end

01








―…まず、状況を判断しよう。今、俺はどこにいる?





どこだここはオイ。なんか、今日は何度もそういってる気がする。眼を開いたら廃墟にいた。ここはどこだオイ。
廃墟ってなんだオイ。世界大戦でも起きたのか。

夢の続きかと思ったが、そうでもないよだうだ。白黒でなんか夢を見ていたような気がしたんだけど…なんの夢見てたっけ
ああ、駄目だ。夢は記憶の彼方に吹っ飛んじまったよ。思い出せない。先ほどまで無かった色彩が戻って来ている。空は微妙に薄い灰色のような水色だ。そこらへんにいろんな色が見えている。で、俺はどこいいるんだ?いきなりこんなところにいるのは何故だ?
夢の続きなのかと思ってみるがそうでもないような気もする。なぜなら、寒い。普通に体感温度が寒い。夢なら寒く無いだろ。なんか、変なことに巻き込まれたような気がしてきた。取りあえず、歩き回ってみようと歩く。
路地はここはどこかの国のスラムですかと突っ込みたくなるほどに亀裂が入ったりしていた。ただ、あんまりゴミが落ちていないことに感心した。落書きも少ない。
さらに歩き回っていると、大音響とともに地面が揺れた。

「なっ…地震!?」

と俺は慌てて走りだす。
地震が起きたら出来るだけ大通りの真ん中にいるほうがいい。なぜなら、下手にビルの近くにいると看板とかが落ちてくるからだ。走っていると、なんか向こうに公園っぽい空き地を見つけた。周りはビルだが、そこだけ一本の木が生えててぽっかりと空間が空いている。
うおーーー!と俺はソコまで全力疾走…して、脚が止まった。

…――マジですか?

そこには死体が転がっていました。あれだ、色彩が偽物臭いんだがリアルに写る。

「―…待て待て。オイオイ。見たこと有る光景だな、オイ」

地に倒れ伏すのは合計五人。
知ってるよ。ごめん、知ってるよ俺、コイツ等。

「…なんで、寄りによってホモゲー…」

呆然と俺は呟くしかなかった。あはは。なんかもう、笑う気力も無いんですが。どうすればいいんですか、俺は。
絶命しているのはヤツラはみんな俺がゲームの中で見たことがある連中だ。
ああ…エマさん…ホモゲーでの唯一の花が胸を抉られて死んでるよ…おのれ、ナノめ…よくも俺の安らぎの女を殺しやがって…。
其の近くにはグエンたん。グエンってターンAガンダムのグエンを思い出すなぁとかって思いながらしてたので覚えてる。

そんでもって、変態仮面こと、金髪のアルビトロっち。俺にはあの芸術は分かりません。
つーか、まぁ、人の趣味に文句いうつもりもないんだけどさぁ…ああ、あの少年の目の色って何色だったのかすんごく気になってたんだけど…あの狗って此の時点で生きてるのかなぁ…?
そして、処刑人の二人組み。金髪なピンクパーカーのファンキー小僧がグンジで、野戦服っぽい鉄パイプがキリヲだっけか?

「…生きてるかぁーー?」

近くに居た変態の喉下に手を当てて脈を図る。
ほとんど死んでる。変態仮面の仮面を剥がしてやろうかと思ったけど、それはどうにか根性で押さえ込んだ。
キリヲの鉄パイプのミツコサンだかミチコさんにはじゃらじゃらと例のイグラの為のドックタグが掛かっている。…実はあれ、ちょっと欲しかったんだよなー。
ファッションとしてはカッコいいと思ってた。…―貰ってもいいよな?

挙動不審にあたりを見回してサッと鉄パイプからドックタグを拝借。ポーカーって全然分からないんだけど…んーと、何と何があればいいんだっけリンっちが言ってたような…うう。10、J、Q、K、A…だっけ?……キリオがぶら下げてたのはJとKと、ブタタグが数枚。おっしゃ!いいタグ持ってんジャン!素早くそれをポケットに押し込もうとして、やっと自分が着ている服を見た。

……俺、白衣一枚しか着てないよ?え?どうなってんの俺?…ぺらりと前あわせを捲ってみると…やべぇ、変態のおっさんみたいに素肌に薄汚れた白衣着てるよ?股間ぶらぶらさせちゃってるよ?

―…イヤダイヤダ。変態の仲間入りはごめんだ!

