未来リライト

06


「おや?君は昨日素晴らしいアイデアをくれた子じゃないですか?」
「はんぎゃ!アルビトロさまッ!」
「(はんぎゃ…?)どうして私の城に?ふふふ」

趣味が悪いというか、成金趣味って言うか変態趣味って言うか、そういう少年像が置いてあり部屋の中だって言うのに池貯めがあるところだ。途中で何人かの黒服部下さんたちを見かけたけれど引きずられているオレを見て、胡散臭そうな眼(或いは同情?)を向けただけで特に何も言ってこなかった。
タマだかポチだかを連れて来るから、と玄関のところにグンジとキリヲに置き去りにされた。そこへ現れたアルビトロ様。
ビトロ様ァーー!と、ビジュアル系の応援みたいに叫んで手を振ってやりたいところだったが、ちょっとオレは引いた。

「えっと…ちょっと…」

ねっとりとした微笑をたたえてビトロが近づいてくる。ぞくっ…先日会った時よりもなにかねっとりオーラが増している気がする。何故だッ!?
オレはジリジリと後ずさった。だって、なんていうか、おいでおいでと変態が手招いているイメージが湧いてきたんだもん!眼を付けられたのか、オレ!?それはちょっとだけ光栄ですけど、やっぱ奴隷調教とか人体改造とか、自分にやられるのは勘弁!!

「えーと、失礼しましたッ!!」
「あ、待ちなさい!」

待てといわれて待つ人間が世の中にどれだけいるんだっつーの。オレはくるりと背を向けて【城】から逃げた出した。ごめん、グンジ!キリヲ!!オレは「待て!」も出来ない狗らしいよッ!!!

逃げる逃げる。全速力で逃げる。

ああ、怖かった。あれだよね、改造(調教?)アキラは可愛いけど、実際自分が人格壊されたら嫌だよね。そのぐらいの一般知識ぐらいあるよ?調教されるアキラたんの意地っ張りなところとか萌えるけどよ!普段すかした子が踏みにじられて開花していく様って…いいよなぁ…(うっとり)

思わずあんなアキラたんやこんなアキラたんを思い浮かべてうっとりと妄想。
ハッ!いかんいかん、もう少しで涎が出るとこだった!!
さて、どこだか分からないけれど【城】からは随分離れたなぁ〜誰かに聞かなきゃ…えーと、今日はイグラ三日目?つことは、アキラたちはどっかのホテルに行くはずだよね?凄いなぁ〜オレ、よく覚えてるな、ゲームの日程!中立地帯のホテルに先回りしていれば、終に主人公のアキラと出会えるわけだ!ついでに、ケイスケにも!!(ついでかよ)

「誰に聞こっかなぁ〜…あんまり怖くなさそうなヤツがいいし」

人通りを見るべし。人が吸い込まれていくところには人が集まっている。イコール、安全そうな場所の方程式が成り立つんじゃなかろうか?ということで、適当な人間の後姿を付けていった。
猛くんにも会いたいけど、彼はもう会ったからいいや。つーか、猛君はオレの【AMP】には含まれてないから!彼、受けっぽいんだもん。攻めじゃないね、アレは。彼はなんというか、常識キャラとしてあって、なおかつ、妹が絡むと暴走するシスコンキャラでいいんじゃね?猛×アキラって萌えない…。
由香里ちゃんのために猛は生き残って欲しいなぁ〜…。どのルートでも猛は死ぬ運命だけど(笑)

アキラにやっと会えそうなことにるんるんとスキップしながら歩いている。ホテルはどこだか分からない。人もみんな柄が悪い。しかも、首からタグを下げているので明らかにイグラ参加者だ。
オレはあちこち歩きながら見たことがあるとおりに出てきた。あ、ここって曲がってこっちに行けば…

「『Meal of Duty』を再びはっけーん☆」

わーい!まだケイスケの襲撃は受けていないようで、何人かが店に出入りしているのが確認できた。今日は源泉のおっさんはいるかなー?あの人に聞けばホテルも分かるよね。なので、入ってみようかなと足を伸ばしかけて、止めた。
なんと、吃驚!タイミングがいいことに源泉のおっさんが『Meal of Duty』からもっさりと出てくるではないか!あのサスペンサーと銜え煙草は源泉に間違いない!
彼の後を追っかければ…もしかして、アキラに会えるんじゃなかったっけ!?ありがとう、神様!オレをアキラのところまで導いてくれるんですね…!!手を前で組んで神様(仏様でもなんでもいいけど)にお礼を言って源泉のおっさんの後をつけた。
気分は浮気現場の証拠を掴むために雇われた探偵。んん?この例え、あながち間違ってないような気もするなぁ〜。奥さんいたのにアキラという息子ほどの年齢の子に手を出すかもしれないような男だもんな!
まぁ、死んじゃった奥さんに義理だてする必要もないと思うけどさ。

源泉はこのトシマに暮らしている人間だ。近距離を背後から付けて行ったのでは悟られる可能性がある。なので、十分な距離を置いて追跡する。
だが、柄の悪い連中が行く手を阻んだ。

