空から垂れてる恍惚を、手繰り寄せれば生きられる













俺の名前は山田太郎(仮名)。
人生とはつねにアドリブで生きてもいいとおもう。ていうか、人生って全部アドリブじゃね?なんつか、アドリブっていうか、行き当たりばったり?
明日のことは明日考えましょー、みたいなぁ?(語尾上がり疑問系)
世界の端っこで目立たず生きたいなぁと思うし、人並みに注目されたい願望もある。だがしかし、それに付随する努力とか責任とかそういうものがスゲー嫌。
だって楽したいんだも〜ん。と、ちょっと可愛い子ぶってみるが、俺がやったら鳥肌もん。似合わないキモチワルイ。

ということで、…やっぱり人間、自分の身の丈以上のものを求めちゃだめだわな、目立たないで普通に生きよう、と、落ち着くわけである。

大体さぁ、周りが勝手に勘違いするとか…本気やめてくれ。
自分が当事者にならないぶんには「ほへー…」と感心して楽しんで見ていられるが、実際自分が「凄すぎす!」となって周りから見られたら全速力で後ろ向きで走るぜ?
ちょ、ちょ待てよ!(キムタク風)そんな目で俺を見るなよ!俺の評価間違っておりますヨ!

見ないでーミナイデー私の毛穴をミナイデー…ワタシの心臓、蚤アルヨ!

全力でその間違いを正すね。俺は普通なの、使われたい人間なの!使役されるたいの!別に深いこと全然考えてないんだよ!ちょっとノリで、漫画で見たカッコいいこと言ってるだけで、特に深い意味がないのです!

結局の俺は(山田太郎(仮))すごくない。でも、俺の外見(skin=皮!これぞ、虎の意をかる狐の状態!)は凄い。(中の人は俺ですヨー)
人の皮を被った俺は、それなりに他人には凄い人間に見られがち。


……でもね、やっぱり人間の性分ってのは変えられないのですよ。


俺はいまだミルキ・ゾルディック。
ミルキはどっちかっていうと日本人顔だから、見ているうちにだんだんと慣れてきて違和感がない。アレだよ、サラザールなんて明らかに異人顔でいやがる。
銀髪に赤目の超絶美形だよ?
慣れねーよ、いくら見たって慣れねーよ!誰だよ!美形は三日で飽きるって言ったヤツ!オイコラ、ちょっと顔かせや!!

いやぁ…あの顔から、山田太郎(仮)に戻ったときはあまりの平凡な顔立ちに、ちょっくら感動さえ覚えたよ。ほっとしたよ、心の底から普通の黒髪黒目に世界の中心で日本人を叫んじまったぜ!



…と言うわけで、なんかよく分からない前振りは終了。
さくさく、本題にはいろう。みんな俺の心の叫びなんて聞いてない。どーだっていいんだ…。











「カルトー。危ないから風呂場で走るな!」
「はぁい、お兄様!」

元気よく良い子のお返事をして、けれど走るスピードは緩まない。どーせ、そんなもんさ、アニキとしての俺の発言力なんてさぁ…。

カルトは一緒にお風呂に入るたびにはしゃぐので、風呂場で滑って転ぶんじゃないかと目が離せない。いやぁー…でも、やっぱり男の子だねぇ…女物の着物着せられてるから女の子に見えないこともないけど。
カルトの身体能力もさすがゾルディックということで、素晴らしく出来ている。

まさか風呂場で転ぶとかはないんだろうけど、やっぱりなまじ小さい子どもだからお兄ちゃんは心配だよ…すってんと転んで頭打って脳みそパァになったりしないかどーか。
風呂場で転んで頭打って昇天とか、ちょっと悲しいものがあるからな。

まずは体と髪の毛を洗う。


「お兄様!僕の髪洗って!」
「自分の髪くらい自分で洗え!俺は俺の髪を洗うんだよ」
「えー…ケチ!」
「ケチじゃない!あ、ほら、ちゃんと目ぇつぶれよ!シャンプーにはメチルパラペンが含まれてんだぞ!目を開けると目が散るぞ!」
「ええっ、嘘だぁ!」


メチルパラペンが含まれているのは本当だが、目は散らない。
こんな可愛い嘘に、きゃらきゃら目を丸くしてと突っ込んでくれるのが嬉しい。素直な良い子は好きだぞ。


「ああ嘘だ。嘘だが、目に入ったら染みるから開けるなよ。風呂から出たら目薬さしてやるからな」
「……うん」

俺は両手を髪に突っ込んでわしゃわしゃと乱暴に髪のを洗っているが、隣に座るカルトは手と手で髪を挟んで擦るように洗っている。
…女じゃないんだから、別にそんなめんどくさい女々しい洗い方をせんでもええんじゃないかと思うんだけどな…。乱暴にわしゃわしゃ洗った髪がキレ毛になったり、ぶちぶち抜けたりするのかね。
さっさと自分の髪を洗い終わり、カトルの後ろに回る。

「ほら、流してやる」
「はーい」
「口開くな。泡が口に入ったら不味いぞ」
「…ん」

頷いたカルトの頭に桶のお湯をザバザバとかける。シャワーなんてみみっちい雨よりも、こっちの方が一気に泡を洗い流せる。

「ほい、次はトリートメントしろよ。母さんうるさいから、ちゃんと時間を置いてから流すように!」

キューティハニーキューティクル★(何ぞソレ)な髪質を保つためには面倒臭いことこの上ない。
俺もトリートメントはいちおうつけるが、髪全体につけたらすぐに洗い流してしまう。男が髪の毛さらさらでもねぇ…?いや、油でうねってたりふけが浮いているよりも断然マシだが。
イルミ兄とは幼少のことならまだしも、十代後半の今じゃあ一緒にはいることはない。

……ああ、そういや、小さい頃は母さんとも一緒にお風呂はいってたんだよなぁ…目のやり場にちょっとどころかかなり困った。心と体は別物と言ったところなので、体が反応することはなかったが(反応したら困るが)。
母さんと入ることを拒否しまくって、イルミ兄ぃと一緒に入るようになったんだよな…。



「極楽極楽…!」



肩までお湯に浸かり、足を伸ばす。
日本人ならやっぱりお風呂は欠かせない。この素晴らしさに、是非とも外国の方々も気がついて欲しいものだ。ただ、旅館の風呂に入るときは体を先にちゃんと洗えよ!最近の日本人も右に同じく!
恥ずかしがらずに、ピーとかポーとか、見えない部分を念入りにな!それがマナー!

