未来リライト






私の身体を何かが犯す。
侵食して、オレの内部と作りかえる。

私は誰。私は俺。俺は誰?

熱い。
身体が熱い。じわじわと内部に火の炉で持ったように私の身体は息吹く。



ああ、誰か。
身体にと持った揺らめく炎は私の身体を覆う。
熱い、痛い、痛い、熱い、熱くて痛くて堪らない。



永遠に続く痛み。
底なしにかき混ぜ、色と色とあわせ、それはひとつの色へとたどり着く。こちらの意思とは関係なく、最後の瞬間まで導く。

これは痛みなのか、快楽なのか。

深く静んだ透明な膜を私は手で突き破る。






―――…オレは、生まれた。






「――…ッハぁ!!」

溺れた人間が水面に顔を出したように私は呼吸をした。
激しく上下する胸。忙しなく、オレはどこにいるのかと見回す。

ここは、どこだ?

「……グンジの部屋じゃ、ないし」

ベットとチェスト、あと小さな棚が置かれているだけの部屋。物がなく、酷く物寂しい部屋だ。ぼんやりとした裸電球が天井から吊られている。
ここはどこだろう?ああ、目が覚めて自分がどこにいるか分からないってのが一番ビビルよなぁ。

「起きたか」
「ッ!!」

甘くて低い声、けれども平坦な声がして慌てて振り向いた。腰のベルトに挿しておいたナイフ(あの、ヴィスキオでありがたく貰った武器)を手にする行動を無意識にしたオレを褒めてあげてよ、誰か!(誰も褒めてくれないんなら、オレがオレで自分を褒める!これぞ、自画自賛じゃ!)


オレはナイフを握り締め、ベットの上で膝たちになりながら目ん玉見開いてあんぎゃーですよ!

気配もなく(いや、てかオレは人の気配なんて読めないんだっつの)、黒に統一された男が立っていた。なぜに、シキなのだ!オレのご主人たまはどこよ!(すでにペット気分満々)
シキは足音を立てずにオレに近づいてくる。

「…ッ」

なんとなく、反射的にオレは逃げようとする。だってだって、シキだよ!!シキに殺された前科がある人間としてはビビルにきまってるでしょー!!そのお美しいビジュアルを舐めるように堪能したいという萌えをしたいんだけど、流石に二度目殺されたらオレ死ぬって!

死んだらゲームオーバーじゃん!リセットボタンないよ!死んじゃうよ!!


…ん?死?
はて、とオレは首を捻った。なーんか、すっごい命の危機にさらされていたような気がしたんだけど…なんだっけな?
蛇に睨まれた蛙のように、シキから視線を外すことなくオレは記憶を遡る。
えーっと、グンジとシキとリンの三つ巴で放置プレイで暇人で、邪魔にならないようにして、それからそれから…

口に広がった、血の味。


「…ああッ!!!」


オレは思い出して、叫び声を上げた。
あれ、あれあれれれ?
なんでマジで生きてんのさ、オレ!オレってナノの血を飲んじゃったよね!?薄めてない原液ってことはかなり凄いはずだよね?

「……アンビリーバボウ!!」

信じられん!オレってば生きてるよ!!
自分の身体を見下ろして、特に変わったと事がないことを確かめる。ええ、この世界にトリップしてから性別が替わってしまったほかに特別なことはなにもありませんともッ!!

いや、生き残ってることに吃驚だけど、かといって死にたくもなかったのでオレとしては万々歳だ。
生き残ったってことはオレ、ナノっち同じだけの能力を得たとか!?いやいや、まさか凡人で腐女子にそんな素敵な能力が授けられるなんて…、落ち着くんだ!勘違いで能力ゲットしちゃったとか思って調子に乗ると足元をすくわれるぞ!!

落ち着け、ヘイ!そこのお兄さんそんなに顔を近づけないで……で?

