end

02-03







ニホンは統一されている。
シキを頂点とした軍事国家として、ニホンは分断された小さな島国であり、シキの影響力は全国にとどろいているとは言い難い。
地方分権、かつての戦国時代のように各地に大名をたててその統治を任せている。


近くのカントー地区、ならまだしも、さらに遠いキューシュー地区、ホッカイドウ地区などの地方には反乱分子の芽はじわりと育つ。







■□■







グイッ


不意打ちに強い力でネクタイ掴んで引き寄せられ、アキラはバランスが崩した。
シキに覆い被さるように倒れかける。

とっさに手にしていた書類を放り出しシキの座る肘掛けで腕を突っ張った。
シキに衝突する危険を回避することが出来、アキラはホッと小さく息を吐き安堵した。見っとも無い姿を見せたくは無い。その原因を作ったのがシキその人であ ろうとも。
顔を上げると息がかかるほど近くにシキの顔がある。


「…っ、申しわけ…」
「構わん」


慌てて体を起こそうとするがシキが冷たく言い、形を確かめるようにアキラの頬に皮手袋を嵌めた指先を滑らした。
肌に吸い付くような柔らかい皮の感触の先、じんわりと痺れが走った。


――― ニコルの反発作用だ。

唯一のシキに反する己が身のうちに流れる血。
忌々しく思うときもあるが、反ニコルがあるが故にシキの近くにいられることも確か だ。ラインを中和させるナノニコル。


ラインの原料がシキの血であり、何倍にも薄められたものにしても他者の身のうちに入るのかと思うと仄かな嫉妬が火種を散らす。

ニコルに染まり切り、濁った目をする俗物どもを数知れず見てきた。


一時の忘我に飲まれたものを嘲ける一方、シキのニコルによって与えられるつかの間の高揚をこの身に受け、シキと同質のものに染まり殺して欲しいとも思う。
じわじわと躯をシキに蝕まれていく幸福に身を包まれ…死に、至る。
今はまだそのすぐ側に立つことを許されている。その、赦しこそ今の己が生きる意味。


そのまま耳朶を指先で擽られ、くすぐったさに首を竦めそうになる。襟足をひっぱられ、眼前にシキの秀麗な顔が迫る。迎えい入れるように目を瞑る。


「んっ…は……」

シキの舌がアキラの唇をくすぐるように舐める。
うっすらと迎え入れるように半開きになった唇にするりと舌が忍び込んだ。
舌先で歯の後ろ側をこすり上げるようにやわやわとしごかれ、ぞくぞくと躯が反応す る。かと思えば、舌を舌で絡めとられてやんわりとからめ捕る。甘美な震えが背筋を伝い、蕩け始める思考。



コンコン…


ドアをノックする音に、シキがアキラの体を乱暴に突き飛ばす。よろり、とアキラは体勢を立て直す。口づけだけで上がってしまった息を整える。




「入れ」




見られても構わないアキラとシキの関係だが、戯れをこれ見よがしに見せつける必要もない。



「失礼します!」



きびきびとした動きで執務室に入った軍人は、シキの傍らに立つアキラを認め、目の中に苛立ちの色を見せた。
アキラは気にしたようすもなく、床に落とした書類を手早く拾い集めてシキの机に置きなおした。アキラはシキの右腕であるということは多くの人間が知ってい ることだ。

シキのすぐ後ろの控えるアキラの姿は帝国内の多くのメディアで扱われ、民衆にとってもナンバー2はアキラであるという刷り込みが入っている。

だが、下級兵ならまだしも、もともと日興連の軍属であり傘下に下ったものや、ニコルによって力を得て上級兵に上がったものはアキラという存在に疑問を投げ かける。



―― お前は、強いのか? なぜ、王の側に?