「お兄ちゃん、一人でなにしてんのー?」

この脇キャラ共が!邪魔!おっさんを見失ったじゃねーか、糞!!と心で悪態をついて、オレはあらぬ方向を驚愕の視線で眼を見開いて指差した。

「あ!シキがあそこにいる!!」

脇キャラどもがオレの迫真の演技に吊られて後ろを振り返った。馬鹿め!演技に決まっているじゃないか!!オレは猛然とダッシュした。

「いねぇじゃねーか…ってテメェ!!」
「逃がすな!」

なんか追って来やがったのですごくネズミのようにに路地から路地へと走る。走る走って、


止まった。


あれは…なんか夢遊病者とか、老人ホームの徘徊おじいちゃんみたいなあれは!!ナノだ!!ナノがいるッ!!

「プルニエーーー!!むしろナノッ!!由香里ちゃんのためだけに猛を誘惑させんぞーーー!!」
「おまッ…ッ!?」

消えていくナノの後ろ姿をぼんやりと魂抜かれたように見てた猛から、超光速でアンプルを奪って地面に叩きつけて靴で踏みにじった。うす赤い液体がコンクリートの隙間にねじ込まれていく。その上から唾を吐いてこれでもかッ!と踏む。

「テメェッ、何しやがッ…!!」

オレは怒りを込めて猛を睨んだ。猛はオレの猛烈なガンに怯んだ。
ほんと、猛が死んでもいいんだけど、由香里ちゃんの笑顔のためにこいつを生かして由香里ちゃんのもとへ送り返さなければ。

「馬鹿馬鹿馬鹿な兄め!!由香里のために帰れ!あんな可愛いネグリジェ(萌!)の由香里たんを一人にして、お前は良心が痛まないのかッ!?」
「なっ、なんなんだよ、お前は!いつもいつも俺の前に現れて、分けわかんねーこと言って…どうして、由香里のことを知ってるんだよ…ッ!!俺は…俺は由香里を幸せにするためにここにいるんだ、王に勝ってッ」
「つか、麻薬王なんてのはいねーんだよ!タグを集めて王に挑んだって、殺されて終わり!万が一勝っても、ビトロに殺されて終わり!なんも手に入らねーの!ここで猛が手に入るのは死だけ、そして、後悔だけ!!」

オレはあんたが死んだときを知ってるんだよ!

「『俺はお前だ』って言われたか?それで、ラインを渡された?」
「見下してきたやつらを、俺が見下して何が悪いッ!」
「ラインに手を出して?…猛、何度も言うけどね、ヴィスキオに真の意味での王は居ない。金は入らない。ラインは母親が身を滅ぼした麻薬以上のものだよ。自分に負けるの?」
「ッ…」
「由香里ちゃんの望み、知ってる?」
「知ってる!」

知らないよ。あの子のいじらしい願い。
オレは猛に向って微笑んだ。寂しそうに切なそうに。

「『由香里、何も要らなかったの。おにいちゃんさえいてくれれば』」
「ゆか、り…」

猛が瞠目した。オレは壁を背にしている猛の目線に合わせるように屈みこんだ。

「……Bl@sterへ行け。そこで猛は優勝しろ。ここでは何も掴めない」

オレは出来るだけ、オレが出来る精一杯の誠意を込めて、猛に話し掛けた。瞳を見て、逸らさずに。

「猛くん、君はBl@sterで優勝する。そして、由香里と一緒に暮らすんだ。頼むよ……猛くんの十字架はまだ落ちてない」

彼が十字架を持っている手を掴んで無理やり立ち上がらす。
そして、猛の背中を押した。

「ラインは破滅への道。さぁ、未来ある道を…由香里ちゃんに言ってやりな、今すぐに『ただいま』って」

彼は引き結んだままオレを数秒見つめ、暗闇の中を走り去った。





猛、ちゃんと帰ったかなぁ…高濃度のラインは潰したから、自分からラインに手を出すこと無いと思うんだけどな。…母親、薬中だもんね。恐ろしさは私なんかよりも数十倍知ってるはずだし…。
とぼとぼと角を曲がった途端、誰かにぶつかった。どんっ!とガタイ負けして弾かれて道路に尻餅をついた。誰だよ!源泉か!?

