未来リライト

00





「うおー…こんな終わりかよ。あ〜でも楽しかった!萌えた!あたしゃ萌えたよ!萌え万歳!」

私はパソコンの前に齧り付き、たった今コンプリしたゲームについて呟いていた。私がしているゲームは腐女子だったら一度はやってみたいゲームだ。その名も、咎狗の血!!私はすでに十八歳を余裕で越えている。実年齢は大人な二十歳なのだが、心は永遠に十八歳を自負している。三日前マニアの聖地、アニメイトに行った時にやっとのことで買ったのだ。エロ本を買う少年の気持ちがこの歳にして初めて分かった。BL小説を買う恥ずかしさとはまた違った羞恥が湧いたね。こんな私は腐女子としてまだまだだな。世の中の素敵に腐った師匠たちを見習わなければね。そしてゲームをパソコンにインストール!!
三日間掛けてまったりと彼らを攻略したのだ。一番最初はグンジに犯り殺された。そして、一番最後は当然の如くnだった。キャラに対しては色々と突っ込みたいことがあるが、まぁ、楽しかったからいい。萌えた。萌が大事だ。

「や、でもさぁ…車椅子がトゥルーENDなわけ?え?むしろBUTENDと違う?」

と、私は思った。基本的に主人公萌えで主人公総受け思想な私はとりあえずアキラに幸せになってほしい。すかしたクールででもなんか寂しそうで実は脆い、でも戦うと強い、そんなキャラは大好物だ。アキラのキャラは私の嗜好にストライクゾーンだ。いくつかのルートの中、まぁ、アキラが死ぬのは正しいBUT ENDだね。でも、車椅子はアキラたんがあんまり幸せに見えないよ〜。アレだったら、絶対淫靡ENDと軍服ENDのが幸せだと思うんだよね〜。
ま、一番の希望は軍服ENDっぽいのでグンジもキリヲもリンもケイスケもみ〜んな生き残ってアキラハーレムを作ることだね!アキラを巡っての争いっていうか、そういうのが日常化している軍服END!うわ!想像だけで萌えるよ!鼻血が出るよ!あ、私的には大穴でグエンさんもオッケーだ!
っていうか、色がどーした、n!

「色が色々だなんてあたりまでじゃん!つか、そんなこと言うなら私は虹色だし!」

色のことを愚痴愚痴言ってたnたんに悪態をつく。私、虹色だね。っていうか、カメレオン色だね。誰にでも合わせて色変えられるよ?っていうか、それ、生きてく上で普通ジャン?友達には友達に、親には親に、仲間には仲間に、バイトではバイトに…合わせて生きてくのが人間ってものでしょ?

【……そうか】

うん、そうそう。

【ならば、それを見せてくれ】

えー?見せることは出来ないなぁ…だって、色だし。眼に見えないし。 感覚?だし。

【それでも…見たい】

や、だから無理…ってちょっと待て。私、誰と話してんの?

【…――お前は何色をしているのか】

パソコンの画面が突然輝いた。瞳に刺さった光に私は反射的に目を閉じた。

++

「どこだ…ここは…」

私はよく分からない一室にいた。ここはどこですか神様。アンサープリーズ。
ギシギシと軋むベットの上に腰掛けた状態で私は目を覚ました。薄暗い部屋にはあちこちに雨風を受けた後のようなシミや亀裂が走っている。でもまぁ、雨風は凌げるだけの部屋では有る。私はどーしてこんなとこにいんの?なに?浚われた?や、うちんち私を浚っても身代金なんか取れないよ?だってうちのローンあと二十年残ってるし…お母さんデブだし、お父さんハゲだし

これは非現実的だ。

……さて、この準備は整った。いざ行くぞ!逃げるぞ!ここは危険だ!どこだか分からない!
そーっと出ました。外へと続く扉は鍵が掛かっていなかった。犯人め、馬鹿だな! どうやらどこかのホテルの一室のようだ。薄暗い廊下を非常灯を見つけてそこから階段を駆け下りた。階下に飛び出した。

――……そこは、廃墟だった。
私は愕然とした。ここはどこ?日が暮れ始めている夕日に染まり、廃墟としたビルが連なっていた。ここはどこ?と私は胸の中でもう一度繰り返した。
なんだここはッ!?あちこちにビルのコンクリートの剥がれたあとがある。何より怖いのは、人っ子一人歩いていない。

ゴースト・タウン…――誰もいない町。怖い。
私は走り回った。自分の足音だけが聞こえる。怖い怖いッっつーの!っていうか走りながら思ったんだけど、なんとなく咎狗のトシマのグラフィックに似ているような気がした。うふふ。まさかねー?ありえないよね?ここがトシマとかだったりしてv
…やー…あれだよね、夢小説の読みすぎだよね…。でも、夢見ることはただだから!脳内はいつだって夢見ているから!そうじゃなかったら現実世界でやってけないよね!

キィン―…!!

音が聞こえた。私が走っている音じゃない、他の誰かが出した音だ!私は走った。音がした方向へ。路地から路地へ、人のいないところから人のいるところまで。だってほら、ここはどこなのか人に聞かなきゃ分からないジャン?

そこには黒と赤を纏った男がいた。

識っている――私はその黒い衣を。

識っている――私はその日本刀を。

識っている――私はその十字架を。

識っている――私はその赤い瞳を。

識っている――私はその名前を。


私は叫んだ。彼の名を。


「――…シキッ!?」


キター!!!ヤバイ!ヤバイ!マジでありえんけど現実になりおった!!マンセー!神様好きー!!
あれですね!これはトリップというヤツですね!夢見る乙女の究極の夢!ドーリー夢!世界は私のために回ってる!萌えは世界の中心だ!私は世界の中心で萌えを叫ぶ!!
私は心中で喝采を叫んだ。

シキが私を振り向いた。ああ、本当にシキだ!と私は嬉しくて刀を持ってこちらに駆け寄ってくるシキから逃げることなんて忘れていた。シキが私の方に近寄ってくるよ!!とそのくらいにしか考えてなかった。シキが刀を持った前へ突き出す。
私の胸が刀で刺し突かれた。ぐっさりと心臓を貫通するシキの日本刃。

ドクドクと身体からあったかいものが溢れた。あれ?変、可笑しい…ぐらぐらする。私の身体は糸の切れた人形のように重力に従って冷たいコンクリートの上に倒れた。ドサリ、と倒れた私のすぐ近くにはアスファルト。

私の胸からは血が流れ続ける。アスファルトを塗らす血。赤い。口いっぱいに血の味が広がった。
不思議なことに痛みは感じない。夢だったら痛いわけが無い。けれど、胸から生暖かい血液が流れ続ける。そのリアルさは本物だ。ただ、痛みがないだけ。朦朧となる意識。流れ続ける血。止まらない止まらない止まらない…。

私、死ぬの?