アキラがニコルの恩恵に集まるもの全てへ切り札になるべき存在、真の意味で対であるということを知る物は研究プラントや、四天王などのごくごく限られた人 間しか知らないが故のものだ。
また、アキラの実力はシキには及ばないながらも、隊長クラスに匹敵するのだが、アキラが腕をふるっている活躍の場面を実際に見た人間が少なく、外見の美麗 さを買われただけの色小姓だと思っている者も少なくない。


アキラは澄ました顔でシキの後方へ下がった。それとなく、唾液に濡れた唇を引き結ぶ。





兵士はきっちりとした敬礼を行い、書類を読み上げる。


「報告いたします!キューシュー地区北クマモトにてレジスタンスの活発化が見られます。内部よりの情報によりますと、大小あわせますと、約400名ほどの 規模に近づいているようです」
「…400か、ようやっと少しは肥えたか」
「いかがなさいますか」

シキは優雅に組んでいた足を組みかえる。
吟味するように顎に指を添え、「どうする」と、アキラに投げかけた。



「…そうですね。このまま放置するのも一つの手だと思います」



肥えるなら肥えるだけ太らせたほうが良い。その分戦う相手が増えるのだ。
雑魚の中に、一人や二人、骨のある人間もいるだろう。


しかし、シキは退屈している。


「しかし、キューシュー地区は遠方です。道すがらの地区でも小規模ながら反政府軍が存在しているとの報告も上がっています。それらを潰しながらの遠征なら ば、なにかしら収穫もありましょう」
「ふむ。俺が自らをエサにして小蠅を叩くか…」


シキの求めるのは世界の治安ではない。むしろ、その逆とも言える。
戦える相手を求めているのだ。



「狗のように従順になったものを相手にするよりも、本気で牙を剥いて掛かってくる子犬の方が、甚振るのは楽しいかもしれないな」



ぐ、とアキラは何気ないシキの一言に詰まる。
狗のように従順?それはきっと己のことだ。かつての牙を忘れ、尻尾を振るだけの愛玩になり下がった己にシキは飽きるのだろうか?
いや、シキの情けにすがっているわけでない。飼い主についていくと決めたのは俺自身。
――アキラの心の揺れが分かったかのよう、シキがアキラを見て、僅かに目を眇めて口元を引き上げる。



「だが、狗は愛玩。反抗的なものは畜生でしかない」



ああ、とアキラは無意識にこわばっていた肩の力を抜く。大丈夫。



シキが短く命を下す。



「Q(クィーン第二部隊)、第八部隊(オット)に伝令を。三日後にキューシュー地区に向かう」
「ハッ!!」



命を削りあい、高めあい、殺しあう、興奮、高揚。




兵士は期待に仄かに笑うシキを見て、軍人としてではなく、かすかに残る人としての冷静な部分が自問する。






――― この国は、どこに行くのか。(果たしてそこに、平和はあるのか)







■□■







俺がベッドの上でランチを腹に収めているとアキラが訪ねてきた。あわてて口元をぬぐい、布団のしわを伸ばす。



「ようこそ、親衛隊長殿!このような見苦しい格好で申し訳ありません」


俺は親衛隊殿―…アキラを快く迎え入れた。
本当ならばアキラみたいな権力者、そして俺にとってはキャラクターだった人間がすぐ近くにいるっていうのは現実 味が薄くて(逆に言えば、現実的すぎて)少し目のやり場に困るのであまり目に入る場所に居て欲しくない。
けれど、俺はこのところずっと暇をもてあましていたのだ。



することがない(甲斐甲斐しくアオイが世話をやく)。
やることがない(体が本調子ではないのであまり動くなと言われている)。



アオイは多くの時間を傍で控えているが、気軽に軽口を叩ける仲でもないので空気のようだ。



暇だ、暇だとは言っても、本当は考えようと思えば考えることは沢山有る。

でも、俺はこれ以上頭を混乱させたくない。だから、考えない。
現実世界で俺は死んだ。


そのことで俺の一部は少し壊れたような気がする。死んだことにたいして冷静になれる人間がいるか?自分が死んだと認識しているのに生きている俺は狂気の沙 汰だ。


――…少し、自分の精神が不安定なのが自覚できる。ま、自覚できるぶん、まだまだ大丈夫だとも思う。
もうちょっと、いろいろなことを楽観的に振り切れる性格をしていたかったものだ。(いや、これでも俺はかなり楽観的に生きてきたつもりなのだが)


