罰の為の牢獄か、束縛の為の鳥篭か












メーデーメーデー!!



……どうすんのさ、俺。久々にピンチだよ。
いままでは、ピンチに遭遇する前に逃亡していたのである。ほら、勝てない敵と戦うな…無駄な抵抗をやめろ!


いつの間にか、俺は研究所らしきところへ拉致されてしまいました。いや、逃げようと思ったけど、逃げれなかったっていうか…。

あはは!これも全部、獄寺隼人が悪い。この身体が悪い!!


痛いの嫌だな。痛い目見るぐらいだったら、先に舌かんで死のうかな…いや、でも、舌かんで一発で上手く舌かみ切れる自信がないんだよな。
しくじると痛いからね。
気道に血がはまって大変なことになるから。窒息死っていやです。




俺と一緒に、ナルテッサまで捕まってしまったんですよねー。
昨夜、彼ら子供たちのところで一泊して、じゃあさようならと別れを告げ、大通りに出ようと慣れない迷路のような道を歩いていると、後ろに付けてくる気配を 感じだ。
トコトコと擬音つきそうな危なっかしい足取りで、後ろからナルテッサがついてきていた。


「…(ばっ!)」と後ろを振り向くと、ナルテッサが建物の壁に向かってしゃがみこんで頭を抱える。


……おいおい、それってまさか隠れているつもりか?
まったくもって全体像が隠れていない。丸見えである。
イタリアには日本のようにすぐに隠れられるような電柱はあまり立っていない。丸くしゃがみこんで微動だにしない姿を見ていると…「あれ?俺いまだるまさん が転んだで遊んでたんだっけ?」とすら思えてくる。



「……何か用でも?ナルテッサ」
「……」
「……怒らないから、言ってごらん?」


やさしーく、やさしーく、カルトに語りかけるように聞く。俺のアイスを食べちゃったカルトに語りかけるがごとくの優しさだ。
ひどいよ!ちゃんと俺のものだって名前だって書いておいたのに…!!


「…あ、あたちね、案内してあげりゅ!」


……どうやら駅まで案内してくれるらしい。幼児語に全く萌えない。


「そうか、じゃあ頼むな」


無下にする理由もないので、頷いて先導を任せる。
ナルテッサの歩幅に合わせもせずに歩いていると、途中の石畳の道でナルテッサが転んだ。

そんな姿を助ける気もなく見ていたら、囲まれてる気配がして…うん、ナルテッサがいかにも誘拐犯に拘束され、ヤベ、逃げなきゃと思ったら(普通 にナルテッサを見捨てようとしたって?うん、幼女に罪はない。罪は俺にある)まぁ、逃げきれない獄寺スペックだったっていう…。


一人や二人なら不意打ちや奇襲でどうにかなるが、それ以上になるとちょっと無理なのである。
小道に逃げようとするも、多勢に無勢。恐ろしく手際よく包囲網を張られ、あえなく俺は捕まった。相手、拳銃持ってたし。逃げるとか無理でした。




そんなこんなで俺とナルテッサは簡単に拉致され、どこともしれぬ場所にある、完全非公式の研究所らしきところに連れてこられてしまったのである。

俺、終わったな…。






「……wow!」


連れてこられた部屋をみて、思わず感嘆詩が飛び出した。

なぜならそこは「え、ちょっと、連れてくる場所間違えてない?」と言いたくなるような清潔に整えられた部屋だった。
きちんと人数分の簡易ベッドがある。ただ、全く他人の目から隠れてないトイレについてはいただけない。男はかまわないけど、女の子がおトイレするとき可哀 想だな。


綺麗で、消毒液の匂いがする。まるで保健室だ。
自殺とかの防止だろうが何かを引っ掛けるところや、小物類が何もない。
壁や床、寝台のふちなどには全てに柔らかいクッションが付けられて、転んでも平気な仕様になっている。自殺防止用であることは間違えない。


