向日葵を直視できなかった、夏 04
月曜日
中間試験も終わり、さて、初めての授業は二年生のクラスだ。
よっしゃあ、気合いれてくぞー!!
「実習生の氷帝学園大学部四年のです。テスト返しますので名前呼ばれたら返事して取りに来てください…相田工くん」
「はい」
「斉藤はじめくーん」
「はい」
「笹川了平くん」
「極限ッ!!」
「……」
はぁ?極限ってなんやねん!(おっと、忍足の突っ込みが移ったぞー)出席簿から顔を上げて声のしたほうを見れば、短く髪を刈り込んだ垂れ目の少年が元気よく腕を天井に向って突き上げていた。まるで、試合に勝ったときのガッツポーズのようだ。
どういうリアクションを取ればいいのか迷ってしまったが、他の生徒はキテレツな返事に対して無反応だ。そのことから笹原くんのこの反応は日常茶飯事であることが分かる。リアクションする必要なし、むやみに突っ込む必要なし。
「あー…はい、頑張ってね」
「うむ…まぁ、極限だな!」
いまいちな点数のテストにも関わらず、晴れ晴れとした笑みで席に戻る後姿に漢(おとこ)を感じてしまった。体育会系だ。間違いない。
「…畑山習字くん」
「はい」
……何事も無かったように出席の残りを取ることにした。
さらに何ごとも無かったようにテストの解説授業をして、ほっと一息。
生徒がみんな思い思いに移動して、お弁当箱を開いたのを見て、俺も早くゴハンを食べようと思う。今日の飯はなんだろう。やっぱり、学校での憩いのひと時っていうのはゴハンだよなぁ。
教室を出ようとすると、なぜか二年の教室だというのに笹原さんと黒川さんが廊下にいた。
「あれ?黒川さんに、笹川さん…」
「先生!奇遇ですね、このクラスで授業だったんですか?」
「うん、そうだけど…二人はなんで二年の階に?」
「あたしはこの子の付き添いですよ」
「私のお兄ちゃんがこのクラスなんです。今日、お弁当忘れていったから…」
恥ずかしそうに、笹川さんがお弁当包みを掲げて見せた。
「む、京子、何をしにきた!」
「お兄ちゃん!これ、お弁当忘れてたよ!」
「おおっ、極限にありがたい!今日は財布も忘れてしまったので、昼飯はどうしようかと思っていたぞ!」
「もうっ、お兄ちゃんたらいつもそそっかしいんだから!」
にこにこと笑うぽややん笹川京子さんと、うおー極限!と叫ぶ笹川了平くん…。なんだろう、二人の間には絶対に入りたくない。なんか俺の中で拒否反応が出ているのはなぜだろう。カオスだ。
なんかテンションが可笑しい。
「黒川さん…この二人は兄妹なのか?…なんというか、独特のテンポだな……」
「そうですねー…」
「今まで俺の周りにはいないタイプだ…」
俺、不思議っこはちょっと苦手なんだよな…。
その後、なぜか昼ごはんをご一緒させていただくことになり、笹川兄妹と黒川さんと屋上に向った。
「いいの?俺が一緒で」
「全然いいですよ!あたしも先生が一緒なら嬉しいです!」
「ありがとう、黒川さん」
屋上で四人で円を描いて座る。
俺の右側が黒川さん、左が了平くん、正面が京子さんだ。
今日の弁当はなにかなぁー!
「先生のお弁当大きいですね!」
「おお、大きな、先生!俺の弁当もデカイのだ!」
「お母さんが作ってくれたんですか?」
「いや、友達んちが用意してくれてるものだから…」
パカッと蓋を開けると色とりどりの豪華な中身が詰っていた。うっわうっわ、超腹へったー!!