慌てて辺りを見回して、キリヲの上着をゲットした。ごめん…まぁでも、あんた死んじゃってるから、俺の為に使われてくれ。
キリヲの足元のブーツにはナイフも刺さっていたのでそれも拝借。…ブーツも貰おうかなぁと思ったけれど、どうみても俺よりサイズはでかそうなので止めておく。今はジャケットだけで勘弁しおこう。どこかに他に死体が転がっていることだろう。そっちから貰おう。
グエンとかエマも脈が無い。エマとグエンの近くに落ちていた拳銃を拾う。これが安全装置で…うん、恐らくこれを外して打てば打てるだろう。グエンさんの手袋を頑張って脱ぎ取った。

…俺ってなんかかっぱらい見たいだなぁと思ったけど、素手でナイフとか使ったら血とかですべり添うじゃん?手袋も貰って。さて、生存確認は終わり…と思ったけれど一際目立つショッキングピンクを忘れていた。


「あ、グンジ忘れてた」


と、俺はグンジの首にて当てた。

「おお…?」

なんか…すごーく微妙なんですが、脈打っているような気が…。もしかして、生きてる?くたばり損ない?んー…んー…どうするべ?

「助けますか?でも、助けたら殺されそう…つーか、ゲームに関わったら俺死ぬべ?」

自問自答しつつ…グンジの体を上向きにさせる。
胸のところを左斜に傷が。溢れんばかりに血が流れている。どうするよ。助ける?こいつ死ぬ運命じゃないの?
運命に抗うことも定めってワケですかね。てか、もうゲームは終わってるし。


こうやってしにそうに眼を瞑っている分にはいい男前なのになぁ。
あのたるーい話し方はどうかと思う。そしてイカれた性格もどうにかして欲しい。俺の友達にはいないタイプだ。
俺はグエンの服の中を漁った。こいつならいざと言う時のための緊急医療パックでも持ってるだろう。探してみればありました。医療キッドの中の注射器をぶっさして、変な薬を塗る。たぶん、血止め?その上からもっと血を止めるための…包帯は?流石に包帯まで入ってなかったので包帯代わりになりそうなものを探すが、めぼしいものが無い。

グエンのコートも、エマのコートも、アルマジロ…いや違ったアルビトロのスーツも引き裂いてもいい感じの包帯にはならない。うん、俺の着ているこの白衣が一番まともに包帯になる。俺はパッと素早く白衣を縫いでキリヲのジャケットを羽織る。おお、白衣より流石に暖かい。…足元はこころともなく、変わらず風がスースーするけど。
白衣をナリフで適当な幅切れ目を入れてビリッと力任せに引き裂いた。
そういう布キレを何枚か作る。こんくらいで良いだろうと思ってそれを包帯代わりにグンジの胸から腹に掛けて巻きつけた。ぶっちゃけ力の加減とか分からないから適当だ。あはは。まぁ、死んだって運命ってことで。

「よし、こんくらいでいいかな」

ポケットに色々(ドックタグとか手袋とかナイフとか)詰め込んで、俺はぐったりしているグンジを背負った。グンジが苦しそうな息を吐いたが、それは生きてるってことなのでさして気にしない。

ああーどこに行けばいいんだ?
ここでENDを迎えているってことは、シキENDのどれかを迎えたってことだろ?うー…ホモゲーなんて何度もやりたくねーから一回しか全部見て無いからわかんねーよ…。必死にシキの話を探す。えっと…廃人・軍人・淫靡ENDのどれか……分からん。どれだコラァ。

…や、待て待て。確か、廃人ENDの時はアルビトロ殺されてなかった気がする…たぶん。つーことは、軍人・淫靡ENDのどっちか?
つらつらと考えながら、脱出ということで思い出した。

北だ!北に行かねば!日興連とCFCの小道の行き止まりを探すんだ!

や、その前にこのグンジをどうにかしなけりゃ…いやいや、グンジが邪魔だ。捨ててもいいかな、駄目?駄目だよね…。
俺は北へと向った。グンジを捨てていこうかと思ったが、ここまできたらもうちょっとだけ面倒見てやろう。北の行き止まりをひたすら探す。同じように逃げ惑っているトシマの住人を数名見かけた。みんなガラが悪い。隠れるようにして走り回り、いくつかの行き止まりを見つける。
手探りで探って取っ手が無いことに落胆すること五回。六回目にしてやっと本物の路地を発見した!