ふかふかの床。分厚い発泡スチロールのようだ。はだしで歩いても冷たくない。その上を歩き、指示された空のベッドに腰掛けた。


すでに中で生活していたらしい他の子供たちも、何をするでもなくぼんやりと新入りである俺たちを見ていた。
ルナテッサが怯えたように俺の服の裾を握る。ちょ、何このかわいい生き物。顔は残念だとして、行動は可愛い。


可愛いものはいいねぇ、人類が生み出した…。
……なんだっけ?カヲルくんのセリフを忘れた。究極の萌えだっけ?いや、なんかいろいろ間違ってる。

萌えもすぎると全然萌えない。なんなの?俺は別にツンデレロリとか好きじゃないよ?ていうか、むしろ最近のライトノベルの表紙、およびアニメはロリ系が多 すぎ。
むしろ萌えカスにしか見えない。これが新世紀の罠か…。

俺はロリじゃなくて色気のある大人の女性に憧れます。
女豹系は怖くて嫌だけど。喰われるから…!!俺は草食系なので、マジで怖いです…。
大人しい文系女子希望。ヤンデレとかストーカーとかは勘弁。





さて、研究所での生活も何日かたった。
実験に連れて行かれる子供はランダムで、三日間連続で連れて行かれても、瀕死の状態(簡単な手当はされている)で戻ってきたり。
かと思えば、初めての新入りが連れて行かれたその日から二度と戻ってこなかったり。
なんとも、人の入れ替えが激しいことで…。



食事は一日に二回。朝と夜。
パンとスープという、変わりばえのない配給だったが、食べ物なんて日に一度与えられれば恩の字だとすら思っていたので、驚きだった。


地下室の薄暗いじめじめとカビが生え、すえた臭いのする場所で食べ物すら与えられない、そんな生活を予想していた。


おかしいな…たしか、そんな描写が原作にあったと覚えているのだが…?
なんで、こんなに待遇いいんだ?(やっていることは、基本的に容赦なく、死にいたることは簡単にあるようだが)


まぁ、そもそも実験体なのだから、それなりに実験体の体調を整えてから実験しないと、成功する実験も成功しないだろう。

ここは、比較的まともな人体実験場であるといえるだろう。
まとも、の意味を取り違えてはいけないが、まともな食事、まともな環境。ただ一つ、生かされる等価交換のように実験への強制。



連れてこられた俺たちはまず、さまざまな検査を受けた。
体力測定、健康診断、IQテスト。その他もろもろ。

結局のところ、ここは一体何を研究しているのか?
俺にはそもそも、その研究目的が分からなかった。大概はよくわからん薬の実験台になっていたぐらいか。

わざとウイルスに感染させ、その病気に対しての薬を開発していたり…。


毒薬系ならバッチ☆コイ!なので、なんかもう俺の身体からは美味いこと数値がでなかったらしい。
他の子が苦しんでたり、死んじゃったりした毒物もあったのだが…。


「…なぁ、この数値おかしくないか」
「ああ、この検査キット、壊れてるんですかね?」
「もう一回こっちのキットで…」
「!……同じです」
「こ、こっちで!」
「……数値、変わりありません…」
「「………」」


あくまでも、この研究者が作りたかったのは、普通の人間に効くものだった。
なので、俺のあまりの体勢に研究者たちも首をひねって、唸っていた。

結局は、俺の血液はなんかおかしいということで、逆に研究対象として毎回大量に抜かれることになりました。
俺の血を調べるらしい。お陰で慢性的に貧血なのであ る。
誰かー!レバー持ってきてー!!