「ぎゃ!」

いつの間にかオレの二十センチ先にシキさまのお美しい顔があった。その美しいお顔にはシミひとつ無く、そのルビーのような瞳をまともに見てしまい、オレは後ろへのぞけった。

目が、目がぁああああー!と心の中はラピュタのムスカさま状態。素敵な赤い邪眼もどきに、オレの心はドキドキ☆だ!いや、鼻から鼻血と言わず心臓が飛び出そうだよ!ついでに、腐った脳みそも!!(そんなことしたら、掃除が大変だ)

がっちりと顎をシキに掴まれる。かなりの力を込められているらしく、顎がいたい。いや、どうせ顎が痛くなるんだった、シキっちの素敵な一物をお口に銜え……アウチ!なんか思考が十八禁にそれたよ!駄目だ、シキティをお慰めになるのはアキラだ!オレじゃねー!しっかりしろ、なにシキのお目目に血迷ってるんだ!これが邪眼の魔力なのかぁあああーー!!

正常に戻れ、お前の使命を忘れたのか!


「貴様…どこかで見た顔だな…」

きゃうん!シキっちのお声が…緑川ボイスが!!(しまった!禁断の声優ネタを言ってしまった!)
萌えにキュンキュンなる心臓を押さえながら、オレはお美しいシキから視線を彷徨わせた。ああ、窓から見える月が綺麗だわぁ… じ ゃ な く て !!
駄目だぜ、オレが現実逃避しちゃ!こんなシキさまドアップという素敵な場面は現実逃避するトコじゃねーっつの。むしろ、シキと同じく空間で空気吸ってンのがすでに現実から程遠いから!!

「え。いや、そんなこんな十人並みの顔した人間は世の中に五十人ぐらい…」
「いるか」

…はい。さいですね。流石に五十人はいねーよな。いたとしても六人ぐらいか。なにこの微妙な数字。
鼻で笑われ、私は引きつった笑いを返した。
あんぎゃー…シキの顔がこんな近いよ…自然と、乙女な回路が作動して瞳が潤んでくる。きっと、シキとこんなに顔が近くなることはこれから先ありえないんだろうな…。よし、このさい拝み倒してやる。顔にあるシミや黒子を探してやる、とオレは意気込んでシキの顔を見ようとしたが、 


し か し 

じっと揺るぎない瞳で凝視されてそわそわしてきてしまった。

ごめん、腐女子のお姉さまがた、ごめんなさい。オレ、オバタリアン(死語?)みたくずうずうしくシキさまのご尊顔を拝めなかったよ…。
くそう、美形ってのは間近で直視出来ねぇもんなのか?あれか?美形とはすなわち太陽に見たいに目が眩むものなの?そんな酷いよ、美形ってのは万物の目の保養でしょ?それが直視できないなんてお天道様の馬鹿やろーーー!!

てか、ここってシキの寝ぐらだったんだね。
あれ…?

「あの…なんでオレがシキの寝くらにいるんデスカ?」
「連れてきた」
「いや、連れてこられたんだろうなぁと言うことは分かるんですけれど…なして?」

スッとシキは目を細めた。見下すような視線にゾゾっと背筋が寒くなる。背中に氷を入れられたみたいだ…虫を入れられるよりはいいけど。うん。

「……ヤツと何を話した?」
「ヤツ…?

誰だよ。シキって片言で言葉少なく話すから結構意味が分からん人だ。なに、そういや良く考えると咎狗キャラってかなり言葉に不自由している人間が多いよね。アキラもケイスケも言葉足りずにすれ違ってるし、源泉のおっさんはジェネレーションギャップで何言ってるのか分からないし(酷い)、ビトロさまはまぁ、しゃべりかたは普通だよね、たまに女子高生みたいにヒステリーになるけど、ナノは言うに及ばず象徴的過ぎて意味不明だし、シキも含みがありすぎる言い方で意味プー。

…あれ?そう考えるとマトモな話しが出来る人間ってリンと、意外なことにグンジとキリヲだけ…?

…うっわー…なんか意外に衝撃的な事実が発覚したよ。ありえねぇッス。


「……って、あれ?………なにこの体勢…ぎゃああああーーーー!!」


処刑人がマシだと思ってしまい、遠い目をして思考を飛ばし、ハッと我に返るといつのまにやらオレは押し倒されていた。

why?what to do?

どーして押したおされてんじゃぁあああ!!
混乱に陥るオレ。え、なんで押し倒されてんのオレ。このベットってあれでしょ?そのうちアキラとシキがくんずほぐれつでイチャイチャするとこでしょ?