ゾル家の裏手にあるこの露天風呂は源泉掛け流しである。山の麓から引いているのだが、それもまたよし。硫黄温泉の成分を含んでいるので最初はちょっと臭いになれなかったが、体は芯からあったまる。
ククルーマウンテンは今は活動してない火山だからなぁ…庭も掘れば温泉が結構湧きだすことがある。
二十五メートルほどの広さある大露天風呂なので、ついつい泳いでしまうのである。


「ミルキ兄さま!お風呂で泳んじゃいけないんだよ!」
「…うむ…」


弟にメッ!と指差してしかられる俺って一体…。
…俺の精神年齢は、所詮はカルト以下なのか?…俺の今までの人生(サラザール含む)って一体。

大人しく二人で肩まで使って、六百を数えてから風呂を上がった。
腰にタオル巻いて、右手には牛乳。やっぱ、風呂上りは牛乳でしょ♪

あ、さてさて、腰に手を当ててー!!

「あ、クイっとな!」


ゴクゴクゴク…


「プハァアアー!美味い!もう一杯!」


どこのCMだといいたくなるような掛け声で飲み干す牛乳に美味いこと美味いこと…!!夏は給食の牛乳を二本飲んでたからな!
湯気でかすかに曇った洗面台の鏡に自分の顔(=ミルキ)と上半身がちらりと映った。




ん?

なにやら、ふと引っかかるものを感じて、俺は鏡に近寄った。
曇った鏡を手で拭き、よくよく自分の顔を映してみる。



んん?




心なしか、顎の辺りがふっくらと…。
いやいやいやいや、きっとただの気のせいだってば。慌てて脳裏を過ぎた何かを否定する。否定したいのだが、否定しきれない。

……久々に、のるか。
脱衣所のハジッコに放置されている例のものを引っ張りだしてくる。
大きく深呼吸をして、一歩踏み出す。


ガチャン
目まぐるしく数字が変わる。




…7…6…7…8…6…



71.6




悪魔の数字が現れた!!(ちゃららっちゃあーー♪)

手にしたまますっかり忘れていた牛乳瓶がカラン、と床に滑り落ちる。


「ミルキ兄様?」


隣で同じように腰に手を当てて牛乳を飲んでいたカルトが驚いた声を上げた。
転がった牛乳瓶を拾い上げたカルトがどうしたのかとおろおろしている。だが、そんなことは俺の目には入らない。



…一瞬にして、想像の中のミルキがボンボンといたるところが膨れ上がる。
肉が肉が…肉が……ミルキがただのブタになった!!




飛べないブタはただのブタ!太ったミルキはだたのブタ




久々の実家帰りをして、クリスマスから大晦日、正月からは七日正月…とごろごろと過ごした。
食っちゃ寝、食っちゃ寝、していて、体重計に乗らない日々が続いた。

いや、きっと俺は意図的に避けていたのだ。その証拠に、体重計と並んでおいてある身長測定にはたまに乗っていた。
今現在、182cmなのである。いやいや…かなり身長伸びたぜ!俺本来の山田太郎(仮)の肉体よりも高い。羨ましい限りである。
それにしても、実家に帰ってくる前の178/62から182/72ってのはありえない。

やばい、デブりんだ。九キロも太りやがた。
65kgぐらいまで落さなくちゃ…九キロ…九キロ減らすのか…。ペットボトルが4.5本分も一体どこについたのだ…皮下脂肪か?腹の中には白い部分がたくさん?俺白豚か?ああ…生ハムが食べたい…。


そう、ミルキは太りやすい性質だったのである。
俺は修行でもなんでも、無駄に動く分が多いのでエネルギーが消化されていた。放浪しているときも毎日結構な距離を歩いたり走ったりしていた。



のろのろと着替えて、俺は無言で脱衣所を後にした。
カルト?ごめん、脳みそからはじき出された。

【男湯】の暖簾を無言で退けると、ひょっこりとキキョウが待ち構えていた。




「ミルキちゃん!ママ、チョコレートアイスクリームを作ったのだけど、食べるでしょう?トッピングはいちご?ばなな?」


ぎろり、俺は珍しく母さんをにらみつけた。


「……貴様、悪(脂肪)の手先かっ!」
「…?何を言っているの?ママに向ってそんな口を聞いちゃ駄目だめよ!じゃあ、バナナにしましょうかね。カトルちゃんは…」
「いらない」
「え?」
「俺、アイスいらない」
「なんですって…ママが作ったものが食べられないっていうのっ!?ミルキちゃんっ!」
「そうじゃない、そうじゃない、そうじゃないけど…ッツ!」


キキョウが作る料理、たとえポイズンクッキング(ああ、この呼称はどっかで聞いたことがあるなぁ…)だろうが食べてやるさ!
手料理は母の味!!毒の料理も母の味!

