美しく着飾りながら、六月の花嫁何故泣くのだろ










俺の名前は山田太郎(仮名)。
俺は与えられたことはこなしてきたが、自主性というものが少々ない。やれと言われればやりますが、それ以外はあんまり動きたくないのが正直なところです。
給料分は働きますが、それ以上のことをしたくないのが人間です。

うん、ほら、俺の心理の性格判断でさ、「金を得るための仕事は、人に指弾されない程度にはちゃんとやるし、社会から完全に見放されてない程度の思慮分別は結構働かせているといったタイプなのです。」とあったのですよ。
これぞ、なんちゃって出来る子。うん、なんちゃって出来る子、なんていい響きなのだろうか!
まぁ、完璧ではなく「なんちゃって」ですので、いたるところでミスを連発しますが、それも愛嬌愛嬌、笑ってればなんとかなるだろ!(社会では通用しないだろうがな!ワハハ!いいのいいの!現実世界で俺学生。世の中舐めてる学生です!)


話は戻るが、商売とは、どれだけ手抜きをして、どれだけ利益をあげるのか…それが商売魂ってもんである!いいか、叩き売っている商品だって、絶対売ってる側は儲けているんだ!ただより安いものは無いんだ!
見るがいい!日本のおばちゃんたち(主に関西地区)の値切りの交渉術!あれは、一種のコミュニケーションなのだ!ストレス発散なのだ!と、そんな商売についてはどうでもいいか…。


でも、思うんだ。
偽造・偽装はいかんよ。耐震強度とか、コンクリ強度とか、耐熱強度とか…そういうの偽造はいかんよ。マジで。
あれってどーなの?そんな風にあちこちで数値の書き換え行ってたら、いざというときに自分の身の上に返ってくると思うのだが。
人間、やはり痛い目にあわなければ分からないのだろう。

…世の中の人間は皆が三歩歩いたら全てを忘れる鳥頭なのだな…。あれだ、脳みそよりも乳が大きいという人間もいるのだ。(ああ、よく漫画にいるよな、デカパイ。←古い表現しか浮かばぬ…。今ってなんていうの?ボインちゃん?ダイナマイトチチ?脂肪分?)(どんどん方向がおかしいな)

反省って大事だ。反省なくては成長せん(しかし、俺はあんまり反省したことがない。これ、駄目人間の見本。すいません、口先だけです)





やれそうなことは、キチっとやっておこう。後で自分に跳ね返るから。
(とはいいつつ、今日出来ることも明日に回す俺!駄目だな!)











さて、我が家にキルアが帰ってきた!
嬉しいなー嬉しいなー。試験会場から回収したイルミと一緒に帰宅すると、なんとなく家全体が活気で満ちているように感じられた。一足先に帰ってきたキルアを皆で迎えたのかな?(タコ殴りという名のお出迎え)うむ、いい空気だ!
母さんが忙しく台所で動いている。専属のシェフもいるがやっぱりキキョウの手料理が一番美味い!やっぱし、子供の頃から食べてる味って、一種の味覚洗脳だと思う。

「いい匂いだね!母さん!今日の晩御飯はなーに!」

いい匂いに誘われるようにして台所を覗くと、キキョウがルンルン♪と鼻歌を歌いながら夕食の支度をしていた。おいしそうな匂いだなぁ。口の中に唾液がたまる。
思わず、揚がったばかりで油にしっとりと輝くこんがりと狐色の唐揚げに指を伸ばしたのだが、すんでのところでキキョウの手で叩き落とされる。母上!流石だな!

料理のときまで真っ白な純白のロンググローブには撥ね跳んだ油の汚れひとつ見当たらない。
恐るべし料理マスターよ!


「ミルキちゃん!お行儀が悪いわよ!夕食までお待ちなさいな」
「食べたいよー……アツアツ出来立てが一番旨そうなのに…!!」


未練がましく、指を銜えて唐揚げを凝視する。あ、ほら、唐揚げも「今すぐ食べて!」と俺に訴えているぞ。おおう、銜えた指の端から俺の生暖かい唾液がジュルルと零れ落ちる。いかんいかん!なんて卑しいんだ!慌てて、口元を手の甲で拭う。
だが、だらだらと香ばしい匂いに口の中には涎が溢れる。ゴクンゴクンと涎を飲み込む。

「……仕方ないわね、一個だけよ!」

呆れたようにキキョウが許しを出してくれた。ありがとう!ママン!!


「よっしゃ!いっただきまーす。っううーん!旨い!やっぱ、から揚げはニンニク利かせたのが一番だな!うまー!ごちそーさま。で、母さん、俺なんか手伝うことある?」
「あら、ありがとう!このお皿をテーブルに並べてきてくれるかしら?それと、もうすぐご飯が出来るから、キルを呼んできてちょうだい」
「分かった。キルって今どこ?部屋?」
「ええ、部屋に篭ってるわ。いやぁね、折角帰ってきたのにふてくされちゃって!しょーのない子」
「まぁ、しょうがないっしょ」


なんたって、強制送還された身の上ですからね…ふてくされたくもなるってもんでしょ。
大皿を食堂に並べてから、キルアの部屋に向う。
まぁ、なんとなく子ども部屋は順々に並んでいる。もちろん、イルミ、俺、キルア、カルトの順だ。親父とキキョウの部屋はまた別のところにある。ああ、そうだよね、子どもが近くに居たらあんなことやこんなことがいろいろ出来ないよね。子ども部屋とは寝室は話さなきゃね。

キルアの部屋をノックしようと思って、手が止まる。
うん、ノックせずに入ってやる!俺の隠遁術を思い知るがいい!