「あ、すいません!急いでて…大丈夫でしたか?すいません」

嘘。

「…ケ、ケケケ」

オレは口を大きく開けて喘いだ。そして失礼なことに思いっきり相手を指差した。

「え?ケ?」

男は困ったように首をかしげた。顔はとっても困惑している茶色っぽい髪の気弱そうで、その姿はまるで大型犬のよう…そう、そう、ケイスケだぁあああーーー!!あれ!?どーしてこんなとこにいんの!?ケイスケの両側後ろ側に視線を走らせるがアキラらしき人物はいない。えー…ケイスケひとりかよ、チェッ!
まぁ、ケイスケに会えただけで良しとしよう。欲張っちゃ駄目だ。この世界に折角来たんだから、主要キャラとのご対面をオールコンプリートしなければ!
これで後会ってないのはアキラと、ナノ(面と向っての会話とかしてないから)、狗。あ、グエンとエマにも会いたいなぁ〜…ってことは五人!?…まだまだ先は長そうだ…。

「あ、いやあの、ケムシが肩に乗ってました!!」
「え!嘘、毛虫!!」

ケイスケが驚いたように慌てだしたのオレはささっと彼の肩から毛虫を払う振りをした。うわー!生ケイスケに触っちゃったよ!ふむ、細っこいな。スチルで見たとおり軟弱そうだ。ケイスケってでも優しそうだから萌えだよね。ヘタレ攻めだもんね、萌え!!

「おっ払いました!」
「あ、ありがとう…」
「いえいえ、どーいたしまして。あの!今お一人ですか!」

オレはここでケイスケを逃すまいとすかさず三文小説のような軟派な台詞を吐いた。ケイスケがこんなところを一人でふらふらと歩いているなんて…もしかして、ホテルから飛び出してきちゃった時か?

「え。ううん…いや、一人だよ」
「あの!オレ、タグの交換したいんですけど…ホテルへの行き方教えてくれませんか!お願いします!」

急なオレのお願いに、ケイスケは困惑した。当たり前だけど。アキラと喧嘩して飛び出してきた後だもんね、戻れるわけないよね。でも、ケイスケは押せば大丈夫だと思うのだ!

「さぁ行きましょう!そして、紹介してください!」
「え、ええぇ?」

無理やりケイスケの背中を押し、腕を逃さないようにがっちりと掴んでオレたちは歩き出した。





07


「…ここだけど…」

アキラがいた…。オレは感動にじーんとなった。ああ、しかも、アキラの隣にはリンリンまでいるよ…ついでに源泉のおっさんも居るけど…うう、幸せだ。スゲー幸せだ。薄汚れたホテルのロビー。その一角のソファを陣取って背景から浮き上がっている人間達。そりゃそうだよな、だって、主人公だもん!!
ちらりと、一瞬だけアキラが入り口のこちらを見た(ような気がした。実際はオレとケイスケを素通りしていたけど)。

「ぐはぁ…」

迂闊にも、オレは鼻血が盛り上がってきそうになってケイスケを拘束していた腕を緩めてしまった。ケイスケは思いのほか強い力でオレを突き飛ばす(女の子に…いや、男の子に向ってなんて酷いことを!)と、走り逃げていった。

「…なんてことだ…ケイスケが強気に逃げやがった…」

これでルートはどう転ぶか分からないけど、黒ケイスケになることは決定してしまった…。いや、黒ケイスケの無敵さも好きだけどさー…アキラがケイスケ選ばなかった死んじゃうじゃん?…猛くんも死んじゃうしな…。
ああー…オレの馬鹿!腕を離すなよな!!馬鹿馬鹿!!…って、今更もう遅いか…。
オレはちょっぴり、スズメの涙ほどの後悔を胸によろよろとアキラたちが座るソフォへとたどり着いた。

生アキラが眉間に微かに皺を寄せてオレを見た。オレを見た!オレを!!
もう…オレ、そんなアキラたんの色っぽい姿にメロメロ。今すぐ抱きつきたい。君は魔性さ!全ての男が君に夢中さ!ビバ★総受け主人公!!
ケイスケを逃がしてしまった後悔は星の彼方へ飛んでった。だって、アキラがオレの前に居る!!やっとだよ!やっと主人公のアキラに会えたよ…ああ、長い道のりだった…。
あまりの興奮に胸を押さえてよろめいてソファに倒れこんだ。

「うわっ!って、じゃん!吃驚したなぁ、もう。どったの?」
「ああ、リン。今オレは幸せだよ…」

萌えてます。

「……リン、知り合いか?」

と、源泉が言った。

「あ、うん。って言うんだ。俺たちと一緒でイグラ参加者だよ…っていうか、参加したんだよね、?」

しゃきんと背筋を伸ばしてソファに座り直した。アキラの前で下手な格好は見せられない。でも、座った正面にアキラがいるのは幸せすぎて直視出来ない。ちらっと、アキラを見てそれを悟り、オレは出来るだけ目を合わせないようにアキラの鎖骨の辺りを見ながら答えた。

「はい、参加してます。です。貴方は?」

アキラの正面からにこっと飛び切り笑顔で笑いかけ図々しくも名前を聞く。

「…アキラだ」

きゃー!!やっぱアキラはクールだね!一言で素っ気無い!でも揺れる眼差しで男を魅了する、萌え!!素っ気無いアキラの態度にめげずにニコニコ笑顔でアキラを盗み見ていたが、視線があってしまって慌てて逸らす。
源泉のおっさんはソファの横の壁に寄りかかって煙草を吸っている。トシマって煙草買うの高そうだよね、と場違いな感想を持ってみたり。

「…それにしては、はタグ、付けてないみたいだけどな?」

源泉のおっさんがオレを見て言った。突然現れたオレを警戒しているらしく、柔和なおいちゃん風味だが目の置くだけは油断ならずに冷静にオレを観察しているような気がする。アキラもオレを警戒している。源泉に警戒されたって痛くも痒くも無いけどさ、アキラに警戒されるのはヤダ!!オレはアキラの味方です!【AMP】の会長ですから!!