……うん、当然だよね。私はただの力の無い一般腐女子。殺し合いが日常の世界で勝てるわけがない。
いつも考えてたんだ。女の私は非力で、なんの力もなく取り得もなく平凡。私が好きな漫画の中にトリップしたら、一も二もなく速攻で死ぬってね。

あー…やっぱり、死ぬわ。

考えていたことはやっぱり現実になった。生き残れるわけ無いよ。
私は最後の力を振り絞ってシキを見上げた。一瞬だけ眼が合った。ああ、赤い瞳って凄いね。ウサギだね。ふいっ、と視線はすぐに私の上を通り過ぎた。
路傍の石のように。
それが少しだけ悲しかった。

私の視界は黒く死で塗りつぶされた。



BUT END…





01



とかって言われたらマジ泣くよね。つーか、泣いたよ実際。死ぬ直前涙出てきたからね。
結論から言うと私は死んだ。ええ、死にましたとも。心臓を日本刃が貫通ですよ?生きてるわけないでしょ?死ぬでしょ?普通。死んでないで生きてたらそれはあれだね、人間じゃないね。

―――…で、死んだ私が生きてるのって、私が人間じゃないってことかな?



ぼんやりと眼を開けて、私はもう一度眼を瞑った。
ああ、生きてる。当たり前だよね、だってあれって夢だもん。シキとか咎狗の世界に入れるわけないじゃん。ああ、でもいい夢だった。咎狗の世界がリアルに感じられる夢なんてそうそう見れるもんじゃない。

「シキに会えただけでも感無量…」

ほうっ、と夢うつつで呟くと突然に両肩を物凄い力で掴まれて慌てて眼を開けた。私の肩を荒く掴んでいるのは金髪と青い眼が綺麗な女の子みたいなリン。わー…リンッたら怖い顔してるな〜折角の可愛い顔が台無しだよ。

「可愛い顔が台無しだよ。リン」
「あんた…」

ますますリンの顔が歪んだ。チクリと喉元に痛み。へ?痛いよ?私は目線を下にずらすとアイスピックとか、錐みたいに尖った先をもつリンの武器、スティレットが私の喉元に添えられていた。WHY!?なんで!?

っていうか、私死んだよね?死んだら普通眼が覚めるんじゃないの?まだ夢の続きみてんの?

「あんた、なんで俺の名前知ってんの?…てか、それはどうでもいっか。アイツに、シキに会ったの?」

低く唸るような声でリンは私の首をスティレットで撫でた。冷たい感触に鳥肌が立った。
どうやら私は死んでいないらしい。そして夢が続いているらしい。私は近距離のリンリンにキュンキュンしながら手を動かしてリンの腕を掴んだ。途端に鋭くなったリンの目が私を睨む。カッコいい!カッコ可愛いね、リン!

「まぁ、そんな怖い顔しないでよ。こんなんじゃ話せないじゃん?」
「チッ」

リンが軽快しながらも私の上からどいた。私は上半身を起こして身体についた汚れを払った。あれ…パジャマの胸の部分が破けてるよ?そして、胸の部分に一体にはバケツで赤い絵の具をぶっ掛けたように真っ赤か。…これはまさか、シキに殺されたときの後じゃないか?
私は胸の部分を探った。赤黒くこびり付いている血は固まっている。…あれ?ペタンと手を胸に当てる。無い無い無い無い!何もない!! 私は胸の部分のボタンを慌しく開けた。私は寝るときはブラジャーをしないたちだ。
開け放したパジャマから覗くのは、ペッタンコな胸。

待て!私のささやかなBカップの胸はどこへ行った!?白い肌にまで血はこびり付いていた。
私は股間に手を当てた。なんかあたる!なんかもっこりしてる!ぎゅひいいいいーーー!!

なんだこれ!!なんだこれ!?付いてるし無くなってる!!!
かなりの恐慌状態です。や、私の小さな頃の夢は「生まれ変わったら男の子になりたーいvそして、世界中を旅するのv」みたいな夢だったけどさ!けどさ!今は女で満足してんだよ!萌え〜とか言ってられてBL三昧の自分にね!今更だよ、男になるなんて!

生物学的にありえない!女だったのに男になるなんて!
いや、手術でどーにかすればどーにかなるのかもしれないけどさ!

私の顔からほんとに冗談じゃなくて血が引いた。うう、血が足らない…。

「ちょっと、オイ!?」
「きゅうぅ〜〜」

眩暈がして、私は再び意識を失った。



02


「知っている天井だ…」

ホントは知らんがな。有名なアニメの主人公の台詞をはいて私は起き上がった。

「ここ、どこだ?」
「ここは中立地帯のホテルだよ。すっごい苦労したんだからねー?全く、感謝して欲しいよ。気絶してるアンタをここまで運んで来たんだからさ!」

呟いた言葉に返事が返されて私は声の方に振り向いた。そこには椅子に座って足をぶらぶらさせている少年の姿があった。

「リン?」
「うん。そーだよ。あんたの名前は?」

恐る恐ると確認で聞くと、あっさりと肯定されて私の名前を聞かれた。っていうか、夢の続き?いや、現実?いや、夢なら私が死んだ時点で醒めてるよな。

…です」
「ふーん。そ。つか、普通にしゃべってくれていいよ。なんか急に敬語になられても気色悪いし」
「じゃあ、普通にしゃべる…なんで、服が変わってんの?」
「ん?だって血まみれでガビガビしてたし。どうせ落ちないだろうと思ったから着替えさせてあげたんだよ?」
「……あのパジャマ、お気に入りだったのに…」