俺がこの研究所に来てから数日後、その目的のカケラをわが身を持って知ることが出来た。


「全員、出ろ」


初めて部屋にいる子供が全員出された。とはいうものの、子供の数はまた減っていて、俺を入れても十三人しかいない。
皆で連れて行かれたのは、ホール。

天井の高い、円状のホールに子供たちが端から端へと一列に並べられる。動けないように拘束されるのはいつものことだ。
頭 に脳波を調べるために電極を埋め込まれたヘルメットをかぶせられる。

壁には、俺たちを観察するためだろう、研究者が窓越しにこちらの状況をうかがっている。
何が始まるのか、俺には分からなかった。

おもむろに男の手に拳銃が握られる。




ちょ、ま!
何これ、銃が出てきたってことは、銃殺かなんかですか?
俺だけじゃなくて他の子供たちも真っ青になっている。でも、何人かの子供たちは諦めたような顔して、時を待つ。
見れば、あきらめたようにしているのはここに数か月いて、まだ生き残っているらしい子供だった。

どうでもいいことを考えていると、容赦がなく、あっけなく、無造作に銃口が向けられた。





…タン!
タ、タタ、タタタン!




軽快な音とともに連続で銃弾が発射される。
一人ひとりに一発ずつ。正確無比に、冷酷に平等に。




タン。



フィニッシュ!!
俺にも間違えようもなく脳天に銃弾を浴びました。





長らくご愛好ありがとうございました。
山田太郎(仮)in獄寺隼人はこの瞬間を持ちまして、死亡しました…!

アディオス!!







……
…………







グラりと、視界が赤く染まる。
次の瞬間、視界が狭く切り替わる。周りに現映像が全てセピア色になる。昔の白黒映画を眼鏡の中からのぞいているようだ。

あれ?
おかしいな、俺は生きているようだ。
ただ、白昼夢を見ているよう認識に違和感がある。

見れば、俺の他にも、どう見たって一発昇天された子供が、普通に立っていた。もちろん、普通に脳漿をヘルメットの中にまき散らして死に絶えている子もい る。

なんですか、これ。立ってる俺たちゃゾンビかなんかですか。


『…2、4、6、8、八人か。まぁ、半数ならば上々か』
『…そうですね、効果はまだ分かりませんが』


なんて、白衣の男女が話している。と、隣に俺と同じように立っていた子供が突然、撃たれた場所から大量の血を噴出して倒れた。
あ、死んだ。いや、撃たれたんだから、ソレが正しい姿だとは思うんだが…。
あまりにも死ぬまでに時間差があるだろ。


『言ってるソバからソレは駄目か。では、七人が残ったか』



…はい?

おもむろに彼は手にナイフを持って別の子供の腕を切りつけた。子供は泣きも叫びもせずに、切られた腕から血を滴らせる。え、結構深く切ってるんですか、大 丈夫なのか?

男はその腕をよく見えるように高く上げさせる。
すると間もなく、ジョワワァアー…と、子供の傷口から消毒液を塗った時に現れるような泡があふれ、傷口をふさいでいく。


『…効果は出ているな。この状態をどのぐらい保てるのかが問題だ』
『個人差がどの程度現れるのか』
『ああ、それも分からない。なんにせよ、効果が切れ後にはこの子たちは別室へ。脳波のほうはどうなっている?』
『はい、脳波は以上ありません。…睡眠第1段階と類似が見られます、夢うつつ、といったところでしょうか』
『こちら側をどう認識できているのか。意識下に埋め込む命令に対しての実行へ移すだけの刷り込みが出来るのか…問題はまだまだ山積みだな』



研究者が俺の顎を持ち上げて観察する。感覚がマヒしているのか、顎に手を当てている様子が分かるが、皮膚からの感覚がない。麻酔をたくさんかけられたよう な鈍さだ。




人体改造
薬物実験
自己回復能力
若返る
老化する
夢渡り
千里眼
憑依
テレパシー
発火能力
念動力



まあ、上記のような一般人でもなんとなく知っているような超能力を思い浮かべてほしい。この研究所はそれらを幅広くさまざまな研究を行っているようだ。夢 物語のものから、科学的なものまで。



そして俺は生き残り、ステージはさらなる段階へ!