するりとキルアの部屋に侵入する。
…キルアは十二歳だからねぇ…学年に直すと、小学六年生!ほほう、そろそろ精通も終わらせ、おっとこのこ♪になっていることだろう。うははは!今度兄ちゃんがエロ本をプレゼントしてやろう!
セクハラ?いやいや、兄弟のコミュニケーション!!そして正しい性教育!
(ちゃんと性病についても教えてやらねばな…どこかの馬の骨に病気を移されたらお兄ちゃんは悲しいよ)

キルアはベットの横になっていた。
これぞ、正しい不貞腐れの見本のように壁側に顔を向け、腕枕で転がっている。


……顔!顔が見えん!
さあ!お兄ちゃんにお前の読者人気の高いお顔を見せてくれ!
「とやぁっ!」と無駄な気合を入れて壁とキルアの隙間に無理やり入りこむ。

…お、寝てる寝てる。普通に眠っていやがるよ。
すやすや寝息なんて立ててちまってこの野郎!寝顔は可愛いではないかこんちくしょー!

カルトの寝顔も可愛いけど、寝ているところを頬っぺたツンツンすると凄く怒る。眠ってたのに起こさないで!ウザイ!とか言われた日には落ち込んだぜ。キィッ!と眦吊り上げてさぁ…。
だってだって、子どものほっぺたって柔らかそうで触ってみたくならない?頬ずりしたくなるぞ…。

嫌がられるとまたやってみたくなるのもまた人情。
そうっと指先を近づけていく、が、


「……ッ、あんた。誰だっ?」


流石はキルア。俺の邪な気配に気がついたようだ。

「おお、起きたか?」
「…」

んな!そんな瞬間でベットから飛び降りて退路を確保するってどーよ。俺ってば、そんなに危険人物なのか?俺よりもお前の方がよっぽど危険人物だろうが…。


「おはよー。なかなかいい反射だなー。夕飯できるってさ。早く食堂に来いよ〜」
「いつのまに部屋に?っていうか…」
「お夕飯出来たわよー!みんな降りてらっしゃい!!」
「あ、ほら、飯飯!今日の飯、マジで豪華だぜ!っつっても、新年とクリスマスには劣るがなー」


キキョウの家一杯に響く声に、俺は急いで下に下りた。俺は腹が減ってるんだよ!飯!
駆け足(てか、ゾル家の駆け足は馬並に速い)で、自分の食卓に滑り込む。キキョウの夕飯を知らせる絶叫(…絶叫?…どこにいても分かる素敵な超音波)
テーブルには所狭しと豪華なご馳走が沢山である。ほくほくと出来立ての湯気が立っているのがまた食欲をそそる…!!


席順はこんな感じだ。



  ○マハ ○イルミ ○ミルキ(俺) ○ ○

○親父

  ○ゼノ ○キキョウ ○カルト ○キルア ○



「よし食うか」

ひとことシルバが言って、みんなが一斉に食べ始める。
うちんち、あんまり「いただきます」って言わない。なんでと言われた俺はこう答えよう。

…俺らのほうが貴様よりも強いからだ!弱肉強食!ソノなのまんま!素手でも猛獣達より強い俺らは弱者の肉を食う権利があるのだよ!
だが、俺はあえて言う。ありがとうありがとう、俺(山田)のミルキ(肉体)の活力になってくれてな。
俺(山田)だったら、きっと兎一匹捕まえられないだろう。

「いっただきます!」

パンッ!と両手をあわせてからから揚げに箸をぶっさして食べる。やっぱ、ニンニクが利いてるカラッとあげたから揚げは美味いネェ!!ジュワワァーと中から鶏肉の肉汁があふれ出し、口の中で唾液と混ざりうまうま!!

「…あんた…」

一緒の席についた俺に、キルアが妙な顔をしている。
……実のところ、さっきから突っ込みたくて仕方がない。どうにも、このキルアの薄い反応。俺はひとつの確信を持ってしまった。

「キルア…お前、兄貴の顔を忘れたのか!!」


なんと!すでに痴呆が始まっていたとは…!
持っていたグラスを取り落とす(中身は飲み干したので、空である。んな、中身を零したらキキョウの折檻が怖いぞよ)。
瞳に涙を溜めてキルアを見つめる。心情は、「酷いわ!私のことは遊びだったのね!」。(あ、なんかこの表現は古すぎた気がする…いいんだ。俺は昭和の香りがする男だから!)

「うう…おにいちゃんの顔を忘れたのか…!なんて薄情な弟なのだろう…俺は、お前のことなど忘れた日は一日たりともなかったのに!」


夢の中で「ブタくん!」とにこやかに笑いながら言われる夢を見て、何度飛び起きたことか!その度に、鏡を覗いて自分のスレンダーな姿を映して何度安心したことか!
悪夢!俺はこの年にして初めて悪夢の意味を知った!学校に遅刻する夢とか、階段踏み外す夢はむしろ楽しい夢だった!

お前には、このまるで呪いのように俺をさいなむ「デブ」という禁忌の言葉の威力を知らないのだ!