今着ているのは膝丈しかない迷彩色のパンツだけだった。…ああ、赤のチェック柄でリンと似た柄だなぁと思ってたパジャマ、結構お気に入りだったのになぁ…としみじみとした私だったが、ふと、上半身が裸なことに気が付いた。…ああ、胸がスースーすると思ったよ。…やっぱり胸が無くなってるね。男の子になっちゃたんだな、私…。と、妙に冷静に思いつつ、やっぱり裸の胸を晒しているのは恥ずかしいのでシーツを手繰り寄せてそれとなく胸を隠した。
ん?つーか、私の服を着替えさせたのはだれだ?下のズボンが変わっているということは誰かが着替えさせたんだよね?リン、だよね?ってことは…

「……リン。私のパンツ見た?」
「うん、みたけど。それがどっかしたのー?」
「ううん…なんでもない…」

…ああ、そっか…そういや寝る前に刷いていたパンツはスポーツパンツだった。あの、男の子みたいなボクサーパンツみたいな形したやつ。もちろん、社会の窓はついてないけどね。

「あのさ…出来たら上に着る服も貸してくれない?あと、さ。……鏡持ってる?」
「いいよー。上もなんか着せてあげようと思ったんだけどさ、腕通すの大変だったんだよね。ごめんねー。じゃ、これあげるよ。ついでに今はいてる服もあげる」

はい、と黒の無地のTシャツを投げて寄越してリンは気前のいいことを言ってくれた。さすがはリンだ!ケイスケに武器を上げちゃうぐらいのいい子だもんね!ちょっと腹黒だけど、基本はいい子!おねーさん…いや、おにーさんは嬉しいよ!

「え!それは悪いよ」
「いいのいいの。その服俺の趣味じゃないし。にあげるって!人の好意は素直に受け取っておくモンだよ」
「あ、ありがとう…」

お礼を言うと、にーっこりとリンが笑った。可愛えーー!萌えー!ブルブルと震えて私は顔を俯かせた。ヤバイよ、顔がにやけちゃうよ。リン可愛い!萌えだ!Tシャツを着て胸を隠してやっとなんか落ち着いた。

「どういたしまして。で、これが鏡ね。ちっちゃいけど」

手のひらサイズの鏡を手元に渡されて、私は意を決して鏡を覗いた。
そして私は息を呑んだ。鏡には少年が映っていた。元はなんとなーく私の面影が有るようなないような…微妙。
なぜなら、上に美が付く少年の姿だったのだ。私の面影があるはずなんだけど、美少年。ヤバイ。鏡の中の自分(?)に惚れる。私、男の方に生まれたほうが綺麗だったのかな…と、何かもの悲しさが生まれた。
切れ長の瞳の目元が涼しげで、やっと後ろで結べるほどの長さに伸びた濃茶の髪はうなじに掛かっている。黒にホンのちょっとだけ茶色を混ぜたような色。ダークブラウン。
元はちょっと丸顔だったのにすっきりとしていた。…うーん。
男の子になったんだなぁ…と自分の顔を手でなぞってみて実感。思えば、少しだけ声も低くなってしまっている。この声で私とか言ってもキショイかもしんない…。一人称、「私」を辞めるか?

私、僕、俺、…ん、やっぱオレでいこう。

……伊達に男主人公のドリーム小説を読んでいるわけではない。私は今こそ男夢主になる!!元々私口悪いし。一人称変えればいいんじゃん?ここの一人称はやっぱオレ?オレだよね?僕でもいいけど、僕っこあんますきじゃねーし…。

「…ん、ありがと」
「もういいの?その鏡もあげよっか?」
「いいよ。ちょっと確かめたいことがあっただけだし…手鏡って、持ってると便利だし。ありがとう」
「そ?」

リンはオレから手鏡を受け取ると腰のポケットにしまった。やっぱ、頭ン中で考えてるときも「オレ」の一人称使うべきだよね。突然「私」とか言っちゃいそうだし?

「…あのさ、ごめんね。俺、に手荒なことしたよね」
「へ?何が?」
「シキと…会ったんだろ?シキと会って生きているヤツ見たの久しぶりだったから、つい…」
「あ〜…なるほど」

オレは視線を泳がせた。シキと会って生きてる人間って確かに少ないよな…。アキラとかリンとか、そういう早々たるメンバーぐらいだもんね。っていうか、オレ、シキに殺されたと思うんだけど?胸を突き刺された時の命が失われていく感覚、オレは忘れていない。ブルリと、その時の感覚を思い出してオレは無意識に震えて自分の身体を抱きしめた。
死んだ、よね?
じゃあ、なんでオレは生きてるの?

――…もしかして、主人公特権キタ?

あの、異世界にトリップすると特殊能力が勝手につくとか、力が凄くついてるとか、そういう主人公特権?いや。っていうかオレ主人公じゃないしなぁ〜主人公はあくまでアキラだもんなー。アキラに会いたいな〜ここまできたら夢のまた夢だった【アキラ総受けハーレム萌えプロジェクト】妄想計画を実行したいなぁ…!!全ては、ぜーレのために!!……いかん。また某アニメが混ざった。
クツクツと俯いたまま笑うオレをどう思ったのか、リンが心配そうな声を掛けてきた。

「大丈夫?」
「大丈夫!助けてくれてありがとう。あのさ、オレってどこで見つけたの?」
「裏通りで、シキが出たっていうから行ったら六人ぐらいが死んでてタグあさってたらさ、が急に寝言みたいなの言ったんだよね。だから、生きててびっくりしちゃってさ」

そうなんだ…オレ以外にも死んでたんだ。
や、っていうかもうそのあたりはどうでもいいや。重要なのは、【アキラ総受けハーレム萌えプロジェクト】の要、アキラだよね!略して【AMP】!
そのためにはアキラだ。アキラはどこだ!アキラに会いたい!!ここはリンに聞くのが一番だろう。かといって、「アキラ知ってる?」な〜んて単刀直入に聞いてはいけない。もうちょっと遠回りに…。

「リン…あのさ、イグラって始まった?」
「イグラ?……、見ない顔だと思ってたんだけど、イグラに参加しに来たの?」
「うん…まぁ…」


言葉を濁す。あれ、っていうか今見たらリンって普通にタグを首に掛けてるジャン。ってことは始まってるってことなのかな?