「あ、ほんとだー。、タグは?」

っていうか、言われて初めて気が付いた。オレ、タグつけてないや。


…………なにコレ、虐め?
ポケットから探りだしたタグを目の前にぶら下げてオレはこれはアルビトロのオレに対する挑戦かと疑った。タグは全てがブタタグだった。

23456

綺麗に数字が並んでいる。いや、それはそれで嬉しいが、全然使い物にならないタグじゃねーか、コレ。

「……残念だったね」

リンが苦笑しながらオレを慰めてくれた。

「……うん」

オレも落ち込みながら答えたが、あれれ?よく考えたら、別にオレってシキと戦いたいわけじゃなく(むしろ絶対に戦いたくない。夢じゃないなら一回オレシキによって殺されてるし!)、ただ萌えたいだけだから別にいいんじゃない?っていうか、むしろ、誰も狙わないようなタグなんだから標的にされる可能性薄くて万々歳?

な〜んだ☆

「あ、そういえばケイスケ…」
「ケイスケ?」

アキラがオレがケイスケについて話そうとしたら皆まで言わせないうちに口を挟んできた。アキラたんに話掛けられちゃったよ!

「アキラの友達ですよね?ケイスケにここまで道案内頼んだですよ。タグなんかに替えてもらおうと思って」
「そうか…」

アキラは何か考えるようにテーブルに視線を固めていた。
夜も更けてきていて、オレは眠くなってきた。リンは隣で毛布をかぶって丸くなって寝ている。おっさんもすわり心地の悪いソファに掛けて目を瞑っている。
アキラも目を瞑っているが眠っているのかどうかはいまいち分からない。オレはリンやアキラの綺麗な顔を思う存分堪能していた。

「心配?」

しんと静まり返ったロビーでオレの声は思ったより大きく聞こえた。
アキラは聞こえているのか分からない。だけど、オレも眠くなった眼を擦りながらさらに声を落として小さな声で囁いた。



「独裁者の庭園。冠を拝する王は幻。あるのは過去の残骸。絡み合う血と運命」



照明が最小限に落とされたロビー、オレの前にはアキラとリン、ついでに源泉。すげぇ夢だな。なんか今だけは物語の主人公になった気分でオレはなんか意味深な台詞を言ってみた。素面だったら恥ずかしくていえません。ええ、こんな普通に言ったら「キモイ。なんかの宗教にはまった人?」と引かれる。ま、今だけゲーム内容全部知っている人間として優越感に浸らせて下さいよ。

「アキラ、君が街に来たのは仕組まれた運命。…そして、アキラの選択によって道は決まる」

エマさんによって冤罪着せられたんだからねー。つか、CFCでアキラに冤罪着せるために殺された人って、結局本当は誰に殺されたんだろうな…。まぁ、アキラの選択による運命とか言っちゃってるけど、オレはそれ変える気だけどね。出来るだけだけど。
折角オレがここにいるんだよ?これで変えなきゃ、シキに一回殺された意味無いじゃん。(あれ?自分で言ってて意味が分からない…)
アキラ総受けハーレム計画。頑張ります!隊長!眠いなぁ…。


「運命を知りたければ…対なるなるものに会え」


ナノたんは、レアキャラだからねー…。約束のナイフのネタバラシのとこ好きだからナノたんには是非あって欲しいなぁ〜…。ああ、ナノに会いたい〜…。オレがナノに会いたいっつーの。



「血の運命……絶対に」


オレは【AMP】を成就させてみせる!!







08



次の日、肩を揺り起こされて目が醒めた。近くにちくちくした針の山が見えて「ぎゃい!」と悲鳴を挙げてしまった。

「お、悪ぃ」
「な、おっさんかよッ!(乙女の柔肌に)髭面を近づけんな!!」

オレを起こしたのはおっさんだった。あれ?アキラとリンは?と見渡せば、リンはカウンターのところでフロントのおじさんと話している。アキラは興味なさそうな視線で無言でペットボトルの飲み物を飲んでいた。うう、寝起きだというのに綺麗ですね、アキラさん!!

「ちょっと話があるんだ。いいか?」

と、源泉は階段があるほうを顎でしゃくった。向こうで話したい、という意思表示と取った。

「ん…」

源泉のおっさんに、オレは別に話はないんだけどなぁ…会えて話して聞きたいのは年齢?おいちゃん、今何歳?