俺は入ってきたアキラに笑いかけて会釈した。



「具合はどうだ?」


淡々とアキラは言った。淡々っていうか、これはぶっきらぼうの愛想なしっていうんだよな。
話し方は昔と変わってないのか。俺がいう昔は、ゲームの時のアキ ラの口調だけどな。

アキラは俺を見下ろしている。仕方が無い、俺はベッドに入るんだし。自然と見下ろされる形になるのは当たり前だ。アキラは碧玉のような瞳をふいと俺とあわ せた。


普通の世界では見ることの無かった勾玉のような青緑の瞳の瞳がとても綺麗に見えて、俺は思わず見入ってしまった。


…ああ、なんだっけなぁ、緑の瞳って、魔性の目なんだっけ?そんな嘘か本当か定かではない雑学が頭を過ぎる。たしか、どっかの稲妻形の傷をもつ魔法少年も 緑の目だったような…。



じっと見詰め合っていると、少しアキラが目線を揺らめかした。
滲むようなエメラルドに、視たこともないが北欧の泉を連想する。




「……俺が名前を呼んだからか?」
「え?」




名前を呼ぶ?って何の話だ?

、 と俺が呼んだから具合が悪く…」
「!」


そうだ。
現実世界で俺が死に、そのことの衝撃が強すぎて忘れていたが、咎狗の世界に来てか名字で通していた俺の名前をアキラは知っていた。「 」と。



なんでだ。どうしてアキラは俺の名前を知ってるんだ?俺の名前、俺、今まで誰にも言ったことねぇよ?
サイトーさんにだって言ったことないのに?(そう、誰にも誰にも言ったことのない)



「あ…な、んで、俺の名前知ってた、ん、ですか…」
「……お前が言ったんだろ、昔」
「いや、だから。それは何時ですか?」
「お前、客人として招かれているんだ。無理して敬語は使わないでもいい」


会話になってないよ…アキラって実はシキよりも無口なんじゃないかと思っている。そして、頭なんかでは色々考えてんだけど、口に出さないタイプだよな。
アキラはクールビューティーさんだもんな。
そりゃあビューティーだろうな。女役(受)だもんな…。


「…いえ、無理です。そんなに簡単に敬語止めることなんて出来ませんよ。…あの、それよりも、俺、もしかしたら咄嗟の場面で名前を呼び捨てしまうかもしれ ません。出来ればそちらを不問としていただけませんか?」



敬語はいい、と言われてもすぐに直すことは出来ない。
てか、そんな普通にすぐにタメ口なんて聞けねーよ。

そもそも、ちょっと普通に考えてよ、この世界じゃアキラは首相とか、大臣みたいなポストにある人間なんだぞ?

それが一般人の俺が軽々しくタメ語なんて話してたらおかしいだろ。
そんな口調で話しているところを誰かに見られたら、俺の立場ってもんが悪くなるだろ。身 の程をわきまえぬ狗がぁぁ!みたいな感じで。


ただ、敬語は無しというよりも名前を呼び捨てにさせてもらったほうが俺としては嬉しいので、伺ってみる。
アキラは少しだけ考えたが頷いた。その小さな頷き方がなにやら可愛らしい。無垢な子供がコクン、と頷いたようだ。



「……構わない」
「ありがとうございます!外ではちゃんと敬称付けるようにしますで、普段は呼び捨てにさせていただきます。…でも、間違って人前で呼び捨てにしたら不敬罪 で処罰とか止めてくださいね。アオイが証人ってことでお願いします」
「アオイか…」


アオイにちらりとアキラが目線をやると、アオイが笑みを称えて頭を下げた。


「ご無沙汰しています、アキラさま」


その姿にユキが言っていた言葉を思いだした。
確か「親衛隊のアキラさまの下に四天王あり!」だったか?後でアオイに聞いてみよう。



「じゃあその、アキラ、さん。改めて俺の名前を」



アオイが何か冷たい空気を俺に発してきたが、アキラが「様」付け無し意を赦してくれたんだから。アキラと呼ぶほうがなれているし、ずっとアキラに向っては 親衛隊長としか呼びかけてなかったんだ。

ユキたちとの会話でもたまに危うく「シキ」だとか「アキラ」だとか呼び捨てにしてしまいそうなときがあって大変だったんだ。
アキラ、とやっと呼びなれている言い方が出来て俺は安堵した。「〜さま」とか、民主主義な俺が育った現代では皇室以外は呼びなれない。