「リン、それ…」
「ああタグね。イグラ、昨日から開始だよ。ようこそ、めくるめくイカレタキチガイのパーティへ!!」


バッチコーイ!!!




03


手を広げてリンは歓迎を表した。

「タグ貰いに行く?申し込みに俺も一緒についていってあげよっか?まぁでも、ちょっと用事あるから【城】まで案内するまでだけしか出来ないけど」

タグを貰いにッ!?ということは…彼がいるのですなッ!!いや、彼らがッ!!

「アルビトロ様のところへッ!?」

半場絶叫のようにオレは叫んだ。もう、アルビトロは様付けだ。あの奇天烈なハイテンションな美少年博愛主義なアルビトロ様!いえ、在美吐炉さま!彼はそう、在るだけでイカレタ美的センスを体現し、そのセンスは砂を吐くが如し奇才にして混沌の炉!生み出されるセンスには誰もついていけない!!誰もだ!そう、狗が!カウだけが付いていける!
ああッ!!あの狗にも会えるんだね!

「ア、アルビトロ様って…」

微妙にリンが引いた。いや、うん。そうだよね、アルビトロを外でも「様」付けで呼ぶなんて普通いねーよ。みんな「変態」とか「悪趣味」とか「キモイ」とか「美少年キラー」とか、そういう風に呼ぶもんね!
まぁ、オレは負けませんが。美吐炉さまと呼ばせていただきますよ!あの人の仮面をひっぺはがしてやりたいです。ああ、密かな野望が又ひとつ!あと、カウたんに懐かれたいーー!!
でも、やっぱりアキラにカウは懐くべきだよね!なんたって、番だもんね!
アキラ狗バージョンは素敵だったなぁ〜…あれだけは、アルビトロさまに乾杯★だよな!淫靡アキラのような色気を持ちつつ、正気を無くしたアキラの表情…素敵だったなぁ…おうっと、涎が出てきてしまったよ…。

「じゃあ、お言葉に甘えて。連れてってくれる?」
「う、うん…分かった」
「サンキュー!リンっていいやつ!」

そして、そのホテルを出てとアルビトロ、ヴィスキオの【城】へと向った。物珍しくってオレはきょろきょろとお登りさんのように落ち着かない。当たり前だよ。だって、咎狗の世界だよ?ここで細かいところを見なきゃ損ってもんでしょ?
ほんっと、いろんな色持った人間がいる。青とか赤とか緑とか黄色とか白とか紫とか…ねぇ、その髪の色、ぶっちゃけアンタに似あわねーよ?と耳元で囁いてあげたい人間も何人もいた。誰もいないと思っていた町は、この時間に意外にも人がたくさん歩いていた。みんな、一体どこに隠れてたんだよ!
ゴーストタウンかと思って走り回って、シキと遭遇しちゃったオレの身にもなって欲しいよ、まったく…。
リンの後についていきながら、オレはしっかりと地理を頭に叩き込む。ここってトシマなんだなぁ…オレの知ってるトシマとは違うんだよねぇ…。

「じゃじゃーん!、あそこに見えますのが、【城】でございまーす!!」
「おお〜…ここがヴィスキオの【城】か!」

ツアーのガイドさんのようなリンの言葉に見れば、重厚なたたずまいの【城】があった。ふーん…オレ的には【城】って言われると黒ネズミの国のシンデレラ城を思い出しちゃうんだけどなぁ…。【城】はスチルで見たとおりのたたずまいをしていた。よくトシマの真ん中にこんな無駄に面積つかった二・三階分しか高さのないもの作ったよね。
玄関前の警備員にリンが近寄って明るい笑顔で何事かを話しかけた。

「お前、今朝も来なかったか?」
「うん来たよー。俺は付き添いで来たのー。ほら、こっちが参加希望者!」
「あ、どーも」

前に引き出されてぺこりと頭を下げた。警備員はオレを見て、入れ、という風に首を振った。

例の顔を上半分隠すマスクを警備員さんに渡されて待合室で待っていた。オレのほかにも十人ぐらい人がいた。…っていうかさぁ、仮面ってあんまり訳に立ってないよね?みんな髪型とか特徴ありすぎるし、着ている服だって外に出てすぐに着替えるわけないじゃん? 仮面は趣味だな、ビトロの。
リンは用事があるとかでオレを案内したあとに帰って行った。別れは辛かったけど、またきっとトシマで会えるよな!!

「お集まりの皆さん、お待たせいたしました」

アルビトロ様がやってきた!!部下を無駄にたくさん従えてやってきた!白いスーツが眩しいぜ!!

「ア…アルビトロさまッ!」
「んン?なんだね、君は…」

興奮に壁にもたれて床に座っていたのを思いっきり元気よく立ち上がったオレに、ビトロは嘗め回すような視線を与えていた。上から下までこう、ナメクジとか軟体動物が這い上がるというか…そういう粘着質な視線だ。うわぁあー!生だ!生ビトロだ!!キモくてすてっきーー!!普通じゃない!常人ではない!
飛びついてあの仮面を剥がしたい!アルビトロ様は仮面をひっぺはがしたらSからMになったらいいなぁな〜んて思うんだけどどうだろう?
はっ!でも、奴隷候補にされて浚われて改造されるのは嫌だな!女の子の状態だったらビトロの触手はあんまり動かないんだろうけど…いや、つーか、オレの年齢二十歳超えてるし?少年美ショタビトロさまのストライクゾーンから外れてるよね?うん、きっとそうだ。

「いいえ!なんでもないです。オレの名前はです」
「ふむ、元気がありますね…」
「まぁ、アルビトロ様の前ですからね〜テンション上がりますって!」
「そうですか…イグラのゲームの説明をしますので」