目の前に出されたおいしそうなチョコレートアイスから目をそらし、俺はキキョウの横を早足に通り過ぎる。
俺をと止めようとキキョウが手を伸ばす。


「ミルキちゃ…」
「母さん!止めるなッ!」


俺はキキョウの手を振り払った。ショックを受けたようにキキョウが涙目…かどうかは機械ゴーグルなので分からない。


「ッ、俺は、俺は行かなきゃならないんだぁああーーー!!」










そして飛び出した俺は、今現在自宅の庭にいる。
世界自然公園も真っ青な、秘境のような生態系を誇っているのがこのゾル家の庭だ。
体内方向時計が狂い、右も左も濃厚な緑の木々の瘴気で覆われ、得体の知れない動植物が生息している。

見たことも無い化け物のような生物も沢山生息している。山田太郎(仮)としての常識ではアレな感じなものが多いが、むしろソレが世界の常識といわれるのが普通なのでちょっぴり哀しい。エクスキューズミー?生態系どうなってんですかー?君は何から進化したのぉ?みたいな…。



あれれ?
俺的常識では、人間っていちおう生態系の頂点にいるはずなんだけどなぁ…。

うち(ゾル家)の庭は、UMAハンターや、幻獣ハンターあたりが、感涙にむせび泣いて喜びそうな手付かずの超自然地帯なのである。

…俺、自分が何ハンターだかよく分かってないんだけど…ああいう「なんとか」ハンターっていう肩書きがあるのってなんかちょっと良さげだよ。
あれかな、うちの庭のなんか不思議な新種を集めてハンター協会に提出すれば、お金になるのだろうか…。カイトがどっかでそういうことやってたよな!おぼろげながら憶えておるぞ。

…やべぇ、ちょっといいかもしんない。
うちの庭に生えてて、まだ登録されてない動植物に「ヤマダ一号」「ヤマダ二号」とか…いやいや、こんな在りきたりな名前をつけるのも面白くないな。

いっそのこと、

「夜魔雫」「鵺馬蛇」「邪魔堕」などはどうだろう。全部読み方はヤ/マ/ダだ。無駄に強そうなヤマダだ。

夜露死苦(ヨロシク)に通ずるものがある。



いやいやいや、そんなことはどうでもいい。
取り合えず、このクルルーマウンテン一帯を走り回って少しでもカロリーを減らさなければ…まさかまさか、九キロも太ってるとは思わなかった…。

一週間の耐久サバイバル生活を過ごし、俺は再び家に帰った。
飲まず食わずで走り回ったのに、思ったほど肉が落ちてなかった。マイナス五キロは落ちたけど。

あと四キロ…四キロ…

あれだなー…最後の最後がなんでも辛いんだ。それさえ越えればパラダイスが待っているとは分かっていても…。


「…父さん。俺、久しぶりに稽古つけて欲しいなぁ…」
「仕事がある」
「ああ、そうなの……じゃ、じゃあ、ゼノじいちゃ…」
「すまん、わしもじゃ」
「………マハじいちゃん」
「…………(こくん)」
「そ、そうか。ありがとう…あ、あー…(マハじいちゃんと稽古ってなにするんだ…?)」


マハじいちゃん相手だといろいろ精神的に辛いものがあって、あっという間に体重が痩せた。
稽古内容は、常にマハじいちゃんが命を狙ってくるから、それを避けるというものである。

……マジ、トイレに行こうと部屋でたらマハじいちゃんが立ってたときはちびるかと思った…。ごめんなさい。人間だとは分かってるんだ…もっとヤバイ顔している人間がいるってことも…でもでも…妖怪コワイヨー。





「うう、疲れた…」
「ミルキちゃんたら…お勉強熱心ね!」
「う−ん…おかげさまで…」

キキョウは、俺が原作のようにデブであろうがなんであろうが、それなりに愛情をくれるだろう。
そんなところがゾルディック家族愛劇場。





■□■





ピロローン♪

部屋で『山田商店』のメールチェックやら発送手続きをしていたら携帯がなった。
『山田商店』は順調だ。まぁ、道楽でやってる部分があるから利益はどーでもいいんだけどね。新しい商品を追加しなくちゃなぁ…。

最近、メールで「最近更新されてませんね。やるからにはちゃんとやってください」とか書かれていやがったよ…。
思わず、爆弾送りつけてやろうかと思ったよ。痛いところを突かれると、人間攻撃的になるよな…。

二つ持ってる携帯のうち、鳴ったのはプライベートの方だ。
プライベートの方のアドレスは家族オンリー…なので、当然、掛けてくる相手は決まってくる。今日は誰も出かけてないし…そうなると、掛けてくる相手はイルミしかいない。
……プライベートに家族以外のアドレスが入っていない俺って…。(友達いない?…それ禁句!)

『ミルキ?』
「うん、そうだけど…イルミ兄ぃ」
『そう。今、空。最終試験会場に移動してるんだ。迎えに来て』
「え…いいけど…」

空?ああ、飛行船に乗ってんのかな。

『キル、連れて帰るから』

あー…はい。
なんだっけ?キルアはハンター試験でぶっ殺して失格になって帰ってくるんだっけ?お出迎えに行けっていうんですね、いいですよー了解です。

「父さん!キルア迎えに行ってくるわー。飛行船二つかしてね!」

どこにいるとも知れないシルバに向って叫ぶ。
耳がいいから家のどっかにいるなら聞こえてるでしょう。今日どっか出かけるとか聞いてないし。

内線をかける。ワンコールで出る相手は優秀だと思う。


『はい、こちら執事室です』
「もしもーし?ゴトーいる?」
『はい。ゴトーです』
「オレオレ」
『何か御用でしょうか、ミルキさま』


ここで、オレオレ詐欺とか懐かしい突っ込みをしてくれたら嬉しかったんだけどなぁ…まぁいいや。
そこまでゴトーに求めちゃ悪い。

…今度、食べ物差し入れしたときに笑いだけ入れてやろうかな…。


「今、どこかで飛んでる飛行船探して。ハンター協会のヤツ」
『了解しました』
「あ、分かったら飛行船上まで来てくれよ。運転してくれ。キルアを迎えにいくから」
『!はい、かしこまりました』