「俺の名は… です。 と申します。不肖ながら、第七部隊に所属しております」


ピシッと何度も練習してどうにか格好がつくようになった敬礼をする。まぁ、第七部隊に所属って言っても、今の俺はここで囲われている状態なので、現状で第 七部隊に籍があるのかは謎だ。
お愛想でにこりと笑って見せると、アキラは俺の笑みを凝視し、口元に手を当てて何かを思い出すように目を天井に泳がした。


「ああ、やっぱり―――孤児院に入る前、あんたを見た。その時、 と名乗った」
「孤児院に入る前?」



俺は眉をひそめた。
孤児院に入る前というと、それは…ENEDで研究体にされているときのことだろ?ということは、記憶を消されているはずだ。なんでか、記憶を消したってい るエピソードをエマ(なつかしい名前だなぁ)が言っていたような気がする。

記憶喪失ネタっていうのは萌えるよな、と思った覚えがあるのでよく覚えている。
だから、そんな昔の記憶をアキラが持っているはずがない。

さらには、俺がそんなときにアキラと会うはずがない。ありえないんだ。だってアキラがそんな小さい頃だったら、俺は、この世界とは断絶された現実にいたの だから。時の計算が合わない。



「や、それは可笑しいでしょう?俺と年号は会わないし、そんな昔のことなら記憶は消されてるはずで…」



知っている俺としては普通に導き出され答えなのだが、アキラたちにとってはそうではないことを失念していた。
俺の言葉にアキラの、そしてアオイの様子が変 わった。元から俺に興味があまり無い様子だったのだが、それが今、はっきりとした殺気のようなものを感じて俺は咄嗟に身を強張らせた。



アオイが多少の不信感(?)を俺に持っているのは薄々ながら気がついていたが、それ今、はっきりと形になったのを感じて俺は咄嗟に身を強張らせた。

お、俺、なんか不味いことでも言ってしまったのだろうか?



「あ、あの!すいません、俺、なんか余計なこと口走りましたか?なんで、そんなに殺気立っているのかさっぱり分からないんですが…」



その手が腰のサーベルに掛かっているので、力なく俺は笑った。
なんでそんなにもこちらを警戒しているのか分からないが、サーベルでばっさりと切りかかられたとしたら俺に反抗できる術はない。
お手上げとばかりに肩を竦めて、無害さをアピールする




「……なぜ、俺の研究所時代のことを知っている?」



アキラは冷たい瞳で見返してきた。その手は腰の剣に掛かっている。
豹変。といえばいいのか。俺が今まで見ていたアキラはとにかく淡々としていて感情のゆれが少なくまるでシキのレプリカ(あるいは付き従う影)のように見え ていた。



それが、一気に炎を燃やして研ぎ澄まされたようだ。
そのピンと張った空気にこれが"支配されている人間"なのか、と悠長にも俺は疑問を持った。




シキに支配されることを選んだ人間。
それが俺がアキラに持っていた認識だ。飼いならされてしまった、アキラ。

その過程に何が両者の間であったのか知らないが、その間にあるのは支配者と従者。ナノニコルとニコル。
相反する二つのものを内包するもの同志としては同等のはずなのに、アキラはシキに従う。





俺が思うに、アキラは自分のためには頑張れないのだ。

――…まぁ、それは俺と一緒だな。

俺は自分のためにいきたいという気持ちが強いのだが、実際に自分のためだと何かを行動に移すことは出来ないのだ。だが、人のためだったら出来るのだ。
いや、「人のために何かをする」ということは「誰かに命令された」と同意語にして、自分に免罪符を与えるのだ。





きっと俺も、アキラと同じ支配される側の人間。
支配されて、命令されて、やっと行動と意味を見出せる人間なのだ。

アキラはそのとおりに行動している。そして、ただただシキにためだけに…

アキラが絶対服従を選んだその過程に何が両者の間であったのか知らないが、シキとアキラの間にあるのは支配者と従者。
ナノニコルとニコル。




愛?
肉欲を伴う"愛"というものが両者の間に存在するのか?
いいや、俺はそれをゲームを進めクリアした

相反する二つのものを内包するもの同志としては同等のはずなのに、アキラはシキに従う。忠誠を、誰かのためにという盲信を免罪符にして、ただただ、シキに ためだけに…





「『強く、美しくなった…』か」




強くなった?
(本当に?一人のためだけに捧げるそれって強さなのか?)
美しくなった?
(シキにだけ艶やかに狂い咲く花のように?)