「此処じゃ駄目なの?動きたくないんだけど」

オレは渋った。アキラの傍を離れたくない。っていうか、そこまで歩くのがめんどい。

「…じゃあ、ここでもいい」
「じゃあご用件をどうぞ。何?」

源泉が好きな咎狗ファン、ごめんよ。オリャア、あんまり源泉に萌を感じないんだよ…。口調がアキラやリンたちを相手にするときに比べると熱が無いのはしょうがない。しょうがないったらしょうがない。

「お前、何者だ?」
「だから、だって言ったじゃん」

耄碌したか、おっさん?

「そんなことを聞いてるんじゃない。お前は何を知っている?」

あんぎゃー!!源泉のおっさんの目線が鋭くって怖いです。アキラも何事かとオレとおっさんを見ています。いやん♪そんなに見ないでvなんて喜んで場合じゃなく、余裕ぶって口元に(引きつった)笑みをつくり、オレは首を傾げた。

「知ってるってなにを?オレは色々知ってるけど?『何を知ってる?』ってそんな狭範囲のことを言われてもなんのことを指して言ってるのか全然わかんないんだけど?」
「『冠を拝する王は幻』」
「なにそれ」
「昨日、が言った言葉だ」
「…うわ」

オレは聞かれてたのかよ、と口元を押さえた。あんな恥ずかしい台詞聞かれてたのか…恥ずかしい……あれ?なんか今ケイスケが出て行った日ってみんな徹夜で寝てなかったて読んだような…。もしかして、みんな目を瞑ってただけでオレの酔った台詞聞いてた?アキラも?

「『冠を拝する王は幻』…王が誰だか知っているのか?」

うわ、二回も言わないでいいよ、その台詞。真顔で言われるとすんごい恥ずかしいんですけど。羞恥で穴掘ってここから土に埋まりたいんですが。恥ずかしさに苦い顔をしたオレの表情をどう取ったのか、源泉はしつこく言った。

「教えてくれ、王は誰だ?」
「…嫌ですよ。あんたが知るべきことじゃないし。ビトロの悪趣味をどうにかしたらどうですか?同じところ出身なんでしょ?」
「…!!」

今にも掴みかかってきそうな気配に、一歩後ろに下がった。ちっちっちと、顔の前で指を振った。

「ここは、中立地帯だよ。健やかに話し合って親睦を深めるところでしょ?銃火器は禁止だよ、身を持って戦わないおっさんよ」

オレの嫌味…アレだ、テメェだけ銃持ってんじゃねーよ、っていう意味合いのことを言うと、今度こそ、源泉は掴みかかってきた。が、それは予想範囲だ。オレはひらり!と身を翻して逃げた。話についていけてないアキラは目を見張っている。オレはアキラに笑顔を向けてウィンクした。

「アキラ!絶対にお前を"女王レジーナ"にしてあげるからなッ!!」
「ちょっと、、どこ行くのさッ!?」

アキラの傍にあった携帯食や水が入っているリュックを失敬して(だって、どっちにしろアキラ捨てるじゃん…)、オレは居心地のいい中立地帯ロビーから逃げた。うーん、逃げ足が速いって生きていく上での必要条件だよねー!「ーー!」リンが叫んだけど、ごめん。オレは行くよ!!どこ行くのか分からないけど。


++


「『Meal of Duty』に行けばいいんじゃねーの?」

ふらふらと歩き回って、数時間。オレはその結論に達した。あれだ『Meal of Duty』に行けば、ケイスケが大量惨殺事件を起こしているはずだ。そんなこんなで『Meal of Duty』に向った。なんとなくトシマの地理を覚えてきた。『Meal of Duty』の前には人垣が出来ていた。ってことは、やっぱりケイスケによる大量ぐちゃぐちゃまっかっか事件は起きた後らしい。
っち、な〜んだ。こんなに人が一杯いるなら、もうアキラも来た後かなぁ…。これからどうしよう、と野次馬に混じって地下への入り口を見てみようと背伸びした時、ざわりと野次馬達が一斉に下がった。

「おっとと…」

何故かオレは前へ出てしまった。

「あ」
「あ〜」
「おおっ」

三者三様の言葉を発して、オレたちは顔を見合わせた。
キラリ、と相手の目が得物を見つけた獣のように光った気がした。いや、気のせいでもなんでもなく。マジで。

「アイツ、殺されるぞ」
「…タイミング悪いやつだな…」
「顔いいからコレクションにされるんじゃねーの?」

こらぁ!そこ!なんか物騒なことを呟くんじゃねぇえー!!野次馬の人たちが気の毒そうなのか楽しそうなのか分からない同情をオレに寄せていた。オレの前には、トシマで出来るだけ会いたくないよね、ナンバーワンであろう処刑人コンビがいらっしゃった。いや、オレは二人に会いたいよ?特にグンジに会いたいよ?萌えだもんな!!