「待て待て!気を確かに!オレはほらですよ!?アキラじゃないですよー?一文字たりとも似ている人間じゃねーですよ!?間違えてませんッ!?激しく間違えてる!」
「五月蝿い。少し黙れ…体に聞いたほうが早そうだな」

オレが必死で説得しているというのにシキ様はおっしゃりやがったよ。この野郎。どこまでオレ様だなこの野郎。エロ発言はやめてください、セクハラで訴えますよ?

シキの顔がオレに迫ってくる。
オレにタオルちょーだい!ちょっと、そこのセコンド、私にタオル投げて!ギブ!鼻血が出るから!!近い、顔がマジ近すぎるっつの!

ヤバイよ、この後の展開が読めるよ。なんて安易な展開なんだ。これがギャルゲーならぬホモゲーの宿命なのか…



いいや、断じて違う!!


シキの唇がオレの唇に触れたか触れないか…


「アチョォォーーー!!」


と、オレは大変、たいっへん申し訳ないがシキの股間を蹴り上げるべく足を振り上げた。

「クッ…!?」

シキは余裕無くそれをギリギリで避けた。
オレは立ち上がるって逃走経路を一瞬にして組み立てる。普通の出入り口はだめだ、シキが塞いでいる。…となれば、オレは覚悟を決めると、横の窓をぶち破って外へと躍り出た。

「…オイ!貴様そっちは…」

シキが後ろからなんか言ったが、無視した。



が、すぐに後悔した(最悪)。



窓の外は、普通に何も無かった。
え、ここどこ?ここって一階じゃなかったの?あれ?

迫りくる地面、オレは頭から血の気が引きそうになったが身体が勝手に動いた。空中でくるりと猫かなにかのようにくるりと二回転すると、何事もなかったように膝を付いて地面へ着地した。



「………」



信じられなくて、瞬きを三回した。ついでにその場で三回ターンしてみた。
どこも異常なし。

オレはわなわなと震えると、空に向って握り拳を突き上げて絶叫した。




「………オレってすげぇーーーーー!!」




くるりと振り返ってオレが飛び降りたらしき窓を見上げると、なんとなく驚いたようなシキが窓からこちらを見下ろしていた。
にっこりとオレはシキに笑顔を向けた。たぶん、オレの笑顔としてはキラッキラの星が瞬いている感じ。
素晴らしい!すんばらしい!ビトロさま化してしまうぐらし素晴らしい!!


オレは、Nicoleを手に入れた!


ひとつシキにバイバイと手を振って、オレはスキップしながらトシマの街に消えたのだった。





■□■





えー再び帰ってきますた、ヴィスキオの城へ。
迷子になるかなぁと思ったけれど、んなことはない。
門番のおっさんや、仮面つけた美形護衛のにいちゃんたちにじろじろ見られて居心地悪いです。おっさんに見られるなら「みんじゃねーよハゲ!」ぐらいの心の中での罵りだけど、仮面美形護衛の兄ちゃんたちの視線はなんつか、汚れちまっている腐女子としては「みないでぇ〜v!」みたいな感じだ。や、この男の外見でくねくねと身をくねらせたらキショイだけってのは分かってますヨ、ええ。

オレは当然の如く(や、内心ではちょっとは遠慮しつつ)ヴィスキオの城へと帰った。

ああ、この悪趣味全開さが、帰ってきたって言う気がするなぁ!!どこ探したってこんな悪趣味なとこないもんな!!

「ただいま帰りました、グンジ!キリヲ!」
!!
「グンジ!」

駆け寄ってきたグンジに抱きしめられる。
ああ…幸せじゃ…。

!よく一人で帰ってこれたなぁ。てっきりヤられたと思ったんだけな」
「は?ちょっとキリヲさん?それってるとるのどっちですか?」
「さぁ、いいじゃん。五体満足で帰ってきたんだし」