「ありがとう!」


誰かに礼を言いながら、ギシッと油がささっていないさび付いた取っ手を開けてはいる。薄暗いがなんとなく中が見える。ゲームで見たそのままのスチール棚が置いてあった。
それは横にずれていて、マンホールが覗いている。…シキだかアキラだか誰だかがここから日興連へ逃げたのだろう。
俺は端っこの壁にグンジを下ろした。息がか細い。…死にそう?や、っていうか血がダラダラ流れてんのに今まで生きているほうが凄い生命力を感じるね。

「どうするかな…」

グンジのか細いが荒い息の吐く顔に掛かる長い前髪を掻き揚げてやる。
額の体温は高いが、体の体温は低い。…おい、これってどういう症状だ?医者じゃねーんだから俺には分かんねーよ…。ちらりとマンホールを見た。このままグンジを置いて逃げることも可能だ。
面倒だなー嫌だなー…ここでもし、俺がグンジ助けたら、ちょっとは俺のこと守ってくれたりしないかなぁ…と打算的なことを考えてみる。
そもそも、このマンホールの中がどのくらい続いているのか分からない。マンホールの中で迷子になるかもしれない。…食料とか懐中電灯とか、そういうの必要だよな?
つことは、そういうの集めてこなきゃ…どこだ?そういうのがあるのって…ああ、ホテルか。よし、ホテルに行くか。


「ちょっと行ってくる。暴れて逃げるなよ」


聞いていないだろうグンジに言って俺は外に出た。
所々爆弾が投下されているような音がする。これってなんだっけ?ニホンにおける内部戦線だっけ?
ビルの陰に隠れながらホテルのようなところを探す。どれがホテルか分からないので結構手当たり次第にビルのなかを覗き込む。途中、いくつかの死体を見つけた。俺と体格が似ているようなやつからは服を貰った。

死体ってやっぱキモチワルイなぁと思ったりしたけど、なんかあんまり現実感が湧いてこない。死ぬ課程を見ていない、すでに魂の無い肉塊だからか?
…うーん。俺っていろいろ精神的に薄情だとは思ってたけど、これほどとは…。でも、ゲームの中にいるっていうありえない状態だから麻痺してるだけなのかね?

死体たちからドックタグと俺好みの靴、ズボンなどを分捕りながら進んだ。流石にパンツまではとる気になれなかった。
嫌だよ。パンツだけは新品を着たい。

黒のTシャツにダークグリーンのカーゴパンツ、ショートブーツ。あと、いい感じの大きさのウエストポーチも貰った。やっと人並みの外見になった。

やっとホテルらしきものを見つけた。
中に入るとすでに荒らされたような形跡があり中は死体と物が壊れまくっていた。眉を潜めて俺は早足に通り過ぎてカウンターの後ろへと入りこんだ。
そこには恐らくブタタグを替えれるものが揃ってた。俺は薄い毛布を見つけるとそれをまず床に引いた。その上に棚から使えそうなライトや水、医療キッドやソリッド、…そして、パンツもあったのでそれを入れた。他には電池などがあった。リュックサックもあったのでそれも丸めて毛布の上に置いて、最後に毛布の四方を風呂敷のようにして縛って背負った。こっちの方がたくさんものが運べる。

随分大荷物になったあ仕方がない。武器もナイフとかをいくつか拝借した。そのまま急いでグンジの待っているところまで歩く。ああ、面倒だ。敵やトシマの住人に会わずに戻ってこれたのは、ひとえに俺の運の良さだろう。

グンジは寝ていた。
俺は毛布から物を床に投げ出すと毛布を広げて床に引いた。そして、その上にグンジを転がす。
医療キッドから新しい薬品と包帯を出す。ついでに酒も。傷口の包帯もどきはすでに血を吸いまくっていた。一度それを外して、傷口を足しかめる。
うぎゃー…痛そうだぁ…。

俺の方が痛くなってくる。
その傷口をタオルで拭って、酒を振り掛ける。染みるのかグンジが意味不明な呻きを漏らした。この後って、普通に包帯巻いちゃってもいいのかな?それとも…ぬ、縫えとか?医療キッドの中に入っていた針と糸。これって、縫えってことですか?とビクビクして手にとって見る。えー俺って裁縫苦手なのだよ?小学校の家庭科でしかやった覚えないよ。無理だよ。むしろ俺が塗ったら傷口が開く。