「貴様、その言葉…」




なんとも言えない。
「シキのため」という献身的なアキラの変貌に、ゲーム初期のクールで排他的なアキラを知っているだけに口元が笑いに歪む。



それはけして嘲笑というものではなく、俺が出来ないこと、俺がしないことが出来る羨ましさによる嫉妬に近い。

どんなことにでも一途になれる。
そんな経験のない俺には、我武者羅に盲目に何かを求められるアキラが羨ましく思えど、嘲りなどもってのほかだ。

アキラにとっても『強く、美しくなった』というシキの言葉は嬉しいことだったのだろう。記憶に残っていたようで瞠目して俺を見る。
その手が無意識に、腰のサーベルに掛かったのでどうとれもなれ、と俺は笑った。だって、笑うしかない。
命の手綱は、常に相手側に握られているのだ。



「ああ…記憶、消されてるんでしたね」
「……」
「申し訳ありません。俺があなたの記憶が消されていることを知ってるのは…知ってるから、としか答えようがありません。誰に教えられたわけでもないです よ。それに…俺が知ってることって、実は凄く少ないんですよ。ちょっとだけ、過去を知っているだけで、これから先のことなんて何一つ分からないし。あ あ……だから、そんな怖い顔向けないで下さい。俺、一般兵なんで、アキラや総帥には逆立ち下って適わないんですから」



アキラの言葉を遮ってぺらぺらとしゃべり、両手を挙げて降参のポーズをとる。
俺は強い相手には逆らわない。それが生きていくために賢い選択ってものだ。

…まぁ、死にそうになったりしたら窮鼠猫をかむを実践させてもらうぐらいの心意気は持っているがな。(それは相手に甚振られる前に自決するとかの逃げの心 意気ではあるが)



「……何を知っている?」


注意深く、アキラは俺に聞く。
『何』を?何ってなんだろうな…いろいろと意味深で、どれのことなのかさっぱりだ。


うん、なんだか尋問されている気分になってきやがったぜ。
ま、拷問されないだけましか?俺が何をしゃべろうと、その内容は「もう過ぎたこと」。
所詮は、劣化した情報だ。新しいものなど何も無い。ーーー…未来のことなど、何一つ知らない。



「知っていることなんてほとんど無いですよ。俺が知ってるのはあとは…アキラがナノニコルの保持者で、シキが…ナノに代わる新しいニコルの保持者ってこと ですかね。そしてなにより……」



アキラの選んだ道が、この未来に繋がった―――いくつもの運命の中から、この世界を手に入れた。





「――…なにより、アキラが、『シキを選んだ』世界ってことだけです」




そう、俺が知っていることは少ない。
語られるべき物語、語られなかった物語。

アキラが壊れたかもしれない未来。
シキが壊れた世界。
ケイスケが生きたかもしれない未来。
リンが大人になったかもしれない未来。
源泉が…なんだっけ?親父が一番興味なかったので忘れたなぁ。


選択によってありえたかもしれない未来。
俺はそれをゲームで知っているからこんな話が出来るのだ。



厭なものだろうな。
自分のあったかもしれない未来が他人が知っているなんてのは…IFは、所詮は想像だから面白い。


…正直、なんで強姦された男の手なんかとってんだコイツ?と疑問符だらけと言うか、納得がいかないところが多いのだけど、そんなのはアキラの勝手だ。俺の 意見は余計なお世話。




ここはゲームの最後より、さらに進んだ未来。
誰もが暗中模索で手探りで生きていくしかない、「第三者」の目線で見ることなどかなわぬ「現実」。




だれか、俺を導いてくれ。
この暗い先が見えない未来の道を。









※ 次回あたりからやっと話が進む(ハズだと)思います。さくっと進めたい。シリアスはいらない子。


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