end

02




日興連にヘロヘロになりながらもたどり着いた。
出口の光が見えたときは思わず走り出してしまった。一体何日歩き回ったのか分からない。たぶん、俺は地下道で迷子になっていたんだと思う。
ゲームでは一日も掛からずに出口にたどり着いていたような気がしたのだが、俺はかなり時間を費やした。このままこのラビリンスで野垂れ死んだらどうしようかと思った。

お陰でなんか体が臭い。
…ああ、別に一日二日、風呂に入らなくたって平気さ。でもな、やっぱこういう臭いところには長く痛く無かったよ…。
俺が出口からやっとの思いで這い出ると、まずは新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。ずっと暗闇にいた眼には太陽の光はまぶしかった。日興連の軍の人たちはすっごい忙しそうに動いていた。
俺は近くにいた兵隊さんに話しかけた。

「すいません…あの、…」
「ん?ああ、避難民か?向こうのテントに行って登録してくるように」
「はい、どうも」

慣れているらしく、俺の薄汚れた姿を上から下まで眺めた兵隊さんは青いテントの方を指差した。ぺこりと笑顔でお礼を言って、俺はテントへと向った。
そこで、一つの問題が発生した。


――…すいません!俺、国民番号だかなんだか無いよ!!


「では、こちらに国民番号を書いてください」

と、俺のほかにもいた避難民だかなんだかに髪が配られる。
ああう!どうする、俺!?みんなが書き込んでいくなか、俺はペンを握ったまま固まっていた。そりゃそうだろう、下手に嘘書いても即効でばれるに決まっている…!!軍人さんが紙を回収していく。最後に俺のとこまで来て、眉間に皺がよった。

「どうした?なぜ書かない?」

そんなこと言われても…。

「どこから来た?」
「トシマ…です」
「トシマ…!そうか…非登録民だな?」

は?非登録民ってなんですか?
疑問に思ったが、そこは合えてポーカーフェイスを顔に貼り付けて、神妙に頷いてみる。
非登録民って響きから、国民番号を持たない子供のことだろう。頷くと、軍人さんは「そうか…」と呟いて奥の部屋に行くように命じた。
どうやら、俺は非登録民だとあちらさんは勝手に解釈してくれたらしい。わーい。と思って奥へ行くと、気難しそうなメガネをかけた女が居て、コンピューターを操作してた。

「名前は?」
「あ……、です」

フルネームで名乗ろうかと思ったが、なんとなく苗字だけ名乗った。この世界は名前しか一般的に流用していないらしい。アキラとかシキとかケイスケとか、みんな苗字無かったもんなぁ…。いや、実は持っているのかもしれないけれど、あんま重要じゃないんだろうなぁと勝手に決め付けてみる。
俺をちらりと一瞥すると、女はキーボードを叩いた。


。貴様は国民番号12411-TM-7536だ。…覚えたか?」
「へ?」
「12411-TM-7536だ」
「12411-TM-7536…?」
「そうだ。再発行は無い。忘れるな」

そう言ったきり、女はこちらを見ようともせずキーを叩く。
あれか、もうさっさと出てけと言うことか?「私は忙しいのよ、ウザイわ、消えて」みたいな?
俺は今の国民番号を忘れないようにぶつぶつ呟きつつ外へ出た。避難民用に割り当てられた一角のテントに入り込む。一年だか二年だか、短い期間でこの戦争は終わるはずだ。

その後は…―シキがなんか制服け…いや、間違えた征服計画を立てるんだっけ?

あーヤダヤダ。シキが廃人になったほうが世のため人のため俺のためだったのに…アキラがどうなってるのかなぁ…軍人ENDでは、お前どうしたの!?ってくらいシキ万歳になってたアキラに吃驚したんだけどなぁ…淫靡アキラは…お前、女に生まれればよかったなぁと思ってみたんだけどなぁ…。

なんで俺がこんなゲームにいるのかさっぱり分からない。っていうか、俺?よりによって俺ですか?
しかもホモゲーですか?どうせなら、ギャルゲーとかに行きたかった。ウハウハしたかった。

そもそも、俺がホモゲーを知っているってこと事態がおかしい。




【咎狗の血】

…仕方ねーじゃん…友達が何を血迷ったのか、傍または本気で間違えたのか、ホモゲーを買いやがった。そんで、たくさんのギャグゲーとともに押し付けてきた、ギャルゲーなら喜んで借りてやろう。でもホモゲーはいらん!
「絵は綺麗じゃね?」とか言ってた友人が笑顔で貸してきたホモゲー…。しかも二本もだよ。エロゲーが三倍の六本あったから借りてやったものの…。