優雅にアルビトロは中央にあるソファに腰を下ろして座った。参加希望のオレ含めて十名がビトロの前に立つ。部下が入れ赤ワインを傾けながらビトロ滑らかにイグラの対戦方法、ルールを説明しだした。大半は分かっていることなのでオレは流して聞いていた。ビトロ様も綺麗だけど、後ろに並ぶ部下の黒服の皆さんも美形だよね〜。ビトロの向って左側に立つ、柔らかい金髪の赤シャツの彼が萌え。隣の白シャツの茶髪の人はなんかちょっとワイルド。こういう人がビトロを裏切ってアキラたんを助けてくれたりするとそれはそれで萌えるなぁ〜…いやいや。
直立不動でマシンガンに手を添えて立つ部下Aと部下Bに向って思わず笑いかけてしまう。胡散臭そうに見返された。
一人ひとりに簡単な質問をされて、適当に答えた。

国民番号を聞かれたときは焦ったが、ピコーン!!と頭に閃いたので「11298-TM-3099」と答えた。アキラの国民番号です。アキラって正式にイグラに登録してないからたぶん大丈夫だと思うんだけど。

「では、参加するものは挙手をお願いします」

皆が一斉に手を上げる中、オレは躊躇って二拍ほど遅れて手を挙げた。
取りあえずここで希望しておいて、豚タグだったら全部景品に変えちゃえばいいんだよね。このトリップがいつまで続くのか分からないし。んで、もしいいタグだったらそれをアキラに挙げればいいんだよ、リンでもいいけど…やっぱ、アキラたんに。そんでアキラたんと仲良くなろ〜っと。これってケイスケの考え方と一緒かかしらん?
遅れて手を挙げたためにビトロと部下とその他参加者の視線が痛かった。部下が五枚一組になったタグを無造作に渡してきた。柄を確認せずにポケットに突っ込んだ。ここで不用意に何が渡されたのか見たら周りの連中にポーカーの最中にカードを見せているようなもんだ。

「何か質問はありませんか」

誰も質問はしない。……ああ!でも、オレは聞きたい!!超聞きたい!!だって、こんな機会もうないよッ?ビトロなんてこの【城】ぐらいでしか会えないじゃんッ!!

「あ、あのッ!」
「はい?」
「いつも思ってたんですけど、なんでご自身の身体には改造しないんですか?」

ピキッ、とイグラに参加したことでほどよい高揚に包まれていたほかの受験者達が固まった。得体の知れないものを見るようにオレを見る目がたくさん。
ふむ、とアルビトロがオレを凝視して顎にてをやって首を傾げた。首を傾げる!萌え〜。

「ご自身で痛いのいやなら、自分のクローン作ってやればいいじゃないですか?」

なんちゅーことを言うんだこの子は!と言うような目がオレに突き刺さる。アルビトロは口をあけた。ぽかん、とかお馬鹿っぽく。や、ビトロさまは馬鹿ではないよ?ENEDに居たぐらいだから頭は良い。ただ、ネジが頭にないだけ。……っていうか、それって結構酷いよな。

「す、す、すす」

「す」を連発するビトロ。
もしかして、もしかしてもしかして、聞けるのかッ!ビトロ様の名台詞ッ!!
オレは大きく息を吸った。

「「素晴らしいッッっ!!」」

オレとビトロの声がひとつになった。
うおおおお―ーー!!ハモッテしまったよ!ビトロさまとハモっちゃったよーーー!!

悶えてオレはぎゅはーっ!!としゃがみこんで床をグーでバンバンと叩いた。手が痛い!痛いけどいい!!萌えだからいい!!幸せだからいいッ!!
ビトロ様は立ち上がって、「こうしちゃいられません」と呟いてさっさとわき目も振らずに部下を従えて待合室から出て行った。オレはしばらく同じ姿勢で萌えていたが、

「あの、皆さん出て行かれましたけれど…」

と、恐る恐る掛けられた言葉にシャキッと立ち上がった。

「あ、すいません。ちょっと暴走していました。すぐ出て行きますんで…」

爽やかな笑顔で頭を部下Cに頭を下げて待合室から出て行こうとしたオレだったが、扉を潜ろうとしたところで部下Cに振り返った。

「あの〜」
「は、はいっ?」

なんかビビられながら返事をされた。や、でもハッタリは大事だよね。

「あの〜…なんか武器持ってませんか?ナイフとかでもいいんですけど…」
「持ってますけど…それがなにか?」
「予備があったら、一本欲しいなぁ〜な〜んて思うんですけど、どうですか?」

どうですか?ってなんだよ。自分で言っててアレだが、男は腰のところからナイフを取り出して投げてくれた。そして、せかすようにオレを待合室にから出して逃げるようにどこかへ消えていった。あれか、そんなにオレの萌え悶えはキモかったのか。危ない人に見えたのか。
何はともあれ、ナイフをゲットした。ちょっとだけ安心した。


04


忍者のように走っては身を潜め、走っては身を潜める。
普通に闊歩してたら何時襲われるか分からない。トシマはそんな町である。っていうか、ライン使ってて理性飛んじゃってる人が多いんだよね、うん。

オレはちょこまかと走りながらこれからどうしようと考えていた。なんかイグラに参加しちゃったけど、生き抜ける自信はない。白ケイスケモードよりもない。
目下の目標は一に身を隠す場所を見つけることだ。どこかいいところないだろうか。シキとかが住んでたところってどこにあるんだろう。
あそこってアパートみたいなとこなのかな?探せば見つかるか?
……見つかるわけないよなぁ…。

じゃあ、ここはやっぱり【APM】のアキラを探しに行くしかないなか?今日が二日目だとしたら、きっとアキラがトシマに来たばっかでどっかでリンに軟派されたはずだ。やるね、リン!何気に逆ナンだよね!

「…よし、行くか」

まぁ、普通に目指すところは『Meal of Duty』(ミールオブデューディ)ネットで翻訳したらと、食事の任務?だったような。全然意味わかんねーよ。つか、どこにあるんだよ、その店。知るかよ。
あ、あの青い人に聞いてみようっと!

「すいませーん!聞きたいことあるんですけど…」
「ッツ!なんだテメェ!?」

もんの凄い勢いで振り返られ、なおかつとっても警戒心あらわに威嚇されますた。ひぃーーー!そこらの不良さんも真っ青ですね!手に持ってるその武器は不思議な形をしていた。っていうか…っていうか…青い髪のお兄さん!貴方はッ!!