はいよっと、コレで出かける手配は出来たな。








んで、迎えに行ったわけだ。
空飛んでる船がどこに止まるか大体割り出してから出かけた。飛行船で三日間の優雅な旅でしたよー。
窓から見える風景(雲と空だけ)を観ていて楽しいのは最初だけだ。
三十分もすれば飽きてくる。三日も続けて空見てたら飽きた。

「ミルキ様、あと一時間ほどで到着いたします」
「ん、了解」

自動操縦にしてあるので、ゴトーが給仕をしてくれている。いやぁ、こう見えてゴトーはキキョウにくっついて流星街からゾルにまで来た人だから、俺のこと生まれたときから知っているらしいのだ。
だから、多少の砕けた部分がある。
いやぁ、それにしても箒で空を飛びたいねぇ…。あれはあれで中々爽快感があったよ…(股間が痛くなるときもあるけれど)

「……そう、空を飛ぶなら飛行船より箒で飛んだほうがいいね」
「は?」
「いやいや、こっちの話。お代わりもう一杯ちょーだい」



でもなぁ、やっぱり空を飛ぶからには生身で飛びたいよな!!
箒に乗るとか邪道だぜ、邪道!…ああ、一度でいいから生身で空を飛べるような人になりたいなぁ…。是非とも次(があるのかどうかしらないが)は、そういう人間になれたらいいと思う。
生身で鳥のように空を飛ぶ!おお、なんたる人類の浪漫!


俺はイカロスの羽を生やす!(昨今のガ●ダムにすら羽が生えているようにみえるものだ)(てか、イカロスの翼は溶けて墜落したんだっけか?)





■□■





ココが例の原作に登場した最終会場ですかー。
空から見下ろしたら以外にちっさい。そして、端っこのほうによく分からないデザイン…なんていうのあれ?クジラ…?サメ?…弾丸に子どもが描いたイラストっぽいよなー?という、飛行船。

どうでもいいがアレは目つき微妙。なんかまん丸な目が妙に死んだ魚の目を思い出させる。そして、何故にギザギザ歯。ハンター協会所有の飛行船なんだからもっと可愛いデザインにしろよ。もしくは、ヒーローっぽいヤツに。(いっそのこと、あの目を三白眼にするのはどうだ?それはそれで可愛らしいと思うぞ、思いっきりダークヒーローぽくって)



「あーあー…、ケータイでないし…」

イルミに電話をしているのだが『現在電源が入っていないか、電波の届かないうんぬん』とアナウンスが流れるばかりだ。えー…ここまできたのにさぁ…。試験会場で特殊な電波妨害でも出されてんのかね?
いちお、ハンター協会経由で連絡を取ろうとしたんだけど…『会長は現在手が離せません』だってさ!仕方ないから、高度四千メートルのところを旋回しているのだ。
眼下に試験場があるっていうのに、連絡がつかない。うずうずしてくる。あの下に、主人公達がいるんだぜ!?


「ゴトー!俺降りる」
「はい、パラグライダーと、パラシュート、どちらにいたしますか?」
「パラシュートー!」
「かしこまりました。どうぞ、ミルキさま」


すかさず両手にパラグライダーとパラシュートを出現させるゴトー。貴様は執事の鑑だな!苦しゅうないぞ、給料アップをしてやりたいぐらいだ。それなりに高給取りなんだろーけど。ぶっちゃけゴトーら執事連中はプライベートは何しているのだ。全く想像がつかん…。

ゴーグルと手袋を嵌め、パラシュートを背負う。パラシュートの最後の方のほわわーんとしたユラユラ加減が好きだ。


さて、他人様のことは放っておいて、飛行船から地上に向ってダイブ!!…




「……潜入成功潜入成功!こちら、ミルキ!本部の指示を請う!」




目指した場所から二千メートル流されたが、まぁそのあたりは許容範囲内だろう。風の向きが悪かった。俺は悪くない。(なんでも責任転換するよ、おりゃあ)

【隠】で行動を開始した。
まぁ、会長とかそのほかのハンターの方がたがいらっしゃるから、俺が侵入?したこともばれてるかもしれないけど…。可能性は半々だな。悪いけど、俺、【隠】だけはマスタークラスだから!
これだけは誰にも負けない自信があるから!

そんな隠密モードで内部を歩き、たどり着いたのは一番人の気配がするところ。
ドキドキと胸が高鳴る。この向こうでは原作の主人公達がいて、原作道理のやりとりをしているのだ。
うをお!歴史のイチページ現在進行形がこの目で観れるんだぜ!ドキドキしないほうが嘘だぜ!扉をそっと開けて、中を覗こうかと思ったけど…たぶんそれじゃあバレルよな。

じゃあ、障子に指で穴を空ける要領で、壁にプスっとな。



「……俺ってば、タイミング最高じゃねぇのぉぉ!」



小声でガッツポーズ付きで叫ぶぐらい、タイミングばっちりじゃねぇかよ!俺が開けた向こうでは、なんだか俯いて元気のなさそうなキルアがリング場端にいる。
そして、レオリオがリング上で相手と対面していた。

ここはあれかな、キルアがレオリオの変わりに相手をブッ殺すとこだな!
ワクワクしたが、ちらっと目線を回りに映す。あ、イル兄ぃがいるし。ん、こっちに気がつ…いてないな。

ゲゲェッ!?イル兄ぃの隣には変態がいるよ!
俺、こないだ言ったじゃん!変態と友達になっちゃ駄目だって!隣に並んで立つとか、それだけで友達認定ジャン!
止めろよ、ヒソカ!てめぇ俺んちの(ある意味)無垢なイルミ兄ィに変態菌をつけるんじゃねぇよっ!
てめぇはショタらしく、隣の控え室のゴンの寝込みでも襲ってやがれ!!



