ある昼下がり。
俺こと山田太郎(仮)が憑依してしまってぬくぬくと過ごしていたミルキ・ゾルディックは大変なピンチに見舞われてた。
いや、電車に乗ってきたら急にトイレに行きたくなったとか、そういうレベルのピンチではない。
いやいや、あれも漏らしてしまったら末代までの恥、やっちまったら穴を掘って逆さに埋まりたい、二度と電車に乗れなくなるほどのトラウマになることに間違
いはないのである。
あまりの恥ずかしさでその場で憤死、勢い余って電車に飛び込んでしまった…ら、なんかもう本気で笑い事じゃない。周りの人間もトラウマだ。やめとけ。い
や、心から本気で。
「るんるんるん♪悪い子はいねえがぁあ?良いものはねぇがぁ?」
その日の俺は、我が家の倉庫をごそごそと漁っていた。
ちなみに上記のなまはげなセリフには意味はない。なんとなくナマハゲな気分だったことは間違いない。
うちにはいったいどこから手に入れてきたものか不明だが、いろんな希少価値なものが蔵にごろごろと無造作に転がっているのである。
我が家に転がっているモノで一番多いのは武器だ。
古今東西、あらゆる武器が転がっている。日本刀に西洋剣、クナイに薙刀、フライパンにトンファー、ボールペン、槍、鞭に輪ゴム…って、つらつらと並べてい
くといつまでたっても終わらない。
上記であげたメジャーなものから、え?なにそれ?というマイナーなものまでなんでもある。俺も知らない武器がいっぱい。あれ?フライパンって武器に入るの
かな…?
武器の見本市が開けるぐらいの所有量だ。どこと戦争する気だ、ゾル家。
いつ何時も臨機応変。
これ、社会人の常識だヨ、とばかりに、ゾル家の子供たちは武器使いに対抗できるように、あらゆる武器に対しての知識と使い方、実技をマスタークラスまで習
得してる。
…でもまぁ、うちって基本無手なので、せっかく習った実技を披露することはあんまりない。
実に技術の持ち腐れ。
そんな蔵の中は、定期的にメイドたちが掃除をしているとはいえ、捨てることはないガラクタ(希少価値あるもの含む)で膨れていく一方だ。ここはゴミ屋敷
かッ!
ほとんど日の目もみないような、いらんものも多い。
なので、大掃除を兼ねて年末整理をしてあげようという優しい俺。
え?自分の部屋の掃除はどうしたかって?知らんしー。そもそも、今はもう年末じゃない。中間期の六月である。
「ぐほっ、うえっぷ、げほ、くしゅんッ!」
ちょっと物をずらしただけで、このありさま。ほこりをモロに吸い込んでしまい、なんだか大変なことになってしまった。
大丈夫。
ほこりでゾルディックの人間は死なないから。
掃除をしなくても、家屋にはGのつく古代生物はいません!
だって、我が家を取り巻くオーラに本能で寄り付きませんから!もしも寄りつくような低能は、メイドさんたちに瞬殺されるのである。
ほら、メイドといえども…念、使えますから。円の中に入ったらもう、サーチアンドデス。ですよ。
年始年末、わっほい!大感謝掘り出し物市!を我が通販サイトでしようとおもい、仕入れをしているのだ。
蔵にはいらないものたくさんあるから、ちょっとぐらいねこばばしてもいいよね。いいよ、俺が許す!