□■□








「次、324号、こい」
「…(あ、俺だ)」



はいほーい!と流石の俺でも気軽な返事は控えた。空気読まなくちゃね。神妙な顔をしてうなずく。


自分の名前が呼ばれずに、ナンバーで呼ばれるって嫌なものだね。

数字ナンバーの焼印を二の腕の肩に押されたときには痛さのあまりに悶絶したね。というか、じ わぁあと己の肉が焼け焦げる匂いは嫌なものだ。
この焼きこてを受けたことにより、子供は痛くて怖くてしかたがなくなって、抵抗する気力がなくなってしまう。

さらに言えば、その焼印が治るまで痒いのなんのって…それこそ、かゆみに悶絶だ。
蚊に刺された痒さと同レベルだね!!(…ここしばらく、蚊に刺された覚えはないのだが。刺される前にブッ叩いて殺していた)


ちゃんと確認したことはないが、子供たちがおさめられている大部屋が全部で三個。
各部屋二十人ほどがいると考えられる。死んだ子供の空きがいくつかあり、そこにランダムに新しい子供が振り分けられる。




研究室に行くと、手術台に二人ほどの男が被験者をいじっていた。男が影になって、姿が見えない。


「ああ、次か」



男が振り向いた。
手術用のゴーグルをした顔には、血しぶきを浴びている。両手に持ったメスが…うん、マッドぽくて怖いね。
男が身をずらしたことで、手術台にいた子供が見える。



「…あ〜…」



実に、気の抜けた声を平坦に漏らしてしまった。


「…?ああ、知り合いだったのか?」


そのとおり。知り合いだった。
思わず、「あちゃぁ!」と、手で額を抑えてしまう。じゃらりと、手足についた鎖が不協和音を奏でる。(大部屋を出るときは、 手足に枷を付けられる。そんなものを付けずとも、この研究所からは逃れられないと、子供たちは皆知っているのに…)



つと、再び手術台に目を移す。



思わず、目を細めた。

薄汚れた顔に、乳歯の抜けた間抜け面。笑った顔はくちゃりとしわくちゃの干し柿のよう。
あまり可愛いとは言えないが、全体的に不思議と愛きょうのあった 子。そう、まるで子猿のようで…。

けして貶しているいるわけじゃないからな!純粋に褒めているぞ!!
しかしながら、残念なことにお亡くなりになっているようです。
何日か前から部屋に帰ってきてかなったからなぁ…もうとっくに死んでると思ってたんだが、今の今まで御存命だったのか…。


だらりと垂れ下がった腕。うつろな目。口元は万力でこじ開けたように外れている。




「すまんな。これも、私たちの理論を証明するためには必要な犠牲なんだ…」



謝るってどうなのさ。
謝るくらいなら、最初から何もするなっつーの。
驚いたことに、この研究所の研究者たちはみな、確固たる信念を持っているようだ。彼らはより正確な実験データを取ろうと、人間を使う。それは、人と動物と の差であるだけ。



行き過ぎた科学者であることは言うまでもなく。彼らをこのような強行に走らせたのはなんだったのだろうか。




最初は、小さな好奇心。あるいは渇望。
世間にさらせない人体実験。認可されていない非合法の薬の実験。今だ改名されていない脳の神秘に挑む研究。
それらのものから生み出されるのは、巨大な屍の山と一握りの成功。



けれど、視点を変えてみよう。
もしかしたら、そういう実験って…人を救う実験にもなりうるんだよな…。
ダーウィンの進化論って、あるじゃん?あれって、科学者ダーウィンはそりゃあたくさんの生物を犠牲にして確立させていった。まぁ…かなり、この場合と関係 ないかもしれんけど。