お前、太らない体質だもんなー。俺は憶えているぞ。漫画で、キルアは2億ジェニーを菓子につぎ込んだ!キルアはどんなにお菓子を食べても太らない!!にきびひとつ出来やしねぇ!くそったれ!なんだその理想の体質!お前は女と、メタボリックに悩む人、ふとめの全人類の敵か!

悔しい!同じ遺伝子なのに、なんで俺だけ太りやすい体質なんだ!!

「ええっ、と?やっぱ、あんた、ミルキ…?ってあの、家出…」
「(ぎっくぅ!)してないぞ!俺は家出なんてしない!あれはちょっと、迷子になったのだ!」

家出じゃない!あれは迷子になったの!
別にしたくてしわけじゃねーの!むしろ、俺はゾル家に帰りたかった!あったかい我が家!三食付で豪華な我が家!

「でも、家出したって…死んだっぽいって…」
「死んだっぽいだとぉ!?誰、誰だよ、そんな不吉なデマ吹き込んだの!」

死んだってなにさ!?俺は椅子から立ち上がって、家族をぐるりと睨ねつける。俺ちゃんと家に帰ったじゃん!それから後の放浪の旅は毎月連絡入れてたぞ。


「お、親父とゼノ爺ちゃんが…」
「お、親父ぃいとゼノ爺ちゃぁああん!!なんてこと言っちゃってくれんの!死んだとか!俺、入らない子なのかよっぉ!」
「ははは。ミルキ。ちょとした爺ちゃんのお茶目じゃよ」
「そうだぞ。俺たちは死んだとは言ってない。死んだ『っぽい★』といっただけだ」


なにその軽い言い方!「っぽい★」てなんだよ。シルバ!あんたに★は似合わねぇぞ!若ぶるな!あんた、そんなキャラじゃない。

「こんの、人でなしぃい!子どもはなぁ、家族に認められないのが一番辛ぇんだぜ!ちょっとそこらへんの常識わきまえてくれよぉ…イル兄ぃ!親父たちが俺を苛める!ひどくね?ひどくね?俺のハートはブロークン!」

隣に座るイルミに泣きつくように同意を求める。ひどいよー。お茶目とか…いや、俺も普通に「お前は橋の下で拾ったんだ」と本当の父親に言われて育って、小学生中高年ぐらいまで半分ぐらい信じてたから…。俺は見かけによらず純情なんだ。素直なんだ。


「イル兄ぃは俺の味方だよな?そんなお茶目はしないよな?」
「オレも死んだと思ってたよ。アハハ、お前の心臓は鋼鉄だからブロークンできないんじゃないの」
…ぐっさり!俺の心臓は家族のあまりの暴言によって、鋼鉄からこんにゃくに変化しました!震えております!プルルン!」


裏切られた!僕の気持ちを裏切ったな!イル兄ぃは俺の味方だと思っていたのに!胸を押さえてテーブルにうつぶせる。およよ…なんで俺んちはこんななんだ!ゾル家には俺の生存説を唱えてくれたやつはいないのか!(てか、デマを吹き込むな!俺は生きてる!)

「なぜにこんにゃく?」

ただ一人、キルアだけが突っ込み。
…ありがとう!俺にはツッコミが必要なんだ。切実に!(ヘビロク〜ヘビロク〜お前のツッコミが今またとてつもなく懐かしい!誰か、俺に愛をくれ!キツイ愛ではなく、優しい愛を!愛の手をぉお〜)(いや、ツッコミって基本イタイ愛じゃんとかいう突っ込みは無しで!キリがないから!)

「ちょっと!ミルキちゃん!お食事が進まないでしょ!もっと静かにお食べなさい!久々の折角の家族団らんを…貴方だけ特盛ゾル入れるわよ!」

キッ!と目を吊り上げた(か、どうかはゴーグルでわからないけど)キキョウの鶴の一声に俺はテーブルの上でぐったりとスライム化していた体を起こして、慌ててしゃきっと背筋を伸ばす。

「すいません、俺が悪かったです。おーくーちーにーチャックー!!」

すいません、すいません、すいません、俺が悪かったです、謝るから特盛ゾルだけは止めてください。俺死にます。
※特盛ゾル。キキョウ特性毒性ハーブミックス。見た目と匂い味もそこそこいいのだが、いかんせん、のちのちの効能が眩暈息切れ喉の渇きと、地味に辛くなってくる。たぶん、象さんとか普通に死んじゃうと思う。

ジジジジと、自分の口にチェックする真似をして無言で再び料理を平らげることに専念する。もしゃもしゃ。


「…すっげ」


…なにがすごいのだ、キルア。
てか、カトル!お兄ちゃんのことそんな冷たい目で見ないで!お前、ただでさえキキョウ似の顔してるから睨まれるとキキョウに怒られてる気になるんだよ。
あ、しかもお前、一人だけちゃっかり飯を食ってたな!楽しい家族の会話に参加しないとはなにごとだ!
あとで、擽りの刑を実行するぞ!こんちくしょー!