「猛くんじゃないですかーーー!!」
「テメェなんで俺の名前知ってんだッ!?」

ぎろりと猛はオレを睨みつける。手に持った鎌のような曲線を描く武器が怖い。

「うわぁーー!暴力反対!!女子供に手を挙げるなんて妹さんが泣くぞーー!?」
「テメェは男だろうがッ!!……って、ちょっと待て、妹って何で知ってんだよ?」
「だってアンタ猛でしょ!?だったら妹が居るんでしょ!」
「お前…カマっぽいしゃべり方すんな…キモイ」

ガビーン。猛にキモイって言われたぁああーー!!よよよ、とオレは泣き崩れる真似をして壁に手を突いた。うう、そうだね、確かに今のオレの「〜でしょ!」のしゃべり方ってカマっぽかったね。つか、元が女だったんだからしょうがないじゃん?うん、もっと男を磨きますよ、オレ。

「テメーに言われたくねーよ!このシスコン!!」
「シスコンッ!?」
「シスコン!可愛い妹置いて来てんじゃねーよ、この野郎!!」
「カマに言われたくねーよ、チンコ付いてんのかよテメェッ!?」
「く…うわ…思い出させんなよ…」

オレは口元を押さえた。さきほど尿意を催して立ちションをしようと思い、やっとオレの一物とご対面を果たしたのだ。や、うん…
まぁ、こんなもんかな。デカクも無く小さくもなく、普通サイズだと思うよ。わかんないけど。やー…リアルだった。チンチンに手を添えて尿を出すときの感覚とか、未知だったね。初めての経験。

「……テメッ…やっぱりカマか!?」

カマじゃねーっつの。猛がオレと距離を取りやがった。

「テメェテメェ五月蝿いな。オレはって言うんだよ、猛くんよ」

猛って結構ノリがいい子だったんだねー。猛が死ぬ直前の回想シーンでの由香里ちゃん抱きしめてるスチル、アレの猛ってこの青いトサカとは大違いだよね。やー…人間って外見で随分変わるねー?
由香里ちゃん可愛かったな〜あんな子が妹だったらおねーさんウハウハだよ。……でも、腐女子にするのは申し訳ないないので、由香里ちゃんには清く正しく生きてほしいなッ!!
オレは気を取り直して猛に話しかけた。

「猛くん。オレはMeal of Dutyに行きてーんだけど、場所知らない?」
「ハァ?」
「あ、知らない?猛くんも来たばっかだっけ?」

CFCに居たんだよね?

「……いや、知ってる。この道を左に曲がって四個通りを抜けたところだ」
「マジで!?やった!サンキュ!」

ありがとう!と笑顔で猛にお礼を言ってさぁ、いざアキラのところへ!と駆け出して、二十メートルぐらい離れたところで立ち止まって猛を振り向いた。猛はなんか突っ立ていた。良かった〜…猛に言っておきたかったんだよね。

「あのさ…猛くん!アンタCFCに戻ったほうがいいよ。マジでさ!」
「なんだと…」
「由香里ちゃん、待ってるよ。それにさ、今ならアキラが居ないから、Bl@sterで勝てるよ。だから…戻ったほうがいいよ、絶対に。…じゃないと、アンタ死ぬよ!!じゃね!!」

言い捨ててオレは速攻で逃げた。後ろで猛が何かを叫ぶように言った気がしたが、シカト。いや、つか猛が死んでもどーでもいいけどさ、由香里ちゃんが猛兄ちゃんいなくなったら可哀想ジャン?猛は金が欲しいんだから、こんなトシマまでわざわざ赴くこともなく、CFCで由香里ちゃんと暮らしながらBl@sterやればいいんだよ。

Meal of Dutyの中に入ると、一斉に視線が刺さった。でもそれは一瞬のことですぐに興味もなく彼らは各々の興じへと戻っていった。ここは中立地帯だ。安全な場所だ…ケイスケが、黒ケイスケする前までは。
オレは薄暗い明かりで落ち着いている店内を見回してアキラたちがいないかと探したが居ない…。あちゃ〜…アキラたちとすれ違いになっちゃったのかなぁ…。
がっくりと肩を落としてオレはMeal of Dutyを出た。


どうでもいいけど腹が空いた…。トリップってアレだよね、使えるお金とかないから現実的な問題としてひもじいよね…。
うう…この後動いてもどうしようもないもんなぁ〜日も暮れ始めているので、やっぱりオレは今日の寝床を探しにウロツキ始めた。
寝床はどこだー…歩きつかれたオレはビルの入り口にある階段に腰を下ろした。歩き回って足が痛い。日もすっかり暮れている。うむー…眠い。眠い。瞼がくっついてしまいそうだが、それを必死で頭を振ってやり過ごそうとする。
こんなところで眠っちゃったら寝込みを殺される…。う〜…う〜…ZZZZZZ。

「おーい?猫ォー?何してんのー?」

あぁ?五月蝿いなぁ…。

「猫じゃないだろ。普通に人間だろ」
「ジジィは黙ってろってぇのー。おーい?生きてるかぁー?」
「死んでんじゃねーの?」

寝てるんだってば。起こすんじゃねーよ。

「うにゃ?息しているし。……どっこらしょ」
「おい、何してんだよ」
「猫拾った」
「猫じゃねーだろ!拾ってねーだろ!連れて行くのかよ?」
「ん」






ドナドナ。





05


……メーデー!メーデー!
誰か助けてください。オレの目の前に金髪で素敵な刺青を身体に入れたオニーさんがいらっしゃいます!!これは誰ですか!あれですね、グングングンジですね!どこかの部屋にオレはいる。
壁に掛かっている電子時計は午前十時を表示していた。
グンジの顔を見て、プレイ前にグンジとキリヲって名前が逆だと思ってたことを思い出した。
プレイし始めて名前が逆なことにビックらこいたからね!キリヲって軍カラー着てるからグンジって名前っぽいし、グンジって黄色で切り裂き魔っぽいじゃらキリヲって名前っぽくない?…とかって、言ってる場合じゃなく。

「…お、おはようございます…」

基本は人間挨拶です。

「んあぁー?あぁー…起きたんだ猫」
「いえ。オレ猫じゃないですから。人間ですから。人間は猫に変身できませんから」
「ん?でも猫は猫だろぉ?」

――…話通じないよ…っていうか、グンジカッコいいなーーー!!