でも、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、研究者たちの気持ちが分かる俺がいて…。

ああ、キメラ、とか、そういう、この世のものではない創られた生き物たち。





―――ああ、美しい合成獣(キメラ)ならばたくさん創った。

昔ながらの記憶をたどり、混ぜ合わせ、御伽話の生き物たちを。
幻想種など、巡り合ったのは数が知れぬ。我が手で作り出した幻想種も、幾多もあり。

美しきかな、異形なるかな、我がホグワーツに住まう魑魅魍魎どもよ。





つい、昔を思い出して懐かしさに笑みがこぼれる。






□■□






Side ohter




空 気が、ほんの一瞬だが凍ったのを、私は確かに感じた。

目の前で、知り合いの幼女を無残にも切り刻まれ、その残滓を見ているにも関わらず、私たちの失敗を見 下すかのように嗤う、笑をこぼす少年。


ぞわり、肌が泡立ち、メスを持つ手が震えた。
カチンと、手から滑り落ちたメスが少年の足元に転がる。

まずい、と思っ たが、少年は手足に枷があるにもかかわらず、優雅に美しく上半身をかがめるとメスを手に取った。

反射して鈍く光るメス。この少年の手にメスという名の刃物 があるのが酷く不似合いで、もっと美しく鋭利な、別の何かがふさわしいような気がした。


くるぅり(クルリ、なんて直情的な擬音は似合わない。もっと蛇が纏 わりつくような。這いまわるようななめらかさ。そんな表現こそ相応しい)と、少年が手首を回転させる。

全く無駄のない、なめらかな動きだった。
「どうぞ」 と、自らにナイフと部分を向け、取手の部分を私に向けて手渡してくる。少年の瞳はどうということもなく普通だった。
無感情やあきらめなども何もなく、日常 の生活をしているような普通さ。

その奥に見える「何か」を見ることを恐れ、「どうも」と、平静を装って受け取る私の手は、じっとりと汗をかいていた。
やっ とのことで、少年から目をそらし、一緒にいたもう一人の研究員に目を向けると彼も私と同じ何かを感じたように、動きを止めていた。


―― 私たちがこの時に感じていたのは、本能の警告だったのかもしれない。




(out)





■□■






「そいつにッ、例の目を入れてみましょう!主任に許可を!」
「ああ、あれか…だが、あれに適合出来るものは…」
「いいから、やってしまいましょうよ!データを取るだけにしろ、数をこなせば有益な情報が得られるはずでしょうっ」
「しかし、あれは成功する確率は…」
「俺、主任呼んできます!」

なんだか、研究員の一人が上ずった声で何事かの実験を持ちかける。対し、もう一人は渋る。え、俺、今日はなんの実験をさせられるんだ?今日が俺の命日にな るような実験とか…。


実験怖いです。四肢を拘束され、流石の俺も、怖くなってきたのである。
でも、俺は動けませんでした。なぜなら、俺(獄寺)の身体は、せいぜいこの年代の子供よりも強い程度。
こうも普通に拘束されてしまえば身動きが取れないことは当たり前。

試しの門を四までらくらく開けられた強いサイコー!俺かっこE−!なミルキくんではないのである。
返す返すも、この貧弱な獄寺隼人の肉体が口惜しい。
ミルキだったらブッちである。(ぶっころす、ぶっちぎる、ぶったぎる)

ああ、だんだん獄寺隼人のスペックに絶望を通り越して怒りを覚え始めた。ちょっと、うっかり、やっぱり自殺しちゃおうかな…と、遠いい目をしてしまうぐら いには。

「…ッ!、」

実験台の上で、特に考えることもないのでつらつらと思いながら研究員がせわしなく動く様子を眺めていると、俺を覗き込んでいる研究員が息をのんで顔をそむ けた。

やがて、でていった研究員に連れられてやってきたのは、眼鏡のおっさん。
無精ひげがいただけない。さらに言うと、小太りなのも個人的にいらっとくる。俺はミルキじゃないミルキじゃないんだ、獄寺なんだっ!!(自己暗示)

近寄ると何日もお風呂入っていない加齢臭がします。
着ている白衣もすでに黄衣と呼べる。黄金聖衣とか、冗談言ったら世の中のお姉さんたちに白い目で見られそうなので、俺自重。

汚ったねぇなぁ。せめて二日に一遍ぐらいシャワーを浴びろ。服を着替えろ。



「あ、チェンジで」
「?なにを言ってるのかね」


……あ、そう。ここ、キャバクラじゃないもんな。
思わず、チェンジと言ってしまった。いや、マジあんまり近づかないでほしい。
近づくだけで臭いんだけど…え、このおっさん、病気かなんかなんじゃないの?絶対身体の中ぼろぼろだよ。病院行けよ。周りに迷惑だよ…くせぇ。

眼鏡ひげの研究者が何かを横の台に置く。




(目?)