やりたくねーよ、何が悲しくてホモゲーせにゃならんのだ!と付き返そうとしたのだが、「俺だけホモゲーやったなんて、悲しいじゃん!俺泣くよ!」と押し付けてきた。
ああ、そうか…そうだよな、一人だけホモゲーやったなんて、心が痛いよな…仕方ねーなぁ、俺もやってやるよ。ただし、エロは飛ばすよ。スキップしまくるからな。なんで男のエロと喘ぎを聴かなきゃならんのだよ。と、さっさと終わらせたい一心で咎狗をコンプリした。

…ああ、あれって一週間前の出来事だったかなぁ…二日で速攻で終わらせたんだよなぁ…一度読んだ文章はスキップしまくったもんなぁ…。
そのあとは、エロゲーに熱中した。別にそんなにギャルゲー&エロゲーマニアなわけじゃないので、そっちで口直しだ。


「はぁ…あの野郎…」


重い思いため息を吐いて、俺は不貞寝をした。
あの野郎。絶対現実世界に返ったらぶっ殺す!そう、心に決めて、日興連でのシェルター生活が始まった。





□■□





ソリドは不味い。
味は色々あってバラエティーには富んでいるんだが、不味いものは不味い。
ぱさぱさしていて感で飲み込むのが大変だ。口の中に唾液をためてから混ぜて嚥下するか、または水で流し込むのがソリドの正しい食べ方だと俺は判断した。もしかしてこのシェルターにアキラとかシキとか居たりするのかなぁとビクビクしながら暮らしていたのは最初の二ヶ月ほどだ。
どうやら、このシェルターエリアにはアキラたちは居ないみたいだ。そりゃそうだよな。一箇所に集めてたら人口密度が高くて堪らない。

俺は非登録民(無認可で出産された子供という意味だ。子宮単位で管理されているニホンだが、それでもそういう風に生まれてくる子供はいるらしい)なので、戦役に借り出されることは無かった。本来なら俺ぐらいの年齢だと幼少の頃からある意味マインドコントロールっぽく人殺しの訓練を受けているらしい。
つか、平凡な一般市民の俺がそんなことが出来るわけも無い。アキラとかケイスケも、子供のころから第三次大戦のために訓練受けてたんだよなぁーと思い出した。そりゃあ、強くなるべ。
しかも、子供のころだから結構人殺しをなんとも思わなくなるよなぁ…。

俺は半年ほどキャンプに居て、それから申し訳程度の金を渡されて市街地へと放り出された。
軍属になるしかこれ以上シェルターにいる資格は無いらしい。
シェルターから出された俺は、まずは衣食住の確保をしなければならない。と言うことで、まず向った先は工場だった。日興連対CFC。戦況はどっちもこっちな感じだけど、武器の部品を作る工場には人手が足らないはずだ。俺はようやく一つの工場に住み込みで雇ってもらった。武器の備品を作るところらしい。俺はそこで黙々と働いた。

俺以外にも働いている男がたくさん居た。…え、っていうかさ、戦中の工場で働いてるのって女が多いと思っていたのって俺の勘違い?男は戦争に行って、女は工場で後援物資を作る…っていうんじゃないの?…俺の戦争中の知識が偏ってるのかなぁ…俺、戦争知らない世代の子供だしなぁ…。
工場長のおっさんは中々いい人だった。…や、それほどいい人でも無いんだが、一応は飯が二食付いてきたし、休み時間も多くあった。

…ただ、この工場で許せなかったことが唯一つ!

男たちがホモが多い。

……死ね!マジで消えろ!!そりゃあさ、ここ、ホモゲーだし、男同士のそういうのが充満しているのはわかってたよ!?


でも、頼むからノーマルな俺を狙うな。
笑顔ニコニコでも、それは愛想であって、本心は笑ってないから!!俺は人当たりよく笑顔で働いている。笑顔を振りまきすぎたのかなんなのか、勘違いのホモ野郎が多すぎる。
俺はノーマルですから。と真剣な顔でお断りしても、寄ってくるヤツがいる。テメェは日本語理解出来ないのかっ!と思う。こないだなんか、仕事のあとにちょっと買い物があって出かけた帰り道、仕事仲間の一人に路地に連れ込まれた。