近くで見たぐんぐんの容姿は綺麗だった。ヤバイカッコいいよー!!萌だ、萌え!!そのピンクパーカーから晒されたなまめかしい刺青の肌がッ!!っていうか触りてぇ!生肌!!
ふらふらと吸い寄せられるようにオレは手を伸ばしたけれど、我に返って止めた。殺される!そうだ、殺されてしまう!!オレはベットみたいなのに寝かされていたが、彼らと距離を置こうとして棚とベットの間に転がり落ちた。

「い、痛い…」
「あー?何やってんだ」

頭を打ち付けて痛みに呻いて丸まったオレをグンジが引っ張り挙げた。グンジの手がオレの腕を掴んでるーー!
引き上げられた際に見たグンジの顔にオレはうっとり。ああ…綺麗な顔だなぁ…グンジ超好きだー。なんつか、グンジは猫好きらしいけど、実際グンジ自体が野良猫っぽいよね。

「あ、ありがとう…」
「つかさぁーなんで落ちんの?」
「いや、グンジのお顔に驚いちゃいまして…っていうか、オレはどうしてここにいるのですか?」
「拾ったからー」

……拾われた?っていうかそれを人は誘拐と呼ぶのだよ?分かっているのかな、グングン?

「お、眼が覚めたのか?」

と、男っぽい声がして部屋の中にキリヲが入ってきた。キリヲ。肩には愛しのミツコさん。…ミツコさんって名前、どっからきたのかなぁ…。母親の名前とかだったら笑えるって言うか、微妙キモイよね。マザコン?あはは!

「キリヲ?うわぁ、処刑人勢ぞろい?」

勢ぞろいって言っても、二人しかいないけど。オレは腰が引けてベットの方へと後ずさった。殺される?背中につめたい汗が流れてくる。…くそう!まだアキラに会ってないから死ねないんだよ!!主人公に会わずして、誰に会えって言うんだよ、糞野郎!

「ビビッてんじゃねーよォ。別に取って喰いやしねーって」
「信じらんないね、気まぐれコンビ!!」

ビシィ!と指を突きつければやる気なさそうにグンジが言った。

「あー?ジジィとコンビ組んでるのはビトロに言われたでぇー、ジジィはジジィ過ぎて痴呆だからなぁ」
「ジジィって歳じゃねーって言ってんだろが」
「は?俺より年上な時点でージジイだろー」
「世の中の大多数がテメェにとってはジジィだな、そりゃ」
「あの…」

オレの存在はアウトオブ眼中なのようなので、恐る恐る提案してみた。オレ、なんも違反やってないし、ここでグンジとキリヲを観察しても「萌え〜」をしていたい気も山々なんだけど、こう、オレとグンジたちの間には「絆」というか「安全保障条約」というか…そういうものが結ばれていないわけで。命はとっても惜しいので、早々にこの場から出たい。そして、アキラに会いに行きたい。

「オレ、帰っていいですか?」

勇気を振り絞って腹に力を入れて言ったら、「グゥルウウー…」と、獣の唸り声のような音がした。二人の視線がオレを見る。
い、今のハまさかッ!?

「…今のってさぁ…」
「アアァ」

二人が私を見ながら頷きあう。オレは赤面した。

「「……―腹の音?」」

あんぎゃー!言わないでーーー!!そりゃ、おならよりはマシだけど、可笑しいよ、なんだよ今のオレの腹の音は!?「グゥルウウー…」ってなに?オレの腹の中には九尾でもすんでんのかいっ!?お約束過ぎる!ありえない!オレは天然ぶりっこお約束少年かッ!?やーめーれー!

「信じらんねー!!獣みたい音なんて始めて聞いたぜ!?」
「人間の腹の音じゃねーなァ!」

グンジとキリヲは爆笑した。腹を抱えて。
あうあう…誰か、オレの切ない乙女心を返して…(つっても、オレは今男なんだがな)。オレはよよよと泣き崩れた。

「腹減ってんのカァ〜猫ォ〜?」

グンジがしゃがみこんでオレの頭を撫でた。撫でた!?ガバァっと顔を上げてグンジの顔を凝視してします。グンジは「ん?」という感じにオレの髪を撫で続ける。

「猫じゃねーだろ。お前、名前は?」
「…、です」
ねぇ…。あれ?なんかコイツの名前聞いたことある気がすんだけど」
「あー?名前あんの?ふ〜ん…でも猫だから猫でいいよなァ?」
「…や、猫じゃないんで、出来れば名前の方で呼ばれると…こう、オレが幸せになれるって言うか…」

期待を込めてグンジを見つめる。グンジは不思議そうな顔をして口を開いた。

?」
「―…ッ!!!」

へらぁりとオレの顔が緩んだ。もう幸せで一杯一杯だ。オレの顔を見て、グンジの頭を撫でる手が止まった。や、でももう頭の中ではグンジの「」がエンドレス・リピートでしゅ!
グンジがじいっとオレを覗き込んだ。なんかもう、オレの顔は崩れっぱなしです。今なら「にゃあ」とでも鳴きます。三回回って「にゃあ」と言います。

「……って呼ばれたい?」
「是非とも、呼んでください!」

グンジに名前呼ばれるなんて、一生のうちにあるかないかだよ!グンジENDなんて、アキラ、名前も呼ばれずに犯り殺されたんだよ!?(や、もしかした死んでなくて気絶しただけかもしれないけど…)

「んじゃぁ、。腹減ってんの?ミルクでいい?」
「……―乳製品のミルクなら」
「その間はなんだよ」
「いえ…。喰いものなら何でもいいです。腹減ってます」

ミルク、と呼ばれては白濁のアレを思い浮かべたオレは駄目な人間ですか?ええ、そうでしょうとも、腐女子ですから!!(腐男子って生息してるのかしら?)