「試合、始め!!」



ズバッ――…



一瞬にしてキルアが相手の背後に回りこむと、背中から心臓を突いた。
そうだね、正面から心臓狙うと肋骨がちょっと邪魔だもんな。俺としてはやっぱり、正面からの伝家の宝刀無欠心臓抜き取りがおススメなんだけどなぁ…。
…ああ、キルアはあれ下手だったんだっけ。返り血浴びるし、相手から血を流させるし?
俺は右手しか汚さないけどな!あれは心臓だけをさっと抜いて、すぐにビニール袋に入れると汚れ物が出なくて便利だぞー。
相手の死体を片付けるときも、外傷がないから見た目綺麗だし、グロクない。綺麗な死体はいい仕事した気がするしな!(分かってる!人殺しは基本的いい仕事じゃないことぐらい!)

ドサリとうつ伏せに倒れた相手を省みることなく、キルアは背を向けて扉に向って歩き出した。唖然とするほかの選手(特にレオリオ)。
審判がすぐに対戦相手の横に膝を付いて、容態を見る。まぁ、見るまでもなく即死だろうけど。案の定、審判が小さく首を振る。

「…駄目です。死んでいます」

これで、キルアのハンター試験は失格になるんだっけ?あー…可哀想に、相手の人は運が悪かったな。キルアも、レオリオは殺さずに、交流がまるきりな勝った相手を殺したってところが優しいなぁ。
キルアってのはうちの中でも数十年に一人の天才って言われてるようなやつなのだよ。死んだ試験者も、ナニがなんだか一瞬で死んだだろう。
相手が悪かったわ。俺でもキルアと戦いたくないもんなー…いや、戦ったことないけど。てか、十年ぐらい、まともにキルアと顔をあわせた記憶がないけど。

無言で退場し、キルアが扉を開けた。

おおっと、こんな穴から覗いてたことを知られると、兄ちゃんちと恥ずかしい。もっと正々堂々見ろよ!といいたくなる。なんか、隣の部屋を覗き見してる怪しい人みたいだ。
階段を上がるときに目の前に女子高生の短いスカートがあったら、俺は普通に見る。手で押さえて隠すくらいなら短いスカートを履くな!見るぞ!俺は普通に見るぞ!
だが、夏には涼しそうだなぁと思うが、冬は限りなく寒そうに見える。

オマエら全員、ももひきを履け。あったけぇぞ、股引は!


おおっと、話が逸れた。いかんなぁ…。


覗き?ナニソレ?と、そ知らぬ顔で壁に背をつけてもたれかかる。
いかにもお前を待っていたよ、という感じで出てきたキルアに笑顔で「よっ!」と手を上げる。







「………(スタスタ)」
「………」



シカトされた、シカトされた、シカトされたっ!!(エコー)
お兄ちゃん、ショックで固まっちゃったよキルア君!思わず君ずけで呼んじゃったよキルア君
一瞬の空白、俺は急いでキルアの行く手を遮った。



「キルア!」
「………どけ」



え、えー…



「おーいキル?」
「……邪魔だ」



お兄さんだよぉ?と俯いたままで歩くキルアの前に手を出してヒラヒラさせる。

ゾクゾクッ…殺気が膨れ上がった!
って、問答無用でかかってこられてもぉおおーー?



「…ちょ、たんま!ナニソレ暗殺者モード!?」


一撃を闘牛士のようにひらりとかわす。
やっと顔を上げたキルアの目は何も見ず、映さず、宿していない虚無の目。…たぶん。
いや、人の目見て、なに考えているかなんて読めませんよ?単純に、イッちゃってるなぁーっていう目は凄く分かりやすいけどね。
基本に忠実、キルアの攻撃を避けて、間合いを取る。


「甘いぞ!俺に勝つにはまだ早い!」


だって、俺のが方が現時点では強いのだ!そう、現時点では!!(強調)
なんたって念が使える。あ、そーれ【纏】ォオ!


「……ッ!」


ハッと怯えた猫のようにキルアが竦んだ。瞳が正気の色を取り戻す。
ワハハハ!俺はお前より強いのだ!今現在は強いのだ!これから先は負けそうだがな!まだまだ年下には負けん!年上には負けてやる!てか負ける!!大体俺より強いのみんな年上だろうが!

それはいい、それはこの際いいんだ!(限りなく、未来での俺のボジションが不安だが!)
だがな、コレだけは言わせてくれ。いつか、この、原作突入し、十二歳になったお前に絶対言おうと思っていたんだ!





「兄ちゃん、お前にブタ君なんて呼ばさねぇっ…!





万感の思いを込めて、俺は叫んでキルアの眼前に突入。
一瞬にして【念】を消し手加減無しのぶっ殺すぞてめぇ!の勢いで続いて、足払いを掛けてよろけた体勢に、腹に膝蹴り入れて、脳天に肘鉄をぶち込む。ついでとばかりに足骨を折っておく。

へーキヘーキ。キルア強い子!こんな攻撃へっちゃらへっちゃら!ほら!
証拠にうめき声ひとつ上げねぇよ!(それは気絶してるから?はは、この程度で?ないない!きっと死んだふりだヨー)

だって、足とかへし折っておかないとまた逃げちゃうかもしれないじゃん。それから、無理やり口からこんな時のためにと、キキョウから貰ってきたブレンドミックス毒薬を注射器で打ち込む。ガクリと体が弛緩する。それを抱きとめて一息。