ああ…あのときの鳥肌もんの恐怖!!
あれだね、俺、女の男に対する恐怖がちょっと理解出来ちゃったよ。あんなことされて、もし最後までヤラれたら、そりゃあ男性恐怖症にもなるわ。
いつもニコニコ現金払いの俺も、その時は流石に頭に血が上って、気が付いたら相手を半殺しにしていたよ。やー…良かった良かった。半殺しで。我に返んなかったらあのままぶっ殺してしまっていたと思うよ。慌てて大丈夫ですか!?と傷を見ようとしたんだけど、男は「ひぃいいー!」と悲鳴をあげて逃げて言ったよ。
結局彼は工場には戻って来なかった…。

うーん…まぁ、帰ってこられてもあの怪我のことを皆が気にするだろうから帰ってこなくて良かったんだけど。

俺の思考って、最近ますます自分一番だな。まぁ、もともと俺以外だどうなってもどーでもいいってのは昔からあるんだけど。
あはは!そうじゃなきゃ、右も左も分からないところで両親とか友達のこと思い出さずに生きていくことなんて出来ないっつーの!非現実!

まぁ、懲りないことにそういうことが何度か繰り返された。はぁー…なんだって俺みたいな十人並みを狙うかね?何?俺ってそんなに手篭めにしやすそうなのか?そんな彼らの撃退法はとても上手くなった。喧嘩慣れっぽい感じだ。



そんな毎日もやがて終わりを迎えた。(いや、なんかしみじみとしたナレーター風に言ってみたけど、別にそんな凄いことは起こってない)


。お前はクビだ」
「はい……って、ええっ!?」

反射的に返事をしてから、飛び上がった。

「は!?工場長!なんで俺がクビなんですか!?俺、超真面目に働いてたじゃにですか!そりゃあ、五分休みを十分休みに伸ばしたりとかしてましたけど!」
「…そうか、サボってたんだな」
「ゲ、しまった…!って、違う!それでも俺、真面目でしたよ!!」

俺は必死に工場長の髭面に言い募った。住み込みで働いている俺は、ここを追い出されたら行き場が無い。今更新しい職を探すのも面倒だ。いくら戦争が下火になっていたからって、そんな急に追い出すなんて殺生な!!

「ああ。クビって言っても、その、なんと言うかな。サイゾーさんを知ってるだろ?」
「サイゾーさん?知ってますよ、もちろん」

サイゾーさんというのは、この工場から程近いところに住んでいる医者だ。住民達の怪我を安価な値段で見てくれる。薬はよっぽどの場合じゃなければくれないが、サイゾーさんの見立ては外れたことは無い。お爺さんな年齢で、心臓に病気を抱えているらしい。でも、ま、元気な爺さんだ。

「サイゾーさんが、助手が欲しいって言って来たんだ。若い、真面目そうなヤツを頼むと言われてな。それで、ならどうかと聞いたんだ」
「…俺がサイゾーさんの助手に?」
「ああ、どうだ?まぁ、どうしてもいやだというんなら、他の若いヤツをやってもいいんだが…」
「いいえっ!俺、サイゾーさんとこ行きます!」
「そうか?よし、じゃあ荷物まとめてサイゾーさんとこ行け。まぁ、短い間だったがご苦労だったな。これは餞別だ」
「え、あ。ありがとうございます…」
「なぁに、いいってことよ。若いヤツはこれからの未来があるからな!」

髭工場長は明るく笑って言った。
俺はペコリと礼をして俺の部屋に上がった。工場長がくれた封筒にはいくらかの金が入っていた。ありがたいなぁと思って、財布に入れた。着ていたブルーのツナギを脱いで、俺はトシマを出る時に着ていた服を着込んだ。
持って出る荷物は少ない。リュックサックに全部入るほどだ。もともと物に愛着はあんまりない。普段は捨てられないが、ここぞと言うときにはゴミ箱に放り捨てられる。
ゴミを捨てながら、どのくらい俺は居たのかなぁと考えた。

…キャンプの三ヶ月プラス半年ちょっとだから…十ヶ月?…うわ…俺ってば十ヶ月もゲームの中にいるよ。しかもなんかちょっと順応しちゃってるよ…?

十ヶ月…あはは!
十ヶ月?なに?もう十ヶ月もたっちゃってんの?ぶっちゃけ、もう笑うしかない。むしろ笑いたくないんだけど笑うしかない。


十ヶ月も俺ゲームの中にいるんですが。
もうそろそろ現実世界に返るの諦めたほうがいいですか?…ああ、現実世界の時間止まってたりしてくんないかなぁと、希望的観測を考えたりした。














で、俺はサイゾーさんのところに向った。