保存液に漬けられているモノは、眼球だった。


まさか、目玉のおやじが入っているわけではない。なんだ、ただの目玉か。






…なんてね、眼球ですよ奥さん。

眼球、というものが出た時点で、俺は鈍感でも、馬鹿でもないので思い当たる。


も しかして…六道骸とかいう中二病全開のキャラ(しかも、オッドアイとか!どんだけ中二病全開なの。これで髪の毛が銀とかだったら、キングオブ中二と呼んで やる。てか、中二病多すぎだろ…あ、そっか、よく考えれば主人公組って、ほんまもんの中学生だったんだな/笑)の、瞳ではないだろうか……!!




え、ソレだったらまずくない?
いや、別に原作がどうなろうが知ったことじゃないですが。むしろ、原作なんてあんまり覚えていませんが。


え、まずくない?
だって…ソレが本気で六道の瞳だったとします(仮定)。この流れでいくと、俺(獄寺)に埋め込まれしまいます(仮定)万が一、適合しちゃったとします(仮 定)




俺(獄寺)の外見は翠色の瞳。銀色の髪というごくごく一般的な外国人。
もし、六道の瞳を移植されてしいまったとしたら…??




よーぉくかんがえよー がいけん だいじだよぉー ♪






緑と赤のオッドアイの瞳 プラス 銀髪。





完全な中二病です。本当にどうもありがとうございました………。






あ、やだ。俺ってば、もう素顔で外歩けない。
「なにあの人―」「うわ、イタイ」「自分カッコいいとか思ってんの」「遺体w」「ひそひそ」「ひそひそか」「ヒソカヒソカ…」






……
………
………………







「いやだいやだ、マジでいやだ!いやだぁああ!!」


この期に及んで、力一杯だだをこねる。絶対拒絶!!


「うるさい、黙れ!」
「いやいやいやいややめてよしてさわらないでーーー!!」
「黙れって!」



無理やりに口にそこらへんにあったぼろ布を突っ込まれた。オエっとえずいた。



「もごもごもご…!!」



くっそう!!
煩いんだったら、声帯でも潰してしまえばいいじゃないか。そうすりゃ、泣き言なんて何一つ聞こえない。ついでに舌も抜いてしまえ。そしたら、自殺も出来や しない。





「主任、お願いします」
「ああ…どうせ、また失敗するんだろうがな…」


眼鏡ひげがやる気のなさそうな調子で、無造作に手術用の手袋をはめる。
布切れの口ふさぎのために、舌を噛み切ることもできない。






「――――ッ!!!」




目玉をえぐり取られた。







痛みに、脳裏が白く染まる。




ずるずると得体の知れないものが俺の中を這いまわろうとする。
俺の頭痛は目から派だ。目が開けられないほど痛くなって、ついでに前頭葉がずくずくと痛み始める…それが俺の風邪の引き始め。

身体のなかのウイルスに対抗しようとする、俺の身体の抵抗。





俺の中には、どこかに凝り固まった「何か」が存在する。それはきっと、俺(山田)を形成する核である。




奥深く、大切に、

―――― それ(俺の魂)にふれるな



ねじれた。ひずんだ。きしんだ。ゆがんだ。まじった。とけた。







ねじれて、気が狂う。






侵す?
この俺を?

嗤わせるなよ。



―――俺(山田)が侵されたことはない。俺が全て(宿主)を犯してきた。









         お れ が 喰らう側なのだ。








(――それは、純粋な浸食。ああ、ひとつになろう。時空も、全て呑み込んで喰らう)






Yamada invades everything.