リサイクルは、世界と俺の懐に優しんだぞ。がっぽり儲けちゃうぞ☆
骨董品類を漁る。
針が逆に動いている時計、よくわからん羽衣、だの、人魚っぽい骨だの、和風の手鏡だの、三つ目がとおるの人体模型だの…ちょっとおかしくね?漫画ちがう
よ?てか、生態系違うでしょ?というがらくたが出てくるわ出てくるわ。
次から次へと箱を開けていました。
ええ、俺はなんのためらいもなく、次から次へと開けていたのである。
だって、別に錠が掛かっているわけでもない、普通の箱だったんだもの!!開けるよな?そこに箱があったならば、開けるよな!?それが、欲というものなので
ある。
「ふべしっ…!?」
何の気負いもなしに開けたとたん、箱の中からもうもうと煙が立ち込めた。
何もにおいがしない、ただの水蒸気のような煙だ。
すぐに蓋を閉め直す。
「けふっ、うわ、なにこれぇ…え、ええっ!?」
パタパタと顔の前の水蒸気を払い、箱の中に何が入っていたのか確認しようとしたとたん、違和感に声を上げる。
なにか、目線がおかしいのである。
「……」
身体を覆っていた洋服が、肩からずり下がる。
履いていたズボンは床へ脱皮したように落ちている。ついでにパンツもずり落ちているので、足元がスースーと寒いことこの上ない。
「…ええ、よーく分かりますとも。コナン君状態ですね?」
心は大人、身体は子供っ☆
心はアダルト、身体はショタ☆
……あえて、俗語に置き換えて二回言ってみた。片仮名の方が卑猥なのはなぜだろう。
てか、結構頻繁に目線が高から低いに変わることがあるので、なんとなく慣れたものだ。
取り乱さない俺。大人の余裕の俺。
サラザールにチェンジ☆するときも、ミルキにチェンジ☆の時も、パッと気がついたら目線が低かった。
慣れました。あんまり驚きもありません。
手近にあった手鏡で、顔の確認。…うん、まぁ普通にミルキたんの幼い頃の顔かたちである。生意気子猫エンジェール!
おいおい、黒の組織が作った薬ってっカプセル状だったんじゃないのか。
霧状とか…ないわー…。玉手箱から霧が出てきて年齢が変わるって…竜宮城の玉手箱かよって話ですね。
ああ、玉手箱開けるとよぼよぼのじいちゃんになっちゃうんだよな…。
「…よかったー!全力でよかったーー!!」
ホントの玉手箱じゃなっくてよかった!ホントの玉手箱だったら、俺は今頃よぼよぼのおじいちゃんだ。
いきなり、おじいちゃんになっちゃったら…、人生に絶望して…うん、ネ?ピッチぴちピーチから干し柿状態って…ネ?
心はアダルト、身体はシニアっ☆
………… あー… 、ごめん。ものすごく…切ないです。(想像するんじゃなかった!!)
「まぁ、とりあえず、すっぽんぽんはいただけない」
俺はジェントルマンだから、フルチンの状態は世の中の子供の教育に悪いと思うのです。
フルチンして象さんやってられるのは、クレヨンしんちゃんぐらいなのである。
俺、クレヨンしんちゃんって馬鹿と見せかけた超天才だと心の底から思っています。
あの子、絶対IQとEQが高いと思うんだ。馬鹿に見せかけた天才とか、カッコいいっス。あこがれます。
着ていた洋服を再び着ようとしても、シャツは肩から抜け落ちるし、着るものがない。
体格差故にワンピースのようにはなっているが
キョロキョロと周りを見回して、洋服の代わりになりそうなものを探す。すると、さっき広げたマントっぽい布切れをみつけたので、さっと身体にまとう。
瞬間、布切れから古ぼけた紙きれが床に落ちた――…俺が、気がつかぬまま。
そこにはこう書かれていた。
【死出の羽衣】
羽衣を通して異界への入り口を作り出す。入った相手はランダムにどこかに飛ばされる。
■□
――― 突然の、場面変換。
まるで、漫画のコマ落としのようだ。
「好きだ!」「私も!」→ベットイン!って感じである。
あるいは、
「ニコっ(笑顔)」「ぽっ!(赤面)」→惚れた!って感じ。
意味がわからない。俺も意味が分からない。とりあえず、美形は敵だ。撲殺撲殺撲殺!!リア充四散しろ!!
「よし、もちつけ(キリッ)」
そうだ、もちつけ!←
こんな時こそ冷静にならねばならない。不慮の事態にこそ、こんな時にこそ頭を冷やし、思考を止めるな。
幼いころから、身にしみるほど叩き込まれた生き残るための術。
すなわち――思考を止めることは、生きることを放棄することを一緒。
状況を見極め、今、必要な行動を導き出すのだ…!!
というわけで。
はい、右見てー!
左見てー下見てー!上見てー!青空だーっ!!……ってちがーう!!
なんの解決にもならない。
というか、全く冷静じゃないという件について。無駄にあがいているとしか思えない。俺、頑張れ、超頑張れ!
「……うん、けれど。俺はどこにいるのだろうか」
分かることはただ一つ。
「俺は今、森にいる」
うち(ゾル家)の庭でないことは確かだ。あれ、なんか前にもこんなことがあった気がする。
突然目の前が森だったってそういうことが…。
兄ちゃん、ピンチです!!!
※ どうでもいい話。四話で終わるのでサクッと進みます。