「え、えへ…」

へら、と笑ってみる。いやほら、オレって待ってろといわれて待ても出来なかった駄狗ですから。

「猫〜…やっと見つけたしぃ」
「あの王子様の見つかって逃げたんだってなぁ…
「あはは…いや、だって…ビトロさま、いやらしい視線がパワーアップしてたんですもん」

オレはじりじりと後ずさる。いや、今は大事なとこなんですよ、いろいろと。ここでグンジの広げた腕の中に飛び込んで行きたいのは山々なのですが…。

「あの二人の知り合いか」
「…どういう関係だ?」
「ビトロ様?様付けッ?」

野次馬がこそこそと囁きあった…あの、逃げます。ごめん。

「逃げます!」
「はぁっ!?」

オレは大声で宣言すると身を翻してもう、最高時速で走り出した。今ならオレの足は、カール・ルイスすら超える、越えてみせる!!オレは韋駄天だ!!

「待てや、!」
「あぁ!?なんで逃げんだよ〜!?」

二人が一瞬、ちらっと地下からビトロさまと狗らしきものが出てくるのを目の端で捕らえたが、ああ、カウに会いたいけれど、今はそんなことより…アキラたんのところへ!!







09

「アキラ見ッっけーーーー!!」

なんかもう、オレてっばトリップしてから走り回ってる気がするよ…。青シャツの男とアキラが戦っていた。あれ?つーか一周回って「『Meal of Duty』に戻ってきただけじゃん…。傍には黒シャツの男がニヤニヤと傍観している。さては、この戦いは始まったばっかりだな。周りには野次馬がアキラと青シャツの戦いを囃子たてていた。かなりデカイ声でアキラの名前を呼んだのに、アキラは戦いに忙しいようで視線の一瞥もくれない。…うう、寂しいよ。
流れるようなナイフ捌きで、青シャツが背中が地面に触れた。
ああ…アキラカッコいい!クールで受けだんてイイ!ついでに何気に素朴に奥手でマゾなとこも萌だぜ!!
熱の篭った視線で萌え萌えしている私は背後からの近づいてきた人間の気配に気が付かなかった。つーか、普通のオレが人の気配を悟れというほうが無理な話だ。

…」

……あんぎゃ!まったーりとしたこのお声は…!オレの身体に背後か両腕が回されてふんわりとした血と独特の体臭が鼻をくすぐった。くんくんと犬が匂いをかぐようにオレの耳の後ろにグンジが鼻を寄せた。それだけでなく、ペロリと耳を舐める。

「はぎゃ!」

ぞわぞわとした変な感覚が背筋を走って変な声を上げたが、その声に重なるように叫び。

「ぎゃあああ!!」

慌ててアキラの戦いに目を向ければ、勝敗が決まったあとルールを破ってアキラに攻撃した男が、アキラに無心に殴られてた。醒めた目で殴り続けるアキラ。殴る殴る殴る殴る殴る殴る。ただただ、殴り続ける。殴る以外の動作を知らぬように。

――…高揚、しているのだろうか?

オレはじっとアキラの瞳を見つめていた。その奥に燻る仄かな情欲のような熱。ふるり、とオレはグンジの腕の中で震えた。

「タグでも何でも持っていけばいいだろ!だから…」

と、必死で青シャツの仲間の黒シャツがアキラに懇願した。うわー…何気に仲間意識とかあるんだね、ああいう連中でも。や、オレだったら薄情だから見捨ててとんずらしちまいそうだな。

「そいつルール違反だし、どーせなら殴り殺しちゃえばぁ?」

頭上でグンジが間延びした声で言った。盛り上がっていた観客達が一斉に静まり返ってこちらを向いた。

「処刑人だ…」
「グンジだ…切り裂きグンジ…」

ざわめきが広がる。ついでに、グンジの腕のなかに居るオレへの訝しむ視線が痛い。グンジはオレの手を掴んで(…いや、これがすんごい怖い。だって鉤詰めナックルがね、当たりそうで怖えーのよ?)アキラの青シャツが戦っていた中心部に来た。舞台はグンジにスポットが当たる。いや、グンジとアキラかな。オレは一般人、脇役以下の異邦人なので勘定に含めない方向で。

「ひっ…!」

青シャツを引っ張り起こそうとしていた黒シャツはビビッて青シャツから手を離した。顔からはだらだらと汗が出ている。恐怖の顔っていうんだろうね、コレ。オレは友好的な笑顔で手を上げてアキラに笑いかけた。やー、他にどういう顔をしろと?ええ?他になんかいい表情があったら教えてくれよ・

「や、アキラ」
「…。なんで…」

我に返っているアキラはオレとグンジを見比べている。

「うん、そうだよー…って、」

今!!今、アキラ、オレの名前呼んだ!?軽く流してしまいそうだったが、アキラの声でオレの名前が呼ばれたぞ!?っっ!!おめでとう、オレの名前!マイ・ネーム・万歳!!くぅううううーーーーー!!!幸せだ!幸せをかみ締めてニコニコ笑顔になって脳みそはピンク色だ。グンジのパーカーの色にも負けず劣らない!!うふふ。
はっ!!そうだ!ここでアキラをグンジに紹介して、アキラ総受けハーレム萌えプロジェクト】略して【AMP】!!の攻めを増やさねば!!
グンジは屈みこんで意識もなく倒れている青シャツに止めを刺していた。それを見てアキラが顔を顰めていた。