「んーじゃあなんか持ってくる。…ジジィ!オレが居ねー間に殺すんじゃねーぞォ!」
「分かってる」

グンジが部屋から出て行った。オレはああ、グンジが去ってく後姿を眼で追いかえた。オレの飯を取りに言ってくれたのか、あのグンジが!?あの、なんつか、血と絶叫が大好物で、ぶっちゃけ殺すの大好きな彼が!?
口をぽかんと開けてると、ぐいっと顎を捕らえられた。見れば、存在を忘れていたキリヲが居た。や、キリヲおにーさんもカッコいいですよ?ワイルドですから!低音な声が腰にくるから!!

「お前、運良かったなァ…ま、アイツにとって人間に見られてねーってことだけどな」
「イタ、痛いです、顎!!」

大きな手はオレの顎を掴まれて溜まったもんじゃない。本当、デカイ手だな。大きくて、暖かい。

「つかさ、さっきの顔面白いぐらい崩れてたよなぁ…初めて見たぜ、あんな顔」
「あんな顔っ、て…?」
「砂糖菓子が溶けたみたいな甘ったるい顔。…胸焼けを起こしそうなぐらいのな」

それは…グンジに名前呼ばれたときの顔ですか?キリヲがオレを床に押し付けた。咄嗟に抵抗しようとするが、キリヲはびくともしない。キリヲの身体からするキリヲ独特の男の香りと、染み付いた鉄臭い血臭が鼻腔を擽った。

「何すんのッ!」
「甘そうだよなァ…お前の、の血は…」

ねっとりとした低音がオレの耳元で囁かれた。ゾワゾワと腰の辺りが痒くなる。耳を暖かい息がかすって、耳朶を舐められた。
ひぁあーーー!!アレですか、貞操の嬉々危機ですか!!
キリヲの男らしさにくらくらする。オレはキリヲの胸を必死で押し返した。でも、オレの抵抗なんてキリヲにとってはそれこそ猫の抵抗みたいなもんだ。ピシャ、と湿った音が耳をかき回す。キリヲの舌がオレの耳の中に入ったーーー!?

「ひんぎゃーーーー!!」

色気も糞も無い悲鳴をオレは挙げた。腐女子ですから。二次元に萌えていた女子ですから!生身に耐性はないのでござるーー!!

「ジジィ!!何してんだッ!!」

オレの悲鳴にヒーローの如くドアを足で蹴っ飛ばして現れたのはグンジ!グンジ!君が王子様に見えるよ!えらい、俗的な王子様だけどッ!!
キリヲは舌打ちをしてグンジを睨んで、オレを押さえつけていた力を抜いた。

「ッチ。帰ってくんの速ェーんだよ、ヒヨコ!!」
「俺の猫にちょっかいかけんなッっつたろォが!」
「殺すなと言っただけじゃねーか。犯るなとは言ってねーだろ」
「そういうのが詭弁っつーんだよ」

オレはドアを蹴破って入ってきたグンジに救われた。やる気が削げたキリヲの下から這い出して部屋の隅っこへと逃げた。うわー怖かった!別に女じゃないから処女だどーのとか言うつもりないけどさ、怖いスよ、やっぱ。穴だよ?穴だよ!ケツだよ!痔とは比べ物にならないほど痛いんだよ!きっと!
グンジがちょいちょいと手を招いたのでオレはグンジへと近寄った。キリヲの横を通り過ぎたときは警戒心バリバリで睨みつけながら移動した。

「飯」
「あ、ありがとうございます…」

両手の上に載せられたのは牛乳のパックと、サランラップで包まれたサンドイッチだった。受け取ると、ジュルリと口の中に唾液が溢れた。おなか空いてたんだよねーそれも、すんごく!立ったまま食べるわけにも行かないので、オレはまた部屋の隅っこの方に行って座り込んでサランラップを明けた。紙パックの牛乳にもストローを指して、まずは飲み物を飲んだ。それから、サンドウィッチを口に運んだ。うまい〜…。しかも、これ、ピーナッツクリームだよ。ああ、疲れきった身体にはやっぱり甘いものだよねぇ…。と、モグモグとひたすらよく噛んで咀嚼する。さて、二個目、と手を出して一口食べたところで止まった。

「どーしたァ?」

グンジが聞いてきた。

「…あのぉ、チーズ食べてくれません?」
「なんで?」
「……嫌いなんです」
「いーけど。貸してみ」

ひょいっとオレの手からサンドウィッチを取ると、グンジはパンを開いて中のチーズだけを摘んで食べた。その食べ方が、すげー可愛い…こう、わざわざ顔を上向きに天井に向けて、上から垂らしたチーズをぺろり、とね!!
萌え!むしろオレがチーズになりたい!!

「ほい」
「あ、ありがとう…」

ちょん、とグンジと手が触れた。ああぁああー!!この手もう洗えないッ!!永久保存版にする!

「よーく噛んで食べろよぉー。ジジィみたいに喉に詰まらすなよー」
「詰まってねーっつの!」

三つ目のサンドウィッチはいちごジャムがは挟んであった。ここで食べておかないと次に何時ご飯が食べられるか分からない。っていうか、ここで殺される可能性だって無きにしもあらずだ。ヒィ!そうすると、オレの最後の飯はいちごジャムサンドなのか!?
持ったないとしみじみと手についた赤いジャムも舌で舐め取った。

「…」
「…」
「あの、なにか?」

視線を感じて顔を上げれば、処刑人コンビがこちらを見守っていた。静かな処刑人って、実は怖いね。いつもぺらぺらぺらぺら舌が良く回ると思うぐらい喋り捲ってるくせに。そんなヤツらが静かだとなんかあるんじゃないかって怯えるよね、フツー。
満腹になってちょっと幸せ。そんな気分のままで彼らに向って声をかけた。


「あの…オレもイグラ参加してるんで、取りあえず、外に出てもいいですかね?」
「イグラ参加してんのかよ?止めとけ、テメェみたいなヤツはすぐ死ぬぞ」
「んじゃあ、俺らと一緒にくればいいんじゃねぇのー?」


暢気にグンジが言った。「そろそろ外行って掃除しねぇーと、ビトロのヤツが煩セェし」と呟きながら部屋の端に転がっていた鉤爪…なんていうんだけっけ?グンジのあの武器を手に嵌めた。
キリヲもそうだな、と頷きながらミツコさんを肩にトントンと叩いた。