■□■





「キルー。俺と一緒に語り会おうぜ!」

枕と布団を抱えてキルアの部屋に乱入。
兄弟五人で枕投げすることが夢なのだが、アルカが…四男坊のアルカがどこにいるのか分からない!しばらく姿を見ていないので、どっかで死んだのかもしれないなぁと思ってみたり。親父も母さんもなんにも言わないからどっかで生きてるのかもしれないけど。まぁ、いいや…。そこは詳しく突っ込んじゃ駄目だ。ゾル家七不思議のひとつに数えておこう!
……ゾル家七不思議…いつか、語れるといいなぁ…。これ語ると、話が脱線しまくるからいつかの機会に。(永遠にこなそうだけどな!(笑顔))

「あんた…何しに…」

すんごく厭な顔をされた。けど、気にしない。ずうずうしい?いやぁ、人間ってね、長く生きているとずうずうしくなるんだよ。なんか精神がごぼうだったのが大根になった感じになるんだ。
ちょっとそこの奥さん!俺って実は魂年齢千年以上なんですのよ、オホホホ!

「何しにとは!よく聞いてくれた!キルアとはえーっと…十年ぶりぐらいでしょ?俺が帰ってきた時に限ってキルってば居ないし。てっきり、俺とお前の運命線は交差しないのが運命かと思ったよ。まぁ、ここ(原作軸)で会えたので無問題だがな」

無駄に仁王立ちで腰に手を当てて笑顔を向ける。


「……あ「あんたじゃないですよ。俺は兄ちゃんって呼んでくれなきゃ答えない」
「はぁ?ばっかじゃねーの?今更、ぽっとでのあんたを兄貴だなんて呼べるかよ」
「馬鹿じゃねぇっつの!あんたって呼ぶな。てか、兄貴と呼ぶなど言ってねーだろーが。プリーズ・コールミー兄ちゃん!俺、キルアの兄ちゃん!」
「に、兄ちゃんだぁ?いえっかよ」


だってだって!サラザールのときは、弟のヴィクターは兄上としか呼んでくれなかったし!カルトはお兄様呼び出し!もっとフレンドリーに呼んで欲しいのだ。庶民的に…。(重要)
キルアの猫目が、さらにツンと尖る。……こ、コイツの目の前にも猫じゃらしを掲げたくなるな!

「そう!兄ちゃん!イル兄ぃはやっぱ、兄貴で、俺は兄ちゃん呼びしてくれたまえ」

さあさあ!期待に瞳を輝かせて催促する。


「あん…「ふーふーん♪きこえなーいきこえなーい!ふふーん♪」
「うっわ、大人げなっ!」
「大人いうな!俺はまだ十代だ!」
「ええっーうっそお!何歳!?」
「ふ、十九歳だ!たぶん!」
「たぶんってなんだよー…!じゃあ、レオリロ?と一緒だな」
「レオリロ?って誰?カリメロならしってるけど…」
「カリメロってなに?」


カリメロ知ってるひといるかなぁ…分からなかったら適当にググってくれ(年代が違うかもしれん)。てか、たぶん、キルアはレオリオのことを言ってるんだろう。
正直、俺もレオリオの名前をはっきり覚えたのは十巻を越えたあたりからだった。それまではレオ何とかと思っていた。むしろ、レオ様と呼んでやろうかと思っていた。だって憶えられない。

しかし、カタカナの名前を覚えにくい俺はまぁしょうがないとして、ハンター試験の間は結構よく話していた仲間(?)の名前をそんなにすぐに忘れるというのはちょっと酷いんじゃないのか、キルアよ。

「あー!あー!」

俺はふと思い当ることを思い母音を連発した。

そうか、キルア!貴様はアホの子だったのだな。(電気の拷問訓練受けすぎで脳細胞がちょっと死滅しただな!)





■□■





ちゅんちゅんと可愛らしい雀の鳴き声で目が覚める。
窓の外の樹海を見ると、ほんの少しだけサラザールのときの家を思い出す。似ても似つかないが、サラの部屋の窓からも広大な森が見えたものだ。

「あー…いい天気だ…おお、あそこに見えるはミーちゃんだ」

遠くにミケがのそのそと歩いている姿が見える。こんな奥地まで散歩に来たのだな。

よし、本日はミーちゃんと遊ぼう。キルアも連日の遊び(命がけ)で疲れただろう。たまにはまったりと実家で過ごす楽な一日というのをプレゼントしてやろう。おお、俺ってばなんて心優しき兄ちゃんなのだろう。出来ればこれで、昨日間違えてキルアのおやつを食べちゃったこと許してくれないかなぁ…(だって、冷蔵庫に入りっぱなしだから食っていいとおもったんだ!つか、キルアがドラ焼き食べてるイメージがしなかったんだ!)

ということで、俺はミーちゃんとの交流を深めることにした。
ゾル家の庭には滝があったりする。そこでわしゃわしゃとミーちゃんの体を洗ってやるのだ。ハハハ!ミーちゃんの体ってば超汚い!川のせせらぎがどす黒く染まっているよ!