□■□






(side other)





(ああ、また新入りが来たのか)

白い空間に新しく入ってきた同い年ぐらいの子供たちを見て、俺は無感動に事実だけを思った。
だが、その中でひとりの子供が眼の端をかすめたとき、珍しく興味をひかれた。

子供たちの中でもさらに小さい女の子供が、その子供の服の端にしがみついている。最初は兄妹かなにかだろうかと思ったが。


だが、違うとすぐに気がついた。その子供は少し、周りの子供たちとは顔立ちが違っていた。
あまり見たことはないが、アジアの血が入っているようだ。珍しいな、と素直に思った。そのときは、それだけだった。だって、すぐに死んでしまうから。




俺たちが研究施設で受けることはさほど変わらない。
その過程で死ぬものと生きるものに分かれるという、結果だけが違う。

その子供も俺たちと同じように実験体として組み込まれ、淡々と清潔で白くて、気が狂いそうな空間で過ごし始めた。
何も変わらない。
あるのは静寂と苦痛。それが終わるのは死ぬときのみ。少しずつ減っていく同室者の姿をみな型、終わりの時を待つ。
最初は怯えていていたが、途中からあきらめが支配し、やがて涙も枯れて無表情になる。



「全員、出ろ」




ああ、もうそんな時期なのか。
研究員がきて、俺たちをホール実験施設に移動させた。頭には脳波を図るための装置をつけられる。

ああ、俺は今回も生き残れるのだろうか、と恐怖とあきらめが支配する。


初めてコノ実験を受けるものも幾人かいて、一様に困惑し、何が分からない恐怖に顔が引きつっている。


例の東洋人の血がはいっている子供をみれば、表情が動かないように指示に従って壁際に立っていた。




…タン!
タ、タタ、タタタン!



軽快な音とともに連続で銃弾が発射される。頭の中が破裂したように真っ白になって、そのあと、徐々に頭の霧が晴れるように視界が開けてくる。
モザイクが掛かったような世界は酷く見えずらく、動くものの姿はコマ送りのようにカクカクとしている。
指先一本が動かせない状態で、脳だけが思考する。



『…2468、八人か。まぁ、半数ならば上々か』
『…そうですね、効果はまだ分かりませんが』



見える範囲で、東洋人の子供の姿が見えた。ああ、立っているということは彼も、賭けにかったのだな…。




……あれ?彼の身体から立ち上っているように見えるアレはなんなのだろうか?一度認識すると、酷く心ひかれるそれ。東洋人の身体をうっすらを覆っていてモ ザイクの世界の中で唯一心ひかれる色。



改めて他の生き残った同室者たちを目を凝らしてみると、同じような色が出ていた。ただし、彼のものを比べると幾分弱い。
そのうちの一人の色が突然消えたと同時に、倒れこんだ。



『言ってるソバからソレは駄目か。では、七人が残ったか』



どうやら、色が消えたモノは死んだようだ。
研究者が俺の目の前にやってきて腕を切りつけた。痛覚がない。切られているとみて分かるが、なにもない。
やがて、勝手に傷口はふさがった。



それからしばらくして、東洋人の子供は部屋に帰ってこなかった。
ああ、死んでしまったのだな、と思った。時同じくして、東洋人の子供に懐いていた幼女消えた。二人とも、死んでしまったのだろう。
悲しむ気持ちもない。どうせまた、新しい実験体が来るだけだ。

俺は、割合長くここで生きているので、あきらめが身にしみている。あきらめが肝心だ。










ナンバーズ、と選ばれた者は呼ばれた。ココ最近生まれた、成功例である。

一度目に生き残った者が、二度目には死に、二度目を突破しても三度目で死ぬ。
繰り返し、繰り返し実験を重ね、淘汰されてなお、死なずに生き残ったモノを、ナンバーズと特別な呼称(認識番号)を与えた。
与えられたのはひと桁の1から10までの番号だという。研究者たちが実験の合間に噂をしていたのを聞いている。


