?」
「うん。出たけどかけ直してって言っておいたから大丈夫だと思うよ」

聞いてない聞いてない。「ヒ」から始まる変態には興味ない。ああいうイカレは一キロ離れたところから見守っているのが一番いいんだ。
イルミ兄ぃから飲み物を受け取る。イルミ兄ぃはケータイを弄った。

「ああ…気にすること無いヤツからだったからいいよ。何か聞かれた?」
「……名前聞かれたけど、それだけ。答えてないけどね…兄ちゃん、人との関係は考えたほうがいいとおもうよ」

















俺、絶対に、変態とは付き合っちゃいけないと思うんだ!



(第一級で会いたくない人間の声を聞いてしまったようだ)


070809

※前にも書きましたが、ビジュアルは幽白の刃霧要ですから!或いはスラダンの流川らへん!原作に行きたかったけれども、まったく進まない山田マジック。