…背中を剛毛ブラシで渾身の力で擦ってやれば、無意識にか尻尾がゆらゆらと揺れる。プリティー!しかし、毛のこびり付いて全然落ちない血とか肉くずとか……くっそう。まるで毛づくろいをしてやっている猿のよううだ。一本一本丁寧に爪でこびり付いてるそれらをそぎ落とす。


「ミーちゃぁ〜ん。最後にまた滝に打たれて汚れを全部落とそうなー!」


ざぶんと滝に浸かりミケの体を流す。俺も一緒に滝に入っているので当然全裸である。ふ、このように自然の中で裸になるという行為は背徳的な感じがしつつ、大自然を感じられて素晴らしい!!この開放感!露出狂の気持ちがちょっと分かるような…。

「よっしゃ、じゃあちょっと走るか!」

ミーちゃんの濡れた体をバスタオル一枚でかるーく拭き、残りは森を駆けて自然乾燥に任せよう、そうしよう。
あはははー!こっちだよミーちゃん!気分はフランダースの犬?
…よくわからないが、取り合えず回りにらんらんらん♪みあいな音楽が流れている。ミーちゃんに好きなように走らせて、俺も後ろから追従する。…ミケの足についていける自分に感動…!!測ったことはないが、俺の百メートル走は絶対に十秒を切っているだろう。


「おおう!なんてよい子なのだ、ミーちゃんよ!」


もののけ姫のように駆けてたどり着いたのは試しの門の前だった。なんて責務に忠実なのだろうか。俺と遊んでいても任務は忘れていないんだな…!俺なんて好きなことやってると約束忘れちゃうよ!
そうだよなーお前に命じられてんのは門の前にいることだもんなー。
定位置に寝そべったミケ。粗方乾いた毛並みを担いでいた剛毛ブラシでブラッシングをしてやる。ブラシは特注した一メートル以上の大きさがあるものだ。

ゴシゴシと擦ってやると気持ちがいいのか、ミケは喉を鳴らす。そりゃそうだよなー、四足のケモノは自分で背中なんてかけないモンなー。痒くてかけないのは拷問と同じだな。蚊に刺されたところを我慢して掻かないようにするときのあの辛さといったらねぇよ!
ま、今のミルキは蚊に刺されるということはないがな。全て俺を目指してくるまえに叩き潰す。貴様にくれてやる血など、一滴も無い!

「ん?ミーちゃん、なんか外騒がしくない?」

俺の聴覚が試しの門の外がざわざわしているのを捉えた。…あー、あれかな、時間的に号泣バス観光の人たちが来たのだろう。

「つことは、お昼過ぎたんだな…なんかおなかが空いたと思ったよ。ちょっとランチ取ってくるからちゃんと見張りしてろよー」





■□■





食堂でちょっと遅めの昼飯を食べる。
キキョウが頑張るのは夕飯と朝食だけなので、昼飯は各自でどうにかしろということだ。料理人もいるので、彼らに作ってもらうことも可能。…まぁ、俺はバリバリ作ってもらうけど。やっぱり職人が作るものはうまい。三ツ星も負けず劣らぬ。

ふ、ヤツラは簡単に高級食材をゲットできるからな。間違いなく、美食ハンターにも負けない。崖や山奥、秘境に生息する希少動物・植物を求めるためなら手段を選ばない。山を越え谷を越え海を越え、世界で一番の食材を手に入れる。それがうちの料理人たちなのである。
ああ、あの露出の多かったハンター試験管の小娘に、俺んちの料理人たちを見せてやればよかった。きっと逆立ちしたって俺んとこの料理人たちにはかなわないだろう。ハハン!(嘲笑)


「はぁ〜食った食った。さてさて、午後は何をしようか。ミーちゃんは…見張りで忙しいだろうから、キルアで遊ぼうかなぁ…」


けれど、今だキルアの機嫌が悪かったらなぁ…。機嫌が悪いとキルアもカルトと一緒で俺のことシカトするからな…。あれ?俺の家族的地位ってもしかして低いとか?「ウザイ」とか普通に弟達に言われる俺って悲しい立場?
これってやっぱり家族のコミュニケーション不足?

いやいや、きっとそんな言葉も愛情の裏返し!……結局、俺に優しいのはイル兄ぃだけなのか?
まぁなぁ…キルアと俺の年齢差は七歳もあるしな…。
俺とイルミは長いこと二人っきりで幼少期を過ごしたが、キルアはすぐ下にアルカとかカルトが出来たから…。なんつの、俺とイル兄ぃは年長組みで、キルアたちは年少組みっていう感じだ。どっかの少年アイドルグループみたいだな。


「ミルキさま」

と、自分の立ち位置に不安を覚えているとソソっと後ろにゴトーが寄ってきた。


「あれ?ゴトーじゃん。珍しいねー、今、母さんいないよ?」

このゴトー。キキョウのこと大好き。ゾル家の執事頭だけれども、正直キキョウ専属にちょっと近い。やつは尽くす男だ。いや、別にどうでもいいけど、ゴトーのことなんてさぁ(投げやり)

「存じております。実は、キルアさまのご友人だと名乗るバカヤロウがやってきまして…」
「うっわー!もう来たの?一週間もたって無いじゃん」

何気にゴンたちをバカヤロウとけなしているゴトー。ゴンたち、来るの早いな。もっとキルアと一緒に遊びたかったんだけどな。あの、読者にミルキとキルアのSMゴッコ(ゴッコじゃない。あれはたぶん、実際に拷問でshンジャウ)


「で、そいつらは今どこに?」

や、どこにいるのか知ってるけど。


「……使用人ゼブロの家のです」
「ふふ…ゼブロ、ちょっと痛い目みさせたほうがいいのかねぇ…?