キッドのなかの端っこにあったホチキスみたいなものを手に取った。…あ!これってもしかして、ブスブスと傷口にホチキスの芯のようなものを打っていくヤツじゃないか!?針と糸の代わりに!…これだったら…たぶん、出来るような…。
ホチキスを持って、傷口に打ち込んだ。
…なんか変な感触だけど、まぁいいか。ブチブチと打ち込んでいく。いっそ、無情なほどにブチブチと。
人様にするのなら痛くない。だって他人様は他人様だよ。俺じゃないもん。
よし、最後に包帯でグールグルだ。包帯で巻いて、ほっと一息つく。毛布をグンジの体に掛けて体温を保たせるようにしてから俺も壁に寄りかかる。

持ってきた物たちを確認だ。リュックサックの中に荷物を詰めていく。
入れるだけ入れて、入らない水と食料は脇へ。一口水を飲んでから、ほっと息を吐く。水が美味しい。あ、グンジにも飲ましたほうがいいのだろうか?
眉間に皺を寄せて短く息を吐くグンジが入る。…水を飲ませらんねーだろ、こんな状態じゃ…。手に水をたらして口元に持って行く。全然口の中に入って行ってないような気がするけど…いいや。
何度かその動作を繰り返したら、グンジが咳き込んだ。
苦しそうだったので背中を撫でてやる。…ああ、凶悪グンジ相手に俺は何をやっているんだ?

グンジの体が熱い。うー…今日で峠かなんかかな?今日一日グンジに付き添って、明日はマンホールから逃げよう。俺はグンジの隣に寝転んだ。だって、毛布が無きゃ寒いじゃん。グンジの布団は暖かかった。当たり前か。グンジもすげー発熱してるんだし。
俺はゆっくりと目を閉じた。










――次の日。俺が眼を開けるとすぐ眼の前に綺麗な顔があった。

「ぐあぁ!」

思わずのぞけってしまったら後ろの壁にしたたか頭をぶつけた。声にならない呻きで頭を押さえて眠気なんかすぐに吹っ飛んだ。
…グンジがいる。ああ、夢からは醒めれなかったのか。あはは…。

グンジの額に手をやって、体温があるのを確認する。首筋にも手をやるとトクン、トクンと規則正しくはっきりとした脈が伝わってきた。

一日寝たら復活ですか!
どんなけ凄い回復力だよオイ。
アレだけの傷を受けて、すごい生命力だなぁ…と喜びよりも呆れた。寝息も正しく、顔色は悪いけれど大丈夫そうだ。
身を起こし、ペットボトルの水を飲む。グンジにも飲ましたほうがいいよな、と昨日と同じように水を手ですくってグンジの口元に持っていったが反応をしてくれない…。あれ?復活してないじゃん…。

セオリーとすれば、水を口移しで与えるべきなのかなぁ…。
まぁいっか。別に人命救助だと思えば。
俺は水を口の中に含んでグンジに近づけた。別にキスをするわけじゃないので瞳は閉じない。グンジの顎を掴んで上へ向け、半開きの唇へ舌先を通じて水を移し与えた。
……うーん、男も女も唇の感触だけは変わんないよなぁ…。
口紅でベタベタして味があるよりも、無味乾燥の男の唇の方が……って、オイ!俺はホモじゃねー!!

コクン、と喉が動いている様子から飲んでるようだ。…無意識に水って飲めるんだなぁとそんなところに感心する。
もっととせがむようにされたので、どうするべきだろうと考えた。

ふと、グンジの睫が動いた。
虚ろに眼が開いた。…眼を覚ましたのか?ボーっとした瞳のまま、俺を見上げるので、俺は唇を離した。
口さえ開かなければ、美形だ。あの性格を覗かせなければ美形なのに…勿体ねーな。
全然意識ははっきりしていないようなので、俺はグンジの額に手を当てて前髪を掻き揚げてやった。すると、グンジは再び力が抜けたように眼を瞑った。

…ああ、良かった。
変に意識覚醒させてぶっ殺されそうになったらどうしようかと思ったよ。



「…よし、つことで俺は逃げますか」



俺はグンジ用の食料と水を置くと、リュックサックを背負った。外からの破壊音はますます酷くなっている。いつまでもここにはいられない。グンジも…いちおう眼が覚めたし、あと生き残るかはグンジしだいだろ。最後まで面倒なんて見切れねーよ。




「じゃ、生きてたらまたな」





軽くグンジの髪を撫でて(すげー痛んでギシギシ。キューティクルは破壊されてる!)、俺はマンホールへと入った。