「ふうぅ…いい仕事したぜ!」


さて、戻るか…。キルアったらデカくなったなぁ…俺が最後に見たときなんて、豆っこだったのに…。俺にはない銀色の髪にちょっと興味を惹かれて触ってみる。おう、意外にふわふわだ。やっぱ、親父の髪質と似てるなぁ…ちょっとしみじみとしてしまう。お前が一番シルバの子なんだなぁ…いいなぁ、羨ましい。

キルアを担いで、一旦会場を出る。
どうやら、半径千メートルほどに妨害電波が発せられているようだった。
俺が降り立ったところをまでもどり、ゴトーに連絡を入れる。俺の真上まで来てもらって、それはそれは長ーいロープを下ろしてもらう。そこにキルアを括りつけて合図。
ロープはするすると真上に向って登っていく…。


「ゴトー。そのまま家に連れて帰っちゃって。そのうち…うーん、一時間ぐらいで目ぇ覚ますと思うから。暴れるかもっしれないからしっかりな」
『はい。お任せ下さい…ミルキさまは?』
「俺はもうちょっと…ほら、イル兄ぃがまだ入るし。試験が終わったら飛行船二号も敷地内に降りれると思うんだ。そしたら一緒に帰るよ」
『承知いたしました…では』


よし、第一ミッションはクリアした!次はイルミだ。
でも、……会場に戻ってもなぁ。変なやつに見つかったりしたらいやだな。でも仕方がない。ちゃんときたこと告げないとイルミに無表情で怒られる。いいや、戻ろう。

会場に戻ると、やっと終盤に近づいているようだった。
結局のところ、俺はイミ兄ぃに接触できるように動くしかない。…あ、いっそのこと、うろうろいたるところにいる、ハンター協会の黒服さんたちをしばいて変装するか。そうだ、そうしよう
手近にいた黒服さんをトイレに引きずり込んで着ているものを頂戴する。サングラス、…蝶ネクタイかよ…蝶ネクタイ…普通のネクタイでいいじゃんか。靴はサイズが合わないからやめておこ。

今着ている洋服結構気に入ってたのになぁ…まぁ、気に入った洋服は五枚ぐらいまとめ買いしているからいいけど。ほら、暗殺業で着て行って返り血あびたら捨てなきゃだし。血とか洗っても中々落ちないからなぁ…しょうがないな、黒服君には俺のこの服を進呈しよう。謹んで受け取るがいい。


やがて、試験は終わり合否が決定した。
イル兄ぃを筆頭に、ゴンとレオリオとクラピカとハンゾーとヒのつく変態と……と?あと誰だ?ああ、あの帽子かぶっている男だよね?……ごめん、帽子くん。君の名前を忘れたよ…。
俺には関係ないからな!うん、俺の人生に関わらない人間の名前を覚えててもしかたねぇよな!俺の頭の要領は常にコンパクトです!
ネテロ会長が合格者の名前をひとりひとり読み上げる。

「44番ヒ(ああ〜そうそう、思い出した!あいつの名前ポックルだ!なんか鳩の鳴き声っぽいヤツ!)、53番ポックル、294番ハンゾー、301番ギタラクル、403番レオリオ、404番クラピカ、そして、405番ゴン=フリークスじゃ。以上の七名をハンタ試験合格者とする!」

ふむ。七名が合格したのか。いい数字だね、七って。【七人の侍】とか思い出す。

「ボドロに関しては…協会側で手厚く葬る。今日はもう自室に引き上げてよい。ハンター試験合格おめでとう」

会長の合図に、みながぞろぞろを出てこようとする。レオリオとクラピカはなんか二人でしゃべっている…あれかな、ゴンの容態とかキルアについて話あっているようだ。


「イル兄ぃ!」


ここは協会の管理するホテルなので、鉢植えがいたるところに見られる。俺は鉢植えの影に隠れてイルミを待っていた。姿を現したイルミに小さく手招きをする。
気がついたイミルがこちらに来た。あの変態がついてこなかったので安心した。物凄く安心した。

「遅かったね」
「遅くねぇよ!超ナイスタイミングじゃんか!!」

むしろ褒めろや。

「そう?」
「試験終わったんでしょ?合格おめでとー。ちょろかったっしょ?なぁ、帰ろうよ。俺は一刻も早く立ち去りたい」
「駄目だよ。午後まで待って。二時間後にハンター証が配られるんだ」
「ええっー…!!」
「ああ、そういえばお前、ヒ「ナニ?何言おうとしたの?イル兄ぃ?俺に向ってヒから始まる人の話はしないでくれる?俺、それはGがつく大きなお友達よりも嫌いだから」…ソうなの?」

無理やり遮り。いや、こんなに徹底的にヒのつく名前を避ける必要がないことぐらいわかっているが。なんとなく、最後まで耳に入れてはいけない気がする。ほら、名前呼んだらひょっこりと現れてたりするかもしれないし…。

「あー…なんだ。じゃあ俺、ネテロんとこ行ってくる。飛行船で来たから着陸許可貰ってくるよ」
「キルは?」
「先に帰らした。ゴトーがついてるから大丈夫っしょ」
「ふーん…そう」

で、ネテロ会長のところへ行った。蝶ネクタイとサングラスは外した。

「コンコン、失礼しマース」

中ではハンターの方々が皆でまったりとお茶をしていた。…和やかですな。会長と、髭の人と、でかい人と女がいて、豆だけがなんか忙しそうに歩き回っていた。ハンター証の発行手続きとか取ってるんだろうなぁ…。ご苦労様です!!