目を細めてココアの入っていたカップを揺らし回す。


やっぱり、ゼブロの家(?)にいるわけなのだな。
……ゼブロったら、いかんよ。原作どおりっていうことは理解してるんだけど、試しの門を"自分"で開いてない人間を中にいれちゃだめでしょ?お前ら所詮は使用人なのだよ?
ここ、ゾルディックの私有地なのに、勝手に他人をいれちゃあぁ駄目だろ。あれ、俺おかしいこと言ってる?言ってないよな?ホームヘルパーか家政婦さんが、雇い人の留守中に友達を中にいれているようなもんだぞ。

試しの門がとんでもなく重いっていうことを教えてやったんだから、あとは外界で鍛えてから来るのを待てばいいじゃんか。なんでワザワザ中に入れるワケ?


「ったく、出血大サービスで扉が重いってこと教えてやってさらには引き込むとは……ホントに出血させたろか…」


ゼブロの脂肪を引きちぎって掻きだしてやろうか。無料で脂肪吸引をしてもらったと思えば嬉しいだろう。なぁに、ただちょっと痛いだけさ。泣き喚くほどに(はぁと)ああ、手元がちょっと狂ったら腸とか引き出しちゃうかもしれないけどな。
黒く笑っていたら、若干引いた感じのゴトーが腰を低くして言って来た。


「…ミルキさま、ヤる時は私どもにお任せを」
「やだなー。ちょっとしたジョークだよ」


いくらなんでも、殺るとかは酷いよな!


「指一本ぐらいで許してやろう!な、ゴトー!」
「……かしこまりました」


俺ってば優しいなー。キキョウ母さんだったら問答無用で脳天打ち抜いてるぞ。


「そっかー…ってことは、キルアももうすぐまた出て行っちゃうんだなぁ…」


「それはちょっと寂しいなぁ…」と顔を曇らせると、ゴトーが「ミルキさま…」と気遣わしげな様子を見せている。あれ、なんでか彼の瞳にキラリと光るものが見えるのは気のせいだろうか…気のせいにしておこう。

まぁ、ヨークシンシティとかに行けば普通に合流できるって分かってはいるんだけれども、俺行く気ないし。断固拒否だし。あれは別名「幻影旅団編」でしょ。ワザワザ行く気ないヨー。だって、ヒの付く変態もいるし。ブルブル!そんな恐ろしいとこ行かないヨー!!





■□■





「と、よし、メール送信終わりっと…」

『山田商店』関係のメールを送信して一服。家にいるのも楽でいいけどなぁ…。ゾル家の暗殺のお仕事だって、そんなに頻繁に入るわけじゃない。一つ一つの仕事の依頼料が莫大だから余裕のある生活をしていられるのだ。


「今日もキルアで遊ぼーっと…」

残りの数日間はキルアを構い倒そう!という計画を実行中。使用人の家にいるのはすでにもう二週間以上もまえに報告を受けているのだが、それからいつまで立ってもやってこない…。ヤツラ、一体いつ来るんだろうか…。

キルアとカルトも一緒に遊ぼう。あ、イル兄ぃも家にいるから誘って兄弟みんなで鬼ごっこでもしたらどうだろうか。
あ、でも、ここは母さんを刺して家から脱走したキルアをみんなで追い詰める、「逆鬼ごっこ」ではどうだろう。
いいじゃんいいじゃん、楽しそうジャン!!

まずはイルミに伺いを立てると、あっさりと了承。

「いいよ。どこで?」
「外!この家から半径五十キロ以内で!玄関にキルアとカルト連れてくから、待ってて」

次はキルア。
部屋でごろごろ漫画を読みながらお菓子を摘んでいる。…てか、部屋の中がお菓子の匂いが充満して臭いんですけど。
…チョコレートとか、甘い匂いならばまだしも、油っぽいスナック菓子の匂いがプンプンしているのは頂けない。
うえ、胸焼けする。

「キルアー。鬼ごっこしようぜ!イル兄ぃも誘ったから、これは強制だから!」
「はぁ?ヤダよ。面倒」
「ヤダいうなや。 こちとら、ゾルディック家族愛劇場に長年浸ってんだ!貴様も兄弟の一員ならば、参加せよ!イル兄ぃも玄関とこにいるから、キルアもさっさと行け」

窓を開けて、新鮮な空気をキルアの部屋に取り込む、と見せかけてキルアの首根っこを掴んで窓から外に放り出す。


「ちょ、いきなり!」


キルアがちょっとだけ慌てたように声を上げるが、まったく無傷で着地できるだろうことが予測できるので無視した。最後にカルトを探して廊下を歩いていると、カルトが角を曲がってきた。おお、なんてナイスタイミング!後ろからは母さんも姿を現す。


「カルト!カルト!あ、母さんも一緒だったの?ね、カルト借りてもいい?」
「ミルキお兄様。僕はものじゃないよ!」
「…お前、いい子に育ったなぁ…」


モノじゃない!と自己主張するカルトになぜかほのぼのとした気持ちを抱き、さらさらな髪の毛を撫でてやる。むっとしたように頬を膨らますカルト。なにこの可愛い生き物!


「カルトちゃんのお勉強も区切りがいいし、いいわよ。何かするの?」
「うん、兄弟揃って逆鬼ごっこでもしようかと思って!玄関でイル兄ぃとキルアを待たせてるんだ。ほら、カルト、行こうぜ!」
「うん」


手を差し出せば、カルトが掴む。


「カルトちゃん、『うん』じゃなくて、『はい』でしょう?」
「はい。お母さま…」

返事の仕方にすかさず、キキョウチェックが入る。
おま、そんなに従順なカルトの将来が怖いよ。いつかキレて、母ちゃんをキルアみたいに刺したりするんじゃないか?