にやにやと笑ってオレの頭を乱暴にガシガシと撫でた。うわぁ、髪の毛がぐちゃぐちゃになるよ。

「良かったぜ。今からシキティんとこ殴りこみ掛けてこよーかと思ってたんだぜぇ?」

グンジが上からオレを見下ろして、眉を顰めて犬のようにすんすんと俺の首筋の匂いをかいだ。

「…くせぇ」
「オレ、汗臭い!腐った臭い!?」

臭いと言われるれれば、心は乙女なオレは慌てて自分で自分の臭いをかいだが、別に臭くはない。腐女子が腐った臭いを発するわけもない。そんなんだったら最低に最悪だ。

「ちげぇ。……別の男ン臭いがする」
「……シキの匂いってこと?」
「たぶん、そう。ムカツク」

ムカツクだって!!
グンジがムカツクだって!これ以上オレの鋼鉄で出来た心臓(どんな心臓だろう)をキュンキュンしないで!きっとオイルが出てくるから!!

「んじゃ、風呂に行くかー」
「分かった。風呂に行ってきます。じゃ、また後で部屋行きますね」
「あぁ?俺もと一緒に行くにきまってんじゃねーかよー」

なに言ってんの、オマエ?と返されて全力で首を横に振る。

「いえいえいえいえいえ…遠慮させてください、今でさえ鼻血堪えているのにお湯が真っ赤に染まってもいいんですか?薄い赤色ピンクの血液風呂なんて仄かに破廉恥な気がします」
「言ってる意味がわっかんねー。猫洗うのは飼い主の仕事だろー?」

いやいや。グンジご主人たま。絶対あんたは猫を湯船にぶっこんで溺れ殺しそうなことは平気でするんじゃないですか。オレ、そういうイメージがどうしても離れない。

「やだやだやだやだ!!」
「ほら行くぞー」

本当の猫のように衿裏を掴まれてオレは大浴場へ連れて行かれたのであった。




■□■




ヴィスキオの城が慌しい。
なにが起こったのだろうか、と眠気眼を擦ってオレは起き上がった。

「グンジ?」

「……なんかあったんですか?」

グンジがオレをじっと見た。グンジの真剣っぽい顔って言うのは滅多に見られないから居心地が悪い。

「お前も一緒に来いよ」


差し出されたグンジの手を取って、オレはベットから立ち上がった。










……どうやら、ゲームはすでに最終回まで進んでいたらしい。知らなかった…。





広がる光景にオレはため息をひとつ。

そして、オレは彼らと対峙する。

向こう側で瀕死か何かで倒れこんだナノ・プルニエが見える。
ああ、車椅子ENDは避けられたわけね。良かった…あれだけは、ゆ る せ な い か ら。



こちらにゆらりと向ってくるシキ。ふと、無表情なシキがオレを見て何か気が付いたように首をほんの少し傾げた。



「オレは、…お前を殺したはずだ」


あれ?シキの台詞にオレこそ盛大に首を傾げる。
オレを殺したって、最初、『私』を殺したときのことを言ってるのかな?





それとも……―――同じ存在プルニエと同一のNicole保有者として?




「はいはい。…」




オレは意を決してナイフを構えた。
付け焼刃的な能力だが、それでももしかしたらということもある。

オレはグンジやキリヲ、そしてビトロに制止されるのを無視し、シキの前に立って舞台掛かった一礼をする。


これはオレの命を懸けた、一世一代の舞台だから。
ここが咎狗の世界だとか、そういうのは分かってるんだけど、なんかもう、ここにオレの居場所が出来ちゃってンだよ。『私』じゃなく、『オレ』のね。


まぁ、理由としては小さいことかもしれないけど。
いやや、居場所ってデカイことだよね。



「さて、本当はアキラのためにしたかったんだけど…悪いな、オレはオレのために此処から先をリライトさせてもらうよ?」



ごめんな、アキラ。、【アキラ総受けハーレム萌えプロジェクト】略して【AMP】は達成できそうにないや。呆然としているアキラに微笑みをひとつ投げかける。
うん、オレも萌を満足させたかったんだけど。綺麗だね、アキラ、こんなときでも。




ごめんね。

だって、オレはグンジの手を取っちゃったから。







さて、オレによるオレのための――…






「未来リライト、開始」


GAME START!!



お疲れさまでした。これにて「未来リライト」は終わります。
応援、ありがとうございました!現在、夏休み貸し出して友人に『咎狗』を貸しているのでちょっと記憶がおぼろげです(笑)。
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