「グンジ!グンジ!」
「あん?なんだよ」

オレはグンジの袖を引っ張って、立たせるとアキラを紹介した。

「この人、アキラって言います。オレの友達!綺麗だと思いませんか!?」
「あ〜?友達?の?」
「はい!綺麗ですよね!」
「そうかぁ〜…?まぁ、薬のにおいしねぇーしィ。美味そうだけどさ〜」

美味そう!これは褒め言葉?褒め言葉だよねッ!!
アキラはめちゃめちゃ警戒してナイフを持つ手を離していない。警戒ぶんぶんで鋭い目をしているアキラたん、そんな君も凛々しくて素敵さ!!でもな、君の宿命は…すなわち、どこまで言っても受け!さぁ、グンジとアキと言うことなのだよ!!アキラよ、ずいずいっと距離を縮めるために会話をッ…!!

「んじゃ、帰るぞ」
「へ?」

え?会話は?ナンパは?ぽかんとするオレの頭を撫でるとグンジはアキラになんか興味はない、とばかりにすたすたと歩き出した。え、ええっ!?ファーストコンタクトは失敗ですか!?

「ア、アキラぁ!!」
「…」
「アキラ…」

ちょっと、助けてよ!という風にアキラにアイコンタクトを試みた。会って一日や二日のアキラに通じるかどうかは謎だったが、やはりこういうときは何かしら通じるものがあるらしい。アキラはちょっと考えた後口を開いた。おお、オレってば、目と目で会話してるよ、アキラと!!

「あんた…とどういう関係なんだ?」

グンジが足を止めてアキラを振り返る。

「コイツは俺のぉペット、だろ、?」

至近距離で言われて、堕ちない人間は居ません。オレは吐血しそうになりながら首を縦に振りまくって頷きました。もういいです。オレはグンジの猫になります!!飼い猫!?オレ飼い猫ですかッ!!!愛玩動物にしてください!SMと人体改造、スカ、切断、拡張以外ならオケです!!

「……そ、うか」

アキラは理解不能なものをみるようにオレとグンジを見た。彼を見ていて、そういうば!と思い出した。

「あ、アキラ!猛に会った!?」
「?いや、会ってない」
「マジでっ!?よっしゃ!!あ、じゃあ、猛に会ってないならさ、ひとつだけ…」

良かったぁ〜…アキラが猛と会ってないってことは、猛ってば大人しく帰ってくれたのかもしんねー!!

「アキラを襲った男で、不自然に苦しんだ男は居なかった?」
「…」
「ソレは、気のせいじゃなく…――アキラの所為だよ…」
「…どういうことだ、ッ?」

うふふ。なんか驚いた表情のアキラも可愛いなぁ〜…歳相応?オレのが彼より年上なんだよなぁー、実際。

「それはね、…」

と、アキラにちょっとだけヒントを挙げようとしたが、グイッと腕を引っ張られた。

「グンジッ?」
「早く帰んねーと、ビトロに怒られるー」
「あ、そうなの?…つか、ビトロ様の怒り方ってヒスっぽそ…」
「ん」

小さく短く頷かれた。それだけでなんか幼い子供みたいでキュンキュンと萌え!はう!おねーさん(おにーさんだけど)グンジ君を抱きしめて頭なでなでしてあげてーよ!でも、そんな調子に乗ったことをしてザックリと切り裂かれるのは怖いので、思うだけです。ああ、この中途半端な理性が恨めしい…本能全開で行動する腐女子のお姉さま方…こんなトリッキーな体験しているのに、自分を捨てきれていない不甲斐ないオレをお許し下さい…。
でもほら、一部好意的に萌え萌え体験できてるし!よくね?過ぎた欲は身を滅ぼすよ。

「あ、じゃあ、ごめん!ちょっとグンジに拉致られるわ!リンに宜しく!あと、ケイスケのこと、大事ななんだからちゃんと言葉で伝えなよ!!」
「……」
「ケイスケは、アキラのこと一番好きなんだから!!」

ずるずるとグンジに引きずられながらオレはアキラに手を振った。アレは何だ…あの、アキラの瞳は、どっからみても処刑されて連れ去れる人間を見る目だった…いや、オレ、別に殺されに行くドナドナじゃないですよ?だからそんな…皆、みんなしてオレを哀れみの視線でみるのはどーしてなんだっ!?オレが可哀想な子みたいじゃんかッ、まるで!!
オレが見送っていくみんなのそれはもう同情の視線の意味を考えながら引っ張られるままに歩いていた。
すると、グンジの足が止まった。ん?どーしたの、グンジ?とオレはグンジの背中を見上げるが、明らかに愉悦の気配がした。何だ、とオレがグンジの背後から彼が見ている方向と首を伸ばした。