「お待たせー!イル兄ぃ、キルア!よーし!じゃあ、いいかー!これから『兄弟逆鬼ごっこ』を開始します!注意事項は鬼の体を断絶させないこと!あと、殺さないこと!」


腕もげちゃったよ、足もいじゃったよ、首をいきおいあまってチョッパンしちゃったよとか、笑い事じゃないからな。まぁ、そのあたりの加減は出来る…はずだよ、みんな。
一番心配なのはカルトかな、あの子はまだ甘いもんな。


「三秒間、体のどこかを触り続けられれば鬼を捕まえられる。いいかな!」
「「「「「「「「分かった」」」」」」」」


兄弟四人分よりも多重に聞こえるハーモニー。はて?
イルミ、キルア、カルト、キキョ…??


「って…なんで母さんがいるわけ!?父さん呼んでないし!ゼノじいちゃんも何やる気満々で屈伸運動してるわけ!?しかも何気にマハじいちゃんもいるし!」



なぜかゾルディック家全員大集合。
素知らぬ顔で兄弟の円陣に紛れ込んでいるキキョウ、シルバ、ゼノ、マハ!!
オイ!これは流石に俺は突っ込むぞ。なにあんたらお約束(?)をしているのだ!


「いいじゃないか。俺も今暇だったしな」
「じじいだからと言って仲間はずれにされたくないのう」
「……(やろうぜやろうぜ!)」(と、マハじいちゃんは親指でクイックイっと催促)
「私は審判をやりますわ。しっかりと監視をして、間違いが起こらないように!」




…あー、はいはい。

あれだろ、あんたらみんな暇だったんだな!!


(と、人差し指を突きつけて指摘してやれればどんなにいいか…いや、小心者だからしませんが)



「はぁ…分かった。じゃあ、家族逆鬼ごっこをします!」

諦めが肝心だ俺。諦めという達観で全てを悟れ!俺は山田(仮)なのにミルキ!ほぉら、世界には何も不思議はない!

ってことで…



「鬼は、ズバリ……キルア!」

と、キルアを指定。



「ええええええーーー!!なんでっ!!!」
「お仕置きだ」
「!!!ひでぇっ!ありえない!こういうのって普通はじゃんけんで鬼を決めるんじゃないのかよっ!」


叫ぶキルア。


「百秒数えるから、その間に逃げてな。五分以内に捕まったら……大変なことになるぞ(哀れみを含んだ微笑)」
「!!」
「あ、十分以上持ったら、次はちゃんとじゃんけんで鬼を決めてやるからな、頑張れよ。ほれ、行くぞ、いーち、にぃーいっ…」




で、みんなでキルアをボコボコにした。

…いやいや、キルアは原作の通りに俺(ミルキ)とSMゴッコするよりも辛かったことは間違いない。だって、満身創痍だ。本気で痛がってた。…鞭でビシバシのときは全く堪えてなかったように見えたのに…。
さすがは家族の愛の鞭。痛いのだね。イタイ。いろんな意味でな…。よく反省しろよ、キルア!(ほろり)


キルアは「逆鬼ごっこ」十二回後に逃げ切ることが出来た。
かなりキルアは死に物狂いで逃げていた。ほら、キルアも十二歳だし十二回で止めといてやろうという優しい家族の気遣いだよ。みんな手加減して甚振ったし…。(自分でいうのも何だけと、俺が言ってることって結構ヒドイナー)

キルアはリタイアし、さあ、終わろうと思ったのだが、親父達が嬉々として続きをやりたがった。
その後、シルバが鬼になったのだが…無理だよヨー。掴まえられるわけないヨー!!とキルアに対してだけ、「逆鬼ごっこ」をして、シルバらには普通の「鬼ごっこ」になった。
あれだ、実力差がはげしすぎるんだ…。


誰だよ!最初に「家族鬼ごっこ」しようとかいったヤツ!(…俺かっ!orz)


シルバに追いかけられて行くのはマジ体力を消費した。
その後、マハじいちゃんとゼノじいちゃんも鬼になったし…。いつの間にか遊びが訓練になって。いや…いつものことか…遊びが急にレベル高くなって命の危険にさらされるのは…(遠い目)

お陰でキルアの身体はしばらく動かずにベットに括りつけられた。
キルアの部屋に見舞いに行って、包帯グルグル巻きの姿につい笑ってしまう。ほぼ、体の傷は驚異的な回復力によって完治しているのだが、拘束の意味合いもあってミイラのようにきつく縛り上げられている。


「キルア、めっちゃ重症だなぁ…イタイのイタイの飛んでいけー。星の彼方に飛んでいけー」
「なんかむしろ、痛みが戻ってくるんですけど」
「…そうか、きっと月の兎がカウンターアタックでキルアの痛みを跳ね返しているんだ!」
「月に兎なんていねぇし」


しらっと、言うキルア。


「なんて夢の無い子なのかしら!お母さん悲しい!」
「キモス。母ちゃんの声真似すんな。鳥肌たった!」
「……うん、ごめん、俺も自分で言ってて鳥肌たったヨー」


二人で互いのプツプツに鳥肌をたった肌を見てため息。


「キルア、反省してる?」
「うん、すげーハンセイしてる、ごめん、兄ちゃん」
「…さっぱり反省の色が伝わってこないのはどうしてだろう…。はぁ…そんなけズタボロにされても反省しないお前がスゲーと思うよ…」