どういう奴らなんだろうと、俺は考えた。こんなくそったれた実験を受け続け、お前らは特別だというように持ち上げられて。実験が成功して特別扱いされよう が、そんなもんは創られたもので。
――――籠の中の鳥に自由などない。


「隠し場所は壁から三枚目のタイル」
「ああ、正解だな」


満足そうに担当の研究者が俺を見下ろした。


「やったな、お前の番号は――エイト だ」



ナンバーズになっても、何一つ嬉しくない。
俺にもっとも適性のあった研究成果。サイコメトリーだった。相手の一部、あるいはモノの残留思念を読みとることだった。モノだけでなく、生きている人間に 触れれば、相手の考えや感情読み取ることもできる。


酷く、頭に負担がかかる能力だった。
むやみやたらとどうでもいい情報ばかりが脳みそをひっかきまわし、毎回頭が破裂するような痛みに襲われる。意識が失えない、という時が一番つらい。
痛みを 感じていることだけしか考えられず、ひたすらに転げまわるしかない。

痛みから逃れるための唯一の救いは、痛みのバロメーターを速やかに乗り越えて、意識を失うことである。






「さて、ナンバー8。お前に見てほしいモノがある」





―――あれは、ナンだ?いや、誰だ? 



感情を無くした人形(ヒトガタ)がそこにいた。




「ナンバーゼロ。来い」




なんでお前がそこにいるんだ。生きていたのか?なぁ、東洋人?




従うだけの人形(ヒトガタ)の瞳を見て、俺は相手を読む前に恐怖する。入り込むことのできない壁を知る。
闇とはなんだ。黒とはなんだ。



促され、嫌ともいえず、思考はただひたすらに魅入られたままに東洋人の手に触れた。









脳裏に、 膨大な記憶



(赤い目、蛇、紋章、獅子、禍々しき月、流れ堕ちる星、湖面の白城、燃える森、偉大なる父、蜘蛛、血族、あ、赤、赤、赤く――――)
















―――    あ  ぁ  亜亜唖亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜








         オ レ が 喰 わ れ る







□■□








さて、ここで裏の世界ではちょっと有名な話をしよう。

ある日、とあるひとつの施設が壊滅した。
とある沿岸部の街近くの山の地下に造られていた研究施設は、ある日一夜にして炎上し、その在りかを一帯へ知らしめた。


一部の研究員および実験体は逃げたとされる。
しかしながら、大半は襲撃をかけた際に発生した火災により死亡した。
焼け跡から見つかった多くの焼死体や、明らかに人為的に改造されたと思われる、人の形をしていないもの。
焼け残った中からいくつかの研究のレポートが見つかる。もともと、黒い噂のある中小ファミリー傘下の研究施設であることが判明した。

残っていた研究レポートは全て破棄され、研究施設は閉鎖された…とはいうものの、それを本当に実行したのかはあやしいのだ。
外道の実験だったとしても、確かな研究成果というモノがあった。その結果を簡単に未練もなく廃棄できるのか?
…このあたりは、その処理を全面的に行ったファミリーしだい。もしかしたら本当に全て捨てたかもしれないし、実は手元に置いてあるかもしれない。

ところどころ燃え落ちた研究レポートの一文にはこうあった。






『今■在、成功例は■人。彼らの能力は■■から先にさらな■過程を経て、強■され■い■■とを望む。ただ、あのヒト■■■ついて■■処分し、パーツ ■■■■収するほうがいいのか検討を求める』










( 暗い 喰らい 闇の中 )









※20110320
この話をぶっ飛ばして原作行こうかと思ったんだが(面白くもなんともないし)、まぁ、なんか妄想が爆発するためには必要なフラグだったので。全く活躍の場 がない山田隼人(いつものこと?)。
十歳のときに浚われて、二か月ぐらい後に研究所は襲撃されました。ここ大事。短い研究所生活。

>