皆が俺に注目する。

「こんちわ。ネテロ会長。ご無沙汰してます」

にこりと笑って優雅に一礼する。俺素敵。

「おお…?おぬしは確か…」
「会長?こちらのかたは?」
「誰、コイツ?」

視線を動かして、記憶を探る動作をする会長を横目に、髭の人と女が会長に尋ねる。てか、初対面にコイツとかいうなよ。繊細な俺のハートはブレイク。
ポンッ、と会長が手を打つ。

「そうじゃ、確か、279期の山田だったかな?」
「はい。279期ではお世話になりましたー」

別に、世話になった記憶はないけれど。それにしても、登録名はやっぱり山田のままなんだなぁ。

「して、何用じゃ?この場所は貸切で部外者は立ち入り禁止になってるはずなんじゃが?」
「あは…そこらへんはすいませんでした。あのですね、試験者を迎えに来たんですけれど、飛行船の敷地内への着陸許可いただけませんか?午後になったら帰宅可能なんですよね?」
「飛行船?チャーターでもしてきたの?」

女が横から口を挟む。

「いえ、私物です」
「うっそ。金持ちなのねー」
「そんな。ハンターは皆さん高給取りじゃないですか」

ハンターは基本的に金持ちになれる。それだけリスクが高い仕事もするってことだな。愛想笑いを返しながら、会長を窺う。

「…まぁ、よかろう。で、誰を迎えに来たのじゃ?」
「あ、はい」

言ってもいいのかな?いいよな…。



「ギタラクルです」



俺、間違ったこと言ってないよな。イルミは『ギタラクル』の名前で受けてたし。

「……ほう」

会長が湯のみ茶碗をテーブルに置いた。髭の人の目がなんだか光った。


「ええっ!?マジで?あんた、アイツと友達かなんかなの?」
「えっと…」
「ギタラクルとか、変な名前だけど、あれでゾルディックの人間なんでしょ?ちょっとアンタ、分かってんの?」
「もちろんですよー」
「アイツ、針を顔につけて変な顔してるからキモって思ってたんだけど、針外したら意外にいい男よねーちょっと無表情だから勘弁だけど」
「はぁ、そうですか…」


てめぇ、なに人んちのアニキにいちゃもんつけてんだよ。お前如きの顔と体と脳みそで、ゾルディック家に嫁げると思うなよ。キキョウはテンションはあれだが、脳みそと体と実力はすげぇんだぞ!
若いうちからそんな肌晒していると、将来しみになって見られたもんじゃなくなってもしらねぇぞ。キキョウはいつでも肌の露出は最小限でお肌は綺麗だ!


「おぬしもハンター、今期の先輩に当たるんじゃ、説明会に顔出さぬか?」
「イヤです」
「……えらく即答だの」
「そんなことないですヨ?ほら、俺は部外者ですから…」
「厭な相手でもいるのかね?そう、例えば…44「はいそうソレです」」


聞きたくないです。


「……じゃあ、なおさら出席してもらおうかの。おぬしが着ているその服の主に変わって」
「え」
「可哀想に…トイレで裸に剥くとは…」
「そんなに酷いことしてませんヨ?」
「いやいや…可哀想に…あれだの、出席しなかったら会長権限でハンター証の無期限停…」
「嫌がらせですね?別に、正直、ハンター証が停止になろうが俺の生活に全く不便はないんですがね」
「…っち」


いいジジィが舌打ちすんなっつーの。。百歳を過ぎた口の達者なジジィはうぜぇ。俺んちのマハじいちゃんを見習え、あの全てを見通すかのような瞳と、口数少なく、そのくせあの存在感!俺のじいちゃんがマハでよかった。ネテロが自分の爺さんだったらと思うと、毎日ウザそうだ。茶目っ気もいい加減にしてくれ。


「では、99番の最終試験での殺人を…」
「あーあー、はいはい。出ればいいんですね、出れば!……でも、正直あんたがいた場面でのアノ行為は、あんたなら止められたはずだ


持ち出された事柄に、声を張り上げて投げやりに答える。けれど、最後の方は心なしか低い声で言う。途端に、意識したわけではなく、殺気混じりの空気を発してしまう。
だって、現在、『最強の念使い』の称号を持つあんたなら、キルア如きのスピードを捕らえることはそれほど苦ではなかったはずだ。


なにの、止めなかっただろう?その責任はあんたにはねぇのかよ。

会長を睨むと、女やデカイ男、髭のおっさんが緊張した面持ちをしていた。…別になんもしねぇよ。


「…買いかぶってもらって困るのう」
「はっ!どーだかな。…キルアは先に家に帰らしたぜ。あんたらは……あまり好きになれねぇ」

あーあ、イヤだイヤだ。あれだね、白バイが見えないところで張込んで、赤信号無視した車を追いかけるぐらいのセコさだね。
抑止力ってのは、掴まえることが重要なんじゃなくていかに”ソノ行為を未然に防ぐか”にかかってんじゃないの?

妨害電波は解除されたので、ケータイで飛行船に電話して、着陸するように指示した。





■□■





サングラスで黒服、ノーネクタイの状態で他のハンター試験官と一緒に並んだ。
合格者達が思い思いの席についている。クラピカ、レオリオは仲良く近くの席に座っていた。ハンゾーはたった一人だけ廊下側の縦列に座っている。ハンゾー以外の六人は全員窓側に座っている。窓側大人気だな!

あ、イルミが俺に気がついて一番前の席に座ってくれた!一番前の席って、一般的にあんまり座りたくないもんなのになぁ。その三つ後ろにヒのつく人が座る。お、オイ!!レオリオと同じ横列の席じゃねーかよ!レオリオ逃げてぇええーー!!