俺だったら、速攻で平謝りだ。命ばかりはお助けを〜。

「……でも俺、アンタの方がちょっと凄いと思う」
「おれがぁ?どこが?生きていくのに一杯一杯だよ、俺なんてさ」


この世界でいかに安全に余裕で生きていくのかで頭の中一杯ですよ。


「……キルア、お前さぁ、なんでそんなに暗殺者がいやなの?」
「!いやに決まってるだろ!なんで、兄ちゃんは平気なんだよ!?」
「……うう〜ん…俺の場合は、ちょっと特殊だからなぁ…(俺とは違う「世界」の人間って割り切っちゃってるからなぁ…)まぁ、お前の気持ちも分からんでもないが…」


親の職業を継ぐっていうのが、ちょっと当たり前に受け入れられていた時代ならばともかく、このぐらいの年齢は将来何になりたいの?と言う質問に「宇宙飛行士!」「野球選手!」とか答えちゃうくらいに夢に満ち溢れているものな。…「公務員!」とか答えるヤツはそれはそれで可愛げ気が無いがな。


「キルアさぁ、この家から逃れたいなら、俺達みんな殺さなきゃだめだよ?家族全員を殺せるくらいに強くなって、お前も子どもを残しちゃ駄目だ。血を絶やす、そういう覚悟、しとけよ?」
「……」
「禍根が残っちゃうからね。俺んち(スリザリン)みたいに…」


薄らと笑うと、キルアがビクリと身を震わせた。
ちょ、なんで皆俺が笑うとビビるのだ。

「そのくらいにしてやれ」

気配に振り向くと、ゼノじいちゃんがいつの間にか部屋にいた。流石はゼノじいちゃん、気が付かなかったし。

「ゼノじいちゃん…、そのくらいにしてやれって、俺なんにもしてないし」
「……そうかの?」

あ、ゼノじいちゃんの服の前掛けに「一日一殺」って書いてある。あまりに有名なその造語標語。ということは、今日がキルアが出て行っちゃう日なのだな…。

「…じゃ、俺も部屋に戻るわ。キルアー、頑張ってこいな。何もかもイヤになったらうちに戻ってくればいいんだし。帰れる場所があるっていいことだぞ!」


ぐしゃぐしゃとキルアの頭を撫でてやり、部屋を出ようとノブに手をかけたところで、いつか言っておこうと思っていたことを思い出した。


「……あ、余計なお世話かもしれないけど、蜘蛛には気をつけろ。あとさ、俺達ゾルディックのしていることは"仕事"だ。それ、憶えておけよ。じゃ、またな」


またどこかで、会えたらいいな。





■□■





閉じられた扉を見遣ってから、キルアはほっと息を吐いた。ミルキというなの兄は、時々酷く年老いたように見える。触れてはならぬような、透き通った赤いルビーを思わせる。


「で?じいちゃん、なんの用?
「キル、シルバが呼んでる、行ってこい」
「親父が?分かった…」

ひょいっ身を起こし、体に巻かれていた包帯を引きちぎる。体の傷はすでに癒えた。さっさと部屋から出て行くキルアの後姿を眺めながら、ゼノは散らかったベットの上に腰掛けた。先ほどまでミルキが座っていたベットの傍らの椅子を眺めた。
時に、こちらまでがハッとする雰囲気をかもし出すミルキ。



「キルア、お前は"特別"じゃ」


――同時に、ミルキは"異質"なのじゃ。





□■□





回復能力が高いキルアは父さんのところに話し合いに行き、その後家を出て行ってしまった…。え、俺に対してのお別れの挨拶はなしなんですか?

こっそり執事室と試しの門まで後をつけたけど。
ゴンたちがやってきてキルアと一緒に出て行くのを樹海の影から見守る。ヤクザちっくゴトーが観れて、俺、ちょっと満足。


「ゴトー…殺気を撒き散らすなよ、キルアにばれたらどうする」
「申し訳ありません…ミルキさま…しかし、このゴトー!キルアさまを連れ去るあのガキどもをブチ殺したくてしかたありません…!」

ブチブチと俺に対してにこやかな笑顔を見せつつも、青筋血管が見えているゴトー。

「奥様が…奥様が…悲しまれるぅ!ミルキさまもでしょう!!」
「うん、まぁ…」
「やはり、行かせるんじゃなかった…今からでもブ、いや、牛ひき肉にして…」


……ブツブツと呟いているゴトー。てか、途中でブタ肉って言おうとしたのを牛肉って言い換えたね?偉いな。豚肉って言ってたら俺がお前のことぶっ飛ばしてたよ。禁句ワードだから、それ。






















「ま、生き残るから大丈夫でしょ。それよりも…ゴトー、お前もうちの執事なら、害虫を殺せるようにしておけよ…」

体近くを飛んでいた蜂を握って潰した。




(一寸の虫にも五分の魂っていい言葉だと思う…)




※web拍手で乳デカは巨乳だよって教えてくれた人がいた!ありがとうです!なんでかその表現だけが脳みそからすっぽり抜けてましたよ(笑)
  • 080328