「シキじゃんかーよぉ、雄猫と遊んでるしぃ」
「!!シキだとッ!!」

オレはグンジの後ろから顔を乗り出した。薄く暗い路地の中で響きあう金属の音が今になってようやく耳に届いた。キンッと甲高い音に彼らの刃が交わるたびにチリチリとした火花が散る。
そこにはシキとリンが戦っていた。リンは―…なんつか、ギラギラとした目でコロシテヤル!という雰囲気が出ていてこっちまで怖くなる。スチルで怖怖リンちゃん見てたんだけど、やー…実物はなんつか最初の可愛いリンを見たあとだとギャップが激しいですね。どっちもリンだってゲームしたオレには分かっているけどさ…。リン…早く大人になってアキラを押し倒してくれないかなぁ…と、思考は未来のリンアキに移行しそうだったが、

「シキィッッ!!!」

と、リンの吐き出した声に憎悪に満ちた声にオレはシキに目を移した。
シキの姿を見て、俺は無意識に一歩下がった。向こうはオレたちの存在に気がついているのか―…いや、気がついているのだろうが、グンジが手を出す気もなく傍観者の立場から介入してこないので放っておいているのだろう。

「喚くな。聞こえている」

激昂しているリンとは対照的にシキは高ぶりを見せない平坦な声で返してリンを弾いた。ちらり、とシキと視線が絡んだような気がした。こちらに向けられた紅い瞳。

その、紅い瞳が。その、黒の意思が。

身を突き刺した、あの、刃の冷たさが。



あの時を思い出して、全身が凍った。





――… ああ―…オレは、彼が怖いのだ。






10




……前回、思いっきりシリアス気分で震えていたオレを放って、白熱した戦いが目の前で繰り広げられております。


わお!オレってば忘れられているよ!(号泣)

シキたんはその硬質の美貌に嘲笑らしきものを浮かべ、リンリンは狂気を浮かべて交戦中のところへ我が愛しのグンジは嬉々と突入していきました。あれですねー、これは三つ巴というヤツですよ。
これがアキラを巡っての三つ巴とかだったら個人的に万歳三唱なんですが、オレの存在は忘れられてんみたいですよ。いや、別に咎狗キャラで逆ハーとか狙ってないんで、別にオレの存在がちょっとばかり忘れられてようと構いませんよ?
でも、オレってグンジのペットなのにグンジにすら影も形もなく忘れられてるような…。いや、そういうのがグンジなんですけどね。

……アレですか、これは放置プレイかなにかですか。放置プレイは……オレ、暇なんですけど。

最初の十五分ぐらいは感心して戦いを見ていられたけど、いつまで経っても決着が付かないので飽きてきた。

酷いよ!酷いよ!兎は寂しさで死ねるんだぞ!(オレは人間ですがね)

オレは暇を持て余していた。暇です。
アキラたんがいないから萌がない。いやいや、リンとシキが兄弟なんだよねぇ…とか、グンジったら殺人狂?とかいろいろとその横顔を見ながら思ったりしているのであるが。
どっかに誰か咎狗主要キャラいないかなぁー…個人的には、出会ってないキャラがいい。

邪魔にならないように道の端っこによってオレに被害が来ないようにしていると、後ろからぬっと伸びてきた手に口元を覆われた。

「わぅ…!!」

しっかりと塞がれた口元で悲鳴を上げられない。トシマのヤンキーさんだったらどうしよう!グンジもリンもこちらにはサッパリと気がついてくれない。
特にグンジ!あんたオレの飼い主でしょーが!!己がペットが浚われそうだよ!どーすんの!なに!オレが可愛すぎるからって、浚うの!?(自意識過剰以外のなにものでもない)

そのまま強い力で引きずってどこかに連れて行かれそうになったので、オレは思い切ってオレの口を覆う手に噛み付いた。ええ、噛み付きましたもの!!
口に他人様の血の、鉄の味が広がった。広がって、ぺぺっと吐き出したくなったが、最悪なことに覆う手はさっぱりと動揺した様子がない。
オーマイゴット!!人がやりたくもないカニバリズムとかしちゃったのにさぁああー!!

助けてー!ヘルプ!


「――…酷く、不釣合いな、色」
「…!?」


ちょっと待ってーーー!!
この耳元に寄せて酷く穏やかに、しかし妙に空洞な背筋があわ立つようなこの声は…

「むぬっ(ナノ)!!!」

やったー!!なんか知らねーが、ナノっちが自ら接触してきてくれたぁああーーー!!と、喜んで自由になる腕で小さくガッツポーズを取ったのは一瞬。




「暴力、崩壊、痛み、喜び、恐怖、悲しみ、そして――…訪れる、死」



囁くように、酷く無感情に、彼は囁く。

オレは腐っても腐女子(そのまんま)。
けれど、ちゃんと腐ってない思考回路を持っている。


オレは…その、言葉の意味を、一瞬にして理解してしまった。









――オレは何をした?
(聖なる蛇の肉を裂いた)



―――オレは何を口にした?
(零れ落ちる麗しき)



――――私は、
(腐敗した甘美なる味)














「…―― DEAD or ALIVE



(そして愚者は選択を迫られる)