俺、平常心だ!
後方の壁の一点を見つめ、そっちの方向に目を向けるな!大丈夫、サングラスを掛けてるし、俺の視線はどこ見ているか分からないはずだ。


「それでは、わたくし、マーメンがハンターについての説明を行います」


マメさん…マーメンってお名前だったのですね…。
俺も八年ほど前に聞いた簡単な説明が繰り返される。だが、遮るようににクラピカとレオリオが手を上げて、不合格と合格がどーのこうのという話になった。面倒くさいなぁ…なんでもいいじゃん。

ぼけーっとやり取りを聞きながら、今日の晩飯を考える。ああ、今日中には家に帰れないから飛行船での食事だなぁ…ラーメンが食べたいなぁ…。
飛ばして二日ぐらいで家に戻れるから、そしたらきっとご馳走だろうな!
キルアもいるし、俺もいるし、イルミもいるし!父さんたちは出てくるときはいたけど、帰ったらいるかな?まぁ、キルアがいる時点で母さんが大喜びでご馳走にしてくれることに間違え無しだ!

バンッと後方の扉が乱暴に開いた。

おおっ!主人公が登場した!初!主人公!
しかし、ゴンと友達になりたいか?と聞かれると…俺はなりたくないナァ…あの子、光しかなくてちょっとキモチワルイ。
…別にこれは、主人公という立場をひがんでていちゃもんつけているわけではないぞ。

ゴンはずんずんと進み、イミルの横に立った。


「キルアにあやまれ」
「あやまる…?なにを?」
「そんなこともわからないの?」
「うん」


うん、ごめん。俺も分からない。何をあやまるの?
唐突過ぎてわからない。


「お前に兄貴の資格ないよ」
「?兄弟に資格がいるのかな?」


同じ腹から生まれてたら兄弟だかからなー。資格か…資格は、同じ精子と卵子の結合で生まれてた子ならあるんじゃない?誰がなんといおうと遺伝子が同じなら兄弟でしょ。
どうやら怒ったらしいゴンがイルミの腕を掴んで引っ張り上げた。
おー…イル兄ぃが宙を舞う。特に驚くことではないな。細身の体でもゾル家はみな2トン以上の『試しの門』を開けられるンだからね。イル兄ぃの体重ぐらいお茶の子さいさいですよ。

ゴンがイルミ兄の腕をぎりぎりと握りつぶした。ああ、骨折れたね。いたたたた。




「もしも、今まで望んでいないキルアに無理やり人殺しをさせていたなら、お前を許さない」




……んなこと言われてもねぇ…。
無理やりっつーか、無理やりって言われたら俺だってイルミだって、最初は無理やり殺しをさせられるわけなんですが。お前がそんな中からキルアを助けたいとかって思うなら、俺たちの全て(ゾルディックの歴史)をぶっ壊さなくちゃ駄目だぜ?
そんな風に可哀想だと思うなら、いっそのことその第一号であるイルミも可哀想だと思ってやれよ。イルミがそうなのだって、ゾルで育てられたからだし。

ゴンだって同年代の友達ってキルアが始めてに近いだろ?別に固執する必要もないと思うんだけどナァ…。

やる気なく立ちすくんで、場が収まるのを待つ。
ああ、ほら、メリーさんの羊を数えていたらいつのまにかハンター説明は終わっていたぞ。




「では、解散!」

ネテロ会長の合図とともに、287期の合格者たちは散っていった。




「ハンゾーさん」
「…ッ」
「おおっと、ごめん。気配消してた?」
「い、いや、あんたはさっき試験管のヤツラと一緒に並んでた人だな。俺になんか用か?」

後ろから声をかけるとどうやら俺は気配を消していたらしい。
身構えたハンゾーであったが、すぐに明るく笑ってくれた。うーん…いい人だ。


「うん、あのさ、ハンゾーさんはジャポンの人ですよね?」
「そうだが?」
「俺、ジャポン大好きなんですよ!是非、名刺いただけませんか」
「おう!そういうことなら構わないぜ!ジャポンに来たら寄ってくれ。ジャポンはいいところだぞー」
「ありがとうございます!へー雲隠流…の、上忍なんですか!凄いですね!あ、俺の名刺もおひとつどうぞ」
「『山田太郎』?なんだ、お前ジャポン人なのか?」
「あー…そういうわけではないんですが、ソレが俺の(魂)の名前です。特に専門ハンターではないので、何かあれば俺にも連絡下さい。力になれることがあればお手伝いしますので」
「そうか、じゃあな」


ハンゾー…お前、近くで見ると男前だな。爽やかだな!
ジャポンに行ったら是非連絡を入れよう。あいつは結構、常識人だ。……非情な忍びの癖になぁ…。ハンゾーの名刺をもらってホクホク気分で、説明会場まで戻るとイルミが待っていた。周りには…よし、ヒソカはいないな。


「何してきたの」
「ハンゾーの名刺貰ってきた。あいつ、ジャポンの出身者だからさ、嬉しー!」

全然忍んでいない忍びの名刺を見せると、イルミはひとつ頷いて納得したように言った。

「お前、ジャポンオタクだもんね」
「オタクじゃないっつの!文化が好きなんだよ!イル兄ぃだって和食好きだろっ!」
「嫌いじゃないね」
「…茶碗蒸しとか普通に好きなくせに」
「あれは美味しいよ」

俺が日本食というか、和食というか、ジャポン食が食べたいって言ってだだ捏ねたんだよなぁ…。俺の部屋だけちょっと和風テイストで畳み入れたりしているし。
やっぱり、生まれ育った世界に似た場所の方が安らげるんだよなぁ…。

「じゃ、早く家帰ろーぜ」
















サングラスを投げ捨てて、踏み潰した。


(まぁ、ここで一番落ち着くのはやっぱゾル家の自分ちだな!)


0701122
※頑張った!怒涛の如く頑張った!一気に書いて、燃え尽きた感があります。毎回、山田のノリを忘れます!お待たせしましたー!山田の応援よろしくお願いします!